Re-Start
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 4/29)
ズダンッ
ようやく相手の拳を掻い潜って腹に撃ち込んだ一撃。しかし手ごたえは鈍い。また、相手の防御を突き破れなかった。
くそっ
覚悟を決めたつもりでも相手が人間と思うとどうしてもあと一歩力を込め切れない。
俺は、人殺しになりたいわけじゃないんだっ
試合が始まって何十分経ったのか。時計に目を向ける余裕なんてない。全身に伝う脂汗が気持ち悪い。
自分の、未熟な自分の力で人が死ぬとも思えない。そう言い聞かせながら。相手だって防御しているんだから。けれど……万が一ということもある。
当たり所が悪ければ人は死ぬ。
……そしてそれは、自分も同じだ。
もぞりとお尻から這い上がる感触に喉が詰まる。怖い。
先輩たちに習ったことを思い出そうとしてるのに、頭が馬鹿になったように擦り抜けてしまう。
相手の防御を突き破れるだけの、そして重症を負わせない程度の霊力を練る。これでいいのか? これで足りるのか? もう少し? でも……もし多すぎたら……
引きつった顔をした相手。きっと自分も似たような顔をしているだろう。
同程度の力というのは、最悪だ。
どうせなら相手がうんと強ければあっさりと負けられたのに。
一瞬も気が抜けないから、ギブアップもできない。
「う……うあああぁぁっ!」
ぐちゃぐちゃ考えていたら相手が飛び掛ってきたくそっ先手を取られるなんて臍を噛んでも遅い右に跳ぶブンと神通棍がわき腹を掠めたあぶねぇっ
「うらぁっ!」
蹴りを返して――しまった俺が霊力を練ってたのは拳だったのに。もう遅い。散じてしまっている。
また一から練り直しだ。
「惜しかったね。いいところまで攻めてたと思うんだけど」
慰められても、声が出せない。今頃震えが来て。
負けたというより、気力が続かなかった。殴るのは怖くて、殴られるのは痛かった。どうしてこんなことしてるんだと思ってしまったら、もう立てなかった。
「……どうして……こんな馬鹿な試験……」
霊障法は暗記してる。破魔札だって使えるし、先輩のサポートで足を引っ張ったことなんてないのに。
「GSにペーパーテストがないのは、実践的でいいってお前言ってたじゃない」
違うっ そうじゃない、どうして通じないんだ。
俺はちゃんと――
「できないから、今日負けちゃったんでしょ。自分でも分かってるんだろ?」
すいません。分かってます……分かってませんでした。
「まぁ、今日は混乱してるだろうから、今日明日は休んで、ゆっくり考えるといいよ。所長にも連絡入れてあるから」
先輩はどうしてだろう全然動じていないように見えた。俺はこんなに頭の中がぐちゃぐちゃなのに。
「……先輩は、あの試験で人を殴ったんですよね」
「あー、うん。3年前ね」
「相手がもし俺でも殴ってましたか?」
「んー、どうかな。多分殴ってたと思うよ。だってライセンス欲しかったし」
「……ライセンスのためなら、何してもいいんですか」
絡んでる。先輩が悪いわけじゃない。自分の言ってるのがめちゃくちゃだって分かってるのに止められない。
「殴ったら、殴られたら下手すりゃ俺死んでたんですよ! それでも先輩は殴るんですか!」
困ったような先輩。
先輩の言うことは間違ってない。GS資格が欲しくてみんな試験を受けるんだから。だけど、だからって
ギキィ
「まったくもう、だったら平気な顔なんてしなきゃいいのに」
車が路肩に止められた。
先輩の手でシートベルトが外されて、頭をぐんと引っ張られた。
抱き寄せられて、ぐいと押し付けられる。柔らかい胸。先輩の
「泣いていいから」
ぶつり、と 心が切れた。
「…………すいません…………」
恥ずかしくて、顔が上げられない。
幾つだよ俺。まるで餓鬼みたいに。年下の先輩の胸で大泣き……
「ん」
軽い返事。こっちを見ずに運転を続ける先輩。
「俺、辞めませんから」
「そう」
「来年も、試験受けます」
「ん、がんばって」
先輩の声の中に、ほんの少し安堵の響きを感じたのは俺の自惚れかもしれない。
でも嬉しかった。
「明後日から、またバックアップ任せるから」
「はい。それと、終業後、試験に備えて練習始めたいんで、先輩看てもらえますか?」
「もう始めるの? いきなり気合入ったね」
そんなに私の胸はよかったかと冗談めかして言う先輩。その通りだと今はまだ言えないから。
だから
「俺もライセンスが欲しくなったんです」
俺も冗談めかして答える。
殴られた痛みは、もう感じなかった。
Fin
――――――――――――――――――――
普通のGSさんシリーズ。
「もう一度がんばろう」っていうタイトルです。
レギュラーメンバーならいざ知らず、普通だったら人間相手に殴り合いって精神的にキツイだろうなーと思ったので。
試合時間何十分っていうのは彼の主観ですから、本当にそんなに掛かったかどうかは謎。
実際弱い者同士だと試合も長引きそうですけどね。
今までの
コメント:
- 普通のGSの話は、GS美神の世界観を補強するいいエピソードだと思います。
作中の登場人物も言ってますように、GS試験は確かに馬鹿な試験だとも
思いますがそこはそれ、少年漫画の世界なのでバトル&トーナメントが
お約束なので仕方ないですし。
今後も期待しております。 (aki)
- >akiさん
感想ありがとうございます
原作の隙間をせこく縫ってみました(笑)
そうですね、馬鹿な試験でも燃えられればオケーですし、メタな発言になりますけど、楽しんだもの勝ちなんですよね。 (S)
- 泣いていいからと言ってくれる柔らかい胸の年下の先輩、常時大募集ううぅぅ(泣きながら挨拶)。
競争相手をどうにかするという意味では、もしかすると僕らも経験する
ごく一般的な試験であっても同じことだと言えるかもしれないけど、
GS試験って、それがものすごい具体的に突きつけられる場なのかもしれないですよね。
でも、こういうのを超えてかないと、たとえば愛子ちゃんみたいな人間くさいのが出てきたら、
躊躇してしまって駄目だったりするかもしれない、とか思ったりもしました。
akiさんも書かれてますが、このシリーズおもしろいです。
GSってなんだろうというのを考える、格好の材料になりますね。Sさん、すごいなぁ。
あと「ぐちゃぐちゃ考えていたら(中略)掠めたあぶねぇっ」みたいな、
句読点を挟まずに畳み掛けるのって、Sさんが他のシリーズでも使われてる手法ですね。
これには、いつもいつもドキドキさせられます。カッコいい! (サスケ)
- 登場人物は「先輩」と「俺」だけなのにGS美神の2次創作だと納得してしまいますね。今後も応援します。 (橋本心臓)
- 昔,自分が,空手の試合に出た時の話ですが
はっきり言って,間合いを取っている時なら別ですが
乱打戦になった時には,相手の事を考える余裕が有りません
でした。
それどころか,審判の「止め」の言葉が聞こえても,体が
勝手に動いていたことを覚えています。
という事で,この話には賛成です。
やっぱり,相手の身を考えて試合したら,負けてしまうでしょう。
(実際,居るんですよ,こういう師範が・・・強い方ですが・・・・) (モズ)
- >サスケさん
もし胸がちっちゃくてもそれはそれで年下らしくてよいと思いますっ(挨拶返し)
感想ありがとうございます。
私はあの試験、実戦の場で必要最小霊力を見切れるかどうかのテストなのかなって脳内補完してました(だって最大出力は最初の霊力放出で見てるから)
勿論漫画ではそんなことないんでしょうけど、とりあえずこのSSではそんな感じで。
愛子みたいな子が出てきたら…………思いっきり迷いますね(汗)
自分の中で整理できたらSSに書いてみたいかも。
>橋本心臓さん
感想ありがとうございます。
GSだと思ってもらえてひと安心。
名前がないのは、読み手さんそれぞれの身近にいるよく似たタイプの誰かさんを当てはめてもらえるといいなって思うからだったりします。
>モズさん
感想ありがとうございます。
試合経験者さんの生の声は参考になりますー。
(私は殴れないし殴られたくないしで相手の手足押さえ込もうと必死になっちゃってました。心の中は早く誰か止めて〜ってのでイッパイイッパイ)
試合そのものがいやでも、試合の向こうにしっかりとした目標が見えてれば頑張れるかなって思うです。 (S)
- こうゆう普通の人たちのお話を読めば読むほど、GSって職業は良くも悪くも『普通じゃない』大変な仕事なのだと思えますね。
…そして、そんな中でトップクラスに存在する美神さん達が、いかに常識ハズレな存在であるかもw (偽バルタン)
- 彼らなりの足掻きの姿が眼に浮かびます。
そりゃあ、悪霊相手ならばともかく、生身の人間を殴る(試験の性質上死ぬ事もありうる)なら凄まじいですな。
しかし、改めてSさんの描くGSの世界の素晴らしさに感動しました (天馬)
- なぜGSキャラが出ていないのにこうも説得力があるんだろう?
Sさんの書かれる作品に出てくる登場人物は人間らしくて好きです。
前回同様極楽の世界観が広がるお話、感服いたしました。 (アンクル・トリス)
- >偽バルタンさん
感想ありがとうございます。
あんまり普通にこだわっちゃうと『GS美神』らしさがなくなっちゃうから、匙加減がむずかしいと(笑)
そろそろ『普通の人』と美神さんたちを絡めてみたいですー。
>天馬さん
感想ありがとうございます。
本当は、あの漫画のキャラたちなら、そんなこと気にしそうにないんですけどね。
でも芸人じゃない人たちだってちゃんと頑張ってるんだぞーと(横島たちは芸人じゃないぞというツッコミはなしの方向で)
>アンクル・トリスさん
感想ありがとうございます。
そう言っていただけると本当に嬉しいです。
私の中で(擬似的にでも)彼らを人として歩かせて、それをテキストに移すことができたらいいなって頑張ってます。
これからもよろしくお願いしますです。 (S)
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