ザ・グレート・展開予測ショー

追いつめられて


投稿者名:aki
投稿日時:(06/ 5/14)

「お疲れ様っす、お先に失礼しまっす」
今日は休日だったはずだが、突発的に早朝から除霊仕事があったので、シロに散歩を強請られる前に
心休まる自宅でとっとと寝直そうと、急いで事務所を出た。

帰る時に「せんせー!」と飼い主を呼ぶ鳴き声を聞いた気もするが、今日は散歩に付き合う気は毛頭
無い。眠いし。

それにっ!今日はおキヌちゃんが夕食を作りに来てくれる日だ。
夕食の後には「昨夜はお楽しみでしたね」イベントが待っている!かも知れない。
そんな訳で、さっさと体を休めて(夜の)戦いに備えたいのだ。
ああ、でも仕事の後だし、銭湯に行っておくかな。汚いと失礼だし。
いや、念の為ね。あくまで(泣)




部屋に戻って一眠りすると、もう夕方だった。寝ている間に天気が悪くなったらしく
外は真っ暗になっていた。
「あれ、降ってきたなあ…」
相変わらずの狭いアパートの、これまた狭い窓から空を見上げて呟いた。おキヌちゃん、平気かな?

トントン トントン

ちょうどいいタイミングというべきか、ノックの音が響いた。この叩き方は…
「おキヌちゃん、いらっしゃい。体は濡れてない?」
「大丈夫ですよ。事務所を出る時に、空模様がおかしくなってたから、傘を持って出かけましたし」
うん、さすがおキヌちゃんだ。




とんとんとんとん

ノックの音とは異なる、聴き慣れた包丁の音が響く。
「もうちょっとでできますから、お皿出してもらえますか?」
「うん、底が深い皿だよね?」
こうやって二人で台所に立つと…といっても俺はほとんど何もやってないが…いい感じだ。
多分、これが幸せってもんだろうなぁ。




「今日も美味しかったよ、おキヌちゃん」
「いえいえ、お粗末様でした」
こういう時、気の利いた台詞回しができたらいいんだが、残念ながら国語の成績は高くない。
今は食後の一服、食器を片づけて、おキヌちゃんの入れてくれたお茶を楽しんでいる。
お茶の銘柄なんて知らないが、おキヌちゃんお勧めの静岡の銘茶らしい。
丸いちゃぶ台で横並びというのもおかしな話だが、今はちゃぶ台に横並びに座っている。
対角線に座らないあたりが、今の関係を象徴していると言えるかも知れない。と、ふと思った。




…思えば、幽霊時代から、こうして飯食わしてもらってたんだよなぁ。ちょっと昔の話を聞いてみるか。
「おキヌちゃんは、幽霊の時の事って大体覚えてるの?」
「ええ、覚えてますよ。」
「初めて俺の部屋で料理してくれた時の事って、覚えてる?」
「えっと、あの時は確か…そうそう、美神さんが精霊石買いに行って、給料渡してもらえなかったんですよね。」
「うん、おキヌちゃんのおかげでメシは食えたんだけど、酷い目にあったんだよなー」
「横島さん、おまわりさんに連れて行かれちゃいましたしね」
「ああーそれは言わんといてー」
なんだか料理の後味がしょっぱいぜ、ちくしょう。




「でも、あの時は本当に嬉しかったよ。女の子にメシ作ってもらうなんて初めてだったし」

そう、本当に嬉しかったんだ。でもあの頃は。
自然と、口を開く回数が少なくなる。

「私、元禄の頃にはお寺でおさんどんしてましたから、料理は得意だったんです。
でも300年前とは食材も違いますし、幽霊じゃ味覚もぼんやりとしかわからなかったから、練習したんですよ」
「へえ、そうだったんだ」
「練習といっても、横島さんが学校に行っている間、事務所で美神さんに昼食を作っていただけですけどね。
そのおかげで、横島さんに食べてもらう時には、それなりになってたんです」

「あの日、初めて横島さんの家で私の料理を食べてもらった日。
あの日も、私にとっては大切な日だったんです」

「大切な日?」

「山の上で横島さんと出会った日。料理を作った日。海でなんぱを邪魔した日。
全部、私にとっては記念日だったんです」

あの頃は、おキヌちゃんは幽霊だったから。
だから、触れられないと思ってた。いや、触れるのに触れないというか。

「悲しかった日もありますよ。一度お別れした日。記憶が戻った日。それに…」

どきん。

「南部グループの時の事、覚えてますか?」

覚えている。覚えていたのに、流してしまった。無かった事にしてしまったから。
ああ、外の雨音に、今の会話も流してしまいたいっ。

「あの時は仕方なかったんやー!あんなん言われたのはじめてやったから混乱しただけなんやー!」

言い訳ならいくらでもできる。逃げる事も。
そうやって生きてきたから。
でも。この流れではっ。




「横島さん、私に…その、セクハラしない理由ってなんですか?」





ああ、これはもう、逝くしかないよなあ。




続く?

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