ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(17)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(06/ 4/28)



「ところで、横島くん」

 小竜姫たちの先導に続いて歩く神父が、並んで歩いている横島へと声を掛けた。

「はい?」

「君、さっき私の方を見なかったかね?」

 巧くいった猿神との遣り取りに、満足気に浮かんでいた微笑みが瞬時に強ばる。

「へっ? な、ナンノコトデショーカ?
 お、俺は別に神父の額とか、全然見てなんか居ないっスよ」

 プっ、と空気が漏れるような音が後ろから二つ。
 神父の額に、血管が浮かび上がる。

「君、ねぇ…」

「えと、その、すんませんすんませんすんません〜」

 声を震わせる彼に、ぺこぺこと謝りたおす横島だった。





 こどもチャレンジ 17





「では、小竜姫。 こやつはわしが連れて行くぞ」

「はい」

 宿泊施設に向かう道すがら、途中でそう言い出した猿神に小竜姫はすぐに頷いた。
 彼が横島の手土産に、早く触れたがっている事に気付いていたからだ。

 確認は取ったと、横島を伴い歩き去る。
 小竜姫もまた、残った面々を促して歩き出す。

「なんなのよ…」

 彼女の先導に従いながら、二人の背を見送り美神がつまらなそうに呟いた。

「忠夫のやる事にイチイチ反応してもしょうがないワケ。 普通じゃないのは、前から判ってたんだから」

 言外に、鈍いアンタは判ってなかっただろうけど、との言葉を滲ませてエミが応じる。
 反射的に睨んだ後、美神はプイっと顔を背けた。

 そんなギスギスした雰囲気を変えようとしてか、神父が小竜姫に話し掛けた。

「小竜姫さま」

「はい? なんですか?」

「こちらには、あれ程の方も居られたんですね」

 以前、彼がここに来た時には、欠け片もその存在を感じさせなかったのだ。

「私はあくまで管理人に過ぎませんから。
 そもそも私にとっても、老師は武術の師なんですよ」

 相応以上に尊敬しているのだろう。 そうと窺わせる柔らかい表情で、彼女はそう答えた。

「そんな神様が、なんであんなエロガキに…」

「今は…
 たぶん、ゲームの相手をさせられてると思います。 老師、かなり焦れてましたから」

 今度は苦い笑いを混ぜて。

 そんな言葉に、美神が鼻で笑った。

「ふぅん。 神様だなんだって言っても、欲求には勝てないって事ね」

 この感慨は、彼女のこれからの神族観に繋がって行く。
 横島の知っていたかつての美神も、神父の下にいた割に敬う節などあまり無かったから、少し早くなっただけと言っても構わないのかも知れないが。 ともあれ、神父の苦労が増えたのは確かだろう。

「キリスト教系の方たちなんかは規律に五月蠅い方が多いですけど、東洋系の神族はそうじゃない方も多く居ますから」

 ぶっきらぼうで失礼と取られそうな美神の言葉に、小竜姫も苦笑で返した。

「まぁ、老師は神族全体で見ても遊び心に溢れ過ぎてる方ですけど…」

 それでもそう続けたのは、彼女にしても師の趣味への熱意は少々入れ込み過ぎていると感じていたからだ。
 神界で横紙破りに勤しんでいた時分を考えれば、今は大人しくしていると言って良い状態なのだが。 西遊行の前の彼の所業なぞ、犯罪以外のナニモノでも無いし。

「神様にも色々居るってワケね…」

 ちらりと神父に目をやって、普段の彼を知るエミが納得げに頷く。

 尤も神父とて、若い時には軽い部分も多かったのだ。
 今でも、その思考は教義に凝り固まった宗教者のソレではない。 あくまで彼の堅苦しさは、真面目さや誠実さの強い顕れだろう。

「…と。 着きました。
 この棟の好きな部屋を使って下さって構いません」

 そう言って指し示されたのは、長屋風の建物。
 と言っても、中では廊下で繋がれており、和風の簡易ホテルと言った趣が強い。

「何処でもいいってこと?」

「えぇ。 近年、ここが埋まるほどに修行者が集中した事は有りませんから」

「ふぅん」

 そう言うと、美神はエミとバシっと視線を突き付け合う。
 すぐに、ふんっと視線を逸らして、それぞれ少し離れた部屋へと足を踏み入れる。

 そんな様子を苦笑混じりで見ていた神父に、小竜姫が改めて言葉を掛けた。

「それで、すぐに修行に入りますか?」

「そうですね…
 彼女たちへの指導スケジュールを組みたいですし、少しお時間を頂けますか?」

 ちょっと考えて問い返す。
 小竜姫もその事は判っていたから、すぐに頷き返した。

「あなたへの修行もあの場所を使う事になるでしょうし、ならばいっそ彼女たちへの指導もそこでされてはどうです?
 基礎的な修練でも、あそこでしたらただ外で行うより遥かに効率的ですし」

「よろしいのですか?
 私としては、目に届く所にいて貰えるのは助かりますが」

 言うまでもなくその場所とは、銭湯風の入り口を抜けた向こうの事である。
 だが、そこはこの妙神山の正式な修行場所の一つなのだ。 美神とエミは鬼門の試しを乗り越えた訳ではないので、課題を与えての訓練しかないだろうと神父は考えていたので、それは彼にとっても ありがたい申し出だった。

「それくらいなら構わないでしょう。 見たところあの二人も並の器ではなさそうですから」

 配慮に感謝して、神父は小さく頭を下げた。

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「なによ、ここ…?」

「ここは… 異界空間なワケ?」

 その構えや脱衣所での着替えなどで気の抜けていた二人は、目の前に現われた呆然としていた。
 どこまでも広がる荒野。 所々にそびえる岩以外 延々と伸びる地平線は、日本に居る限り目にする事の有り得ない光景だ。

 袖なしの胴着だけに、緩やかに吹く風が腕に直接当って肌寒い。
 いや、場、そのものに満ちている空気自体がどこか冷たいのだ。 その清浄さ故かも知れない。

 ガラス戸の正面には、石畳の敷き詰められた小さな円形の球技場の様な広場。 ちなみに法円の類いは無い。

「唐巣さんは、既に一度この妙神山での修行を終えられています。 ですからその上となると、危険性の高い極端な修行か、地道な修練の繰り返しに拠る底上げかしかなく、彼は後者を選ばれました」

 小竜姫が、まず美神たちへ説明を始めた。

「それで皆さんをここへお連れした訳です。
 人間界では肉体を通してしか精神や霊力を鍛える事は出来ませんが、ここでなら霊力を直接鍛える事が出来るので、その目的には丁度良いからです」

「つまり、下で君たちが普通に行っている訓練も、ここでならより効率的に君たちの身になるんだよ。
 そんな訳で、やる事は何時もとそう変わりない。 私がここで小竜姫さまに見て頂いている間、君たちもいつも通り励んで欲しい」

 続けての神父の説明に、なるほどと美神とエミはすぐに頷いた。
 意識せずに行った行動は似通っている二人である。 だからこそ角突き合わせるのかも知れないが。

「ところで忠夫はどうするワケ?」

 この場に唯一来ていない少年の事を、エミが口にした。 

「今日は、おそらく放して貰えないんじゃないかと思います」

 苦笑混じりに小竜姫が答える。

「まぁ、彼の事は置いておいて、まずは瞑想から始めたまえ」

 こちらも苦笑しつつ神父が指示を出す。
 どこか『彼だから』と言う特別扱いを感じて、美神がさっさと端の一角へ移動して座り込み瞑想を始めた。
 筋力を鍛えるのと同様に、使う事で伸ばすのが基本なのだ。 瞑想は、その準備運動の様な物なのである。

「えっ?」

 始めてすぐに、美神が呟きを洩らす。

「いつもより湧き上がるのが早い?」

 神父の弟子の中では、彼女だけが自発的発露から間が無かった。 その遅れの分だけ、この場の意味が より強く実感出来たのだ。
 明らかな下でとのその差異に、美神は顔を輝かせて再び集中を始める。
 より強くより力を。 その為の努力を惜しんだりする少女では無かった。

「へぇ…」

 その様子を見てぽつりと息を零すと、エミも神父たちの邪魔にならないよう端へと移動して、すくっと立ち天を仰ぎ見るように意識を集中する。

 やはり手応えを感じると、すぐにステップに移った。
 呪踊こそ、彼女の基本的スタイルだ。 緩慢な動きが少しずつ少しずつ早くなっていき、それに合わせて立ち上る霊気が増していく。

「くっ」

 少し離れた場所からの霊気の湧き上がりに、美神は舌打ちを洩らした。
 が、すぐに負けてなるかと、深く深く内側へと意識を集中して行く。

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「やはりいい素質を持っていますね」

 互いに高め合っているかの様なそんな二人を見て、小竜姫がそう微笑んだ。
 が、すぐに笑顔を収めると、もう一人に意識を向けた。

「それにしても、彼は一体なんなんです?」

「私にも良く判っていないんですが、推測だけなら」

 話を向けられた神父は、弟子の少女二人がトランスに近い集中に入っているのを確認した後、そう前置きして言葉を続けた。

「霊能とは関係の無い一般家庭に生まれた彼が、あれほどの霊能に目覚めたのは、まだ3ヶ月ほど前の事でしかないんです」

「……はい?」

 言葉の意味を理解して、小竜姫が気の抜けた様な声で聞き返す。

 それはそうだろう。 あの少年は、たといそれが変則的な方法だったとは言え、実力で鬼門の試しを乗り越えたのだ。 少なくとも目覚めて1〜2年程度の霊能者では、クリア出来る筈の無い事をやってのけたのである。

「そして、彼は山の口から先、こちらまでの道を知っていました。 それどころか、私も知らなかった斉天大聖さまの事まで」

 その言葉に、そう言えばと、彼女も眉を顰めた。

「それらの事から、私は彼が前世覚醒を起こしている可能性を考えています」

「それは… 確かに、有り得る話ですね」

 沈痛な表情の神父に、彼女も言葉を濁す。

 その結論に至って、彼は少なからぬ危惧を抱いていた。
 前世は前世でしかなく、あくまで今世とは別人なのだ。 しかし、今の横島ほど若い……と言うより幼い少年の身に起きた場合、人格そのものに大きな影響を与えてしまう。 それは百合子から聞いた何かを抱え込んでいると言う彼の状況にも合致するし、最悪、人格分裂などに至る可能性だって有り得るのだ。

 実際、12才の少年は18才の彼に完全に同化されてしまっている。 同一人物だけに、分裂する事なく強い意識を主として混ざってしまっているから、神父の認識とは結果が異なっているが。

「とにかく、その所為か高い彼の能力を御する為にも、宜しくお願いします」

「判りました。 私も後で老師とも話を通しておきます。 彼が、老師にどんな相談を持ち込もうとしているかも気になりますし。
 では、あなたの修練も始めましょう」

「はい」

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 そんな師匠たちの遣り取りを、彼らの認識をよそにエミは聞いていた。

 呪踊による集中は神降ろしにも似ており、一度入ってしまうと無防備になる。 その為に横島の知っていたエミはガードを必要とした訳だが、それだけでなく呪術者としてトランスしながらも周囲に意識を振り分ける訓練も積んでいた。 これは呪術の師匠より伝授された物であり、当然ながら今のエミにも意識の振り分けは可能なのだ。 まだ初心者に過ぎない美神には出来ない事だが。

 そうやって聞いた会話に、内心、エミは首を傾げていた。

 なんだかんだで、横島と一緒に居る時間が一番長いのは彼女なのだ。
 百合子に誘われて、横島家に泊りに行った事も何度か有る。 日常の修行も大抵一緒にやっている。
 そんな中で、彼女は弟弟子の知識の偏りを良く知っていた。

 GSとしての職務に関るソレはそこそこ有る癖に、霊能者としての知識に関しては不自然な程 穴だらけなのだ。
 霊力の高め方が妄想と言うのもかなり異常なのだが、それ以前に当たり前の方法である瞑想の仕方すら知らなかったと、エミは知っている。
 比較的近年に広まった道具……例えば神通棍など精霊石振動子を内蔵しているといった構造にまで知識が有るのに、長い蓄積のある御札に関しては単なる使い方しか知らない、なんて事も知っていた。

 それらの事を踏まえると、前世からの知識を持ち越していると考えるのは、実情にそぐわないと思うのだ。

 …ま、その内判るでしょ。
 そう独りごちると、今はそれよりもと、師匠たちの方へ、その修行方法へと意識を振り分けた。

 方向的に似通っている分、神父への教授はエミの身にもなる筈だ。
 修行と言う言葉に、目で盗む事も含めると言う認識をしているから、これもまた彼女には重要な修行である。
 呪踊を続けながら、エミは意識をそちらへと集中した。

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「うきぃ〜っ! 読み込みが遅いんじゃっっ!!」

 コントローラーをべしっと畳に叩き付けて猿神が叫ぶ。

「おいこらこらこら爺さま爺さま」

 が、横島の呟きで我に返った。

「む? …あぁ、いやすまんな」

「それはいいんすけど、そろそろ相談に乗ってくれません?」

 力無い苦笑と共にそう答える。

 この部屋にやってきてから、そろそろ3時間が過ぎようとしていた。 時刻で言えば、午後6時を回っているだろう。
 今日一日、小学生の体には充分過ぎるほどの運動をした揚げ句のゲーム大会に、横島は疲労だけでなく空腹も感じ始めていた。

「おぉ、そうじゃったな。
 で、おぬし、わしに何を訊きたいんじゃ?」

「それっすけど…
 師匠、時間移動に関して詳しく知ってますか?」

 尋ねる少年に、片方の眉をぴくっと上げて、ほう、と息を吐いた。

「ふむ、まぁ知らぬでもないな…
 つまり、あれじゃな。 おぬしがわしを知っておるのも、わしを師匠と呼んどるのも、その辺に謎が有ると言う訳じゃな?」

 眼鏡の下、嬉々とした光を湛えて猿神はそう訊き返した。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 しかし、横島。 最初と最後だけやん(^^; どうした主人公(苦笑)
 ついでに美神の存在が軽い。 どーしたものかと小一時間。 結局、まーいいやと諦める。
 そんな訳で、かろうじて4月中(爆)

 本文中央、だらだらとオリ設定垂れ流してますな… 単に状況を作る為だけにこんなに文章 費やしてどうするかってなもんですが、その辺はご勘弁下さいまし(__)

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