ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(41)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/ 2)

『こちら、埼玉県警派遣の第三班。県境にて結界の展開準備、完了しました、どうぞ』
『こちらは山梨県警。結界展開装置の準備を完了。発動段階での予定出力は八十パーセントで調整中。どうぞ』

「・・・了解。展開のタイミングはこちらで追って指示します。そのままの状態で待機願います。どうぞ」
(・・・対アシュタロス戦の装備を、こんなにも早く再使用する事になるとは・・・)
通信機から流れ出るように次々と送られてくる報告を聞き、それに返事を返しながら西条は、何とも複雑な気分で眼下に広がる奥多摩の深い森を見渡した。
マリアが教える座標に従って加奈江を追う道筋で行き当たった、切り立った小高い崖の上の空き地。
マリアが上空から送ってくるデータに従い、どうにか車が走れそうな道を選んでの追跡は半時間ほど続いたが、崖に行き当たってしまった以上、パトカーでの追跡は出来ない。来た道を戻って別の道を探して追いかける暇は無いし、かと言って、車並みのスピードで飛ぶ加奈江を足で追うわけにもいかず、行き詰まった西条達が考え付いたのは、加奈江を閉じ込める巨大結界の展開だった。
唐巣が作る『神』の結界を、アシュタロス戦で使った人工結界発生装置で補強・増幅。奥多摩に接する埼玉・山梨県警の協力も呼んでの、半径数キロに及ぶ巨大結界の展開である。
皮肉にも、以前のアシュタロスの騒動が役に立ったのか、東京都警察を通して「オカルト絡みの事件だから」と協力を要請すると、各県警はすぐに東京都との県境に人員を派遣して、結界発生装置を設置してくれた。
得体の知れないオカルト絡みの犯罪者を自分達の県に入れたくない、と言うのがその速やかな対応の本音かも知れないが、ありがたい事には違いない。
西条は、手元の地図でもう一度地理を確認すると、マリア達からの通信を待っている令子に尋ねた。
「令子ちゃん。マリア達からの連絡は?容疑者の位置をもう少し特定したいんだが」
「まだよ。容疑者はこちらの追跡を振り切るために、魔力を抑えて低空飛行しているみたいね。おまけに霊波探知機は使い魔を使って撹乱されているみたいだから、サーモセンサーと赤外線スコープ機能を使って上空から地道に探してるみたい。シロ達も、それらしいものは感じるけど、はっきりとした特定はまだみたいよ」
「そうか・・・」
「・・・でも、どうせすぐ捕まえるのは無理なんだから、さっさと結界を展開しちゃった方が良いんじゃない?広い結界を作って閉じ込めておいて、徐々に範囲を狭めていけば・・・」
「いや。結界発生装置の力を使用するとは言え、結界の要は神父が放つ神聖なエネルギーなんだ。もう少し範囲を特定してからでないと、唐巣神父に負担がかかり過ぎる」
手っ取り早く、かつ確実な方法を述べる令子に、そう答えて首を横に振る。
しかし、そう答えて令子の案を退けた西条の後ろから、唐巣は聖書を片手に進み出ると、穏やかな笑顔で言った。
「私なら構わないよ。準備は出来ている。早く結界を展開すればするほど、容疑者を確実に逮捕できるんだからね」
「し、神父!?しかし・・・」
「私を心配してくれるのは嬉しいが、早く容疑者の行動範囲を限定しないと。エミくんが、一人で追いかけて、とんでもない所まで行ってしまうかも知れないよ?」
「!!そーだわ!!あのバカ、ヘッポコ運転のくせに白バイなんかでこんな山の中を・・・!」
唐巣が冗談めかしに言った言葉の中身から、白バイを駆って、真っ先に森の中へと加奈江を追って突っ込んで行ったエミの事を改めて思い出し、令子が憎まれ口を叩く。
二輪の方が小回りが利くので、パトカーでは入れない道を通って加奈江を追いかけているのか―――今、崖の上に集合している面々の中にエミの姿は無く、一人で突っ走って行ったので通信機を持たせる間も無かったため、今現在、エミがどう行動しているのかは、全くわからない状態が続いていた。
「ったく、どこまで追っかけてるのか知らないけど、マリアやシロ達が探知できない相手を、あいつがそう簡単に探知出来るわけないじゃない!!全く、勢いで突っ走るんだから・・・」
「ほらね。美神くんも心配しているようだし・・・」
「ちょっと先生!!私は心配してるんじゃなくて、あの色ボケ女のアホさ加減に呆れてるだけよ!!」
「まあまあ美神さん、落ち着いて・・・」
「ホント、素直じゃないっスねー」
「おキヌちゃんも横島クンも、何笑ってるの!!誰があんな女の心配なんか・・・!」
「・・・・・・」
『心配なんかしてない』と言い張りつつも、微妙に動揺して赤くなっている令子の、不機嫌そうな表情から感じ取れるものが何かは明確である。
そんな令子の、昔と変わらない意地っ張りで不器用な様子を見て、西条は、こんな時だと言うのに何となく微笑ましい気持ちになり、令子に向けて軽く微笑んでから、唐巣の方に向き直ると言った。
「・・・そうですね。彼女がどこまで行くか、心配ですし・・・それじゃあ神父。お願い出来ますか・・・?」
「・・・・・・」
西条の言葉に唐巣は無言で、優しい穏やかな微笑で答える。
そして、その次の瞬間にはもうキュッと目元を引き締めて崖の端に向かい―――足元に広がる広大な森を見据えると唐巣は、左手に聖書を乗せ、右腕はまっすぐ前方に掲げて手を開くと、穏やかな、しかし、腹の底から力を込めて発した力強い安定感のある声で詠唱を始めた。
「―――主よ、精霊よ。全能なる父、永遠の神よ!!主の与えたもうた平穏の大地を汚す悪霊を戒めたまえ―――!!」



「・・・結界・・・!?」
奥多摩の、西条達がいる場所からは離れた森の中。
バイクを駆り、加奈江を追って、道無き道を全速力で突っ切っていたエミは、ふと、頭上の夜空が光の網のようなもので覆われていくのに気づいて、バイクを停めた。
(清浄なエネルギー・・・て事は、唐巣のオッサンの結界?)
周囲の、かなりの広範囲をドーム状に覆っていく結界の光を見ながら考える。
いくら唐巣神父とは言え、これだけの規模の結界を一人で張るのは不可能だろうから、おそらく何かの補助を利用しているのだろうが―――
「・・・何にせよ、結界が張られたってのは都合が良いわね。聖なる結界の中じゃ、魔物のあの女は気配が浮いて感じられるものね・・・」
魔物でも、余程上手くやれば聖なる結界の中でも完全に気配を隠す事が出来るが、いくらあの女でも、そこまでは出来ないだろう。
「それに何より、結界が消えない限り外に出られないんだから―――範囲が限定できるってのは、かなり有利になるわね・・・」

「―――そうね。・・・本当に、嫌な事をしてくれたものだわ・・・」

「―――!!」
範囲が限定できるのはかなり有利だと、思わずほくそえんだ直後―――
意外なほど近くから聞こえてきた女の声に、エミは一瞬驚き―――そして、すぐに不敵な笑みを浮かべると、バイクのライトを消し、シートから降りてブーメランを構え、数メートル先の木陰を見据えた。
「・・・そんな所に隠れてたワケ?・・・正直、ちょっと驚いたわね。気配を隠すの、上手いじゃない・・・」
「・・・貴方もね。気配を隠して私を追っていたんでしょう?私の方も、接近するまでわからなかったわ・・・」
ざり、と、小石の混じった粗い砂を踏む音がして、満月の光の中に、黒髪の女が姿を現す。
ちょうど深夜で月の位置も高く、脳天から月光を浴びている加奈江の黒髪は、俗に言う『天使の輪』のような感じで艶々と輝いているが、上から光を射し込んでいるために、顔の方は前髪の影になっていて、やたらと暗く見えた。
自分の方も少し俯いているので、相手の目には同じような感じに映っているだろう。
静かに顔を上げると、加奈江の方をまっすぐに見つめる。すると、加奈江もほぼ同時にエミの方を見て―――
・・・次の瞬間、二人の足元に、ほとんど同時に土煙が舞った。

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