ザ・グレート・展開予測ショー

Chicken Hearted


投稿者名:矢塚
投稿日時:(06/ 5/14)


 小さな掌をかざし、彼女はそれに触れる。
 ひんやりとした感触が皮膚を伝い、次の瞬間にはまるで灼熱の欠片に触れでもしたかのような感覚が走った。
 もちろん、それは彼女自身を襲った本物の痛みではなく、彼女が触れた事により流れ込んできた情報の一部だ。
「……とても、痛がってたわ……彼女……」
「そんな言い方をするんじゃない。もう、止めるんだ、紫穂」
 淡々と言葉を紡ぐ紫穂へ、苦々しい面持ちで皆元が言った。
「どうして?」
「どうしてもこうしても無い。今君がしている事は、今更意味の無い事だし。超能力の無断私用は、服務規程に違反するぞ?」
「大人の詭弁ね」
 紫穂の背伸びをした一言だったが、それでもその少女の言動としては十分に似つかわしかった。
 皆元は紫穂の悪びれない表情にたじろぎつつ、次の言葉を探す。
 しかし、目の前の少女は遠慮無く続ける。
「このコね。外で遊んだ事が無いのよ?」
「……紫穂」
「このコが外の世界に憧れてると思った? ううん。そんな事無いの。だってこのコは外の世界そのものを知らないの」
「……もう止めるんだ」
「消毒薬の臭いと、自分の体臭だけがこのコの世界だったの」


『──紫穂──』


 皆元の疲れをはらんだ一言に、紫穂がようやく口をつぐんだが、その表情には憮然としたものが浮かんでいる。
「君の言いたい事は僕も分かっている。でも、その為にサイコメトリーを行使する必要があるのか? 君が今している事は、自己満足を満たす為のエゴに過ぎないんだぞ?」
 皆元の声色は、子供に対するそれではなく、一人の大人に対する色が滲んでいた。
 その言葉に紫穂は少しだけ唇を歪ませた。
 皆元は一人『難しいな』と、ため息をつく。
 理屈や理論やモラルなどを頭越しにして、彼女、いや、彼女達は自分の求める物への欲求をぶつけてくるのだ。
 純粋な欲求であるが故に、それは折れる事を知らない。
 皆元の葛藤など知らぬ顔で、紫穂は再度、剥き出しのエゴをぶつける。



『これブロイラーじゃない〜〜!! もっといいお肉にしてよ〜〜!!』

『ゼータク言うなっ!!』

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