合格と不合格
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 5/11)
※ これは、あって欲しくない(だけどあり得るかもしれない)展開です。
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いつまでもライセンス見ながらニヤニヤしてるんじゃないわよっ
二千人中の1パーセントって聞くとそりゃ凄いって思うかもしれないけど、
アンタ、ゴーストスイーパーの合格率がやたらと低いのがどうしてだか知ってるの?
はぁ、もう少し回りを見るようにしなさいね。
あそこにいた連中の中で、本当の意味での受験者って一次試験に合格した100人くらいなのよ。
後は霊力も何もないけど万が一に賭けて受けに来てるんだから。
……まぁね、アイドルのオーディションとかと違って、みんな切実だから。
「で、私のところに来たわけかい」
「すんません。何でだか美神さんあんまり言いたくないみたいで、聞いても教えてくんなかったんです」
出涸らしの番茶を啜りながら唐巣のおっさんの顔を窺う。美神さんほどじゃないけど、胃が重そうな顔してるな。
「そうだな。横島君もゴーストスイーパーになったんだし、知っておくべきなんだろうな」
ぎしり
手を組んで、両肘を机の上に着く神父の眼鏡が逆光を受けて……ああ、これから言うのは、そういう話なんだな。
「何から話したらいいか……GSの志望動機の一位って、何だか分かるかね?」
え? ってやっぱり金じゃないのか? それか、そうだな後は、生まれつき霊力があったり。
俺みたいな行き当たりばったりってのはやっぱ少ないだろう。
「うん、確かに横島君みたいな例は希少だと思うよ」
はは、さいですか。
「志望動機の一位がお金の問題だっていうのは正解だ。ただし、お金を稼ぎたいからじゃない。これ以上支払えないからだ」
「受験者の多くはね……霊障の被害者とその家族なんだよ」
不合格者の多くは って言ったように聞こえた。
実際そうなんだろう。
「美神君の所は多少規格はずれだけど、それでもゴーストスイーパーの報酬が安いものじゃないっていうのは横島君も知っているだろう?」
「それに事情にも拠るけど、一度祓ったらそれでお終いといかないケースも多いんだ。お札やお守りもいつまでも効果があるわけじゃない」
「彼らは、自分がゴーストスイーパーになれば、自身が、家族が助かる。そう思って藁をも縋る気持ちで受けにくるんだ」
「美神君はね、ああ見えて、請ける仕事をちゃんと選んでるんだよ。だから横島君は知らなかったんだろうね。できるだけ一回で蹴りがついて、個人じゃなく企業からの仕事。それを受注できるのも彼女の実力があってのことだから」
そういう意味でも妬まれてるんだよ、美神君は。
「もしいつか横島君が独立して、普通のゴーストスイーパーとしてやっていくつもりなら、きっと個人からの仕事も請けるようになると思う。大変なんだ。小さな子供が霊障で苦しんでる。こっちは霊能力者だ。それがはっきり観える。でも親は少しでも料金を下げようと粘るんだ」
「言いたくなるよ。料金なんてどうでもいいから、すぐ祓いますって」
「……言っちゃだめなんすか?」
「だめだね。一度でも言ったら、噂がぱっと広まって依頼が殺到するよ。正規の料金を請求しようとすると、『あの家はこんな安く受けたのにどうして家はだめなんだ』って、下手すると訴訟問題だ」
「そうなったら、私みたいに無償でやるしかない」
堪えられなくなったら廃業だ。
「横島君、被害者を善人だと思っちゃいけないよ。彼らは良くも悪くも人間だ。加害の殆ども元は人間だ。魔族や妖怪が絡む事件なんて百件に1件あるかないかだ。そして、人間は時として酷く狡くなる」
「ああ、それは聞いたのか。実際、霊力の有無で足切りをすれば、受験者は一割に絞れると思う。だけどできるかい? 書類だけで門前払いなんて」
「そして、そうだね。私たちも狡い。受験者として受け入れてしまえば、彼らもまたゴーストスイーパーの関係者だ。喩え不合格者であってもね。そうやって潜在的な不満を少しでも逸らそうとしてるんだよ」
「ピート君? 勿論知ってるよ。私が手がけるのはそういうケースが多いし」
「知ってても、言わないし、言えない。横島君も外では言わない方がいいだろう」
「ああ、すっかりお茶が冷めてしまったね」
「いえ、もう。今日はありがとうございました」
頭を下げてから、椅子を立つ。
重力をいつもの2割り増しに感じた。
「あまり深く考えなくてもいいと思う。今はまだ、心の片隅に留めて置くだけで」
「はい、じゃあまた来ますんで。ピートの奴によろしく言っといてください」
「ああ、気をつけて帰りたまえ」
教会の外は、まだ明るかった。
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あれ?と思ったのは、一次試験で霊力をまともに出せてたのがほんの一握りだったこと。
それでもあんなに受験者が殺到するのは、なんでかなーと。
……考え中……
……考え中……
……怖い考えになってしまった(汗)
で、書いちゃいました。
GSって溝掃除みたいなもので、なきゃ困るし、無理に溝を綺麗にしようとすると魔鈴さんのときみたいになっちゃうだろうし、と。
漫画だから考えないで済んでるとこをあえて穿ってみました。
今までの
コメント:
- 恐らく正しいでしょうこの推論。矛盾が特にありませんし。ていうか考えをつきつめていけばこうなります
Gメンがもてはやされたのもこうして見るとよくわかりました。といってもあれは装備が絶対おかしいですけどね。金の注ぎどころを間違ってるって (九尾)
- 唐巣神父の話から、この業界って医師や弁護士、警備会社、ストーカー対策などのトラブルシューティング・・・等の業種と比べてどんな構造を持っているんだろうと改めて気になりました。
貧しい(お金のない)人でも最低限のサービスが受けられるシステムなんかもありそう(Gメンの存在とかがそれに当たるのでしょうか)ですが、やはりそれは最低限であり、横島の能力だと必然的に師匠同様、企業相手の仕事となり低額依頼を切らなくてはならなくなる可能性も出そうです。
つまり、苦しんでる子供がいても払えないなら無視する・・・しなくてはならない様な。
希望を与える事でガス抜きをする・・・弱者救済の整ってない局面ではありがちな対応にも思えます。確かに怖い話でした。 (フル・サークル)
- あり得る話ですね。着眼点が素晴らしいと思います。
GS協会や、オカルトGメン、一部のGSが救済措置をとっているとは
思いますが、それで問題が片づく訳でもないでしょうし… (aki)
- 驚きました。
あまり例の無い視点です。
もしGSの資格が国家の医師や弁護士同様に国家が認定するものならば、国選の
GSが最低限度の報酬で除霊をしたりすることも想像できますね。
悪質な違反を繰り返すGSにペナルティとして、何件の霊障を国選GSとして
除霊せよ、なんて課することもありそうです。
あるいは開業して何年かは、そういう仕事も割り当てられて、それらをこなさ
ないと、より上級の資格が取れないとか制限をされるかも。(私の妄想ですが) (STJ)
- >被害者を善人だと思っちゃいけないよ
当たり前の台詞の筈なんですが…このお話の中では一際重く感じます。
依頼者も、GSも、祓われるべき悪霊だって元は人間だったわけで…結局は、除霊作業とかってのもその殆どは、人間同士のやりとりの延長でしかないんですね。
面白かったです。 (偽バルタン)
- フム・・・納得。の一言です。
多少の苦言を言えば、台詞の連続性に難があるかな?別のカギ括弧で神父の台詞が続いた後に横島の台詞だと少し読みづらいです。受験者などに対する神父の発言のあたりは、モノローグにして横島の台詞は省いても良かったと思います。
つまらないことをうだうだと書きましたが、物語の切り口としては面白いのでこれからも頑張ってください。 (alc)
- 読んでくださってありがとうございます。
えっとでも、ここだけみたらそれっぽく見えますけど、あんまり暗い方に突き詰めると本編と思いっきりぶつかっちゃいますから(汗)
(ちゃんとフォローされてるとか一度の除霊で解決してるケースもたくさんあるはず。何も知らない横島だったから警告の意味も込めて厳しく言ったのかもなのですー)
>九尾さん
感想ありがとうございます。
そこが椎名先生の上手いとこだと思ったりします。
完璧で隙がなかったら、Gメンって本当に嫌味な組織になっちゃうじゃないですか(笑)
>フル・サークルさん
感想ありがとうございます。
本編で普通のGSってのが殆ど出なかったので、想像の余地がたくさんあるんですよね。
結構市街地が巻き添えになってたりするシーンありますけど、あの保障ってどうなってたんだろうとか(汗)
そういうののフォローに駆けずり回る業種とかもあったりして。
>akiさん
感想ありがとうございます。
全部すっきりは解決できなくても、そういう人たちが頑張ってるからGS美神はギャグ漫画でいられるんですきっと(でなきゃもっと荒んでるぞと) (S)
- >STJさん
感想ありがとうございます。
>悪質なGS
美神さんも脱税がばれたら低料金除霊を押し付けられちゃうんでしょうか。
「あ、腸が切れそう」って(笑)
それか、そういう仕事にこそ生きがいを見出してるGSがいたりしても格好いいかも。赤ひげ先生みたいで。
>偽バルタンさん
感想ありがとうございます。
「善人も悪人もいない。いるのは人間だ」というのを昔どこかで読んだことがあって、かなり影響受けてます。
どっかで書いたような気もしますけど、むき出しの人間は下手な妖怪よりもおっかないと思いますよー。
あんまりやりすぎるとGSらしくなくなっちゃいますけど(汗)
>alcさん
感想ありがとうございます。
最初は横島の合いの手が入ってたんですけど、読み返してるうちにだんだん邪魔に思えてきちゃって……で、こうなっちゃいました(汗)
横島も話してるんですけど(声の大きさじゃなくて)重さが足りなくてかき消されちゃった みたい。
これもwebだからできる実験小説です。 (S)
- 着眼点がすごいです。
そりゃそうかも知れないなぁ。
GSはやはり職業としても制度としても
未成熟なんだなぁ、でもこれをビジネスチャンスと
とらえる禿鷹のようなヤツラは確実にいそうですな。
悪徳GSと組んで詐欺除霊とか。
警察と同じくらい浸透させる必要があるかも
知れませんね。 (虜)
- >虜さん
感想ありがとうございます。
未成熟、なんでしょうか? 実はよく分からなかったり。
雑魚は本当に害虫駆除レベルで、「クラシ○ン」とか「ダス○ン」みたいな薄利多売全国チェーン店同士が凌ぎ削ってたり。
>悪徳GSと
それってメドーサさんがやろうとしてたじゃないですか(笑) (S)
- なんか、冷静に世界観を切り取るSさんの視点すてきー。
黒いところもある社会だから、怖い考えもきっと本当で。
うん。納得です。 (ししぃ)
- 厳しい現実に対して、君はどう向かっていく?
横島にそう投げかける神父に、共感を覚えました。
でもきっと、正解なんてないんですよねー。 (とおり)
- >ししぃさん
感想ありがとうございます。
私も以前読み返したとき、意外とバイオレンスなとこがあってびっくりしたことありました。脳内でギャグ補正が掛かってたみたいです。
あはは、ちっこい穴をこうほじくってくのが好きだったり(スケールのおっきなお話は書けないんです(汗)
>とおりさん
感想ありがとうございます。
正解なんてない、まったくその通りだと思いますー。
みんながそれぞれ考えて出した答えが交じり合って、それが世の中なんでしょうね。 (S)
- 達観した世界観が見えます。
最後の一文「教会の外が明るかった」との描写、真っ暗な忠夫の心理と重なって、底知れないものを覚えました。
そして誰も上げないけれど、ピート。一番青臭いと思われた彼が現実を知ってるあたり、怖いなぁと。
こうなるとタイガーも知ってそうな感じですね (天馬)
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