ザ・グレート・展開予測ショー

悪者の証明


投稿者名:照山紅葉
投稿日時:(06/ 4/10)

だから・・・
あの時に決断をしたことは後悔なんかしていない・・・・

ある安アパートの一室で傷だらけの身体を横たえながら

男――――横島忠夫はそんなことを考えていた。

でも、もうあの頃には戻れないんだな・・・・
そうしようと思ったのは自分だし、その結果を招く行動をしたのも自分だ。
無かったことに出来ればどんなに楽だろうか。
尤もこんな結果になるとは全く思っていなかったけど、な。
ただあの時―――ほんの少しだけでも考えて行動していれば少しは違う結末が在ったのではないか・・・とも思うが。


―――――――――悪者の証明――――――――




ここからは目撃者にして仕掛け人でもある彼――人工幽霊一号に語ってもらおう。

只今紹介に預かりました私、渋鯖人工幽霊一号と申します。
あることを契機に現在ゴーストスイーパーである美神令子女史の営む除霊事務所の管理および同事務所の結界管理をさせて頂いています。
最近は皆さん多少は落ち着かれた様で少々退屈しておりましたところです、このあたりで膠着している人間関係に一石投じてみたいな、などと考えておりましたところ丁度よい機会に恵まれましたので・・・
あまり冗長になるのは何ですのでこの辺りで本題に行きましょうか。

あれは昨日のこと。
いつもの様に脱力しそうになるセリフとともに事務所に横島さんがやってきたのです。

「ちわーっす、美ッ神さーん!!今日もキレーッスねッ!!ってアレ?」

挨拶?の対象である所長―――美神令子―の姿が見えないことに今更ながら気づいた様です。

「えっと、確か今日は除霊の仕事も無かった筈だよなぁ」

首を傾げながらそんな事をつぶやいてます。
仕事が無いなら今日彼がここに来る必要もないだろうと思いますが。

「おーい、人工幽霊一号、美神さんどっかに出掛けるって言ってたか?」
『いいえ、外に出掛けるとは伺っていません』

基本的に美神さんは事務所を留守にする時は私に一言声を掛けてから出掛けます。
その事を知っている横島さんの質問は当然でしょう、実際どこかに出掛ける、とは聞いておりませんでしたので。

「ふーん、そっか・・ってことはこの建物のどっかにいるのか・・・・」

ふいに何かに思い当った様に横島さんが声を上げました。

「し・・しまったァァーーーーーーーこーしちゃおれん!」

彼の行動はいつも突然です。流石にあの美神さんに『アイツは煩悩が皮を被って出来ている』と言わしめるだけのことはありますね。
物凄い勢いで事務所を飛び出すとそのままの勢いで外に飛び出した横島さん。
おもむろに右手に意識を集中させ、文珠を生成したかと思うとひとつの文字が浮かび上がってきました。

『吸』

たった今作った文珠を使ってどこかのアメコミヒーローよろしく壁を器用に登っていきます。こんなヒーローは激しく願い下げですが。
そんなことよりもっと手っ取り早く『覗』の文字でも使えばいいと思うのですが。
そういえばそう思って以前、同様に『跳』や『浮』で失敗を繰り返す横島さんにそれを聞いたことがあります。しかし彼はそれに対しこう答えてくれました。

「分かってねーなあ、それじゃあ困難に立ち向かい得られる達成感が得られないじゃねーか。それに直にあのちちやしりを拝みたいってのもあるしな、まあ、『覗』の文字にあんまいい思い出がねーってのもあるが」

一見男らしいことを言っているように思うのですが何か違う気がするのは気のせいでしょうか、それに分かってない、と言われても別に分かりたいとも思いませんし。それより個人的には『覗』の思い出が知りたいところですが。
そんな事を考えているうちに彼は目的地に到着したようです。

「ザーッっていってる、ザーッっていってるってことは・・ぐひひひひっ」

長い髪を洗い流すシルエットを確認すると口から垂れるよだれを拭おうともせずに彼は桃源郷への扉―――実際は窓であるが――に手を掛けました。
この時に違和感に気付いていれば後の結果も変わっていたかもしれませんが。

「ごっつぁんでーーーすっ」

勢い良く窓を開けます、覗くのに勢い良く、というのも良く分かりませんがきっと彼なりのポリシーでもあるのでしょう。






「き・きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」






後に彼はこう語りました

おかしいとは思ったんだ・・・コークスクリューやガゼルパンチはおろか桶のひとつも飛んでこないんだぜ。
いや、実際飛んでこられても困るが相手はあの美神さん、一切飛んでこないのもある意味期待はずれっちゃー期待はずれだし、それにまずあの美神さんがこんな声を上げる、というのが想像付かないよな。

この話を聞いてそこまでの違和感を感じながらもなぜそれを追求しないのか、と
まあそれが横島さんの横島さんたるゆえんなのだろうとも思ったのですが。

恐る恐る横島さんが中の様子を伺う。
そこにはスレンダーな肢体を蹲らせながら耳まで真っ赤に染め上げている黒髪の少女がいたそうです。

まあ、誰が入っているか私は知っていたわけですが。
ああ、私の名誉のために一応言っておきますが私は普段浴室まではモニターしていません、今回は特殊な事情があったので特別に、ですよ。
正直女性の裸体、と言うのにも興味は有りませんし。

サーッと血の気が引くような音とともに


「や・・やっちまった・・・・・」

と言う呟き、ほぼ同時に

「おキヌちゃんッ?どうしたのッ??」

と、この事務所の代表――美神さんが浴室へと現れました。
流石は日本、いや世界でもトップクラスのGSですね、一目で状況を把握します。

「ナ・ニ・シ・テ・ル・ノ?ヨ・コ・シ・マ・クン?」
「は、はひ・・・なんでせうか?」
「アンタ確か『おキヌちゃんにセクハラしたら完全に悪者』だっつってたわよね?」
「た・確かに言いましたけど・・」
「じゃあ、完全な悪者ってことは何されても文句言えないわよ・ねぇ?」
「それは、ちょっ・・美神さん・・それは誤「問答無用!!」」
「のわぁぁぁっ」

鞭の様にしなる神通棍であの小さな窓越しに何度も的確に横島さんにヒットさせるとは流石です。
文珠の効果が裏目に出ている様で横島さんの両の手はしっかりと吸い付いたまま。
私としては建物の外壁に血糊が付くので早いところ離れてほしかったのですがもう意識もほとんど無い様子なので諦める事にしました。
ひと段落ついたのでしょうか、つい先ほどまで横島さんと呼ばれていたはずの何かに美神さんが語りかけます。

「短い間だったけど、楽しかったわ。あなたのことは忘れないから・・・・・極楽に・・・逝かせてあげるわ!!」
「ぐ・・・ぎゃぁーーーーー」

間違えました、引導を渡すために攻撃を止めたのですね。
辺りに響く断末魔、それじゃあ悪者じゃなく魔物ですよ、横島さん。
それと同時に文珠の効果が切れ、それは万有引力の法則に従ってまるでゴミクズのように母なる大地へと還っていきました。『くちゃっ』っ言う音と共に。

「おキヌちゃん?大丈夫?」
「え・・?あ・・え・・・あ、は・はい」

バスタオルを彼女に優しく掛けながら美神さんが声を掛けます。
未だに彼女は状況を把握し切れていない様でしたが。

「ショックなのは分かるわ、忘れろって言っても忘れられるもんでも無いと思うけど、今回のことは犬に噛まれたとでも思って・・・ね?」
「あ、はぁ・・・で、横島さん・・は?」

先ほどの激しい攻防?すら意識の外だったのか、それはそれで凄いと思う。
呆れた様子で美神さんが答える。

「はぁ、安心していいわよ、もう私がきっちりととっちめておいたし今頃三途の川でも渡ってる頃じゃないかしら?」

まあ、アイツに六文の銭が払えるかどうかはわからないけどね、とも

「でも・・・ちょっとやりすぎじゃないですか?」

思いがけない抗議の声に驚きの表情を浮かべるがすぐに切り返す。

「分かってるの?アイツはおキヌちゃんを覗いたのよ?前にアイツ自身が『おキヌちゃんにセクハラしたら完全に悪者』だって言ってたじゃない、アイツは何されても文句は言えないのよ!!」

「でも・・覗いただけじゃないですか・・それに・・びっくりはしたけど、そんなにイヤじゃ・・・」

と未だに少し朱く染まった顔で返答を返す、語尾はほとんど聞こえなかったのだが言わんとすることは必要以上に伝わって来る。

ピキッ

そのとき私は確かに空気にヒビが入るのを聞きました。

「へ、へぇ〜?おキヌちゃん?ちょおっとそのことについてじ〜っくりと話し合いしたいから、着替えが終わったら事務所まで来てくれる?」
「は、はぃぃっ」

先ほどまでの赤い顔が嘘のように青くなっていくのが分かります。
正直な話、この話し合いにも興味があるのですがとりあえず視点を外へと移すことにします。

もぞもぞと動くそれは次第に人の形に成って行き・・・・

「あー、死ぬかと思った」

とのたまった。確かにあれで死なないのは凄いがその一言で済ませてしまうのはもっと凄い。
さて、と服に付いた土ぼこりを払い彼はこちらの、といっても建物全体を眺めて、

「どーせ見てるっつーか見てたんだろ?人工幽霊一号」

と問いかける。
こちらとしても隠す理由も無いので返答を返す。

『ええ、すべて見ていましたが』
「っつーかお前は俺がおキヌちゃんを覗かない事にしてるのは知ってるだろ?おキヌちゃんがシャワー浴びてるの知ってんのなら何で教えてくれんかったんだ?」

『聞かれませんでしたので』

と予め用意してある回答を返す。

「って言ってくれてもいいじゃねーか」
『余りに咄嗟の出来事だったのと、少し考え事をしていたものですから』
「じゃあ、あの時美神さんは何してたんだ?」
『何か鬼に関する資料を探していた様ですが、
もしお疑いなら記録をご覧になられては如何でしょうか?確認して頂ければ分かるとは思いますが私は何ひとつ嘘は言っていませんし、やましいところもありませんから』

それを聞くと彼は追求を諦めた様にため息をつく。

「まー、俺がおキヌちゃんを覗いたのは事実だし正直いーもん見れたって言やあそうなんだが、それだけじゃすまんだろーなぁ」

これからの事務所内での立場がさらに下がることを懸念している様子が手に取るように伝わってきます。
最悪クビなんじゃなかろーかとか呟いていますが私が見立てたところそれはまず無いように思えますが。

『クビは無いと思いますよ、ただ減給の可能性は否定できませんが』

と、気休めなのかある意味止めなのか分からない言葉を掛けた。

「サンキュー、気休めでも有り難いよ」

とりあえず、今日のところはもう帰るわ、と言ってとぼとぼと帰途につく。

それを見届けた後、意識を事務所に切り替える。

「そこまで言うなら止めないけど・・・・後悔しないでよ?」
「はいっ」
「私は本気だから、ね」
「私も本気、ですから」

「じゃ、今日からは「ライバルね」ですね」

しょうがないわね、と言いたげな表情の美神さんと、
それとは対照的に決意に満ちた表情のおキヌちゃん。
どうやら『話し合い』はすでに終わってしまったようだ。

横島さんの給料は?それともクビに?二人のライバル宣言は一体?
私はこれまで通りに静かに3人の人間模様を見ていこうと思っております。
さて、私の話はここまでとなります、長々とお付き合い頂き、誠に有難うございました。ここからの物語は未だ予測も付きません、ただ一つだけ、私の希望が多分に含まれますが、どのような結末だったとしても、きっと皆笑顔で迎えることでしょう。
なぜなら彼等――美神令子、横島忠夫、氷室キヌは―――
最高の“チーム”なのですから。





こんな結果になるとは全く思っていなかった
すべて自分が招いた結果だったとしても
一つだけ、言わせてくれないか?




「俺は美神さんを覗くつもりだったんじゃーーーーーーーーーーーーーーーー」




                         ―――――――――了

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