ザ・グレート・展開予測ショー

虹 前編


投稿者名:アンクル・トリス
投稿日時:(06/ 4/29)

 

  
 あの虹は、遙か遠く。







 GS美神極楽大作戦 アフターリポートシリーズ

 「虹 前編」



                     


                      




 1-おっぺけぺー





 春にしてはやけに肌寒い。そんな朝のことである。


 ざーざーと、前日から降り続ける雨の音だけが 静寂の中に響き渡っている


 雨が降ったら仕事はお休み。 そんなわがままな自分ルールをもつ美神除霊事務所の所長
 美神令子は、まどろみの中、早々に今日の仕事をキャンセルする事を決定した。





 


「――――はい。それでは来週の火曜日に。失礼します」


 そうと決まればいつものように。

 依頼人に仕事の延期を伝えた後、事務所のメンバーにその旨を伝える。
 そんな勝手で、事務所経営が成り立つのも彼女の外面の良さと、天才的な除霊の才能 そして


「よっしゃぁー!!待機で給料!!」
 
「つまらんでござる・・・」

「なんでよ。 除霊なんてメンドくさいだけじゃない」

「同じ犬神族なのに狐は貧弱でござるなー」

「・・・朝からケンカ売ってる?バカ犬。 人狼なんて力だけのおっぺけぺーよ」

「おっ おっぺけぺーじゃないもんっ!! 女狐! そこになおれ!!!」

「・・・あんたたち。そこらへんにしとかないと、保健所に連れてくわよ」

 というか、おっぺけぺーってなんだろう?

「まーまー、 落ち着いてください美神さん。 お茶淹れましたよ」

 
 ・・・そして、得がたい貴重な人材のおかげなのだ。




 さてさて、お茶を飲んでほっと一息ついた後 美神は目の前に積まれた書類の山と格闘を始めた。
 大半が税金関係なので他人の手を使うわけにもいかないし 万が一ばれたら待っているのは身の破滅だ。
 迅速に、それでいて慎重に整理していく。
 

 

 めんどくさがりのタマモは大喜び 早速ぐうたらしようとテレビの前に陣取り
 キヌは不意の休みをどう使おうか思案中 
 洗濯物は干せないし掃除でもと結論付ける。 密かに横島に手伝ってもらおうと考えている辺り、
 彼女はなかなかに抜け目がない。 そしてシロは―――


「うー おっぺけぺーじゃないもん・・・」

「あー わかったわかった」

 汚名を晴らす機会を失い、拗ねて横島のうでをがじがじ。
 だから、おっぺけぺーってなに?
 いつもの事なのか、横島もシロの頭をわしわしと撫でる。
 基本的にシロとタマモには兄貴風を吹かせるのだ。そんな2人を見る、おキヌと美神はいい笑顔。
 その取って付けたような表情が横島の頑丈な胃腸をキリキリと痛めつけた。
 複雑な心情が電波となって彼の内臓を刺激しているのだろうか。
 タマモはテレビのデジャヴーランド特集に夢中。どうやら援護は期待できないらしい。


 一通り撫でられて満足したのかシロは袖口から口を離した。でろんでろんになったGジャンを見て、溜息をつく横島をよそに
 シロは暇つぶしをいつもの日課に求める事にした。



「せんせいっ サンポいこっ!」

「・・・・・・シロ、外を見ろ」


 師匠とのサンポを何よりも楽しみにしている彼女にしてみれば 雨降りなんてなんのその
 一方の横島にしてみれば、せっかく手に入れた休息の時を雨の中引き摺りまわされるのは まったくもって不本意な話だった。
 地面が濡れていると言うことは自転車のタイヤも良くすべる つまり、彼の出血量も増加する事は確実である。
 ヘタしたら除霊よりきついかもしれない。

「えー さんぽさんぽさんぽさんぽさんぽさんぽさんぽさんぽ」

「いーやーだっ!!」

「さんぽさんぽさんぽさん「あーうるさいっ!!!」」

 
 今日はいつも以上に沸点が低い美神。
 理由は嫉妬か手の中で握りつぶされた紙のせいか (紙面には“税務署からのお知らせ”と書かれていた)
 
 沸騰石の役目を果たしてくれるキヌは掃除の準備の真っ最中。突沸を防ぐ手段は無かった。

 今回に限って言えば、その事はシロにとって幸運だったのだが。


「横島君。 今すぐサンポに連れてきなさい」

「いいっ!? なんでなんスかー!?」

「あんたたちがうるさくて仕事が片付かないのよっ!! シロ、“良し!”」

 飼い主の飼い主による許可が下りると同時に シロは風になる。

「ま、待てシ―――――――――いだだだっ!!」 

「わんわんわんわんっ!!」

 横島の制止の声はまったく聞こえていないのかトップスピードで事務所を出て行くシロ。
 哀れ、横島は階段から転げ落ちるという最悪の形で散歩をスタートした。
 自転車に乗らずとも、出血量の増加は避けられなかったようだ。



「ふー  あれ?この赤い線なんですか?」

「・・・横島君の引き摺られた跡よ」


「ええっ じゃあもうサンポ行っちゃったんですか? 外 まだ雨降ってま―――あれ?」

 キヌの声に、美神が窓の方に目をやると 雨はいつの間にか止んでいた。
 遠くに見える砂煙はきっとシロと横島だろう。更に遠くにはうっすらと虹が架かっているのが見える。

「これなら除霊、行けましたね」

 ぽつり、とキヌは窓の外を見ながら呟いた。
 2人っきりの共同作業を期待して戻ってきてみれば、残るは彼の血の跡のみ。
 一人寂しく血まみれの床にモップをかける自分の姿を想像したら、まさに「策士策に溺れる」という言葉が相応しい。

 なんだか悲しくなってきたので キヌは別のことを考える事にした。 
 ちょうど目に入ってくる鮮やかな七色に 以前姉から聞いた話を思い出す。




「そういえば、虹の向こうには宝があるっていう話、知ってます?」

「あんなもんデマよ、デマ」

 簡単に話を打ち切る美神、お金に関する話題が何よりも大好きな彼女らしくないその態度に好奇心を刺激されたのか
 タマモが会話に参加してきた。 

「・・・・・・なんかイヤな思い出でもあるの 美神さん?」

「――――ないわよ!」

 否定と同時に噴き出す攻撃的な霊波に怯えてささっとおキヌの背中に回るタマモを睨みつけると
 美神は再び書類の整理に戻った。

 触らぬ神に祟り無し 最近覚えた言葉はこういう意味だったのかと思いながら
 タマモは虹を見た。

「あのままだと、あの2人 虹に辿り着くわね」

「なわけないでしょ!! そんなこと考える奴 アホよ!」

「・・・・・・・・・何で怒ってるんですか 美神さん?」

 
 何気なく言っただけなのに更なる怒りを買うなんて予想もしてなかったのだろう、
 全てアイツのせいだとタマモはもう1度虹を睨みつける。
 

 

 関係無いとばかりに、虹は青空に美しく佇んでいた。
 




 2‐泥師ー





「♪―――だ・い・た・ん〜な〜♪」

 上機嫌に歌いながら河川敷を爆走する美しい少女のなんと非現実的なことか。
 真っ赤な前髪と透き通るような銀髪が雨上がりの日差しを受けて、きらきらと輝いている。

 軽自動車並みの速度で走っているわりに特に呼吸の乱れも無く、その表情からは喜びの色しか見られなかった。
 洗いざらしのGパンから飛び出たしっぽも縦横無尽に暴れまわり、感情を十分すぎるほど表している。


「ど〜れでも〜♪ すー――――?」


 
 突然 少女は立ち止まる。 盛大に巻きあがる砂煙が晴れると同時に後ろを振り返ると、千切れた紐が。
 目に飛び込んで来たそれがどんな事を意味するか、シロは十分理解していた。
 更に後ろの方へ目をやるとそこには
  
 ―――――――――――――血と泥にまみれた、モノイワヌ赤イ物体。







「せせせせんせぇ〜〜!!!?」





 つまり、彼女の師だった。
 








「・・・・・・ったく、 このアホ犬」

「うぅ・・・申し訳ないでござる」

 
 
 暫く後、滞りなく復活を果たした横島は体力の回復のため、シロに休息を提案し
 もっと走りたかったのだが罪悪感からシロもそれを承知。
 2人はまだ雨の湿り気を残した河原の芝生に腰を下ろし、景色なんぞを眺めていた。
 川の反対側のグラウンドでは、子供達が泥んこになりながらサッカーをしている。
 水草から落ちる滴が川の流れに波紋を作り出す。
 そんなことが無ければ、先程まで雨が降っていたことが信じられないような良いお天気だった。

「大きな虹でござるなぁー」

 それともう1つ、必要以上に大きな虹がなければ。
 
「奇麗でござるよっ 先生」

 朝の寒さが嘘のように、太陽の日差しは暖かく
 春の柔らかな風がシロの髪をやさしく撫でる。絶好の“でぇと”(シロ主観)日和だ。
 

      −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−

 
 『あぁ、奇麗だな。・・・・・・でもな、お前の方が奇麗だぞ。』

 『えっ?』

 『ずっと言うタイミングを待ってた。・・・俺、シロが好きだ』


 『せん・・・忠夫さん』 『シロ』

 『・・・いいだろ?』

      −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−

 なんてことになっちゃったり!?


 布団は1つ、枕は2つ! 結婚式は玉姫殿で!! ウエディングドレスか白無垢か?
 ブーケは誰に投げてあげよう?

 妄想は加速する。 とりあえず、美神かエミのどちらかに投げることを決めた
 シロは脳内に鳴り響くファンファーレに耳を傾けながら横を見る。



「おねいさんっ!! 可愛い犬ですねっ!! 
       もちろんおねーさんもっ! 僕と一緒にサンポを〜!!」


「なんでやねんっ!!」


 がぶっ!!!



「いだっ!! ちょ シロ なにす「せんせーのアホ!! おっぺけぺー!!」

 


 噛み付いた、コレでもかってくらいに噛み付いた。
  
 自分を無視して美女をナンパする姿を見せつけられ、オマケに自分は飼い犬扱い!
 オトメ心を傷つけられたシロは、怒りに任せて横島を揺さぶりまくる。



「いきなりなにすんだっ!」

「ぷりちーな拙者がいるでござろう!」 


 突然の弟子の暴走で再び満身創痍の横島。シロは怒っているのでヒーリングも期待できない。文珠の出番だ!
 先程ナンパしようとした美女の姿を思いえがき、煩悩を霊力に変える。




「それもこれもあのねーちゃんのフトモモが・・・」



 責任をフトモモに転嫁する男。伝説級のダメ人間である。


(あのとき風が吹いてりゃな〜 風が 風! 風!!)



 キュインッ



「あ”」

「?先生、どうしたんで――――――――――」


 続きは風の音に掻き消された。霊波は大気と混ざり、大きなうねりを作り出す。
 

 曰く、竜巻・ハリケーン・サイクロン。


ごおおおおおおおぉぉ!!



「〔・・・・・・すまん〕」 



 次の瞬間、浮遊感と、回転する世界。



 薄れ行く意識のなかで、遠ざかっていく地面を見つめながらシロはどうでもよいことを考える。


 あの女性は短いスカートを履いていたんだろうか?



 答えは返ってくるはずも無く、2人は高く、高く空へ運ばれて行った。





 つづく

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