鋼鉄の母娘 下
投稿者名:照山紅葉
投稿日時:(06/ 4/ 8)
「小僧、『器』の調子はどうじゃ?」
「順調、と言うかもう『ソフト』を入れるだけですよ」
専門じゃないんであまりわかっていないんですけどね、と笑いながらピートが答える。
ここでいう『ソフト』とはもちろんマリアのコピーである。
実際のところ、コピーの作成自体は既に終わっており、
記憶の消去やら性格の設定やら『命令の優先順位』設定やらの
『調整』作業が難航していたのだ。
どっかの偉いさんが話を聞きつけて、やれメイドさんバージョンを作れ、語尾に『にゃ』を付けさせろだので色々、本当に色々と苦労したのだ、まあ実際苦労したのは研究員達なのだが・・・
紆余曲折ののち、完成したのは3バージョン
マリアの性格を基とした女性バージョン
いわゆるノーマルな男性バージョン
偉いさん推薦メイドバージョンにゃ(おい
もちろん今回は実験なので使用する『ソフト』は最も変更点の少ないマリアバージョンである。
『器』は以前暴走したテレサの資料を基に作成しただけあって対霊兵装、銃火器共に充実している。
当然、各種札類は実験への影響を考慮し外してあるし、弾も抜いてあるので安全面は問題ないだろう。
「それでは、『ソフト』のインストール開始お願いします」
「了解、インストール開始します」
ピートの指示でインストールが開始される
対心霊汚染用のスーツを着込んだ作業員が最新の設備には似つかわしくない三本のレバーのうち、左側のものを引き下げる。
『最後はやはりボタン操作などと言う味気ないものではなくレバー式でなくてはならん』
と言うカオスの持論によって決定されたものだ。(解らなくは無いが
ラボの全体に霊気の嵐が巻き起こる。
キィィィィィィィィン
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
霊気の共鳴する独特の音と地鳴りが次第に大きくなっていく。
マリアやテレサの霊体を合成したときのものとは比べるべくも無いが生命の誕生はやはり感慨深いものがある。
「いよいよじゃぞ、マリア」
「ドクター・カオス・マリア・質問が・あります」
「ん、何じゃ?」
「『彼女』・達は・マリアの・弟妹・ですか?」
「ふむ、奴らはテレサと違いマリアのコピーをいじったもんじゃからなぁ、弟妹とも言えんことも無いが・・」
どちらかと言うと
「子供、ですよね」
と隣でピートが答える
「うむ。」
「マリアの・子供?」
本来なら子孫を残すことの出来ない彼女だが現在、目の前で繰り広げられている光景は紛れも無く
『マリアから生まれたマリアで無いもの』
が形を得る瞬間である。
それが子供でなくて何なのだ?
今回のことに当たってはマリアに辛い思いもさせてしまった。
霊体とはいえ一部が肥大し、なおかつそれを分離させるという工程は図らずとも妊婦が出産するのを連想させる。
霊体に干渉された事で少なからず体調―と言ってもいいのか―に影響も出ただろう。
そんなマリアのことを考えると弟妹よりもやはり “子供”という表現の方がしっくり来る様に思える。
プ・シュゥゥゥーーーーー
インストールが終了したようだ。
先程までの嵐が嘘のように収まっていく。
未だ名前のないマリアの娘は静かに眼をひらいていく。
どこかテレサを彷彿とさせる切れ長の眼と整った形の鼻。
辺りを確認するように見回した後、まっすぐにこちらの方を見据えている。
立ち上がり、ゆっくりとこちらのほうに向かってくる。
やがてわし等の目の前で立ち止まった。
テレサの時は起動直後にカマされたのだ。
今のところ暴力的な素振りは無い、実験は完全に成功である。
かに思われた。
あの一言を聞く迄は・・・・・
つい、とスカートの裾を持ち上げながら
にっこりと笑顔を見せつつその口から初めての言葉が紡がれていく。
「大旦那様、お母様、おはようございますにゃ♪」
「「「「だぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」
コケた、そりゃあもう盛大に
どこかの上方お笑いなんぞ比較にならん位にコケた。
「間・・間違えちゃった・・・・・・・てへっ」
ぎりぎり残っていた気力をふりしぼりレバーを下げた作業員の独白が聞こえた。
貴様のせいか、コレは。
まあ、こやつは後で周囲の連中にぼこぼこにされるだろう。
隣でピートがブツブツと何かつぶやいている。
「大丈夫だ・・・実験は成功したんだ・・・ただちょっと間違えただけなんだ・・・うん・・・大丈夫だ・・・・唐巣神父・・・・大丈夫ですよね・・・はい・・僕は大丈夫ですよ?・・・・」
ふむ、かなりいい感じに壊れておるな。
見えない神父と会話を始めてしまったようなので放っておくことにする。
ショックなのはわしも一緒だが自慢ではないが打たれ強さには自信がある。
すぐ横で壊れているピートを横目にマリアに問いかける。
「どうじゃ?自分の娘に名前を付けてみては?」
「ドクター・カオス・マリアが・名前を・付けて・いいですか?」
「まぁの、マリアの娘じゃし誰も文句は言わんじゃろ」
正確にはショックで誰もそんな事どころでは無いだけなのだが。
暫く考えた後に顔を上げ、
「決まりました・ドクター・カオス」
「よし、じゃああの娘に教えてやるがいい。誰よりも早く、な」
「イエス・ドクター・カオス」
件の娘はにゃーにゃー言いながら所在無さげにしている。
「・・・・・・・・・サリア」
「にゃ?」
「あなたの・名前は・サリア・です」
「サリア?・・・・・私は、サリア?」
「イエス・あなたは・サリアです」
「ほほう、マリアとテレサを合わせた、と言う訳か」
「イエス・ドクター・カオス」「大旦那様」
「っと大旦那様はやめとくれ、どうにもこそばゆいのでな。ドクターカオスでいいわい」
「分かったにゃ、どくたーかおす」
「うむ」
コートの埃を払いながら
「さて、とっとと帰るとするかの・・・」
「イエス・ドクター・カオス」
「にゃ」
種は撒いた、もうここにいる必要は露ほども無い。
彼らはこれから今回のデータと霊体を基に計画を進行していくだろう。
しばらくすればマリアの子供たちが世界中に広がることになることは想像に難くない。
その時こそわしが莫大な財と名誉と共に知識を得る事になるじゃろう。
思えば永かった・・・・
錬金術を志し850年、本ッ当に永かった・・・・
「マリア、サリア、今日は宴じゃ、わしの成功と新しい家族の歓迎のな!!」
「イエス・ドクター・カオス」
「はいにゃ、どくたーかおす」
満面の笑みを浮かべた父と娘を表情を浮かべることの無い彼女は今まで感じた事の無い感覚と共にいつまでも眺めていた。
もしその時の彼女の表情を見たものはきっと
慈愛に満ちた聖女を彼女の中に感じた事だろうことを追記しておく。
鋼鉄の母娘――――了
蛇足
今回の失敗を受けてピートの昇進は50年程遅れることになった。(計画自体は成功なのだが成果をカオスに持ち去られてしまった責任をとって)
プロジェクト自体は進んで行ったのだが量産体制に入るまでには同じく50年程の歳月が掛かる事となる。
と、言う訳でドクターカオスの成功までには900年の歳月がかかることになるのである。
「家、家賃が払えーーーーーーーーーーーーーーーーん」
「わしの猫メイドロボットはどーなったんじゃーーーーーーーーー」某偉いさんの叫び
終われ
今までの
コメント:
- 後書きのようなもの
テレサの顔で「にゃ」って言うんですよ?(落ち着け
今回の始点は最終回、マリアのコピーはどうやってつくるんだろうか?
と言うことから始まりました。
原作内の設定、事実を基に書いてはみたものの正直皆さん納得していただけるか不安です。
これはカオスは知らんだろうという猿神、チューブラー・ベルは原作終了後に誰かに聞いた事にして下さると有り難いです。
式神は何となくカオスなら知ってるだろーな、と(おい
魔族、神族に近い、と言うのは「適当な陰の気があればそれを核にして・・・」
と言うアシュタロスのセリフから、流石のカオスも完全な無からマリアを作ったんじゃ無いんだろーな、って(ここは突っ込み禁止でどうか
説明が多過ぎるのは正直済みませんです。
なんかどんどん長くなっていって収拾付かなくなってしまいました。
で、この後に最終回の夢に続く、と言う展開です。
展開予想として有りなのか?補完として受け入れていただければ幸いです。 (照山紅葉)
- 最終話のバジリスク(だったっけ?)に至るエピソードですね。
レバーを間違えた研究員はいい味を出してますね。絶対わざとでしょう。
オチは納得いくんですけども成果をカオスに持ち去られてしまったというのはよくわかりませんね。カオスかマリアが渡さなかったんでしょうか?本人が納得しなかったんでしょうか。カオスは「種はまいた」と言ってますが、魂のオリジナルがないと開発は先に進まないでしょうからカオスの目的のためにも最低限サリアを残していくと思うのですがどうでしょうか。 (橋本心臓)
- 橋本心臓様
>魂のオリジナルがないと開発は先に進まないでしょうから
実験開始の時点でマリアから分離された霊体自身とマリアの人格データを基に作成された3タイプの自我を持つ霊体が存在していますので、サリアがいなくとも残り2体から人格データはロード出来ます。それに元々サリアの人格データは某偉いさんの我侭で開発された物なので別に無くともかまわないかな、と。
カオスはきっとすべての人格データ作成時に最も基本的な部分に優先順位等の設定をしたんだと思います。で、Gメンの研究所側もそんなに馬鹿ばかりじゃないと思うのでマリアの人格データのバックアップ自体もとってあるんじゃないかと。っていうかそれくらい記録しておいてくれないと相当アレな組織になっちゃうんじゃないかと、まあ、私の表現力と説明能力が低いだけかもですが。成果って言うかデータや霊体はGメンが持ってます、カオスが持っていったのはサリアだけですので誤解されないうちに(もう遅いか?)書いておきます。
最後になりますが賛成票有難うございました。 (照山紅葉)
- 聖母と同じ名を持ちながら、母性を得るには最も遠い所にいるのが、アンドロイドマリアな訳ですが、成る程、こういう持って行きかたもあるんですなあ。いや、感服しました。
所で、この頃のカオスって、一体誰に家賃払ってるんでしょうか(笑) (臥蘭堂)
- 絶チルの薫ちゃんの『にゃ』のあとに読んだので
この萌え系の『にゃ』はどうなのかなーとか。
椎名先生の世界との融合に正直微妙な違和感は感じたのですが
まあ、お約束とその崩壊は椎名先生の味ですもんね。
マリアの心の機微が伝わって楽しかったです (ししぃ)
- 返レス
臥蘭堂様
後書きのようなものでも言いましたとおり出発点がコピーの作成法だった訳で、当初意識していなかった臥蘭堂様曰く「マリアの母性」をも書くことが出来、図らずともいい話に(汗 家賃はきっとまた安アパートでも見付けて住んでるんじゃないでしょうか?一戸建ては考えられないし公園に住んでるのも何かイヤですし、老人ホームはある意味永遠に定住出来そうなんでホーム側に拒否られそうな気が(笑い)
ししぃ様
お約束をつくりそれをどうやって崩すか、と言うのはやはり難しいですね。下手するとお約束どころか話し自体が崩壊しますから、仰る違和感ですが確かに感じておりました、白状しますと後書きの最初の言葉で無理やり自分を納得させて(誤魔化しての)の投稿です。ものを書き、それを読んでもらう場に出す以上は少なくとも自分が納得出来る物にしたいのですが・・・はい、力不足ですね、精進いたします。最後に、楽しんでいただけたようで幸いです。
投稿後に自分で気付いたこと
誤:明神山 正:妙神山
霊破片(霊体)は培養が出来ることに気付く(KC23、24収録サバイバルの館より)、マリア辛い目に合わなくても良かったジャン (照山紅葉)
- あははは・・・、楽しませていただきました(^^
マリアの母性、カオスのボケ、ピートの結局3枚目、とありがちな、でも新鮮なお話に、ついつい笑いがこぼれました。 (とおり)
- レス返し
とおり様
賛成票有難うございます。
極楽大作戦の成分解析結果 :
極楽大作戦の92%は宇宙の意思で出来ています。
極楽大作戦の5%は嘘で出来ています。
極楽大作戦の2%は大阪のおいしい水で出来ています。
極楽大作戦の1%は鍛錬で出来ています。
と言うことらしいんでありがちなお約束は宇宙意思の仕業です。
新鮮さは大阪のおいしい水から(えー?
カオスのボケといえば、この作戦が成功した暁にはカオスは世界征服も可能な状況になるんですよね、それに気付かないカオスに乾杯(おいしい水で (照山紅葉)
- 私はにょを推奨(ry
マリアの子供。というところに、言いようの無い感動を覚えました。
アンドロイドが望むべくも無いコト。何か素敵やなぁ、と。
文章のかるぅい感じが、椎名作品の『らしさ』を持っているように思えて、私はその意味でも楽しく読ませていただきました。
とりあえず、私は作業員A(仮名)を褒めてやりたい気持ちでいっぱいです。よくやった、お前は本当に良く頑張った!(まて)
サリア、とぱっと聞いてテレサを想像しえなかった私はテレサへの愛が足りない、と感じました。支離滅裂な感想で申し訳ないです(土下座) 面白かったです! (veld)
- 原作のラスト、パシリスクシリーズ生誕の隙間を埋めるエピソードですね。しかし爺…狡猾な説得をしおってからに(笑)。
このようなお話もありでしょうねぇ。あまり重たくないマリアとカオスのお藩際という着眼点に、ほほえましく読むことが出来ました。面白かったです
次回作も期待しております。お疲れ様でした (天馬)
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