ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment〜 第14話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(06/ 5/11)

ガルーダを前に、令子とエミは手を拱いていた。
おそらくガルーダは、以前令子が出会った“霊能兵器”のガルーダであろう。
国力を使えば、以前の事件のデータを利用するくらいワケはない。
しかし神に近いガルーダとはいえ、以前は言葉を話せないうえにコントロールが効かなくなると暴走をしてしまった。
このガルーダは、それとは違う。
言葉を喋るだけではない、雰囲気が以前のそれとは違うのだ。

「えらく慎重なワケね、オタク。」

エミの持つライフルが僅かに震える。

「慎重にならないワケないじゃい・・・おかしいわ・・・」

慎重になっているとはいえ、令子はガルーダに向けた銃口を下ろそうとはしなかった。
表情が無いはずのガルーダが、嘲笑を浮かべたような気がした。

「超一流のGS、美神令子に小笠原エミ。いくら君達とはいえ、戦力に差が有り過ぎる。
その装備で私と戦うというのは、無謀ではないのかね。良い作とは思えないが・・・それとも何か勝算があるのかね?」

言われなくとも分かっている。
というか、敵に言われたくない。

「このぉ〜鳥類の分際で!」

エミはコメカミに井桁を浮かべて、ガルーダを睨み返した。しかしガルーダはそのエミの表情さえも軽く流している。

「勝算?あるわよ。」

仁王立ちになり、ずいと胸を突き出して令子は言った。

「おもしろい。聞いてみたいな、何かね?」

ガルーダは、興味深そうに令子を眺めた。
令子は大きく息を吸い、腰に手を当ていっそう胸を突き出した。

「私が美神令子だからよっ!!!!!!!!!!!!!!!」














「それのどこが勝算なワケ?」

エミどころか、ガルーダにさえ額にぶっとい汗が滲んでいる。

「そうよ!このガン黒バカ女はともかく、私が美神令子だという事が勝算よ!」

(元から信じちゃいなかったけど、このバカ女だけは!)

エミのこの言葉は、あまりの歯軋りのために音になる事はなかった。

「その勝算を信じて戦うというのも、人間らしくていいじゃないか。数値としては限りなく零に近いけどね」

ガルーダは軽くステップを踏み出す。

「零でない限りは、絶対は無いのよ」

左手にAUGを持ち返ると、令子は神通棍を抜いた。





交わせっ!ダメ、間に合わない!!!




正中線に神通棍を立てる。
軽い衝撃の後に、背中をものすごい力で引っ張られるような感覚に陥り、壁に叩き付けられた。

「令子っ!」

エミは弾き飛ばされた令子に視線を向け、瞬時にブーメランを飛ばす。

「遅い」

ガルーダが笑ったような気がした。
殺気を感じたエミは、ライフルを振り回す。
銃口の先にすでに気配は無い。

「伏せて!!!」

言うと同時に、エミの黒髪をオレンジ色の光が切り裂いていく。

「弾丸(タマ)よりも速いって・・・エイ○マン!?」

「あんたね!私に当たったらどうするワケ!!!!」

さすがにボケには突っ込まなかった。

「私は嫌煙家なんだけどね」

エミの代わりにガルーダがボケ返しをすると、令子とエミは声の方向に引き金を絞る。
着弾の音の代わりに、風を切る音が耳に響いた。

「君らの手は、喰わないよ」

真後ろから声が聞こえると、エミの体が宙を舞った。
神通棍を声のした方向に振るう。だが手応えは無い。

「し、下?」

「正解だ。だが遅い」

令子の引き締まった体に、ガルーダの爪が食い込むと同時に令子もまた宙を舞った。














「さてさて、どないしよ」

余裕のある言葉を吐く横島だが、内心は穏やかではない。
有利と思われる銃であるが、超接近戦ではナイフアタックには敵わない。
銃というのは、抜く、狙う、引くの3動作をしなければ、当たらない。
すでに抜いている現在は、抜くの動作は不要であるが2動作が必要。
一方、ナイフは抜くだけでよい。すでに抜いている現在としても、抜く=振るう(突く)だけでよいのだ。
しかも銃と違い、射程というものが無い。腕の長さ+ナイフの長さのみ、これでは同士討ちは期待できない。
長刀を使う斬り合いならば横島も経験があり少しは腕に覚えがあるのだが、本職の特殊部隊相手に
ナイフアタックを行うという無謀な事はやりたいとも思わないし、そもそも僅かな霊力を霊波刀にまわす訳に
はいかない。


正面の奴を仕留めても、残る二人に『タマ取ったぁ〜!』てな具合だろうなぁ。


ヤクザ映画風に自分のヤられる風景を想像して、思わず眉を歪める。
正面右の男が、じわりと歩を進める。一歩でも下がれば後ろにいる奴が詰めてくるだろう事は容易い。
だからといって、このまま黙っている訳にもいかない。

「やるしかねぇか。」

正面の奴に銃を向け、身構えさせるとそのまま突っ込んでいった。
後方と斜に位置していた奴らが、間を詰めてくる。
正面の男がナイフを左から右に振るうと、背広の襟が僅かに斬れた。
横島の姿が消えた。いや消えたというのは正確ではない。
伏せた。伏せるだけでなくそのまま正面の男の足元まで転がっていく。
人というのは変わったもので、そういう場合危険が無いと分かっていても瞬間的に避けてしまう。
大事なものは瞬間的に足で押さえようとしてしても、そうでないものに対しては思わず避けてしまうものだ。
転がった横島を足で踏みつけてしまえば、この勝負は決まっていた。
右足が瞬間的に上がった。転がりながら足を伸ばし、体重のかかった左足を掛けようとする。
左足一本で軽く上へと飛ぶと、浮いている右足に手が伸びてきた。
空中でバランスを崩し、男は咄嗟に受身を取る。

開いた!

男が転んだスペースに飛び込み、そのままの勢いで跳ね起きた。
当然、銃は正面の男達に向けられている。
横島が引き金を引く瞬間、銃口を向けた男が滑り込み転んだ男を蹴り飛ばす。
横島は顔を顰めながら、左手をゆっくりとヒップホルスタのSIGから放した。
右手で相手を引きつけておいて、左手で抜いた銃で倒れていた男に止めを刺そうとしていたのだ。
倒れていた男が、ゆっくりとと立ち上がる。
一人が軽く首を振った。残りが頷く。
右手の霊波刀はそのままに、左手から銃口が覗いた。
横島が少しだけ口の端を緩めた。走り出しながら右手のSIGを撃ちまくる。ただ撃っているだけだ。
走りながら、左手は再びヒップホルスタの位置へと向けられる。
特殊スーツの男たちも、霊波砲を横島へと向けて放つ。
翻ったコートの一部に穴を開けた。足元に何かが転がったるが、同じ徹は踏まなかった。
手榴弾ではこの特殊スーツは傷さえ付かない。
そう判断を下すと、移動する横島に霊波砲を向ける。

閃光が走った。

目の前がブラックアウトし横島を見失うと同時に、激痛が走った。

「撃たれたのか?」

そう呟いた瞬間に、次の思考はすでになかった。
脳漿を飛ばされた頭で思考する事は不可能である。
2発目の銃弾は、特殊スーツのヘルメットを貫通していた。


手榴弾ではなく閃光弾を使った。
足元を抜かれた男は、二の徹を踏むまいと特殊スーツを過信した。
確かにスーツに対しては何の効力もなかった。
しかし、モニターは別である。
夜が明けきれる前、しかも室内、目が慣れないとまだかなり暗い状態である。
肉眼と違いモニターを通した目では、急激な光の変化には対応できなかった。
転がされた時からすでに横島に、詰まれていたのである。

「残り、2体。」

少し距離を置き、弾装を換え左手にもSIGを構えると横島はそう呟いた。








緊張で喉と唇が渇く。恐怖で身が縮まり、震えが体の節々に現れる。
頬の筋肉が引き攣り、口の端が微妙に上に持ち上がる。
今、声をだせば上ずっているだろう。
だが、体の芯が熱い。冷静に冷静にと自分を落ち着かせようとするが、
喉と唇の渇きは鉄錆の味が、身の縮まりは汗が、顔の引き攣りは喜びが、
そして体の震えは武者震いが解消している。

命のやり取り程、おもしろいものはない。

遊びは、危険な程おもしろいのだ。
殺し合いという名のゲームに身を投じている雪之丞は、歓喜に溢れていた。
仕事という事は、お互いに忘れている。自分達の未来を掴むという事もだ。

お互いに、拳を突き出し、蹴りを放ち、それを紙一重で交す。ただそれだけに、喜びを見出していた。



アップライトに構えていた雪之丞が、サウスポースタイルにスイッチした。
左拳は顎の位置、右拳はやや下げ気味の位置に構え、ステップを踏み出す。

(戦法を変えたか?)

原もアップライトに構えていた左手をやや前方に突き出した。

(邪魔な手だぜ。)

下げた右手で、原の左手を払いにかかる。
雪之丞の右手が空を切る。
左ジャブ、いや左ストレートが掠める。
左手でと右肩でカバーして交わした。
追撃は来ない。雪之丞は再び距離を取り、構え直すとステップを踏んだ。
原の左手がステップに合わせるように揺れている。
ステップのタイミングを少しずらしながら、自分の間合いに入る。
160センチあるかないかの雪之丞と、180センチを超している原とはリーチがかなり違う。
雪之丞の届く距離、それはすでに原の射程距離である。
距離を測るような左ジャブが飛ぶ。
右肩と左手のフェイントでジャブをずらし、大砲を避ける。
タイミングがズレた瞬間、それは大砲が飛んでくる時だ。
左ジャブの数が増えてくる。ステップが小刻みに動く。
次に来たのは、ジャブではなかった。
引き際の左手は軌道を変え、ショートアッパーとなり雪之丞のテンプルを捉えようとした。
原の左拳はヒットしなかった。代わりに上腕部が顎を引いた前頭部にヒットした。
そして、左足に激痛が走った。
左足が揺ると、懐に雪之丞の姿があった。
原は右肘を振るい、懐に入った雪之丞をエリア外に押しやった。

(ちっ、インローかよ。)

真っ直ぐに目を慣らしておいて、変化させて当てる。
そう作戦を立てた原であったが、雪之丞はおそらくそうくるだろうと読んで踏み込んで
左のインロー(太股内側へのローキック)を入れた。
頭を軽く振って、再びステップを踏み出す。原も再び同じ構えである。
ステップだけではなく、構えを左右入れ替えながらフェイントを入れる。
ジャブを繰り出すが、的を絞りきれない。その隙をついて今度はローキックが入る。
魔装術のローキックは、“例外”の特殊スーツとはいえ衝撃はすべては吸収できない。
突き出していた左手が僅かに下がる。前蹴りが下がった手に直撃する。
受けるために出した手ではない。覚悟ができていない痛みは、苦痛となり原の神経を逆撫でした。
ステップを踏みながら再び前蹴りを放つ雪之丞。今度は意識してガード、それでもかなりの威力である。
再びロー。左足を上げ原はガードの体勢をとる。
地面に足が着く前に続けざまにフロントキック、今度は上腕でなくエルボーブロック。
原の左肘が空を切り、頭が下がる。

(これを待ってたぜ!)

左ハイキックがヘルメットを捉えた。
大きく揺れ落ちる原。雪之丞はヘルメットを掴み、追撃の右膝をフェイスに打ちつけようと右足を引いた。

(隙だらけだ!)

落ちた膝を上げながら原は、右アッパーを雪之丞のボディーに決めた。
骨が軋む音が響かせながら雪之丞は宙を舞い、立ち上がった原も再び膝をついた。
地面にひれ伏したまま、雪之丞は血反吐に塗れた。
胃の中は空で胃液だけが上がってきているはずであるが、その味は鉄錆の味がした。

(ちきしょう、アバラが肺破りやがったな。)

慣れない手つきで、ヒーリングを行う。
ヒーリングは、まったく出来ないというワケではないが専門家のようにはいかない。
折れて肺に刺さった肋骨を左手で抜き、肺にヒーリングをかける。
応急も応急、逆流する血を押さえる程度である。
折れた肋骨が再び突き刺されば、片肺は潰れたも同じである。
肺以外の内蔵は、損傷に至っていなかった。
右足に痛みが走る。特殊スーツを蹴りまくったツケが回ってきたようである。

一方片膝をついた原は、しきりに頭を振っていた。

(センサーはすべて死にやがったか)

舌打ちして、センサーの回線をすべて切った。
後頭部から首にかけて、鈍い痛みが走る。

(頚椎捻挫、へたすると損傷してるな。)

ゆっくりと体を起こすと、身体が微妙にフラれる。

(左足ヒビくらい入っているかもな・・・それより問題はやはり頭か。)

まだ脳が揺れている。バランサー機能がついていないのならば、おそらく立つことはできないであろう。



“お楽しみはこれからだってのによ。”



お互いに顔を見合わせると、薄っすらと笑った。













二人目を倒すと同時に、右手に持ったSIGのスライドが後退して止まった。
左手を突き出し向けたまま、右手のSIGを放り捨て腹に差していたスペアのSIGを抜いた。
霊波砲が髪を掠めるていくと、髪が焦げる嫌な臭いが鼻についた。
特殊スーツ最後の男は、霊波砲を撃つと同時に左手の霊波刀を長く伸ばした。

「最初からそうすれば、お前らの勝ちだったんだけどな。」

左手のSIGが、スライドが後退するまで引き金が引かれる。
特殊スーツの左腕の装甲を精霊石が貫通していく。
右手の霊波砲を向けるが、横島の姿はそこにはなかった。
ヘルメットが衝撃をあまり感じずに、大きく振られた。
生身の人間ほどの蹴りでは、衝撃は伝わらないらしい。
だが大きくバランスを崩し、特殊スーツはそのまま床に転がった。
横島はヘルメットを右足で押さえ、右手のSIGを下に向けたまま引き金を引いた。
乾いた音が3度ほど響くと、硝煙が鼻を擽った。
硝煙から僅かに顔を逸らし、大きく息をついた。

「あのバカ、自分との違いに気付けたかな?」

SIGをヒップホルスターに戻し、放っていたショットガンを拾い上げる。

「けど、バカだからなぁ〜〜。」

しみじみとそう呟きながら、ポンプスライドさせ残弾を排出させる。

「どうしよ〜もねぇくらいの、バカだからなぁ〜〜〜。」

コートのポケットに手を入れ、金属のショットシェルを装填した。
雪之丞が飛び降りた窓へ行き下を眺めると、雪之丞と特殊スーツの原が距離を置いて膝をついているのが見えた。

「やっぱ気付いてねぇな、ありゃ。」

二人の間に狙いを定め、ショットガンの引き金を引いた。
瑠璃色のスラッグが地面に突き刺さるが、雪之丞と原は微動だにしない。
横島はショットガンをポンプスライドさせ、薬莢を排出させた。

「差し入れだ、大事に使えよ。」

おそらく二人には聞こえていないだろうが、そう呟くと結末を見ずに窓から離れる。
左手にショットガンを持ち替えると、胸ポケットからタバコを1本取り出し口に咥えた。
火をつけようとしたが、令子が走り去った方に目をやった。ショットガンを持つ手に力が入る。
ふと令子の言葉が頭を過った。そしてあまり思い出したくない過去も頭を過っていく。
火のついていないタバコに手を伸ばし、タバコに触れないままに手を戻した。

(信じてます。もう待ちぼうけは嫌っすよ。)

もう一度だけ走り去った廊下に目をやり、元始風水盤へと向かい歩き出そうとした。
何も感じなかった。音、殺気、いや気配さえも感じなかった。
突然、背中に冷たいものが走った気がした。
左手のショットガンを持ち替えるヒマは無い。
ショットガンから手を離し振り返りながらベルトに差していたSIGを抜き、
同時に右手でヒップホルスターのSIGを左手に抜くと引き金を引きまくった。
爆音が連続で響き渡る。左腕が弾かれSIGが真後ろに飛んでいく。爆音が途絶ると、腹部に妙な熱を感じる。
手の届く距離に男は立っていた。短髪に白いものが混じったその男は、額の深い皺に汗を滲ませている。
計ったように同時よろけだすと、廊下の壁に寄りかかり少しずつ足の力が抜けていく。
膝がつく前に、右手を突き出す。またしても同時であった。
狙いなどない。ただ突き出した銃を持つ指に力を入れた。
咥えていたはずのタバコは、いつの間にかフィルターを噛み千切っていた。
両膝が床につく頃には、お互いの背中の壁が赤く染まっていた。







                       SEE YOU GHOST SWEEPER....



-----------------------------------------------------------------------------


お待たせした割りには、進んでいません。
またしても思いっきり、引いてます。2回連チャンで次回へ続く・・・みたいな(汗)

でもなんとなく、ラストに向けて進んだような気がします。
あくまでなんとなくですが・・・

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa