ザ・グレート・展開予測ショー

結婚式のその後で


投稿者名:寿
投稿日時:(06/ 5/24)

今日は結婚式だった。

私のじゃない。私の弟と妹の結婚式。

私たちに血のつながりはない。

ただ、そんなものより硬い絆が私たちにはある。

信頼というなによりも硬い絆が私たちをつないでいる。



弟の名前は横島忠夫。

元は私の丁稚。

馬鹿でスケベで節操もない自分の欲望に忠実な男。

でもそれ以上に優しい男。

そして誰よりも悲しい過去を持つ男。



妹の名前は氷室きぬ。

元は幽霊。

のんびりしてて見ているとほっとする女

それでもどこか芯の通った女。

そして誰よりも数奇な運命をたどった女。



ふふふっ、男と女か・・・

出会った頃はまだまだ少年と少女だったのに立派になったものね。

二人とは色々あったわね。楽しいことや辛いこと。

命がけの事をいくつもしたわ。

それでも今なら言えるわ。

「幸せだった。」って・・・



二人の結婚が決まったとき言いようのない不安に襲われたわ。

二人とも私から離れて行ってしまうんじゃないか?そんな嫌な考えが頭を駆け巡ったわ。

二人は一応私の弟子。どこに出しても恥ずかしくないくらい成長してくれた自慢の弟子。

正直もう二人に教えてあげられることはほとんど無い。

雛が親鳥の元を離れていくように二人とも飛び出してしまうんじゃないか?

しょうがないと思う一方離れたくないと思う自分がいた。

でも結局そんな考えは杞憂に終わったわ。

結婚式の日程なんかが決まった頃二人が挨拶に来た。

私はいよいよかと自分をなんとか押さえつけて二人と向かい合った。

二人から出た言葉は「これからもよろしくお願いします。」だった。

「これからも」の言葉がとても嬉しかったのを覚えている。

その後の事を私はよく覚えていない。

ただ「独立はしないのか?」そんな言葉を投げかけたのは微かに覚えている。

二人は「できればずっと皆で頑張っていきたい」と答えてくれた。

それだけは覚えている。

私は二人が帰った後少しだけ泣いた。



そんな二人の結婚式。

いい結婚式だった・・・

まだ若い二人はたいしてお金を掛けることが出来なかったらしく盛大な結婚式とはいかなかったがそんなことは関係ない。

心から幸せな二人と、心から彼らを祝福する者達が集まればそれはいい結婚式なのだから。

式は滞りなく進み、お決まりの両親への感謝の言葉が読み上げられた。

その言葉が終わると私が突然二人の下へ呼ばれた。

「自分たちの上司であり師でもあり、そして何より私たちの自慢の姉でもある美神さん。私たち二人は誰よりも美神さんに感謝しています。これからもご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします。」

横島君から感謝の言葉を、おキヌちゃんから感謝の花束を渡された。

この二人は・・・

私はもうどうしようもなかった。感情が先走って何もしゃべることができなかった。

ただ二人を抱きしめて歓喜の涙を流した・・・



結婚式の後はいつものドンチャン騒ぎ。

みんなが二人を祝い、時には冷やかし、大いに盛り上がった。

そんなお祭り騒ぎも終わりを向かえ、私は一人でとっておきのワインを飲んでいる。

こんこん。

不意に戸をたたく音が聞こえた。

「令子、まだ起きてるかしら?」

「起きてるわ、ママ。」

戸を開けてワインを持ったママが入ってきた。

「あら?もうやってたみたいね。」

「ええ、なんとなく飲みたくなってね。」

そう言いながら私はグラスにワインを注いでママに渡した。

「ありがと。」

「ううん、ちょうど相手が欲しかったところだから。」

「そう。」

それっきりお互いに言葉を交わさずにグラスを傾けた。



「ねえ、令子。」

「なに?」

「いい結婚式だったわね。」

「そうね。」

「大切にしなさい。」

「そうね。」

「ふふふっ、今日はやけに素直ね。」

「たまにはね。そうだママ、乾杯しない?」

「いいわよ。なにに乾杯する?」

「あら?決まってるじゃない。」

お互いに笑いながらグラスを目の高さまで上げ・・・

「「あの二人の幸せな未来に!」」

澄み切った音を響かせた。

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