ザ・グレート・展開予測ショー

追いつめられて(2)


投稿者名:aki
投稿日時:(06/ 5/18)

相変わらずの狭いアパートの部屋。
横島邸。
とても邸宅とは言えない、屋根を打つ雨の音が五月蠅い安普請であるが
それでも一人の男の城である。

その中で、若い二人の男女が近いながらも微妙な距離を保ちながら並んで座っている。
俺とおキヌちゃん。
俺達が、ある種緊迫した空気を持つのは久方ぶりの事だった。

なんて、モノローグ気取ってる場合じゃないっ。
どーする?




追いつめられて(2)




「横島さん、私に…その、セクハラしない理由ってなんですか?」

狭い自室内に微妙な空気が満ちた気がする。
雨の音を、遠く感じる。
でも、おキヌちゃんは。いつもよりさらに近くに感じる。

ああ、これはもう、逝くしかないよなあ。

たぶん。

でも、ここでそのまま逝くんじゃあ、これまで我慢した意味がない。
もうちょっと我慢だ、もうちょっと!

そもそも、このまま逝くって、なんだよ?

(それはつまりセクハラして欲しいってことだよねおキヌちゃーん)
(あ、だめです横島さん、あ、そんな急に、あ)

…駄目だダメだ駄目だ。
有り得るけどありえない。
いや。
有り得るからありえない。

とにかく駄目だ。煩悩退散煩悩退散。

落ち着いて話を続けよう。うん。

「そりゃあ、俺だってしたかったけど「したかったって事は以前からですか!?」

おお、なんかすごい勢いで言葉をかぶせられたぞ。
しかも躙り寄ってきた。
怒った…んじゃないな。なんか嬉しそうだし。

「ま、まあとにかく、決しておキヌちゃんに魅力が無いとかそういう事じゃなく
むしろ魅力たっぷりだって事はまず言っておきたい」

最初にそう言えよ、俺。

「えへ、私って、横島さんにとって魅力的なんですね。嬉しいです。
でもそれなら、セクハラしなかったのは何故ですか?」

「なんかこー、守りたくなる対象っていうかさ。
ガツガツしちゃいけない相手だって思ってて」

妄想の中は別として。

「魅力はあるけど、ガツガツしない相手?」

「ああ、うん、最初に会った時、雪山で押し倒しちゃったくらいだし」

あの時はワンゲル霊に追われて錯乱していたとはいえ
今思うと悪い事したよなあ。

「じゃあ、幽霊とか生き返ったとかは無関係だったんですか?」

「俺にとっては、あまり関係なかったと思う。
その後の付き合いでさ、昔の幽霊の割には年下みたいな感覚になったんだ」

「年下、ですか?」

それでも、色々と世話してもらったのはこっちだけどね。

「うん。俺は一人っ子だけど、妹ってのが居たらこんな感じなのかな、と思っちゃったら
もうセクハラはできんかった」



あー恥ずかしいなーもう。こういう会話は苦手だな。
…あれ?なんだか沈黙が続くぞ?
こういう時、妹とか言っちゃ駄目だったか?
………駄目じゃん俺。



「安心しました」

「え?」

「だって、それは私の事が大切で、家族みたいに身近に感じてくれたから。
だから、そういう対象にしないように努力したって事ですよね?」

「ん、ん〜、そういう事になるのかな?」

「良かった。私、愛されていたんですね…ずっと」

うぅっ。なんか来た。ズガッと。心に衝撃が。
でも心地よい衝撃だ。こんなのいつ以来だろう。

「う、うん、まあ…」

「死んでいても。生きていても。家族のように、妹のように。嬉しいです」

うう。照れるなあこういうの。おキヌちゃんも耳まで真っ赤だし。
まだ肌寒い季節だというのに、ここだけ季節が巡るのが速いぞ!
くぅっ、俺もなんだかもー!

はっ、いや、押さえないと。六根清浄六根清浄。



…あ、また沈黙が。なんか話さないと、でもこういう時何を話せばいいんだっ!?



「横島さんにお願いがあります」

き、きたっ。
しかも身体ごと躙り寄ってきた。
多分、ちゃんとした関係にって話なんだろうけど。

「あなたの口から、あなたの言葉で聞きたいです」

え?

「私の事、どう思ってますか?」

あれ?俺ってばおキヌちゃんに、そういうことって一度も話した事ない?

(「こーなったらもーおキヌちゃんでいこう!!」)
(「こーなったらもー」!?「で」「いこう!?」)

ああ、そうだよ、ロクでもない事しか言ってないじゃん。
今度は、間違えない。

「…おキヌちゃん」

「はい」

「ありがとう」

「え?」

「幽霊の時から、ずっと一緒だったよね。
楽しい時も。怖い時も。嬉しい時も。悲しい時も」

「…はい」

「だから、ありがとうなんだ。
美味いメシ食わせてくれて。
美神さんから庇ってくれて。
俺が悲しい時にも一緒にいてくれて。
…俺を、好きになってくれて」

俺は、恋なんてよくわからなかった。
愛というのも、言葉じゃよくわからん。
恋愛感情と煩悩の区別も、はっきりしない。
それでも、言える。言いたい。

「おキヌちゃんが、一緒にいてくれると嬉しい。
居なかったら、寂しい。だから、側に居て欲しい」

愛じゃない、ただの独占欲、執着心。煩悩。欲望。
そんな事を誰かに言われた事がある気がする。
何時何処で誰にかは忘れたけど。

「おキヌちゃんの事は、大切にしたい、守りたい。
そんな風にずっと思ってた。でも、それだけじゃないんだ」

そう。それだけじゃない。これは伝えなくちゃいけないと思う。

「大好きだよ、おキヌちゃん。
あの時ちゃんと答えなくて、ごめん。
でも、あの時よりも、もっと好きだと思う。
これからも好きになっていくと思う」

くっ、我ながらムズ痒い。
でもこれくらい言わなきゃ申し訳ない。

「横島さん…」

ああ、おキヌちゃん涙ぐんじゃってかわいいっ。
ときめく、ときめくぞー!!

「だから、これからも、いやこれからは、仲間として、友達として
それ以上に、女の子として、隣にいてくれたらなー…って!?」

ぴとっ。

と、なんかくっついてキター!
あったかいなー。やーらかいなー。いいにおいだなー。
いきてるっていーなー。
にんげんっていーなー。

あれ、なんだか目の前が白くなってきたな。
周りが白くて。でもおキヌちゃんはよく見えて。
本気でテンパるとこうなるんだ。知らなかった。

「私も、大好き、です」


あー。うー。
こーなったらもー。






続く

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