ハートビート (絶対可憐チルドレン)
投稿者名:アンクル・トリス
投稿日時:(06/ 5/14)
「ねえ、皆本・・・おぼえてる?」
「あの頃のあたしたち
それが永遠に続くような気がしてた
いつか終わる日が来るなんて思いもせず
ただ笑っていたね」
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ハートビート
(絶対可憐チルドレン)
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ここを訪れる。
それは薫にとって、決意を固めるためだった。
避けていたのだ。自分さえも納得させられない理由を作ってまで。
この部屋には、いい思い出が多すぎるから。
ドアを開けると殺風景な玄関が、その奥のリビングが見える。
家具も照明も無かったけれど、ふと壁に目をやると塗りなおしがそこら中に目に付いた。
間違い無く、彼の、そして自分達の家だ。
すこしへこんだ壁を指でなぞりながら、西日が射しこむ部屋を眺める。
光が影を作り出し、この一見美しく見える部屋が その実 何度も修復の手が加えられた事が分かった。
キッチンに目をやる。
『・・・・・・行くな!!
ここにいてくれ・・・!!』
思い出したのは、ほんの数ヶ月前のこと。
初めてで、最後のデート。
いつもより甘えて、それで気付いたのだろう。
袂を別つ自分に彼は行くなと言ってくれた。
サイコメトリーなんてできないけれど心に直接しみこんできて、何もかも忘れてこのまま二人で何処かに逃げ出したくなった。
けどそうしたら、紫穂は? 葵は? 他のエスパーは? そう思うと手をとることは出来なかった。
あの時手を握り返していたらどうなっただろうか。
『もうほんの少し・・・
大人になれば――――』
次に思い出したのは幼い頃の思い出。彼と出会って間もない頃。
アイツがそう言ったのも、こんな夕暮れだったっけ。
床に座りこみ、皆本との会話を思い出す。
幼い自分は彼の本当に言いたいことなんて理解もせずに、大きくなればピチピチになる! そんな見当違いの結論で終らせた。
今もそんな勘違いで終らせられればいいのに。
重ねた年月が、自分達をこんなにも遠くに離していくなんて、10才の自分は想像もしていなかった。
いつまでも一緒にいれるなんて本気で信じていたのだ。なんて子供だったんだろう!
滲んだ床を見るのが嫌で目を閉じる。
次々と思い出が甦る。
サイコキノで無理やり起こす自分
彼をテレポートで風呂に移す葵
デタラメばかり言う紫穂
そして文句を言いつつも笑ってくれる皆本
そこにいるような気がして目を開く。
けれどやっぱりそこには自分の涙で滲んだ部屋があるだけで。捜しても誰もいなくて。へこみだけはあの日のまま。
彼に、会いたい。
〔――――ザ――ザザ――女王。 女神から伝言です。 すぐに帰還するようにと〕
「・・・わかった 葵には20分以内に帰ると言っといてくれ」
唐突に通信機から聞こえたのは、帰還の催促。 最終作戦の会議をほっぽって来たのも忘れていた。
やはり手遅れなのだろう。
再会は近い。その時 彼は私のことをなんと呼ぶだろう?
破壊の女王? それとも以前のように薫と呼んでくれるのだろうか?
自分は彼を殺せるんだろうか? 彼は自分を殺せるんだろうか?
まだ分からない。分かりたくもない。流した涙は夕日のせいに。
ただ一つ分かっているのは、彼を思うと速まる心の奥の鼓動だけだった。
今までの
コメント:
- 正直、この豪華メンバーの後に投稿するのはコワイものがあるんですが、やらないよりはやったほうが良いだろうということで。
短いうえに暗い話です。 でも、これくらい暗くなった後に椎名先生がハッピーエンドに持っていってくれる事を信じています。
(アンクル・トリス)
- うう、来て欲しくない未来。
だけどストレートに予測するとこうですね。
こういうのをマンガで読まないことを願いつつ。
面白かったです。 (ししぃ)
- 悲しい展開予測ですが、これもまたあり得る予測の一つですね。
作中の薫の心情描写が自然で良かったと想います。 (aki)
- 展開予想らしい、ちょっと来て欲しくない未来の薫の心境。
思い出と共に綴られるがゆえに、昔あの頃が眩しくて、そして悲しくて。
良い話でしたー。 (ちくわぶ)
- 破壊の女王となってしまった薫嬢の独白…
あの頃を懐かしみながら、しかし戻ることは出来ない…彼女の哀示唆が出ていたと思います。 (偽バルタン)
- 破滅へのカウントダウン。それを前に胸に去来するのは、永遠とも思えた時間。
ストレートな意味での展開予測でしたね。前の項のUGさんの希望に満ちたものと対比して読むと、物悲しさがさらに募ります。
もう戻れない、戻るには自分はあまりにも引き返せない遠いところまで来ている。
そんな薫の悲哀が、胸を打ちました。お疲れ様でした (天馬)
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