ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(43)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/ 3)

「・・・『永遠』・・・?」
以前から何度も加奈江が口にしている、その言葉。
そして、加奈江が望み、ピートから手に入れたと言っているもの。
永遠―――時間が流れても、ずっと、ずーっと変わらないもの。
それを―――世界中に分け与える・・・?
「・・・はあ?」
自分でも間抜けな反応かも知れないと思いはしたが、エミは、加奈江が高らかに告げた言葉を、聞き返さざるを得なかった。
言われた意味がわからなかったとか、聞こえなかったとかいう単純な理由ではない。
あまりに突拍子も無い事を不意に聞かされて、頭の処理が追いつかなかったのだ。
「・・・何、あんた?ピートのために、世界征服でもしようってワケ?」
これで、目の前にいるのがアシュタロスだったら、もう少し真面目に受け止めただろうが、あいにく、今エミの目の前にいるのは、魔物化しているとはいえ、彼女と同じぐらいの年の小娘である。
はっきり言って、幼稚園児に、将来、テレビアニメのヒーローになると言われたようなノリだし、相手が幼稚園児でない分、好意的な微笑ましさも湧いてこない。
酔っ払いのたわ言でも聞かされた気分になり、軽くからかうような口調で加奈江に問い掛けると、加奈江の方は、至って真面目な様子で続けた。
「・・・そんな単純なものじゃないわ。私はただ、世界の全てを今のままで停めたいだけ。世界の全てを『永遠』にするのよ」
もちろん、貴方は殺すけど、と、付け加えて言ってくる。
その加奈江を、目を細くして睨みながら、エミも少し真面目な思考に戻ると、静かに言い返した。
「・・・世界中の人間を吸血鬼化させるワケ?その、『永遠』とやらのために」
「そうよ」
「あんた、何をバカ言ってるワケ?そんな事したって、ピートが喜ぶわけ・・・」
「喜ぶわ」
「!」
ヒュッと、不意に、眼前の木の下から加奈江の姿がかき消えたかと思うと、音も無く、こちらのすぐ手前に姿を現した加奈江の顔を見て、慌てて後ろに飛びのく。
そのエミの反応にくすくすと笑いながら、加奈江は、天に浮かぶ満月と、その月光をわずかに遮る結界の光とを見上げて言った。
「本当に無神経な人ね。・・・貴方、ピエトロ君が人間じゃないって事、ちゃんとわかってる?」
「そりゃ、わかってるわよ。あの子は、もう七百年生きてきたバンパイア・ハーフで・・・」
ペースを取り戻してきたのか、またこちらを嘲るような口調で言ってきた加奈江の言葉に少しムッとするが、それに乗せられないよう、なるべく冷静な口調で答える。
しかし、そのエミの言葉を嫌な感じのくすくす笑いで遮ると、加奈江は、近くの木の上にふわりと飛び乗って言った。
「七百年生きてきた・・・そう。それは、彼の「これまで」ね。・・・じゃあ、彼の「これから」は考えた事、ある?」
「―――!」
「そう・・・考えた事ないわよねえ。「人間」でいる分には、彼が抱えている『永遠』なんて、わからないもの」
「・・・・・・」
加奈江の言わんとしている事の察しがついてきて、エミは、こちらを見下ろす加奈江の視線にあからさまな嫌悪を抱きながらも、黙して加奈江の次の言葉を待った。
「・・・貴方も唐巣神父も学校の友達も・・・みんな、ピエトロ君にはとても残酷な事をしているのよ。いつか、彼を置いて変わっていき、消えていく存在なのに、ピエトロ君にとても優しくして・・・。ピエトロ君も貴方達みんなに優しくするわ。貴方達の事が好きなんだから。・・・貴方達はそれで良いかも知れないけど・・・百年後、貴方達は、死ぬ時に、ピエトロ君の心に何を残すかしら?」
「・・・・・・」
「『思い出』なんて言ったらきれいだけど、幸せな思い出は、独りになった時にどんな感情をもたらすかしら?貴方達はとても残酷なのよ。『永遠』を抱えている彼を置いて、自分達はどんどん変わっていく・・・」
「・・・それは違うわ。ピートも、小竜姫達も言ってたワケ。どんな魔物にも、神様にも不老不死は―――『永遠』は無いのよ。ピートの出身地は吸血鬼ばかりの島だけど、そこにはお墓だってあるわ。あんたが言ってるような、何にも変わらない『永遠』なんて、どこにも無いのよ」
「いいえ!!あるわ!!」
それまで穏やかに語っていた加奈江の声の調子が、また急に跳ね上がる。
思い込みが激しそうな分、大人しそうに見えて、下手に刺激するとすぐキレるタイプだなと、いい加減慣れつつもある加奈江の反応を分析しながら、突然飛び掛られるのを予想してブーメランを構えたエミの前で、激高した加奈江は、天を仰いだまま、満月に吠えるかのように叫んだ。

「『永遠』は、彼が持ってるの!!―――ピエトロ君は、『永遠』を持っているのよ!!だってそうよ!!だから、彼は死んでも生き返ったんだもの!!―――彼は、私に『永遠』を見せてくれたのよ―――!!」

「え・・・?」
雄叫びを上げるように叫んだ加奈江の言葉は、興奮のあまり、半分バラバラになっていたが―――察しの良いエミに、彼女が一体何をやらかしたのかと言う事を知らせるには充分だった。
「死んでも生き返った」と言う一言が、エミの脳から一瞬、他の記憶も感情も判断力も、何もかもを押し出して頭の中を占拠する。
頭を強打した時のように、一瞬、全ての感覚に空白が出来―――我に返った瞬間、エミの頭と全身の神経に湧き起こったのは、それが怒りだと本人でさえ認識できないほどの強烈な怒りと、それに伴う異常なまでの高揚感だった。
「あんた・・・」
頭で考えるよりも先に、感情が先走って、口から言葉が迸り出る。
「あんた・・・ピートに何したワケよおおおおっ!?」
「あっ・・・!?」
感情の迸りに任せ、突っ込んできたエミが自分に向けて放ってきた大量の霊気に加奈江が吹き飛ばされ、立っていた地面が砕け散る。
「くっ・・・」
「待ちなっ!!」
一時の感情の暴走による、霊体撃滅波並みの霊力を受けて、思わぬ攻撃に一時退避しようとした加奈江を追いかける。
「あんた、ピートに何したワケ!?無事で返さなかったら、タダじゃすませないって、言ったワケっ!!」
「ちっ・・・まともに相手にしてられないわっ!お前達!」
「うわっ!?」
強烈な霊波を発しながら追いかけてくるエミを、せめて足止めしようと、手近にいたカラス達を差し向ける。
エミがそれを追い払っている間に、加奈江はその場から走り去った。
さっき食らった一撃が思いのほか強かったのか、すぐに飛び立つ事が出来ないようなので、とにかくエミから離れておこうと、木の多い方に向けて駆け込む。
(誰にも邪魔はさせない―――全てはピエトロ君のためなんだから―――!!)
満月の夜の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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