ザ・グレート・展開予測ショー

はんばーぐ


投稿者名:S
投稿日時:(06/ 4/26)

これはおキヌちゃんが事務所にやってきて、少ししたころのお話――





「お 旨そうだな、あれ」

『え? どれですか?』










コトッ

目の前に置かれた皿の上には、一応ハンバーグに見えなくもない黒い塊。
でもこの匂いは……どう見ても焼きすぎだと思うんだけどなぁ。
ちらりと目を向ければ、真剣な表情をした巫女さん幽霊のおキヌちゃん。出会いがあんなだったとはいえ、やっぱいい子だよな。
日給30円で酷使されてるにもかかわらず、いつもニコニコしてるし。
あのボディは天女中身は地獄の鬼もかくやという美神さんにしばかれる毎日が、彼女のおかげでどれほど癒されることか。
これでもうちょっと胸が大きかったら幽霊だろうが何だろうが間違いなく押し倒して――

『あ、あの、横島さん?』

い、いや何でもないんだっ だからそんなまっすぐな目で俺を見ないでくれぇっ

『? ええと、この前よりは上手くできたと思うんですけど』

そっと押し出される皿。
ぐぅ 俺のセンサーは危険を訴えている。だが、逃げるわけにはいかんのじゃぁっ!

ジャリ……ぐにゅ……

う゛あ゛
消し炭と生肉の絶妙のはぁもにぃ ないすふぁいとだおキヌちゃん。
何だか嫌な汗を流してる俺の顔を見て察したんだろう。

『ごっ、ごめんなさいっ! わたしまた失敗しちゃってっ』

「い、や、はは、だいじょうぶだよ? うん? ほら、ちゃんとたべれるって」

ジャリ ぐにゅ ジャリ ジャリ ぐにゅ………………ごっくん

ふ ふふ さすが俺 男だぜ





『ごめんなさい』

「いや、本当にもう大丈夫だって」

しゅんとしおれちゃってるおキヌちゃんだけど、俺がぶっ倒れたのはアレを完食したからであって。まぁ何だ、意地張った俺のせいと言えなくもないしな。
こうして一生懸命介抱してくれるおキヌちゃんに対して怒るとかいう気持ちは全然なかった。

色々とおキヌちゃんに雑用を押し付けてる美神さんだから、当然のようにお茶と俺がカップ麺を作るときくらいしか使ってなかった台所仕事もおキヌちゃんに押し付けようとした。『お料理ですか? ええ、できますけど?』
だけど、『がすこんろ? かるぼなぁら? ぺるしあーど? それって何ですか?』
……おキヌちゃんが生きてたのは300年前だもんなぁ。
調味料だって調理器具だって使ったことのないやつばっかりだし、それに

「味見ができないんだもんなぁ」

『ううっ ごめんなさぁい』

美神さんは無駄なこときらいだからさっさと匙を投げて、出前と外食に戻った。
俺もまぁカップ麺の毎日に戻ったんだけど、おキヌちゃんは責任を感じちゃったらしい。
テレビのお料理番組でレシピを覚えて、どうやってか食材を調達して(『お友達に相談したら、色々と融通してくれたんです。お肉屋さんの先々代さんとか』後日談)、俺を相手にこうして料理の練習を始めた。
最初はまぁ料理とも呼べないできだったんだけど、俺の批評とも呼べない大雑把な感想から火加減とか調味料とか一生懸命覚えて。

「最近はほとんど失敗しないしな」

昨日の味噌煮込みは旨かった。

『でもはんばーぐはこれで3回目の失敗です』

うう、としょげて。ガスコンロの火加減に梃子摺ってるらしい。煮たり炒めたりはともかく、ハンバーグの中までしっかり火を通すとなると。

「う〜ん 最初は無理して形に拘らずに、割って中身確かめながら作ったほうがいいんじゃないかなぁ」

『やっぱり、そうですよね……分かりました、次はそうしてみます』

他の料理はそんなことないけど、ハンバーグには何かこだわりがあるらしい。気合の入り方が違うもんな。
まぁ力入りすぎて空回りしてるっぽいけど。

『お腹、もう大丈夫ですか? 夕ご飯入るようでしたら、つみれ汁作ってみたんですけど』

それを聞いて、現金な俺の腹がぐぅと鳴った。


つみれ汁は、ちょっと薄味気味で、でも優しい感じがして旨かった。
おキヌちゃんは俺が食べるのを笑って見てるだけで。

『美味しいって食べてもらえるのが、嬉しいんですよ』

それも嘘じゃないとは思う、けど。

「だったらさ、今度から美神さんにも声かけてみようか。二人より三人で食べた方が絶対楽しいって」

この味なら美神さんだって文句は言わんだろう。何だかんだ言ってもおキヌちゃんにはあれで優しいし。
メニューだってぼちぼち増えてきてる。

『そうです、よね。あ、でも、これからも練習に付き合ってもらえますか?』

「勿論。俺は食う方でしか手伝えないからね」





三つ葉ときのこの卵とじは美神さんにも好評だった。すごいじゃないとご機嫌で、褒められたおキヌちゃんも嬉しそうだった。
俺が練習を手伝ってると言ったときにはものすごく胡乱げに見られたけど。
ひでぇ。俺だって年がら年中乳尻太もも言ってるわけじゃないのに。

「へええ? そういうことを言うのはこの口かしらぁ!?」

「ごめんなさいごめんなさいっぎぶぎぶっ!わざとやないんやぁ濡れた唇が色っぽくてついいだだだだぁぁっ!」

そんな感じで、これから時間が合わせられるようなら三人で食べようということになった。





「おキヌちゃん、後は?」

『後は、お肉屋さんで卵と豚バラと合い挽きです』

食材が近所の幽霊さんの好意からだったというのは流石の美神さんも引いたらしい。
これからはちゃんとお店で買うように、だそうだ。
GSが幽霊にたかってるなんてそりゃみっともないもんなぁ。
俺も手が空いてたらこうして荷物持ちをするけど、おキヌちゃん買い物上手なのか、結構おまけして貰ってる。
合い挽き肉か。
ビニール袋の中身とおキヌちゃんの気合の入り方。こりゃ多分……





コトッ

『横島さん、試食お願いします』

「おう」

何度目の挑戦になるか分からんけど、香ばしいソースと脂の匂い。口の中につばがたまる。
んじゃ、いただきます。
ぱんと手を合わせてから、出来立てのハンバーグを頬張った。じゅわと口の中いっぱいに旨みが広がる。

「んっ!」

親指をぐっ!と立てると、おキヌちゃんの顔がふわりと綻んだ。

『よかったぁ』

「いやほんと、めちゃくちゃ旨いよ。コショウがいい感じに効いてるし。ソースがまた」

下手な店よりよっぽど旨いと思うぞ。

『そんなことないですよ』

「そんなことあるって」

くすくす、あははと笑い合う。とにかく、これでハンバーグも完璧だね。よかったじゃん。

『えっ? あ、あの、えっと』

ん? どうしたんだ?

『ええと、まだちょっと……もう少し、練習しても、いい、ですか?』

「いいけど」

いや、それって俺が許可することじゃないし。おキヌちゃんが納得いくまで練習していいと思うよ。

『それと、ですね……完成するまで、美神さんに内緒でいいですか?』

あー。まあ未完成の料理のこと言うのは恥ずかしいか。俺にはどこが悪いのか分かんないけど。おキヌちゃんがまだだっていうならそうなんだろう。

『はい、もっともっと練習して、うんと美味しいハンバーグ作りますから 横島さん、待っててくださいね』

「あ、うん」

なんだ?……何か落ち着かんぞ。ええと。おキヌちゃんは笑ってるだけなのに。眩しいような……何となくだけど、もしかしたら、おキヌちゃんのハンバーグを食えるのって、ひょっとしてこれからも俺だけじゃないかとか……だあああっ!! やめやめっそんなわけないだろってどういう恥ずかしい展開だよ!第一それじゃまるで!――

『それじゃあ横島さん、今日もありがとうございました』

かちゃかちゃと空になった皿を下げていくおキヌちゃん。後姿も機嫌よさそうに後片付け。

「え〜と」

ま……まぁ、あれだな、アホなこと考えたのも、今日のハンバーグが旨過ぎたせいに違いない。そんでもって美神さんは食えないけど、俺は食わせてもらえる。うん、だったら問題なし。おキヌちゃんに感謝しとこう。





それから、試食する度変なこと考える自分はやっぱり馬鹿なんじゃないかなぁなんて思いつつ。
美味しいですかって言ってくれるおキヌちゃんに見とれてる俺がいたりして。
んで、ぽろっと口に出しちゃったわけだ。



――あのさ、おキヌちゃん……



Fin


――――――――――

餌付け(笑)

おキヌちゃんがハンバーグにこだわるきっかけになった一言、横島本人はすっかり忘れてたりして。
はたして二人の気持ちは通じてるのかそれとも実は温度差がありまくりなのか。
その辺は皆様のご想像にお任せしますー。

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