訪ない
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 5/13)
こつり
机に向かって物理の参考書を広げてきたとき、ふと窓の方から小さな音がした。
時計を見れば、夜の10時を回ったところ。明日も学校あるし、そろそろ寝ようと思ってたんだけど。
「はぁい、どたなですか?」
来てくれたのは誰だろう?
窓を開けると、そこは月の光、ふわふわと漂う一人の少女。
古風な貫頭衣に素足。真っ白なおかっぱの髪が風に靡いて
「わぁ、お久しぶりですー。あれ? 今日は一人なんですか?」
見渡しても、犬さんの気配はない。
「うむ、たまたま近くを通りがかっての」
入ってもよいかと小首を傾げる少女のために、大きく窓を開く。
「かたじけない」
とんと窓のサンを踏んだときに、少女の足首に結わえられた鈴がちりんと鳴った。ずっと昔切られた足を、この飾り紐で繋いでいるんだとか。
その話を聞いたときに痛くないのかと尋ねたら、気にするなもう慣れたと微笑んで
「今お茶入れますね。だけどダメですよー、一人であんまり夜遅くまで遊んでたら」
みんな心配しちゃうでしょう?
「む、いやしかし、それはお主もであろう。前はお主も一人でふらふらと飛んでおったではないか」
ああ、確かに、彼女たちと逢ったのは夜のお散歩の最中だったけど。二度目に逢ったときも。あれ? 何回くらい逢ったっけ?
「う、でも、生き返ってからはしてないですもの」
もう逢いにいけないから寂しいなって思ってたら、彼女たちは、こうしてふらりと月に一度、二月に一度、わたしの所に顔を出してくれる。
旧いものたちはそういうところが律儀なのかもしれない。
「はい、どうぞ」
アップルティーと、お茶請けはカントリーマァム。彼女たちがこういうのに馴染んだのはうちに来てくれるようになってからだと思うと何だかちょっぴり誇らしいような、でもどこか間違ってるような。
ぱくりとクッキーを銜えた彼女の顔が綻ぶ。
実はチョコチップがお気に入りなのを知ってから、この顔を見るのが密かな楽しみだった。
「みなさんはお元気ですか?」
「おう。あやつらは殺そうとてびくともせんからのう。じゃが山のはお主に逢えなくてしょげておったが」
くっくっと、いじわるな笑いも毒がないから許せてしまう。
山の――わたしが知る中でも一番大きな旧いもの。確かに人の町は彼には小さすぎるだろう。
「じゃから、そうじゃ、せっかくだから、あやつにもお主の声を届けてやろう」
ついでにこの茶菓子も一つ二つ分けてやろうか、と。お皿に山盛りあるのに、それだけしか分けてあげないつもりらしい。ぱくりとまた一つ。
「ところで、お主の方はどうじゃ? 困ったことなどないか?」
「ええ、毎日元気にやってます。あ、元気と言えば、この間話した狼の子なんですけど、彼女ったら――」
「ふむふむ」
わたしは彼女たちの名を知らない。
いつもやんわりとかわされてしまう。そして、わたしが名前を名乗ることも許されていない。
だからこそ、こうしてお友達してられるんだと思うけど。
ちりん
例えば、この鈴一つ取っても……本当はとても怖いものだということくらい分かる。
わたし、甘やかされてるなぁ
わたしのどこがどう気に入られたのか分からないけれど。
その気になれば一瞥でわたしを消し飛ばせる山吹色の瞳が、まるでおばあちゃんみたいに優しく注がれて。
何だか、涙が滲み出そうになっちゃった
「おお、もうこんな時間か。馳走になったの」
ちょうど二つ残ったクッキーを、わたしが見てる前でティッシュに包んで――自分で言った通りお土産にするらしい。
「また、遊びに来てくださいね」
今度は犬さんや蛇さんも一緒に。
「あー、しかしあやつらがおると茶菓子が……」
ごにょごにょと言葉を濁して。知らなかった。意外と食いしん坊だったみたい。
だからわざわざ一人で来たのか。
ああもうどうして、こんなに怖いのに、こんなに可愛いんだろう。
「ちゃんと姫さまに一袋用意しておきますから」
「そうか、うむ、わかった。今度は連れてきてやるとしよう」
ころりと言う事を変える。
「では、またな」
窓に足を掛けた 瞬間
ごうっ
大気が裂けた。
常世の風をそよとも吹かせることなく、彼女は還ってしまった。
窓を閉めようとして……もう少し、ううん、今夜はこのまま、開けたままにしておこう。
もしかしたら、忘れ物じゃって言いながら、ひょっこり彼女が顔を覗かせるかも知れないから。
ベッドから見上げる月
きれい
Fin
――――――――――――――――――――
たくさんの作品が投稿されたので、私もつられてがんばっちゃいました。
おキヌちゃんの、事務所のメンバーの知らないところでの意外な交友関係(笑)
今までの
コメント:
- 夜の密会、はぐらかし。
思わせぶりな秘密がおキヌちゃんっぽいですね。
大きな事件に発展する前の導入のようでもあり。
何事も無い日常の一つのようでもあり。
ほのぼのホラーな感じ。面白かったです。 (ししぃ)
- 幻想的で、ちょっとホラーで、でも二人がそれぞれ可愛くて。
この「姫様」という存在以外にも、演歌歌手やら守護霊ボイコット中のおじいちゃんやら石神さまやら、そんな面々がおキヌちゃんの部屋に来るんでしょうかね?
ソレはソレで楽しそうですが、このお話のような雰囲気にはならないでしょうね。 (AC04アタッカー)
- >ししぃさん
感想ありがとうございます。
知らない方がよいことって、実はいっぱいあると思うんです。
だけど人って知りたがりだから。
おキヌちゃんが彼らに気に入られたのは、知らないものをそのまま受け入れてくれたから じゃないかなーなんて思ったり。
>AC04アタッカーさん
感想ありがとうございます。
ええもう、「余人に知られないように」という条件さえ守るならアシュタロスだって!(まてこら)
イメージの中では、神様たちからさえ忘れられてしまった旧いものたち、なはずなんですけど、チョコチップが好きだと権威も何もありゃしないですね(笑) (S)
- うわー、これ密会してるんは、これ一体誰なんでしょう(^^
おキヌの人脈って意外と広いというか、土地神にすら勝てる幽霊ですからねー。
瞬きひとつでおキヌを消し飛ばせるお方…。
怖いですw (とおり)
- 相変わらず着眼点がすごいお人だ
なんというか誰が語っているか明確にしないところが
想像を掻き立てます。
ところで今おキヌちゃん週間ですか?(爆 (虜)
- さすがおキヌちゃん、何処の者とも知れぬ何者かともこうして付き合えるとは。
謎の訪問者たちとの怒濤の展開を期待してしまいます。
でも、こういうおキヌちゃんには幸せが訪ねてくるのを期待したいですね。
謎の訪問者もまた、そうであることを期待して。 (aki)
- おキヌちゃんが会ってたのは一体誰、というか何なのか…得体の知れない不気味さが…
でもそんな存在ですら「お友達」…とゆーのが実におキヌちゃんらしいですね。。 (偽バルタン)
- あー、なんか普通にありそうですよねこれ(笑)
おキヌちゃんなら生き返っても幽霊と世間話する絵がサマになってます。
そのうち『友達』を呼びすぎて美神さんに怒られやしないかだけが気がかりですねw
ちょっと違った着眼点の話、Sさんらしくて素敵でしたー (ちくわぶ)
- もしかしたらすごく恐ろしい存在なのかもしれない姫さま
でもおキヌちゃんの前ではすごく優しくて可愛く見えました。
これも一つのおキヌちゃん効果なのかもしれませんね。 (いも)
- 独り寂しい夜にこつんこつんと窓を叩いてくれるお友達、大募集……しませんよっ!(挨拶)
こわいなぁ、もうー。
でも、たしかにほのぼのしてるし、幻想的です(皆さん書かれてるけど)。
それ以上に、こういう感覚って、日本的なる神様の捉え方かもしれないですよね。
そこらじゅうに神様が宿ってたり、魂が宿ってたり。おもしろいです。
でも、やっぱり……こわいんだってば!!(泣) (サスケ)
- >とおりさん
感想ありがとうございます
どんな相手とも仲良くなれるのはおキヌちゃんの人徳だと思います。
本当に凄いのか、実はそんなに大したことない(おキヌちゃんの勘違い)のか、その辺りも謎だったりします(笑)
だって実際に確かめるわけにはいきませんものね。
>虜さん
感想ありがとうございます
あやふやなものをそれでもにこにこと招き入れてクッキー出してくれるおキヌちゃんが好きです。
私みたいに魂の根っ子が歪んでるようなのは、そういうのに弱いんですよー(待て)
というわけで、私の脳内では一年中おキヌちゃん週間です(笑)
>akiさん
感想ありがとうございます
原作のどたばたの狭間のふとした空白。
おキヌちゃんの笑顔とお茶菓子を楽しみに、色んなモノがやってくるわけです。
旧い福の神(禍津神も(汗))とかも遊びに来てそうですよね。
>偽バルタンさん
感想ありがとうございます
『名前』を呼んでしまうととんでもないことになっちゃうとか。
それでも気にしないでお茶菓子出してくれそうなほわってした感じが脳内補正おキヌちゃんだったりします。 (S)
- >ちくわぶさん
感想ありがとうございます
あはは、ありそうです(笑)
「今何時だと思ってるの」って
おキヌちゃんなら招くだけじゃなくって、猫集会とかにもゲストとして御呼ばれしててもいいかも。
>いもさん
感想ありがとうございます
おキヌちゃん効果、そんな感じです。
禍津神みたいなのほどおキヌちゃんのこと気に入ってそう。
だからって表立って何かしようとはしないんじゃないかなー。
チョコのお礼に頭なでてあげるとかぎゅってしてあげるとか(笑)
>サスケさん
『叩いても返事がなかったのでおキヌちゃんは帰ってしまいました』(挨拶返しっ)
感想ありがとうございます
あやふやなものをあやふやなままで受け入れてくれる。
それって、歴史地理的に見ても大陸からの吹き溜まりだった日本らしいとこかなって思ったりもします。
姫様は怖くないですよー(笑) チョコチップ好きで食いしん坊なだけですから(おキヌちゃんの前では) (S)
- 禁忌にさらりと触れてしまう、それもまたおキヌちゃんの魅力かもしれません。
おキヌちゃん自身よりも、それを知ったみんなのことを想像するとゾクゾクしますね。
その禍禍しさが実に美しい。 (赤蛇)
- >赤蛇さん
感想ありがとうございます。
畏れるから禁忌として罰せられてしまうのかも。
あるがままに受け入れられるなら、きっと遊びに来てくれる、かも知れない。
あ、でも、あのメンバーの場合、彼らの本性に気づかずにどたばたに巻き込んじゃう可能性も大かも(笑) (S)
- 彼女が帰ってきた時、誰が言うでもなく自然と幽霊や土地神も事務所に集まってましたね。
彼女の魅力の一部が余すところなく現れていたと思います。というかやっぱ良いよおキヌちゃん(笑)
恐怖を微塵も感じなかった俺の感性はどこかおかしいかもしれん(更に笑) (天馬)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa