おかーさん〜今度は令子さん〜
投稿者名:天馬
投稿日時:(06/ 4/19)
かちゃかちゃ、と。
食器の触れ合う音が聞こえる。
それにあわせて聞こえてくるのは、耳に心地よく響く鼻歌。
ママの、綺麗な声。
“おかーさん〜今度は令子さん〜”
「しかし…アンタがこの事務所に一人きりってのも珍しいわよねぇ」
流しの方から聞こえてくるのはママの声。
まったく、水しぶきの激しい音が邪魔なのよ。
ママの声がよく聞こえないじゃない。
………いきなり、何を思うのよ私は…?!
「まぁ、アンタもそこまで鬼じゃないって事なのかしら?」
「あのねぇママ。シロタマはともかく、おキヌちゃんも横島クンも高校生なのよ?」
そんなことぐらいわかってるわよ。
きゅっきゅと、水道の蛇口をひねる音が聞こえて。
奥からママがやってくる。
小さい頃に見て、ここ五年間ご無沙汰だった、戻ってきた家族の光景。
「あぅ?」
一人増えてるけどね。
「どうだか?」
そう言って。
ころころと笑いながらエプロンで手を拭いて。
ひのめを抱き上げる。
シロタマはどこへいるのやら。
おキヌちゃんと横島クンは学校だけどね。
ママ、おかーさん。
事務所の空気も嫌いじゃない、っていうかすごく大好きで失いたくは無いけれど。
だけどそれとは別種の、失いがたい空気。
一度なくしてしまったから、余計に思う。
こういった、ママのいる光景。空気。あったかさ。
「ひのめちゃん、元気でちゅか〜♪ あばばば〜♪」
きゃっきゃと笑うのは、あやされてるひのめ。
この娘には、出来ることならあんな思いはさせたくないあなぁ。
私もあんな思いはもう、したくないなぁ…。
なんだかママがいると弱気になっちゃうわね。
私は、世界最高のGS、美神令子なのに。
ううん。わかってる。本当は、私はいつでも誰かに甘えてるって。
おキヌちゃんに甘えてる。
唐巣先生に甘えてる。
横島君に甘えてる。
そして今は。今だけはきっと、ママにも甘えてる。
「令子。アンタ、なにか面倒くさいこと考えてない?」
かなわないなぁ。
どうしてこっちに考えていることがわかるのかしら?
だけど私は意地っ張りだから。
「別に何も考えてないわよ?」
と答えるのが精一杯。
弱音を吐く美神令子なんて、らしくないしね。
たとえそれが母親の前だったとしても。
「そう? けどね…」
くしゃくしゃ…
「あ………」
唐突に撫でられる私の頭。
あったかい手のぬくもり。
おかーさんのぬくもり。
「たまにはおかあさんにも、何か話してね」
今まで貴女に苦労をさせてた分もね、と最後に付け加えて。
「ひのめもおねえちゃんには笑っててほしいものねー♪」
「あうぅ? あい♪」
ひのめにもふっちゃってさ。
本当にこの娘はわかってるのかはわからないけど。
あぁ、これが家族なのよね。
すっかり忘れてたけど。
あったかいわね。
今の私、どんな顔をしてるのかなぁ?
「ねぇ、ママ?」
「なに?」
「今まで甘えられなかった分。たまには甘えていい?」
「おかーさんにそんなこと断る必要あるかしら」
「ないと思うけど、さ」
「まぁ、アンタは意地っ張りだし? 私も結構ひどいことやったからね。当然か」
「そうよ。これでも、けっこう傷ついたんだから」
「ごめんね。そのぶん、いっぱい甘えなさいな。私は、貴女とひのめのおかあさんなんですからね」
若干苦笑気味に答えるママ。
でもね、そうなんだよ?
やっぱりママはママなんだよ?
ひのめにとっても。
もちろん私にとっても。
とっても大事な人なんだから。
おかーさん。
ママ。
うん、これからはもうちょっと素直になろう
今までの
コメント:
- ツンデレ第二段(爆笑)。それと悪評が意外と多い、美神親子救済SSです(ぇ
「おかーさん」が半ばシリーズとなってますが、一応とおりさんへの御礼もかねたものとなってます。いまさらながらオマージュしていただき、感謝です。ありがとうございました(^^)
美智恵さん。冷徹な指揮官の側面が強いと思いますが、やっぱりおかーさんですよ、彼女は。 (天馬)
- 考えて見れば、原作で一番母性を発揮してたのは、美智恵か、さもなきゃ百合子ぐらいでしたっけなあ。
こう、ふわっと来る日常の一コマを描いたスケッチ的な話は、ワシゃ好きですな。
て事で、賛成票をば。 (臥蘭堂)
- 令子って、やっぱりお母さんっ子でしょうから、こういうシーンもありますよね(^^
ひのめという妹が出来て、女3人和気藹々と仲良く。
ある種、理想だったのではないでしょうか? (とおり)
- こうゆうあったかい話は私は好きです。母としての美智恵さん。いいですね! (寿)
- 優しいなぁ。この雰囲気は。
何かいつもと違う。でも、やっぱり、美神さんは美神さんなんだよなぁって。
らしさはあるけど、でも、時には弱いときもあって。
たまには、甘えてみてもいいじゃない?と、思わせてくれるお話でした。
何か変な感想カナ。ごめん(笑 (veld)
- きちんと娘のことを見守ってあげてた美智恵おかーさんと、ほんのちょっぴり素直で甘えたがりになってる美神さん。
暖かな雰囲気がこちらまで伝わって来て、こちらまで暖かな気持ちになれそうな気さえして来る、そんな家族の風景でした。
シビアな場面と日常の場面の繋ぎ目に、あったかもしれない一コマに思えます。 (フル・サークル)
- 美智恵さんはやはり、素敵なお母さんですよね。
今まで一人で頑張ってきたぶん、美神さんの感じる温かさもまた格別なんだろうなぁと思います。
こうしておかーさんに甘えることが出来れば、彼女ももっと素直になれそうですね(笑)
美神親子に幸あれw (ちくわぶ)
- とても心が温かくなるお話でした。
やっぱり美智恵さんは良いお母さんですね。
美神さんと公彦さんとの微妙な親子関係については原作に(78)出てきましたが、
美智恵さんとの親子関係については無かったので 原作中の1挿話っぽくて楽しく読めました。 (アンクル・トリス)
- 原作時の美智恵は、何よりもまず最初に母だと思います。
原作にある美神の甘え振り、本人が覚えていなくても、美神が幼かった頃はこんな美智恵だったろうと感じました。 (Nar9912)
- 今まさにこの瞬間「ただいまー」と帰ってきちゃった間の悪い横島が、記憶が完全に消し飛ぶまで真っ赤になった美神さんにボコボコにされるという白昼夢が浮かびました(笑) (S)
- オマージュのオマージュ(なんじゃそりゃ?)に多大なるコメント、ありがとうございます(^^)
◇臥蘭堂さんへ
明確な母性を出した数少ない存在美知恵さん。事務所での他愛もない一コマの中にそれらを込め、読み取ってもらえたのなら幸いです。今度は百合子さんか、美衣さんでもやってみようかしら(笑)? ありがとうございました。てか、不発かと思ったら、意外に入りましたね、おじさん(謎)
◇とおりさんへ
令子がお母さんっ子…。ある意味ゆっきーを馬鹿にできないくらいの溺愛ぶりを遺憾なく発揮しましたね、彼女(爆笑)。ひのめという新たなる家族も増えて、今まで失われた(と思っていた)それが復活して、感慨もひとしおだったのでしょうね。理想の家族像…公彦さんは除外ですか(爆笑)
◇寿さんへ
あったかい話との感想ありがとうございます。あったかい話を書けるようになりたいと常々思っていましたので、そういってもらえるとこの駄馬、大変うれしいです(^^) もっとぎらぎらしたものも書きたいのですがね(笑)
◇veldさんへ
やさしい雰囲気が出せたのでしょうか? 最近は優しい雰囲気のSSが多くなりましたがね(苦笑)。いつもと違うけど、いつもと一緒な令子。きっと母親からすれば、いつもと変わらないってのが本音かも。令子さんも自覚してちったぁ甘えれば良いのですがね(笑)。鈴さん、久々にありがとー
◇フル・サークルさんへ
日常の一こまを切り抜いてみました。当初「やっちまったか!?」的なものも思いましたがね(謎)。暖かさを伝えられたのなら幸いです。家族の光景というものは、見ていて本当に微笑ましいものです。まぁ俺は若干わからない部分もありますが(ぉぃ)。ありがとうございました(^^) (天馬)
- ◇ちくわぶさんへ
美知恵さんの救済にはなりえたでしょうか(笑)? 一人で頑張ってきた人にとって、温もりってのはなかなか離し難く、そしてなによりも大事なものなんじゃないかなぁと。ましてや失くしてしまった人なら尚更。いつの日か彼女もその温もりによって素直になれますように…
◇アンクル・トリスさんへ
78の劣化コピーにでも思われたのか?! と戦々恐々としたのはぢつは内緒です(笑)。作者、そのことをじつはすっかり忘れてました(だめ)。原作の中の一挿話としてありそうなどとのお言葉、このGTYにおいてはもっとも名誉なお言葉ですね。ありがとうございます
◇Nar9912さんへ
令子のことをしきりに強くなれと言っておきながら、あの溺愛ぶりは美知恵さん、凄まじいものがありましたな(笑)。なかなか美知恵さんというキャラほど両極端に正確が分けられている存在もGS美神にはなくて。これで少しは救済できたかなぁとか思います。ありがとうございました
◇Sさんへ
間の悪いことで定評のある人間、忠夫。間違いなくやらかしそうですな(爆笑)。そしてそれを見て素直になれば良いのに、とか思ってる美知恵ママの姿も見えそうです。ありがとうございました (天馬)
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