異常の定義(絶チル、最終話予想)
投稿者名:ユアン
投稿日時:(06/ 5/ 7)
ノーマル
一般的なこと。他の点と比べて特別なものがない事。
アブノーマル
異常であること。ノーマルと比べて劣っている事。又差別される者にも用いられる。
−−−−異常の定義−−−−
現在は21世紀。エスパーは増え続けている。
理由は分からない。
ニュータイプ理論だとか、新人類だとか、色々騒がれているけれど。
結論として、僕たちのいるこの時代は。
エスパーこそが、ノーマルなのだ。
マイノリティとして迫害されるのは、過去エスパーを迫害していた僕たち自身。
have-not human…持たざる者、皮肉にも「ヘブンド」と呼ばれるようになった、ESP能力を持たないものが少数派に転じたのは、「ザ・チルドレン」が僕こと、皆本の指揮下に移されてから5年ほどたった頃のことだった。
その数年前から、バベルは実質上、各国子飼いの傭兵集団と化していた。
理由は簡単で、増え続けるESPがバベルの管理能力を超えてしまった結果、結果主義が横行し、そしてもっとも権力者の耳目と金の絡む、軍事利用というパンドラの箱を開けてしまった結果がそれだ。
桐壺局長はこの結果に強硬に反対したが、オホーツク支部に栄転が決定してからのその声はあまりに遠く、本土までは届かなかった。
血を吐く思いで、僕に託したのであろう、バベルの本来の目的。
「エスパーとノーマルの共存」、そのための手段であったエスパーの利用価値を誇示する事でのエスパーの立場の確立と保護は、今やエスパー達自身の手で確立されている。
局長と朧さんの手回しで、僕は今、バベルの中枢にいる。
敵対しているのは、パンドラ。
パンドラのデビューは東京タワー爆撃という実にセンセーショナルなもので(この年のハレー彗星はそのニュースにあっさりお株を奪われてしまっていた)その後のマスコミを通事で流された、兵部少佐を中核とする「ノーマルとエスパーの共存」を歌う組織に、僕らは今、「ノーマルの指揮するエスパーの軍隊」として対峙している。
…思えば皮肉なものだ。
確かに、未来は変わった。
けれど…僕の一番変えたかった未来は、変わらなかった。
「そこを動くな!破壊の女王…いや、薫っ!」
突きつけた熱光線銃の前にいるのは、バベルではかつて「ザ・チルドレン」と呼ばれ、現在では「破壊の女王」と呼ばれる…薫だった。
「ザ・チルドレン」が朧さんと共に、バベルからパンドラに転じたのは、わずか数ヶ月前の事。
たったそれだけで、バベルは手足をもがれ、単なるテロリスト集団に成り下がった。
それに対して、僕の取った手段は、過去敵対していた「普通の人々」と手を組むこと。
反対意見もあったが、僕はすべてそれらをもみ消した。
反対者はパンドラに亡命し、残ったバベル局員は、すべてがカルト的に普通人優位という信仰に立つものばかり。
そしてここが最後の決戦場所。
夢で何度も見た、この硝煙の匂いのするビルの上。
僕の役目は囮だ。パンドラで最大の攻撃力を持つ元チルドレン達は、現在すべてこの街にいる。
僕は予定時刻まで時間を稼ぎ、そしてこの街は核で消滅する。
それが、バベルに対して僕の提出したシナリオだった。
「熱光線銃でこの距離なら…確実に殺れるね。
撃てよ、皆本!…でも、あたしがいなくなっても何も変わらない。
他の大勢のエスパー達は、バベルとの戦いを止めないよ」
ありがとう、薫。
君は昔から、チルドレンの中で一番優しかった。
そして僕は、君の僕に対する気持ちを利用した。
昔、みんなで買ったお揃いの携帯に、「二人だけで会いたい」とだけ出した、そんなメールに従って、ここに、一人だけで来てくれた。
「だからさ、皆を止めてくれよ皆本!
エスパーだ、ノーマルだって、こんな戦いが何を生むって言うんだ!」
君は、それを言うためだけに、ここに来てくれたんだね。
本当に、僕はその、変わらない君が、嬉しかった。
…薫。僕はうまく笑えているか?
昔みたいに、お前を安心させてやれるように、笑えているか?
「もう…無理さ」
熱光線銃の安全装置をONにする。
耳障りな音で、エネルギーが収束していく。
『ガガ…ガガガッ』
「葵?!」
薫が耳に付けている通信装置が、雑音混じりの声をはき出した、
内容は聞かなくても分かる。
核の発射が、紫穂を通じて葵にばれたんだろう。
「なあ、薫。…知っていたか?」
ここで僕が死ねば、バベルは簡単に瓦解するだろう。
兵部の策に逆らえなかったのは、正直プライドが傷つくが、それでも。
君たちが幸せならば、それでいい。
バベルの発足当時、兵部に与えてしまった誤解が、どうかこの僕の血で浄化されてくれることを、もし神様なんてものがいるなら祈りたい。
どうか、子供達が幸せであるように。
そのために、バベルは作られたのだから。
そのためにならば、どんな汚名でもかぶろう。どれほどでもこの手を血に染めよう。
どれだけ心が痛もうと。
それで、チルドレンが、そして一番最初のバベルの子であった兵部が、笑ってくれるなら、いい。
「僕らはね…お前達が大好きだったよ。愛している」
収束されたエネルギーを、放つ。
戦士として鍛え上げられた薫の反射神経は、即座に反撃し、相手を倒すだろう。
僕が、彼女がチルドレンだったころにそう教えたのだから。
そして、楽園は実現する。
それを思って、僕は頬笑んで目を閉じた。
「…なーーーんでそこで、お前を、じゃなくてお前達なんだよ、皆本!」
「せやでえ、皆本はん。ああいうときは、一人を選ぶもんやで、愛の告白や!」
「男の人がハーレムを望むのは自然よね。私は分かってるわよ、皆本さん」
…ここは死後の世界か?
にしては妙にかしましくないか?
っていうか、なんで柔らかくて暖かい感触が僕の上に三つもあるんだ?!
眼をあけた僕の目に映ったのは…どーひいき目に見ても、10歳ちょい過ぎの、「ザ・チルドレン」の姿だった。
「なんで…みんな、どうして…っ?!」
「わたしから説明するわね。
東京タワーが兵部少佐に爆撃される前に、改装工事があったこと、覚えてるかしら?
東京タワーによじ登る馬鹿防止に、外から金輪際上れないように、電気柵を取り付けるって、あれのことなんだけど。
それでね、その工事から東京タワー爆撃までは数ヶ月だけだったでしょ。
だから、その電気柵のある東京タワーをイメージして、葵ちゃんにテレポートしてもらったの」
…それってもしかして、時間逆行ってやつですか?
それは反則技とはいわないか?
「まー、苦労したでえ。
東京タワー設立当時から、似たような施設があったかどうか調べてやなあ。
これっきゃないってイメージが、電気柵とハレー彗星の交差するイメージやったんや。
どや、ぶっつけ本番やけどうまいこといったやろ!」
「んで、あたしが囮役ねー。
皆本は真面目だから、本気で応戦するだろっていうんで、戦闘力一番のあたしがでてった訳だけどー。
いやー、怖かったよ。皆本、眼をつぶって撃つんだもんなあ。
サイコキノでもないのに、無茶するぜまったく」
おなかの上には、10歳前後のザ・チルドレン。
褒めてー、褒めてー、とばかりにすり寄ってくるのだが。
だまされてはいけない。
中身も記憶も能力も、破壊の女王だの、閃光の女神だの、天眼の魔女だの言われた過去最悪の悪女達のままなのだから。
「で・さ。伊号のおじーちゃんの予言ってやつがあの未来だったんだろ?
皆本や、京介は、あれを止めるために色々やってたんだよね。
……あたしたちに内緒で」
…なんだろう。後ろの一言で、氷点下まで周囲の気温が下がった気がする。
「せやな。感謝はするけど、うちらを子供扱いしすぎやで。
うちらは当事者や。当然、一番に知る権利があるやろ」
くいっと眼鏡を押し上げるその仕草で、きらりんとレンズが光って表情を隠す。
かなり怖い。
「二人に同意見よ。
さて……意見が一致したならお仕置きの時間ね?」
天使のその笑み。
一番怖いです。許してください、お願いします。
「でもまあ、許してやるか。過去のことだしな!
さーて、子供に戻ったからには、とーぜんそのころの夢を追いかけるべきだよな、うん」
「せやなあ。でもうちら未成年やしなあ。
色々協力してくれる大人がいると助かるんやけどなあ」
「あら。皆本さんは優しいから、協力してくれるわよ。
ねえ?」
Noと言わせぬその気迫、迫力。
じり、じりと迫り来る3人の悪ガキに、皆本はもはや風前の灯火。
渾身の力を振り絞って皆本は訪ねた。
「…ゆ、夢ってもしかして…」
「「「世界征服!!!」」」
…そりゃ、確かに今のチルドレンなら世界征服はできるだろうが。
そうすれば、あの悲惨な戦争も止められるかもしれないが。
「いやちょっと待て、まずいだろ、それはーーーーっ?!」
皆本の悲鳴が、むなしく夜の空に響き渡っていった。
閑話休題。
時を同じくして、『懸念事案666,チルドレンは天使か悪魔か?』の予知システムがエラーを起こして強制終了、データベースがまるまるぶっ飛ぶという惨事がとあるバベル内ラボラトリで起きたという。
そしてここに。
世界にとっては天使、皆本にとっては悪魔の三人娘が光臨した。
楽園を作ろう。
エスパーも、ノーマルも、等しく…ヘブンド、楽園に住む者になれる未来を作ろう。
僕は、僕らは君たちを信じてる。
君たちは、負けない。
過去にも、未来にも、現在にも。決して負けない。
今までの
コメント:
- 初めて投稿いたしますので、お手柔らかにお願いいたします。
テレポートで時間を移動できるというネタはパーンの竜騎士というSF小説から引っ張ってきました。
兵部さんを出せなかったのが痛恨の至りです。
私的には、このころ既に兵部さんは死亡しているのではないかと思ったものですから…。
局長の意志を皆本が、兵部さんの遺志を薫が引き継いだのではないかという個人的妄想があったのですが、そこまで書ききれなかったのが若輩の至りです。 (ユアン)
- なかなか納得できる展開だったと思います。
ところでずいぶんと早く戻ってきたハレー彗星ですね。 (橋本心臓)
- コミック派なので割りと読むんじゃなかったと思いつつ、マキャフリー!
たしか未完だったような。あの人なら歌う船と、独断と偏見に満ちてみたり。
椎名作品から離れた話はこのくらいにして、このラストは如何にも”らしい”と思えたので、賛成です。 (Nar9912)
- 展開予測としても、話としても面白いと思います。
ただ、ここに至る経過がわからないので、打ち切り時に準備された最終回のような
唐突な印象を持ちました(縁起でもない話ですが)
なので、中立とさせて頂きます。 (aki)
- 逆行ものは逆行してからよりも逆行するまでの方が面白いなあってこれ読んで思いました。
お祭り前夜の方が当日よりも面白いってのと同じなのかな。
こういう反則なら大歓迎です。
>パーンの竜騎士
言われてみれば、一族総出で逆行してましたね(笑)
旅立つ船と竜の歌とクリスタルシンガーを反芻してますー (S)
- 精神のみの逆行によるタイムトラベルですか…思わず唸ってしまうような見事な着眼点ですね。この、僕らの物語はこれからだ! 的なようそも、却って面白さを引き立たせているような印象も浮かべます(^^
初投稿お疲れ様でした。今後もがんばってください (天馬)
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