水遊び?
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 5/20)
『えいっ』
屋上でおキヌちゃんが踊っていた。
いや、踊り じゃないのか? まじめな顔して、いきなりぴょんと飛び上がったり、さっと横に身を交わしたり。
ただあまりにもトロイと言うか……
『ううん、これじゃ間に合わないかなぁ』
何かぶつぶつ言ってるけど、ドアの影から覗いてる俺にはよく聞こえない。
「よし……見なかったことにしよう」
屋上から壁を伝い降りて美神さんのシャワーシーンを拝めればと思っていたけれど、今のおキヌちゃんの方がなんか怖いし。
『ええっ! み、見てたんですかっ!』
「えっと、うん、ゴメン」
つい口を滑らせちゃった俺の一言で、おキヌちゃんが真っ赤になった。うう、どうしようとお盆で顔を隠して。
『だって、美神さんが避ける練習くらいしておきなさいって言うから……』
「美神さんが?」
どういうことだろうと美神さんに目を向ければ
「そうよ。いくら安定してるからっておキヌちゃんも幽霊なんだから。うっかり吸引札とかに巻き込まれたら大変なことになっちゃうじゃない。だから咄嗟の時に自分でも効果範囲から逃げられるように練習しておきなさいって言っておいたのよ」
なるほど。遊んでるように見えたけど、実はちゃんと意味があったのか。
アシスタントとは言え一緒に現場に出ることもあるわけだから。
あれでもおかしいな俺は今まで一度もそんな心配してもらったことないぞ。はは……よそう、空しくなるから。
俺の繊細な胸の内なんて欠片も気にした様子もなく、美神さんはおキヌちゃんに成果のほどを聞いている。
『それが、中々うまくいかなくて』
眉をちょっと寄せて困った顔。お札を避ける練習なんてどうしたらいいのかちょっと見当がつかなくて、と。
仕方ないかな。実際にお札を使って練習して、おキヌちゃんが怪我したりした困るし。
「そうねぇ……ねえ横島クン、何かいいアイデアない?」
「そうっすねぇ」
美神さんの除霊シーンを思い浮かべてみる。アレみたいな感じで、しかも危険じゃないもの……屋上で練習……あん時は美神さんがシャワー浴びてたはず惜しいことしたな……
「シャワー?」
やべぇっ また口に出しちまってたか
「い、いやっ何でも! ああ違うシャワーじゃなくってホースなんてどうすかっ?」
『は? ほおす?』
「ホース……水を使うってこと?」
「そっす ホースの先を潰せば、ほら、かなり勢いよく出るし、広範囲にしたりもできるから。それにおキヌちゃんは濡れたりしないから風邪引いたりもしないでしょ」
苦し紛れの口から出任せ だったけど、言ってるうちに悪くないんじゃないかと思えてきた。
美神さんも乗り気になったのか。
「そうね、経費も殆ど掛からないし……いえ、公園とかを練習場所にすれば経費なんてゼロだわ! 偉いわ横島クンっ!」
『わぁ、すごいです横島さん!』
はは、ぱちぱちとおキヌちゃんが手を叩いてくれてるけど……美神さんが喜んでる理由分かってないでしょ。
「じゃあ横島クン、ガレージの奥にホースあったと思うから、おキヌちゃん連れて練習に行ってらっしゃい。管理事務所に聞かれたら、あくまで水遊びで押し切るのよ!」
しっしっと手を振られる。ええもう読めてましたよ。
「えっと、じゃあ二、三時間くらいでいいですか?」
「いいわ、最初はそのくらいで。やってく内にもっと色々考え付くかもしれないしね」
『じゃあ、行ってきまーす』
ママチャリ転がしてちょいと離れた公園へ。
遊具から離れた奥の方にも水のみ場があるのを覚えてたから。
蛇口を捻れば繋いだホースの先からちょぼちょぼと、うん、こんなもんかな。
「んじゃ、最初は軽く行ってみようか」
『はいっ よろしくお願いしますっ』
むんと真剣な眼差し。両のこぶしをきゅって握って、何だかちっちゃい女の子みたいだ。
「ほい」
『きゃうっ!?』
トロさもちっちゃい女の子レベルだったか。
軽く潰しただけでそんなに強くしてなかったんだけど、あれだな、右に避けようか左に避けようかあたふたしてるうちに正面から被っちゃったと。
『あううう』
じゃばじゃばとおキヌちゃんの胸の辺りをすり抜けてく水が何だかまぬけだった。
「あー、どんまい。だんだんに避けれるようになればいいんだからさ」
『は、はいっ よろしくお願いします』
今度はホースを縄跳びの縄みたいに大きく振りながら、そのままでもおキヌちゃんに当たらないところに振り下ろす。
『えいっ』
「よしっ うまいぞ」
先ずは身体を動かすことに慣れてから、だんだんとシビアなのにシフトしてけばいいんだ。
「よいしょぉっ」
『きゃっ!』
足元を低く薙いだ水を、おキヌちゃんがきれいに飛び越えた。んじゃ今度は大回し。途中で波打つように――む、行き過ぎたと思わせて今度はバック!
『ちょっと、横島さんっ 速いですっ!』
「だってほらもう結構避けれるじゃない」
意外だが、結構上手く避けてく。最初でこれだけ避けれれば上等なんじゃないか?
それに何だか面白くなってきたし。
「ほーれほれ」
『わぁっ それ反則ですーっ』
そう言うおキヌちゃんだって笑ってるじゃない。
地面を見れば水浸し。普通こんなことしてたら泥だらけになっちゃうけど、おキヌちゃんは平気で飛び回ってる。こういうのも悪くない。童心に帰るってのかな。
「んじゃさ、ちょっと難易度上げてみよっか」
『どうするんです?』
「あのさ――」
ばしゃぁっ
『きゃぁっ! あ〜あ、失敗しちゃった』
「ごめんっ ちょっと調子に乗りすぎた」
『いえ、大丈夫です、濡れただけですから』
頭から水を被っちゃったおキヌちゃんでも怒ってないみたいだよかった。
水に触れる状態にして緊張感をって、いや思いつきのただの遊びだったんだけど、二人して夢中になっちゃって。
「結構遊んだよなぁ そろそろ帰ろっか」
蛇口を閉めて、おキヌちゃんの方に振りむ――
『? どうかしたんですか? 横島さん』
……気がついて ない?
そりゃ大して掛かってないから透けてるわけじゃないけどでも濡れた巫女服が貼り付いておキヌちゃんの身体のラインが露に
『行かないんですか?』
「いやっ! ちょっと待って帰る前に一服していきたいなーなんてあははははははっ!」
慌ててそっぽを向きながらでも網膜に焼きついたのが頭の中でぐーるぐる。
冗談じゃない、乾くまで人目に晒せるわけないだろーがっ
水道の下に頭を突っ込んで蛇口を勢いよく捻った。べしべしと水に殴られるように。あー、ちょっとは頭冷めた。
『何やってるんですか、もう』
あわてておキヌちゃんがタオルを頭に掛けてくれる。
「や、汗掻いちゃってさ。あー気持ちいい」
日差しも暖かい。ほっときゃすぐに乾くだろう。その頃にはおキヌちゃんの服も乾くし。
よいしょとベンチに座り込むと、ふわりと飛んできたおキヌちゃんがちょこんと俺の横に座った。
「あー」
『いい天気ですよねー』
「ん」
見上げるは午後の空
幽霊のはずなのに 俺の右隣がほんのり暖かくって
『また、練習に付き合ってくださいね』
ちょっぴり罪悪感。でも、こういうのっていいなって、そう思った。
Fin
今までの
コメント:
- うーん…
濡れ透けは漢(おとこ)の浪漫だけど、幽霊だから濡れないって言ってるんだから無理があるかと。 (鮭児コロンボ)
- 濡れるのかなぁ・・・と思いつつ、そういやシメサバ丸は持ってたようなと。美神さんがあの手の横島の失言を見逃すのも少し違和感あるかな?
まあ、全体的には面白いので賛成です。 (alc)
- 濡れずに済むはずなのに、あえて濡れて魅せる。
これはおキヌちゃんの深謀遠慮を褒め称えるべきなんでしょうか。
いえ、きっと偶然の織り成した萌えシチュエーションなのでしょうw (aki)
- >鮭児コロンボさん
感想ありがとうございます
物に触れるのなら、その気になれば濡れられる? ということから書いてみました。
>alcさん
感想ありがとうございます
言われてみればそうかも(汗)
おキヌちゃんに気をとられて展開を急ぎすぎたかもしれません。
一応、未遂以前に最初から覗くのも諦めてたから、美神さんが気がつくには煩悩の篭り具合が足りなかったということにしてください。 (S)
- >akiさん
感想ありがとうございます。
そうですきっと偶然(たとえ本能の根っ子の部分で煩悩が蠢いていてもあくまで偶然(笑))
横島はおキヌちゃんをセクハラ対象としてはあまり意識してなかったし、こういうことになると逆にどうしていいか分からなくなっちゃうんじゃないかなーなんて思ったり。 (S)
- いいですねー。こうゆうほのぼのとした感じ。横島は、横島でおキヌちゃんに対して過度な煩悩を展開してないわけですし。横島のおキヌちゃんに対しての優しさが伝わってきますねー。 (メタリカ)
- とりあえず、何よりはじめに屋上で練習するおキヌちゃんがこの作中の
最も危険なポイントだと思った。
ああもう。
Sさん……すごいね。 (ししぃ)
- 最初におキヌちゃんは水に濡れないって言ってしまったんだし、いきなり濡れてどうこう言われても説得力がないって言うか。
もちろん、意図すれば物に触れるおキヌちゃんなんだから、意図すれば水に濡れることも出来るんだろうけど、
だとしても濡れようと思った意図がわからない。
設定の矛盾というか、もしくは説明不足というか。 (イサキ)
- >メタリカさん
感想ありがとうございます。
ちょっと気になるなーくらいの二人が書いてて楽しいです。
無自覚に優しくしちゃってる横島、このままいくと「こーなったらもー」になっちゃってるんだろうなって(笑)
>ししぃさん
感想ありがとうございます。
あははっ、しょっぱなから危険球を投げてしまいました(笑)
気がついたら練習のはずがいつの間にか水遊びになってたりして、
思いっきりじゃれてるじゃねーかと(笑)
>イサキさん
>「んじゃさ、ちょっと難易度上げてみよっか」
>『どうするんです?』
>「あのさ――」
>水に触れる状態にして緊張感をって、いや思いつきのただの遊びだったんだけど、二人して夢中になっちゃって。
ええと、これだと説明不足だったでしょうか(汗)
練習のためというよりもっと楽しく遊ぼうとしてわざと水に濡れられるようにしてた――と書いたつもりだったんです。 (S)
- S様の作品は色々な芸風がありますが、どれも素直に楽しめる良さを感じます。
今回も楽しませて頂きました。
(^人^) (鴨)
- 濡れる云々については、先達の方々がご指摘しているので割合します。
簡単なことですが、ある程度文が長い場所でも読点が見受けられないの場所があるので、若干の読み難さを感じます。あと、句点が多々見受けられない場所がありますので、直した方がよろしいかと。
又、多少地文から会話文への移動がぎこちない点があります。人の事は言えませんが(笑)
ただ、作品のほのぼのとした雰囲気は良かったです。こういったところは羨ましい限りです。
というわけで、敗北感ゆえの賛成票。 (高寺)
- すみません。賛成票のつもりが、なぜか反対票になっております。
多重投稿になってしまいますが、Sさん、申し訳ないです。 (高寺)
- おキヌちゃんが可愛い…これに尽きると思いますw
あまりに無邪気すぎる横島クンに、煩悩を爆発させられない横島クンが良かったですねw (偽バルタン)
- すいません、コメントに間違いが…
『無邪気すぎる横島クンに』では無く『無邪気すぎるおキヌちゃんに』でした。 (偽バルタン)
- >鴨さん
感想ありがとうございます。
自分では一種類の芸風しかないと思っていたから、そう言ってもらえると何だかびっくりです。
鴨さんの好みに合うお話が書けてよかったです。
>高寺さん
感想ありがとうございます。
句読点……(汗)
付けると何だが変な感じがして、それで取っ払っちゃうんです。
ええと、まだ整理されてない気持ちを無理に文章に押し込める不自然さが変な日本語になってるのかも です。
>偽バルタンさん
感想ありがとうございます。
幽霊時代のおキヌちゃんは特に天然度が高かったですから、汚れてるココロにはとっても痛いんです(笑)
時には童心に帰って水遊びもいいかなって。おキヌちゃんとだったらそれが自然にできるような気がします。 (S)
- すでに最初のおキヌちゃんの時点でノックアウトしました。SさんのSSってやはりおキヌちゃんへの愛を感じますね(^^
さて、相変わらず金にがめつい令子、楽しみつつもちゃっかり青(性)春してる忠夫。ボケまくりのおキヌちゃん…。
連載初期のころの大ボケ三人組の様子が目に浮かぶようでした。
いかようにも読み取れる、二次創作のお手本のようなSSでしたね。お疲れさまです (天馬)
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