ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(44)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/ 5)

ピートは、人間ではない。
彼はバンパイア・ハーフで、しかも吸血鬼の中でも最も古く強力と言われたブラドー伯爵家の直系であり、すでに七百年を生きている。
そんなピートが持つ、人間とは根本的に違う『強さ』を、エミは知っていた。
感覚は鋭く、大怪我を負っても短時間で回復する。
大抵の事では、彼は死なないし、傷つかない。
―――・・・だからと言って、そんな相手だから傷つけて良い、などというわけがない。

・・・加奈江は、ピートを傷つけた。
・・・コロシタ?
「待ちなっ!!」
加奈江が叫んだ一言に逆上したエミは、周囲に霊波を撒き散らして、加奈江がこちらに差し向けてくる蝙蝠、カラス達を追い払いながら、より深い森の中へと駆けて行く加奈江の後ろ姿を追った。
「あんた、ピートに何やったのよ!!」
「くっ・・・しつこい女ね・・・」
稲妻のような霊波をこちらに向け、そのあまりの力に周囲の木々を地面ごと揺らしながら追いかけてくるエミに新手を差し向けようと、周囲にいたカラスや蝙蝠達に、魔力を介して語りかける。
「お前達!!あの女を足止めなさいっ!!殺しても良いわっ!!」
森の木々の上で羽を休めていたところを突然の騒ぎに起こされて、警戒心からギャアギャアと鳴き騒いでいたカラス達の声が、加奈江の声を聞いた直後、一瞬止む。
その次の瞬間には、カラス達は、訓練でも施されたかのような統率の取れた動きで一斉に空に舞い上がり、そして、エミの姿を捉えると、くちばしを突き出して、一斉に急降下してきた。
「!くっ!!」
いくら集団で来られてもカラスに負ける気はしないが、ここで加奈江を逃すわけにはいかない。自分に向けて一斉に急降下してくる黒い鳥の大群を見て、エミは忌々しそうに舌打ちすると、黒い集団の中にぶち込んでやろうと、ブーメランを構えた。
霊体撃滅波で吹き飛ばすにしても、さすがに数が多すぎるし、急降下してくる相手にそれは、少し間に合わない。
こちらを睨み付けながらも、足止めを食らって立ち止まらざるを得ないエミの姿を見て、さきほどのダメージも回復してきた加奈江は、高く夜空に飛び上がると笑った。
「ふふ・・・そこで止まってなさいな!!あはははは!!」
「おーおー。ヒト・・・いや、鳥使いの荒い女だなー」
「は・・・」
空に高く飛び上がった筈の、自分の頭のすぐ後ろから不意に聞こえた少年の呟きと気配に、ふと、笑いが止まる。
ハッと驚き、咄嗟に声が聞こえてきた方とは反対側に飛びながら振り向くと、ついさきほど自分の頭があった位置を、鋭い踵落としが通り過ぎていた。
「ちっ!外した!」
「貴方は・・・」
悔しげに舌打ちをしながら近くの木の枝に着地した人影を見て、すぐに記憶の糸を手繰る。
鬼を思わせる、大きな二本の角のような飾りがあるヘッドカバーに、上半身を覆う赤いプロテクター。目だけを残した全身を覆う、黒いアンダースーツ。
身長は小柄だが、ヘッドカバーと顔の下半分をすっかり覆うマスクの合間から覗き見える双眸は鋭く、全身に、研ぎ澄まされた日本刀を思わせる鋭い霊気が満ちていた。
(魔装術・・・伊達・・・伊達雪之丞!)
以前調べた、ピートと関わりを持つ人間の中の一人。
「ちょっと!!援護が遅いワケ!!何してたのよ!!」
「仕方ねーだろ?あんたが一人で突っ走って行ったから、捜してたんだよ!!」
おそらく、さきほどエミが激昂した時に放った霊気で位置を確かめたのだろう。
カラス達と格闘しているエミの援護に、降り立った木の上から鳥の集団の真ん中めがけて霊気のエネルギー弾を数発ぶち込むと、雪之丞は、加奈江の方を向いて言った。
「さーて、と・・・。女を殴るのは好かねえが、ダチに迷惑かけた落とし前はつけてもらわねえとな・・・!」
「・・・私と戦えるつもり?ピエトロ君の、魔力を受けた私と!」
「ああ」
「!!」
頷く声と同時に、斜め下に見ていた木の枝から雪之丞の姿が消える。
直後、眼前に飛び込んできた雪之丞の、赤色をした霊気のヨロイの装甲を見て、加奈江は急いで体をひねると、雪之丞がこちらの腹めがけて繰り出してきた拳を避けた。
「な・・・!?」
道具も何も使わずに、優に数メートルを越える垂直ジャンプを見せた雪之丞に驚愕の視線を向けると、雪之丞は、加奈江の目を誇らしげに見返して言った。
「やっぱり素人なんだな。魔装術は、霊力を引き出す事による身体強化みてーなもんなんだよ!!さすがに空は飛べねーけど、あんたとやり合うぐらいは出来る。いいかげん、あきらめな!」
「く・・・!!」
無数に生い茂る大きな木を利用して、さらに高く飛び上がり、殴りかかってくる雪之丞の攻撃を避けながら、歯軋りする。
「おのれ・・・っ!!お前達・・・」
「無駄だぜっ!!」
蝙蝠達を呼んで、雪之丞の猛攻を牽制しようとするが、それより先に、ニッと意味ありげに笑って雪之丞が叫ぶ。
そして、その声に重なるようにして、甲高い笛の音色が青白い月光に照らされた夜の森の空気に満ちた。

   ピュリリリリリ―――――――ッッ!!

甲高い―――しかし、決して必要以上にやかましく響くものではない―――木立ちの合間を、シャラシャラと葉を揺らしながら駆け抜ける風の音にも似た、どこか優しい音色。
「え・・・?」
その笛の音が耳に届いた瞬間、自分の方に襲いかかってきていたカラス達の動きが不意に鈍くなったのを感じて、エミは、夜空を仰いだ。
結界の中に木霊する、笛の音色。
加奈江の魔力に影響され、エミを狙って鳴き騒いでいたカラス達の様子から毒気が抜けていくばかりではなく、満月の夜空の下で、葉を下に伏せ、眠っていた森中の木々さえもが、不意にさわさわと、心地良さげに葉を揺らし始めた気がした。
荒ぶる魂を癒し、導く音色―――ネクロマンサーの笛。

おキヌ、だった。

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