青く染まる春の時
投稿者名:豪
投稿日時:(06/ 5/13)
七不思議、というものがある。
今となっては古臭くも在る言葉だ。
過去より受け継がれてきたそれは時折、下らない話題として学生の口に上る。
トイレの花子さん
視線を動かすベートーベンの絵
誰も居ないのに自然と鳴るピアノ
どれもこれも有り触れた、良くある話である。
学校によれば数え上げてみると、七つを超えている事さえあるという。
そんな眉唾物である七不思議は、この高校にも存在していた。
これは、そのうちの一つ。
曰く―――――誰にも使われていない、けれど捨てられることも無い机が在る。
学外の者がこの話を聞けば、その何処が不思議なのか、と問われるだろう。
しかし、これは実際の話。現実に、この学校には該当の机が在るのだ。
古ぼけたそれは、ある教室に置かれている。
誰かが使用する訳でもなく、まるでそれ自体が一つの生徒であるかのように。
当然ながら、廃棄した方が良いのではないかという意見が出たこともあった。
しかし、その意見を実行に移すのは教師の多くが難色を示したのである。
言い出した者達も特に強く抗弁することはなく、今にまで至っている。
今日も、使い古された机が一つ、教室の片隅に置かれていた。
掃除の時間になる度に、机が無い方がいいかなー、と少しだけ邪魔に思われながら。
生徒の一人が教師に聞いた。
あの机は、何か曰くつきのものなのか、と。
この学校の卒業生でも在る教師は、困った顔で頬を掻いた。
高校の頃から掛け続けている眼鏡を指で直しつつ、窓から外の風景を見る。
春という優しい季節。空は青く晴れていた。
今という時間を眺め、過去に見た光景を幻視する。
あの頃は、日々におくる喧騒が永遠にも思えていた。
あの刻は、共に過ごす楽しさを瞬間にも感じていた。
それは空の青さを帯びた風が、春という季節に吹くような。
清清しくも、何処か刹那を感じさせる記憶。
あるいは硬質な硝子で隔たれた先に、煌く宝石をみるような。
けして手に取れはしない、切なさに満ちた追憶。
そして、何時も通りに。
自身の昔話を、教師は面白おかしく生徒に語り掛ける。
その内容は、まったくもって荒唐無稽。
生徒も話半分に聞くばかりで、全てを事実と受け取る者は少ないだろう。
実際には、現実の半分すらも語れてはいないのだけれど。
放課後に、かの教師は教室で一人。
古びた机の表面を、軽く指でなぞる。
横島、タイガー、ピート。懐かしい面々を一人一人思い出しながら。
一流のGSとなった者、オカルトGメンの一員となった者。
選んだ進路は様々だった。けれど、あの頃は確かに皆が此処に居た。
そして自分を含めて皆が卒業した時に、彼女もまた一緒に学校を卒業した。
瞳を閉じてみれば、当時の光景が瞼の裏へと映る。
彼女の微笑みと、浮べた涙と、そして手にした卒業証書。
以来、彼女は姿を現していない。
机から指を離し、彼は教室を眺めた。
かつて、自分達の笑い声が響いていた場所を。
夕焼けに染められた今へと浮かび上がる、青春という名の時間を。
今までの
コメント:
- これはなにかの陰謀ですかっ。
愛子ちゃんの魅力を彼女不在で語れますかっ。
ふはぁ。
もうねもうね。ステキだ。
(コメント下手でもうしわけないっ) (ししぃ)
- 学校という枠を飛び出して随分経つのですが、この作品を読んで在りし日の自分や同級生に想いを馳せてしまいました。
愛子ちゃんは今何をしているのでしょうか?
案外、美神除霊事務所の事務員になっていて、所員同士で所長も交えて横島くん争奪戦を繰り広げていたりして……
彼女が卒業したというのが珍しい展開に思えますが、十分有り得るお話だと感じました。
また在校生に当時を語って聞かせる卒業生の教師が、メガネくんというのがらしくて……。
お話自体も凄く心に染み入る良いものだと思います。
その手腕は流石の一言に尽きるかと。
投稿お疲れ様でした。 (AC04アタッカー)
- >あの頃は、日々におくる喧騒が永遠にも思えていた。
実際ループしてましたしね。って感動に水をさすような発言
愛子は満足して逝ってしまったのでしょうか。可能性はいくらでも考えれますが、あえてはっきりさせないのが上手いと思いました (九尾)
- また渋いキャストを。
アレが本体だから眠りについたのか、はたまた分離したのか。 いろいろ妄想は出来ますが〜ま、野暮なんで。 (k82)
- 私はつい「いつまでもネバーランド」やっちゃう人なので、こういうのを書ける人が羨ましかったり。
『卒業』してもなお想われている愛子がいいなぁ。 (S)
- 内的空間内での偽物の学校生活を美神さんの奮闘によって改め、外に出て本当の青春を過ごし始めた事で、「卒業」という終わりを迎えるに至ったのだろうかと思えました。
思いを遂げて消滅……なんて涙ものの結末も脳裏を横切りましたが、やはり机を変えてみんなと進学や就職してたりとか思ってみたいです。
意外と、今はメガネ君ちの机兼嫁さんになってた…とか(爆) (フル・サークル)
- 涙が溢れそうになりました。
愛子、幸せであっていて欲しいです。
メガネ君の消息は私も気になっていました(笑 (虜)
- しんみりとして少し寂しいお話でした。
愛子の事だからきっと、卒業する事を望んだから卒業したんだなぁと思うと、まぁしょうがないかなぁ…と思いますし。 (いも)
- 過ぎ去った、愛子の青春。
でも、そこにはしっかりと残るものがあった、なにか切なくて、でも綺麗ですよね。
人の優しさに乾杯、みたいなー(^^ (とおり)
- いつ愛子が出てくるか、と思っていたらそうきますかっ。
切ないけれど、終わりがあるからこそ美しい。そう思いました。 (アンクル・トリス)
- 美しくも悲しい話ですね…
青春が口癖だったからこそ、彼女にとっての青春の終わりは存在の終わりだったのでしょうか。
きっと、その存在を変えて、どこかの事務所で事務机OL妖怪にでも変化したと期待を込めて。 (aki)
- 過ぎ去りし青春を切なく感じました。学舎を巣立った彼女の行方を想像せずに
おれませんね。 (武者丸)
- 愛子嬢がどうなったのか…色々と想像が膨らむお話でした。
願わくば彼女には幸せになっていてほしいものです。 (偽バルタン)
- 上手く言えませんが……彼女にとっての青春の終わりは、あの時の仲間との暮らしの終わりだったのかと思うと目頭が熱くなります。
卒業証書を手に流した涙には、いかほどの想いが溶けていたのか。
とにかくもう、素敵すぎですっ。 (ちくわぶ)
- ああ、こちらは過ぎ去りし日々の憧憬を描いた作品ですね。
手にすることは出来ないと思っていた卒業証書の重みは、彼女にとってかけがえのないものとなったに違いありません。 (赤蛇)
- >ししぃ様
偶然、愛子ネタで被ったことにびっくり(笑
居ないからこそ、その大切さに気付ける事もあるかな、と。
>AC04アタッカー様
自分も最近、久しぶりに当時の同級生と話をして、郷愁にかられたりしました。
高校生活が青春ならば、卒業は青春のゴール地点なんだろーな、と考えた結果、本作が書きあがりました。
>九尾様
それは言わないお約束(笑
無粋かな、と感じたのでどうなったのかの明言は避けましたです
>k82様
あるいは来世へと旅立ったのか。
妄想は尽きませんが、彼女が幸せだったのは確かなのでしょう。
>S様
ネバーランドも好きなのですが、振り返った所に見える幸せも好きなもので。
愛子は、同級生にとって母校のようなものなのかなと思ってます。
>フル・サークル様
消滅、就職、進学。あるいは転生や冬眠(最後マテ
どの道を選んだ彼女を想像しても、その顔に浮かべているのはきっと笑顔。
>虜様
幸せな時間を過ごした彼女は、幸せであったのでしょう。
めがね君は、結構一般人の視点として使い易いかもと思ったり(ォ
>いも様
イメージは、駆け抜けていった学生生活。
皆と進学し、皆と卒業する。それもまた青春の醍醐味かと。 (豪)
- >とおり様
過ぎてしまった時間であっても、今に有形無形の何かは残っているのでしょうね。
同時に今となってこそ、過去に残してきた何かに気付くのかもしれません。
>アンクル・トリス様
こうしました、若干変化球ですが(^^
終わりがあればこそ、切なさと共に其の時間は輝くのでしょう
>aki様
あるいは、彼女は今静かに眠っているのかもしれませんね。
同級生の子供達が入学した時、新たな時間が紡がれ始めたり。
>武者丸様
切なさは、本作のテーマの一つ。
クラスメートと同様、彼女もまた自分だけの道を歩み始めたのだと考えてます。
>偽バルタン様
幸せな時間を過ごした彼女は、きっと幸せであったのでしょう。
教室で耳を澄ませれば、優しげな笑い声が今にも届くかもしれません。
>ちくわぶ様
青春とは何か、と想うと友人を切り離しては考えられませんでした。
卒業という別れすら含めて、きっと青春なのだろうと想います。
>赤蛇様
卒業証書の重みは別れの重み、でも同時に過ごした時間の重みでもあり。
だからこそ、それは青春の重みだったのでしょう。 (豪)
- 男の友情なめんな! とか言いながら中指立てて突撃した彼なんですね(^^
あえて第三者(こう評します)に語らせることによって、青春の重みというものを絶妙な領域で出しているように思いました。
そしてこんな作品を読むと思います。ネバーランドがあったらなと。
すばらしい作品をありがとうございます師匠 (天馬)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa