かえりみち
投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(06/ 5/25)
友達と帰ること。おいしいケーキ屋さんに寄り道すること。書店で文房具を買うこと。流行りの服や小物を買ってみること。大抵のことは、もう試してみた。実はひとつだけやり残していることがあるけれど、それは少し難しいし、あれこれと想像するだけでも結構楽しめるから、まあ満足、かな。
「これも青春よねー」
そう思いながら、愛子は机を背負って放課後の街を歩く。初めは戸惑ったり物珍しそうにしていた友達や町の人も、慣れてくれば意外に気にしなくなるものだ。そして、ゲームセンターの脇を通りかかったとき、目に飛び込んできた光景に愛子は絶句する。そこにいたのはどこか別の学校の制服を着た学生たち。ただ、彼らの手には火のついたタバコが握られていた。しかも、それをまったく悪びれる様子もなく話に花を咲かせて笑っているのだ。もちろん、愛子がこれを黙って見過ごせるはずもなかった。
「痛たた……」
太陽が傾き、その色が朱に染まり始めた頃。愛子は学校へ続く道路の端で座り込んでいた。例のタバコを注意したところ、愛子は彼らに取り囲まれてしまう。そのまま放っておくと何かいたずらをされそうだったので、正当防衛として2〜3人を机でぶん殴って逃げてきたのだ。ところがぶつけた場所が悪かったのか、ここまで来た途端に足が痛みで動かなくなってしまった。学校から帰る生徒の姿もほとんど無く、そこでじっとしていることしかできない。妖怪だからもうしばらくすれば治るのだろうが、やはりひとりぼっちでいるのは心細かった。
「何やってるんだお前。新しい青春の追求か?」
「わっ!?」
突然の声に驚いて顔を上げると、そこには制服姿の横島が立っていた。
「横島くん、どうしてこんな時間に……?」
「あー、補習。俺の場合ケタが違うからなー。こんな時間まで残されちまった」
「……」
「どうした、どこか具合でも悪いのか?」
「ほんと……いちばんいて欲しいときにいてくれるのよね……」
「?」
「あ、なんでもないの。ただ、ちょっと足をくじいちゃったみたいで……」
「立てないのか」
「でなきゃこんな所で座り込んでないわよ」
「だよな」
横島は少し困ったような表情の愛子を見下ろしながら考えた後、背を向けてしゃがむ。
「仕方ない、学校まで送ってやるからおぶされ」
「え?」
「なんだ、帰ってもいいのか?」
「あ、やだやだ。置いていかないで」
「じゃあ早く乗れ。滅多にないサービスだぞ」
「……うん」
その時愛子がどんな表情だったのか、横島は知らない。その背中に愛子の――つまりは机の――重みを感じると、横島は学校へ向けて歩き出した。
「なあ愛子」
「なに?」
「何で足くじいたんだ。何かにぶつけられたのか?」
「……ううん、本当に大したこと無いから。心配してくれてるの?」
「まあ、な……」
「……」
「……」
それからしばらくの間、会話は無かった。朱に染まる道路に、二人の影が真っ直ぐに伸びて。同じ間隔を刻む足音と鼓動だけが、二人の間に響いていた。
「ねえ、横島くん」
「なんだ?」
「横島くん」
「ん」
「……ありがと、ね」
「いつか返してもらうから、忘れんなよ」
「うん。忘れない」
ぎゅっ、と横島を抱きしめて愛子は頷く。思ったより大きくて広い背中に頬をうずめ、そのぬくもりを感じていた。きっと横島は知らないだろう。少し形は変わってしまったけど、愛子の『やり残したこと』がいま無くなったことを。そしてもっと、それを続けたいと思ったことを。
『好きな人と一緒に、帰り道を歩くこと』
今度は、手をつないで歩きたいな――
今までの
コメント:
- ちょっとした即興電波が飛んできたので、書いてみました。
とはいえ他の皆様の愛子SSにくらべると恥ずかしい限りですが……。
彼女にとって『かえりみち』っていうのは、普通の人間とは意味合いが全然違うんだろうなと思う次第です。 (ちくわぶ)
- 登校が帰り道ってこういう状況でもないとできないですね。横島だからこそそんなおきにくいことをあっさり起こしちゃうんでしょうけど
机だとか幽霊だとか全く気にされないくらい愛されてるおキヌちゃんや愛子に手を出そうとした不良どもがその後町の住人に総がかりでぼこられたと想像しつつ、いい話でした (九尾)
- ご謙遜することはないと思います。
ほのぼのの二人。心が癒されます。
愛子の願いが、次に叶う事を祈りながら、賛成票を。 (高寺)
- 不良と委員長という少女漫画王道のシチュエーションを逃した
ヤンキーどもに合掌。
吸い込んだりせずに本体で応戦とか、愛子ちゃんが一生懸命
学生生活を守っているのもまた可愛い。
横島くんは日本一机が似合う学生さんですね。
……特定の机だけ。 (ししぃ)
- >>九尾様
横島はタイミングを心得てる奴ですよ(笑)
不良たちは……きっと積み上げられたゴミに頭から突っ込んでいることでしょう。
>>高寺様
賛成票&コメントありがとうございます。
できればもうちょっと糖分高めにしたかったのですが、帰りの道ばたではなかなかそれが難しくて(笑)
また愛子の願いが叶うといいですねっ。
>>ししぃ様
愛子のピンチのシーンに、机に呑み込むという絵が出てきてたら萎えるなーと思いまして(笑)
とりあえず横島くんに愛子ちゃんをおんぶさせたかったので、机で殴らせました。
横島くんはそう、古くて、だけど可愛い机の似合う男ですよっw (ちくわぶ)
- おんぶなんて青春の小道具が現実に。
愛子にとっては、一緒に帰る以上に思い出に残る日になったことでしょう。
次はお姫様だっこをして(ry (aki)
- 可愛いです。
こう素直に来られると回避できませんっ (S)
- 愛子さんならではの、学校への「かえりみち」。
やり残した事は消化されたりせず、ますます増えて行く。それもまた青春です。
次は手をつないでの、そしてその次は・・・そんな日も来るといいなと思いました。 (フル・サークル)
- あま〜い!
とりあえずやり残したことはなくなった愛子ちゃんも、新たなやりたいことはどんどん増えそうですねw (足岡)
- 『やり残した事』はなくなったけれど、新たに『やりたい事』は出来たみたいで…
そうして、横島クンとの学校生活、これからももっともっと愛子嬢の『やりたい事』は、増え続けていくのでしょうねw (偽バルタン)
- 好きな人と一緒に帰り道を…青春のど真中ですね〜ヽ(´ー`)ノ
なんともホノボノかつドキドキしました。 (美尾)
- >>aki様
おんぶで帰り道だなんて、忘れられない青春の1ページになるのは間違いないでしょうねw
お姫様ダッコなんかされたら、愛子の顔が真っ赤になって恥じらう事請け合いでしょうw
……ものすごくそのシーンを見てみたくなりました(ぇ
>>S様
直球ストレートな弾丸は的を外しませんよw喜んでもらえて何よりですw
>>フル・サークル様
青春なんてものは、その都度たくさんのやりたいことが増えていくもので。
横島くんがいる限り、愛子のやりたいことは尽きないでしょうねw
>>足岡様
ええ、あま〜いですよっ。糖分は高めですw
次は手を繋いで歩くとか、色々と段階を経て増えていきそうです。
>>美尾様
たまにはこういった直球を勢いで書いてみたくなるのです(笑)
胸の奥に何か甘酸っぱいものが生まれたなら幸いです。
皆様コメントをくださり、本当にありがとうございました〜。 (ちくわぶ)
- 机を持って歩いている忠夫…笑うところじゃないのに笑った俺はだめ人間…_| ̄|○
青春してますねぇ…今度は手をつなぎたいなぁなんて…いいですねぇ若者は。
直球ど真ん中の青春話、堪能させていただきました(^^)
ぴーえす、血みどろの机を思い浮かべたのは内緒(ぇ (天馬)
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