ザ・グレート・展開予測ショー

離職願い


投稿者名:S
投稿日時:(06/ 4/21)

「長い間お世話になりました。失礼します」
「ああ……今まで本当にご苦労だったね。次の仕事でもがんばって」
所長の諦めを含んだ返事に少しだけ罪悪感のようなものを感じながら。
手続きは全て滞りなく終わっている。たった今から俺はGSではない、ただの一般市民だ。
「ああ」
事務所を出て、太陽の眩しさを実感する。GSという鎖が自分にとっていかに重かったか。
辞めようとはっきり決意したのは最近。けれど、初めて悪霊を祓ったときから漠然とは思っていたのかもしれない。
次の仕事はもう決まっている。大学時代の友人に紹介してもらった小さな建設会社の総務。毎日定時に出勤。週に2、3度の残業があると聞いた。
きっと退屈な毎日だろう。時には酒を飲んで憂さを晴らすことになるかもしれない。
それでも満足していた。
「俺は結局、命がけの仕事には向いてなかったんだな」
そのことに気がつくまで12年掛かったのは、遅かったのか、それとも、必要な時間だったのか。





「……結局は、戻ってくることになると思うんだけどね」
ぱさりと机の上に先ほどまで部下だった男の書類を重ねる。
GSが過酷な職業と言われているのは、その仕事が危険だからじゃない。
命がけの仕事だったら世の中にごまんとある。
GSは人の業というものにあまりにも近いのだ。医者や坊主よりももっと。
そこから離れるなら、最初の1年で辞めなくてはだめだ。
それ以上は……業に魅入られてしまうから。
誰に言ったこともないけれど、自分はそう思っているし、それは多分間違っていない。

GSに、ろくな死に方をした奴はいない

自嘲を込めてそう囁かれている。本当にその通りだ。人の業に魅入られて、業に塗れて、業で糊口を凌ぐ。まともな死に方ができるわけがない。
ふと、つけっ放しだったテレビから景気のいいCMが流れ出した。
苦笑が漏れる。あのくらい突き抜けていれば、自分たちのように業に囚われることなく風を切って歩けるのかもしれない。羨ましい気もするが、あの生き方を真似できるものでもない。
あいつは、12年この事務所にいた。今更ぬるま湯に満足できるはずがない。
ベトナム戦争当時の帰還兵が、丁度こんな感じだったらしいから。
退職願いに重ねて、復職手続書類とGS資格再発行願を一緒にして、クリップでまとめる。
あれで結構意固地なところがあるから、半年くらいは粘るかもしれない。
昔の自分を見ているようで、何となく可笑しくなった。





「あとはここに印鑑ね」
「……はい」
淡々と話を進める所長に、少しだけ拍子抜けする。ねちねちと何かしら言われるんじゃないかと思って覚悟していたのに。
「再発行は一週間ほど掛かるから、その間は勘を取り戻す意味で助手として着いてきてもらう。それでいいかな?」
君には今更という感じもするけど、半年ぶりだから無茶は禁物だよと所長が穏やかに笑う。
「はい、よろしくお願いします」
開けてあった嘗ての自分のロッカーと机。所長がずぼらなのか、それとも
「まさか、ね」
戻ってくると確信してたなんてことはないだろう。超能力者でもあるまいし。
また、胃の痛くなるような日々の始まりだ。でもそれが自分にはお似合いということだろう。
普通の生活が羨ましいと思いつつも、焦燥を感じることはもうないから。



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こちらでは初めまして。
某所でえっちなのとか書いてるSと申します。

美神さんのような超級GSではない普通のGSのお話。
霊って要するに剥き出しの人間ですから。付き合う方も精神的にきついだろうなーと思って。
TVで流れてたのは、美神さんのCMということで(笑)

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