ザ・グレート・展開予測ショー

Kimono-Beat!


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(06/ 5/13)


 季節は初夏と申せども、少しばかりに肌刺す寒さは、季節を問わず厄介なもの。
 驟雨上がりの夜明けに在れば、布団の重ねも悩みの火種。

 とはいえ美空に晴れ渡る、涼やかさには申し分なし。
 ささわさわわ、と歌う木の葉は、夜露が無くとも瑞々しく。

 一つ二つの所用がありて、揃ってお出掛け二人組。
 たまの御めかし、和の模様。

 晴れ着を着込んだ氷室キヌ。
 紬に羽織の横島忠夫。

 蝶の鼻緒で微笑む草履に、からりころりと白木の下駄履き。
 縁起の良きかな小判の型に、渋み増します焼きの入り。

 気分はどこぞの所帯持ち?
 若い旦那に若奥様?

 いえいえ、所詮、衣服のおかげと言われたものか。
 釘を刺されておかんむりの横島。
 陽の光にも似た微笑みのキヌ。

 斯様な二人のとある一日。
 しかして語るは除霊・余話。

 お耳にお眼の汚れとならぬを、切に切に願い奉る。
 いざいざ、小芸の幕開けに御座る。






                           【Kimono-Beat!】






 珍妙なる災厄と書きまして、世に厄珍堂と申します。
 アルネ、アルネと何有るものか、ホコリ飛ばして珍品揃い。
 目当ての品物、手に入れたれば、長居は無用の心持ち。

 多にも小にも関わった日にゃ、碌な思いをしやせぬと、吐息混じりに発しまするは、齢千歳の老賢者。
 異口同音にて頷く頭、十や二十じゃききやせぬ。
 実験台にと誘いもあれど、張りて倒して店の外。

 用が済んだら二人揃って、近くの神社に参詣しましょか。
 さてさて、ちくと其処まで散策に。
 お上り気分に御座候。

 着物魔法と名付けたものか。
 今日の二人は互いを見遣り、何処の誰かと見紛うばかり。




 ―――からんころんからころからん

 ―――ぱたんぱたんぱたぱたぱたん




 ちらりちらりと横目の投げ矢。受ければ外し、当たれば赤く。
 胸の奥底、感じましょうぞ。甘く熟れ行く林檎や林檎。
 青くも赤くも想いは等しゅう。
 繋いでみたいな。指、絡ませて。

 店の並びを楚々と行き、お茶屋にお団子、お汁粉三昧。
 折り紙細工に風車。暖簾越しの反物小物。振袖・留袖・帯・小紋。
 綾の錦に巾着の舞。金襴緞子の雨模様。

 浮世絵模様の番傘に、びいどろ吹きます乙女の仕草。
 頬膨らませて、赤らめて。美鈴なりたや君が為。
 ぽっぴんぽっぴん、膨らましょ。桜の吹雪く胸の内。
 弾けんばかりに、咲かしょうか。言の葉、文に載せましょか。

 ふとした拍子の連想模様。
 葛飾北斎の波の絵に、乗ってけ『サーフィン・USA』。
 富士の山より高い所で、ジャンプ決めます、横島忠夫。
 ピースサインで決めたは良いが、波にさらわれどっぴんしゃん。

 ころころ転がる鈴の音は、おキヌの声です、笑い声。
 箸も転がる例えの如く。袖取り腕取り、寄り添いながら。
 いつしか小道は林の並木。嫁入り行列、下り行く。




    『高砂や この浦舟に 帆を上げて
     この浦舟に帆を上げて』




 白無垢着込んだ花嫁様を、きらきら光る眼の先で、憧憬込めて見送るおキヌ。
 さりとて横島、別嬪好きではあったれど、この時ばかりは眼に入らず。
 坂下り行く花嫁よりも、己が直ぐ脇、隣におわす、絹織物が意を惹いて。

 赤の帯紐、紅牡丹。白の柔肌、目に留めて。
 思わず細むる両の眼を、どうかしました、と覗くキヌ。
 目にゴミ入りてと言うべきか、はたまた綺麗だから、と告ぐべきか。

 いやいや、この子に、この子だけには。
 世に言うセクハラはなりませぬ。
 ぷい、と頬染め、他所向く横顔。ささやかなれど意地にて御座る。

 いやいや、君には、君なら、それは。
 不満と喜色の膨れ顔。乙女心の裏腹加減。
 口の尖りか、染まりし頬か。嬉しや嬉しと上向きの笑み。
 ちくと潤みし瞳の奥か、心の本音は何見て計ろ?




 ―――からんころんからころからん

 ―――ぱたんぱたんぱたぱたぱたん




 方法華経、と唱える声に、擦れ合う笹の葉、合掌の如し。
 指と指とが触れ合うだけで、竹と竹とに頬隠す。
 夏に芽生えた桜の色を、伏せた眼の縁、目尻に染めて、林と着物の隠れんぼ。

 ひょい、と飛び越す水溜り。急ぐ足元、鼠の如し。
 風などいらぬ舞い様は、落ち葉も揺らす恋心。
 木々も映さぬ揺れ様は、逸る鼓動の太鼓の音。

 独り占めしたきは焼いた餅。
 否や、否やと首振るものの、気落ちばかりは止められず。
 所詮、我が身の不甲斐なさ。


 『男の嫉妬? いと見苦しき哉』


 お腹の立ち様、心身ともに重々承知。
 未熟も承知、愚も承知。
 さりとて、惹かれる意は止まず。

 お天道様も恥じらうものか。
 竹の御簾越し、日を翳らせて、微風に恋路を譲り給う。




 ―――からんころんからころからん

 ―――ぱたんぱたんぱたぱたぱたん




 進み進みて、木々の深奥。
 竹林透かして、漏れ日の隙間。
 絶えて久しき参詣の、しかして拓けし芝模様。
 小振りなお御堂、眼中入れば、耳朶打つ子供の手毬唄。




    『遊びをせんとや生まれけむ
     戯れせんとや生まれけむ
     遊ぶ子供の声聞けば
     わが身さへこそ動(ゆる)がるれ』




 鞠つき遊びの童たち。
 あやしあやかし、真昼の夢よ。
 鎮座まします御地蔵さまの、古式ゆかしい造りの御堂、物の怪たちが守護し奉る。

 鞠つく手を止め、眼を向けて。
 汝ら誰ぞ、と問う子らの声、清しき鐘の如しと覚ゆ。

 両袖を払いて頭を垂るる、横島忠夫と氷室キヌ。
 美神の使いと名乗り置き、習いの祓いと申し置く。
 
 寸刻ばかりの合間にて、文珠使いの面目躍如。
 御堂に満ちたる瘴気の祓い、『浄』の一文字、律令の如く。
 死霊術師の笛の音に、地に縛されし浮遊の魂魄。
 涅槃の通い路遡らせて、極楽浄土の道標。




 ―――からんころんからころからん

 ―――ぱたんぱたんぱたぱたぱたん




 見事見事と囃しの声に、囃子・拍子木・打ち鳴らし。
 木漏れ日浴びる、真昼の宴。呵呵と大笑、晴れ晴れとなりけり。
 天晴天晴と土地神称え、莞爾としたる笑みの良き哉。

 牡丹が揺れる絹織を、横縞模様の袖で取り。
 笹の葉混じりの涼風に、紛れて踊る人の華。
 あやかし混じりて、一興の今日。
 昼の日中に、宴の席。

 きょん、と瞠りて佇む二人を、手を引き袖引く小妖怪。
 百鬼夜行と申しまするが、倣いて言わば十鬼昼行。
 笛に囃子木、鼓弓に花と、吹雪く異界の酒盛りの縁。

 洋の西にて口の端昇るは、踊るヴァルス(円舞曲)と申し候。
 頬と頬とを寄せ合いて、しかして拙き足踏みを、横島、キヌが取ったは良いが。
 笹と笹との隙間から、覗き見たるは三対の瞳。

 抜き足、差し足、忍び足。
 長い亜麻色、金の褐色。殿歩くは朱色の白銀。

 あやかし共は可笑しきとてか。
 ささわさわわ、と声立てて。
 忍ばず漏らす、くすくす笑い。

 一つ目小僧に大禿、狐狸に猫鬼の類。
 木の陰、草陰、室の中。竹の林の笹の葉隠れ。
 忍び笑いの霧雨模様。




 ―――かささこそかさかさこそり




 黒の眼鏡に衣服は勿論。
 街の戸板に、門柱、店先。
 買物客やら観光客と、扮して走る三つの影。
 こそりと後を付けて参ったは、美神令子にシロ、タマモ。

 間違いあってはならぬとばかり、息も勇んでむくれ顔。
 どこか幼く見紛う目元。ぷぅ、と膨れて河豚の顔。

 師の為、はたまた弟子の務めと称し、赤子さながら指くわえ。
 いいなずるいな、尻尾も垂れる。くぅんと鳴く声、まるで犬。

 これはこれで興趣の向きと、興味津々、しかして不満。
 お揚げがないのもまた気に入らぬ。




 ―――からんころんからころからん

 ―――ぱたんぱたんぱたぱたぱたん




 ふふふ、ふふふと真昼に響く。
 笹に隠れて、真昼に笑う。
 見えぬ聞こえぬ梟どもは、姿無くともご観察。

 見ましょ聞きましょ、二人の照れ気味。
 見よか覗こか、しかして描こか。三者三様、焼ける餅。

 夢路、通い路、恋模様。
 否や、否よと打ち振る手とて、秘めた心は見透かされ。
 お医者様でも草津の湯でも、治癒の手伝い出来やせぬ。

 あやかし共の笑う声など、知る由も無く。
 二人の織り成す【Kimono-Beat】を、むくれて眺めておったとさ。





 ―――ささわさわさわ・・・・・・・・・













                            幕

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