悩みごと相談
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 4/23)
「……横島さんは……重いなって思ったことはありませんか?」
いつものように事務所で飯をご馳走になってるときに、おキヌちゃんの口から、ぽつりとそんな呟きが漏れた。
その声があまりにも小さかったから、もう一度聞き返そうとしたけど、彼女は慌てたみたいに何でもないんですと話を逸らした。
ふむ?
そう言えば、最近悩んでたかもしれない。学校でまた何かあったんだろうか?
それにしても
「重いって……何がだ?」
体重、のはずがないよな。
くちくなったお腹を抱えてほてほてと歩きながら。
俺に言わせりゃおキヌちゃんは細すぎだと思う美神さんじゃあるまいしってあぶねぇっそんなこと事務所ん中で口にするなんて死にたいんか俺。
慌てて辺りを伺う。
一つのことに気をとられると途端に他所がおろそかになるのが俺の弱点だな、いい加減改めんと命が幾つあっても足りんぞ。
「と、そんなことより、今はおキヌちゃんだ」
あの言い方、俺とおキヌちゃんに共通する何かについて言ってたような気がする。
俺とおキヌちゃんか……同じ事務所の同僚。GS見習いっていうのもそうだな。二人とも10代っていうのも美神さんとは違うところか。だけど
「他に何かあるかぁ?」
しかも、重いって感じるようなこと。
ううむ、見当がつかんぞ。俺ははっきり言って頭が悪いからな。それ言ったらおキヌちゃんと俺なんて違うことの方が多いだろうし。
オカルト関係の知識だって、基礎からちゃんと勉強してるおキヌちゃんには敵わんし。
まぁこれには一応言い訳がある。
美神さんも呆れてたけど、俺は余計な知識はない方がいいらしい。固定観念って言ったかな? そういうのが邪魔をすると文珠の自由な発想とか応用性が損なわれるとか。
「アンタの場合、直感と本能でぶつかった方が上手く行っちゃうのよ」
ものすごく不本意そうにそう言われた。
理不尽だ。俺だって傷つくんすから、もうちょっとソフトに言って欲しかった。あの人にそんなん言ったって無駄だけど。
あれやこれやと頭を捻ってみたものの、結局何も浮かばなかった。
しょうがない。
直球でぶつかってみるか。美神さんやらに相談する気にならなかったのは……これも俺の直感ということにしておこう。
藪をつついて張り飛ばされるのが怖かったからじゃないぞ。
さて、そうと決まれば
「おキヌちゃんはどこじゃらほい、と、いた」
「あ、横島さん」
ファイルを整理してたおキヌちゃん。明るく振舞ってるけど、ん〜、やっぱりちょっと違うか。
「ちょっと話いいかな、後で手伝うから」
「え? ええ」
「んじゃ行こっか」
事務所じゃない方がいいかな。喫茶店は静かだけど逆に人の耳が気になるかもしれないし
――ってわけで公園だ。
おキヌちゃんの手には「お〜○お茶」、俺は無糖コーヒー。
向こうの砂場とブランコではママさんたちがガキ連れて。要するに、俺らには興味なしっと。
「横島さんは、重いなって思ったことはありませんか?」
「あるかも知れんけど、覚えてないなぁ。毎日それどころじゃないし」
くすりとおキヌちゃんが笑った。羨ましいです、と。
「私は……重いんです……世界に数人しかいない、ネクロマンサーの笛の使い手って呼ばれるのが」
……最近、おキヌちゃんを名指しでヘルプが入ることも多い。
だから か。
「横島さんとか、美神さんの役に立てるっていうのは、嬉しかったんです。それは嘘じゃありません。でも……」
きゅと唇を噛んで俯く。
真面目、だからなぁ。俺なんかは失敗して元々上手く行きゃ儲けものって開き直っちゃってるから。文珠使いって言われたってそれがどうした、なんだけど。
さて、ここで問題です。
俺はどうしたらいいでしょうか?
的確なアドバイスをして、格好よくおキヌちゃんの悩みを解決する?
馬鹿なことにひっぱり回しておキヌちゃんの気持ちを盛り上げる?
それとも それとも それとも?
「ふふっ」
え? あれ?
今笑ったのおキヌちゃんか?
「ありがとうございます、横島さん」
おかげで楽になりましたなんて、ええと、俺まだ何もしてないぞ?
「そんなことないですよ。お話聞いてくれたじゃないですか。やっぱり横島さんでよかった」
立ち上がって、ぱんとスカートをはたく。その仕草と表情に、ちょっと見惚れた。
「またお話聞いてくださいね」
「ああ、俺でよかったら、いつでも付き合うよ」
それから、一月に一度か二度。
おキヌちゃんがぽつぽつと言うことを、俺はただ聞いて、ああでもないこうでもないと悩む。
俺は気の利いたこと何も言えないし、全部受け止めてやるほど包容力があるってわけでもない。
おキヌちゃんの悩みは色々で、俺にははなっから理解できないこともあったし。
「あのさ、こんなんで本当に役に立ってるの? 俺」
「もちろんですっ 横島さんじゃなきゃダメなんです」
楽しそうにニコニコと。
俺を見てると、おキヌちゃんは元気になるらしい。だったら、いいかなって思っちゃう俺って単純。
前回から、ちょっと寄り道してお茶して帰るようになった。
肩が触れ合うくらいの距離で微笑むおキヌちゃんから、ふといい匂いがするなと思った4月の午後。
Fin
――――――――――――――――
「格好よくない横島さんだからいいんです」というおキヌちゃんのお話(笑)
今までの
コメント:
- いいと思います、自分としては・・・。なかなかピュアな話ですね〜 (ryo)
- うーん、さわやかですねぇ。
横島の鈍感さと単純さがまたイイ味でてるんですよ。
おもしろかったです。 (がま口)
- 前作「離職願い」と少し重なるところがありますね。
ああいう悩みを原作キャラが持つとすれば、やっぱりおキヌちゃんでしょうか。
それを支える「格好よくない横島」は、なんだかカッコいいですねー。
美神さんと横島クンが結ばれるとしたら、前世の因縁といったような
ある種ドラマティックな展開が似合いそうですけど、おキヌちゃんとの場合は、
こういう何気ない日常を積み重ねていくようなのが、とても似合いますね。素敵だと思います。
ただ、もしかしたらもしかして、
「ああいう相手は、相談したりするのが実は近道なんだよ」
といったアドヴァイスを魔理さんあたりに吹き込まれての作戦勝ち、
みたいなことを想像してしまったサスケは、汚れてしまってるのでしょうか……(笑)。 (サスケ)
- うや〜。いいですっ。いいですよ。
そうだ、この二人、っていわば、先輩と後輩なんだなぁ、とふと気づき。
そして、二人とも、唯一無二の存在、というか!・・・何人かいるかもしれないけど、数は少ないわけで。
おキヌちゃんのことだし、思い悩んだりもするかもです。何か青春、って感じがします(笑)
>「そんなことないですよ。お話聞いてくれたじゃないですか。やっぱり横島さんでよかった」
この、やっぱり横島さんでよかった。・・・ってのが!やっぱり、っていうのが! 私的にスマッシュヒットでした。やばい。こんなこと言い合ってるシーンとかみたら石とか投げたくなりますよ、うん(ちょっとまて
爽やかな気分になりました!面白かったです! (veld)
- >ryoさん
感想ありがとうございます。
ぴゅあ……そう言われると何だか照れちゃいますね(笑)
でもこういうの書くの好きです。
>がま口さん
感想ありがとうございます。
馬鹿ですけべだけどいい奴というのが私の中の横島像なのです(笑)
頭じゃなくて本能で大切なこと分かってくれそうだから。
>サスケさん
感想ありがとうございます。
人を思いやれるって、裏返すと人の言葉に振り回されちゃうとこがあるのかなって。
悩んでるとき、本人じゃないのに「気持ちも分かるけど」って言われるより、分からなくても一生懸命話を聞いてくれる人がいる方がきっと嬉しいと思うから。
(あ、これって『フルーツ○スケット』で夾君が言ってたのと似てるかも)
>魔理さんあたりに吹き込まれて
そういう子悪魔ちっくなおキヌちゃんも可愛いですね(笑)
>veldさん
感想ありがとうございます。
キャラクター表作ったとき、自然に横島の隣に並べそうな気がするんですよおキヌちゃんって(笑)
青春って甘酸っぱくていいですよね。
こうやって同じペースで歩いていけたらいいなって(原作から離れるかもしれないけど、私の希望イメージですー) (S)
- 配慮できすぎる横島は原作から乖離するかと思いますので、賛成です。
その辺り、朴念仁萌えを全面に押し出されるとどうかとも思いますが、
そんな事を微塵も感じさせない匙加減が秀逸で良いなど考える私は、我ながら野暮ですね。 (Nar9912)
- しっかりと原作のキャラクターが捕らえられていて素晴らしかったです。
おキヌちゃんはこうでないと! 青春というやつですね。 (アンクル・トリス)
- これをかっこういいって言うと思う春。
男の子の自然体っていいなー。
原作に描かれる事件の裏にこういう事があってほしいなーと思います。
S様、ステキでした。 (ししぃ)
- 初めまして、とおりと申します。
いやー、いいですね。横島、かっこいいです(^^
これでいいのかね?と思いつつも、少しずつ前に進む二人。
なんというか、春ですねえ。 (とおり)
- おキヌちゃんが寄せる想いに気付かない、鈍感さと単純さが実に自然でした。
横島クンってこうだよなぁ…と感じさせられます。面白かったです。 (偽バルタン)
- 上手く言葉を言えなくても、話したい時に、聞いて欲しい時にそばにいる横島クンは十分ツボを心得てますな。
小さな出来事を積み重ねて、横島は更にいい男に成長してもらいたいものです。
おキヌちゃんも可愛くて、こんな風に話せる女の子がいたらいいなぁとか今更ながらに思ってしまいました(笑)
小さいながら素敵なエピソード、お見事でした (ちくわぶ)
- >Nar9912さん
感想ありがとうございます。
相手がおキヌちゃんだったらこういう雰囲気かなって。
もし相手が美神さんだったらこんなに落ち着いていられないでしょうね。
良くも悪くも思いっきり意識してる相手ですし、気を回しすぎて自滅する姿が目に浮かびます(笑)
>アンクル・トリスさん
感想ありがとうございます。
二人らしさがちゃんと出せてたら嬉しいですー。
ちょっとずつ距離が縮まってく感じが青春ですっ(笑)
>ししぃさん
感想ありがとうございます。
自然体、背伸びしないでいられるのはおキヌちゃんも一緒かなって。
今のところ恋人未満ですけど、焦んなくたっていいのさっ(笑)
>とおりさん
感想ありがとうございます。
春ですね〜
最近の皆さんのお話もなんだか春めいてて、私も誘われちゃいました(笑)
>偽バルタンさん
感想ありがとうございます。
何だかんだ言って、横島って恋愛関係には鈍感っぽいですから(笑)
だけどおキヌちゃんにはこのくらいが丁度いいのではないかと。
>ちくわぶさん
感想ありがとうございます。
横島は馬鹿だけど愚かじゃありませんから(どう違うのかはニュアンスで)
ついでに、こんなおキヌちゃんを引き出してくれたのも、やっぱり横島だからだと。
二人してゆっくり育ってけばいいんですよね。 (S)
- よく考えれば、おキヌちゃんの霊能もかなり稀有なものだったわけですな。創刊合えると彼女の心中にはいったいどれほどの葛藤があったのか、計り知れないものだったのでしょうね。
「横島さんじゃなきゃだめなんです」。この一言が、すべてなんでしょうねぇ。彼女にとって、忠夫という存在がとてつもないものを物語っていますね。 (天馬)
- >天馬さん
感想ありがとうございます。
それでもおキヌちゃんが原作の中で笑っててくれました。自分で乗り越えたか誰かに支えてもらったか。とにかく、大丈夫だったんでしょう。
横島のばかはおキヌちゃんだけでなく色んなキャラの精神的支えになってたと思いますー (S)
- 何をするでもない、何を言うでもない。ただ聞いてくれる人。
そんな事を望まれるというのは、たいした事じゃない様に見えて実はとても大きい。
おキヌちゃんの横島くんへの気持ち・・・と言うか、安心感とか心の近さとか、そんなものが感じられて温かい気分になれるエピソードでした。
この横島くんは「単純」とか言いながらも決して鈍感じゃない、色々ときちんと、彼女のその辺の心が伝わってるなあとも思えました。 (フル・サークル)
- >フル・サークルさん
感想ありがとうございます。
凄い大活躍よりも、何気ない日常のちっちゃなことの積み重ねの方が気がついたら心の中で大きくなってたりするかなーなんて思ったりもします。
横島の場合、馬鹿をやってくれる安心感みたいなものもあったりして(笑) (S)
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