ザ・グレート・展開予測ショー

鋼鉄の母娘 上


投稿者名:照山紅葉
投稿日時:(06/ 4/ 8)

「さてと、とっとと帰るとするかの・・・」
「イエス・ドクター・カオス」
「にゃ」
―――――――――――――――――――――――或る老人と妙齢の女性達の会話より。


―――――鋼鉄の母娘―――――


あの天地はおろか、魔界まで巻き込んだアシュタロスの事件から約150年、
オリンピックが75回繰り返されても何が変わると言う訳でもなく
車は相も変わらず地べたを走り、わしは変わらず貧乏だった。
あの頃の様なやかましい連中は周りにはいなくなったがな。
まあ、この吸血鬼・・半分だけじゃが・・の小僧は別じゃが・・・
とにかくわしは貧乏だったんじゃ


「小僧、今何と言った?」
「はい?ですからこのデータをコピーして・・・」
「そっ・・・それじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


机・・・いや、ちゃぶ台の上をひっくり返すかの様な勢いでこの部屋の主、ドクターカオスは絶叫した。

「だ・・・大丈夫・・・ですか?」

と金髪碧眼の青年が『ついにこの時が来ちゃったか』と言わんばかりの生暖かい目と形ばかりの心配するセリフを放ってくる。

「わしはまだボケとらん!!」

確かにすっきりしとるとは言い難いが今朝食ったもんくらいは覚えとるしな

「ってそんなコトはどーでもええからちっとこっちに来んか」

たった今思いついたアイデアを小僧―――ピートに聞かせてやる。

「・・・でな、マリアを・・ーしてな・・・に・・・するんじゃ」
「ということは・・・が・・・になって・・するってことですか?」
「ま、大体その通りじゃな!!」
「ですが、以前横島さんに聞いた話ですと厄・・・と作った・・・が暴走して大変だったみたいですけど?」

100年以上前の記憶を呼び起こしながらピートが質問する。

「くっくっく・・・甘いのう、そんなコトは150年前にとうに解決しておる、このアイデアの素晴らしい所はな、そこでは無くな・・・」

150年前という霞が掛かったような記憶を根拠にかつて『魔王』と称された老人が自信満々に答える

「なるほど、それならば納得は出来ますが・・・本当にうまく行くんですか?」

ふむ、思った以上に堅物じゃのう
しかしわしも伊達に850年も生きとらん、こやつに有効な説得は・・・・
泣き落としと正義感、それに師弟愛、じゃな

「なぁ、ピートよ・・わしは普段からお主の仕事を手伝ってやったりもしとるし(実際はバイトとして主にマリアが)
たまにはメシも喰わしてやっとる(ピートの持ち込み、主にカオスが喰う)
こんな老人のたまの我侭くらいは聞いてくれても罰は当たらんと思うがのう?
お主は人々の悩みや望みを聞き、助力となるべき聖職者じゃ無かったのか?
成功すれば霊障に苦しむ多くの人々の為にもなるのじゃぞ?
それで無くともお主は師匠に何を教わっとったんじゃ?
それに失敗を恐れていては何も出来んじゃろ?」

反論の隙を与えずに畳み掛けるように説得に掛かる。

それが終わるかと同時にピートの脳裏に艶やかな光を振り撒きながら柔らかに笑う師匠の顔と共に彼の最後の言葉が浮かんだ
『みんな・・仲良うせんとあかんよ・・・』

いや、これじゃない

『これからは君らの時代だ、みんなのことは頼んだよ』

「そうか・・・また僕は自分の限界を決め付けてしまっていたのか・・・
柔軟な発想と前に進む勇気・・・、カオスさん!!僕が間違っていました!!!」
「うむ!!分かってくれたか!!」

ガシィッ!!

漢と漢が分かり合った瞬間だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ピートは少々疲れていた。
彼は現在、オカルトGメンの中でもそれなりの地位にいる。
元来のヴァンパイア・ハーフの能力と共に生真面目な性格が加わり、
周囲の人望も厚く、次期の日本の支部長へと推す動きも少なからずあり、
本人もそれを自覚しているのか最近は一段と精力的に仕事をこなしている。
それはいい、むしろ望んでやっていることだ。

しかしどこにでも妬みや嫉み・・・いわゆる足を引っ張ろうとする輩は居るのである。

只でさえ人外の存在であり、それに加えて仕事が出来る、人当たりも良くて何より美形でモテやがる、唯一の欠点が音痴?ふざけんな
奴のせいで血の涙を流した男がどれだけいたことか?
てめーだけが幸せになるなんて冗談じゃねーぞ!
足を引っ張るのは当然、いや、引っ張らいでか!!(私見は全くございませんよ?)
どこかのクラスのメガネくん達よろしく、そんな声がそこかしこから聞こえてくる。

長いこと生きているとそれなりの処世術、と言うのは身に付くがそれでも鬱陶しいことには代わりは無い。
面と向かって言ってくれるのならば対応の仕様も有るのだが向こうにも立場、という物があるらしい、
そんな連中は大概の場合、本人の居ない所でしか文句を零さない。

と、まあそんな連中への牽制として今回のカオスの申し出は正直有り難い物だった。
もし成功すれば彼らも表立った行動は抑えるだろうし、失敗したとしても貴重なデータをとることの出来るこの試みは素晴らしいものになるだろう、と。
なにより少なくともこの計画に集中している間は周囲の雑音に悩まされることも無くなるだろう、という算段だ。
悠久の時を共に過ごすことが出来る存在が増える、
ということも正直うれしくないと言えば嘘になる。
ただ、あのドクターカオスの提案だ、と言うのが少々引っかかるが。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Gメンの協力の下、研究、開発と作業は順調に進行し、大詰めを迎えていた

カオスはマリアを傍らに置き、一人、研究室で今回の事に思いを馳せていた。
長かったのう・・・

前回の失敗の原因ははっきりしている。
前回、つまりテレサの時は新しく魂を作成しようとしたのが失敗だったのだ。
マリアのときと同じ工程を経れば同じものが出来るという方がどうかしておったのだ。
只でさえ不安定な魔力、霊力を使用するのである、成功する確率のほうがはるかに低いのは自明の理ではないか。
それを制御しようとすればどこぞの坊主の文珠でもない限り不可能じゃ、おこがましいにも程がある。

何も無いところから新たな生命を創り出す事は高位の神族か魔族にしか許されてはいないことである、いくら不死とはいえ只の人間である自分がそれを成功させたことは奇跡といっても良いであろう。
最も天才にしてヨーロッパの魔王と呼ばれた自分以外には可能だとも思わないが。

となるとどうすれば良いか?
ココが今回のアイデアの素晴らしい所じゃ。
そう、発想を転換すればよいだけじゃ。

例えば素晴らしい絵画が有り、かつそれをもう一枚手に入れたいと思ったとき
お主ならどうするかね?
そう、もう一度同じ物を描けば良いのだよ。
ただし、同じ物が描けるとは限らんがね。
質感にこだわらなければコピー機にかける方が手っ取り早いのだよ。
この方法ならば元の絵が手元にある限り一枚とは言わず、何十、何百枚もの絵が手に入る。
理解してもらえたかのう。
つまりは、そういうことじゃ。

“マリアの人工霊魂をコピーする”

とまあ、簡単に言えばそれだけだがこのわし以外には誰も思いつかんかった、天才であるこのわしにして初めて出すことの出来るアイデアであろうな。
正確に言えばコピーではなく、便宜上コピーと呼んどるに過ぎん。
具体的な方法としてはマリアの霊体を増幅し、霊的な過負荷を掛ける、横島やあの魔装術の小僧が明神山での猿神との修行で体験したというアレじゃな。
そして過負荷を止めれば余剰部分が発生し、その肥大部分を分離させるのだ。
美神の嬢ちゃんの父上がそれを体験したらしいがな。
もともとマリアの霊体は人間よりも魔族や神族に近い。
分離した霊体の加工も同様に増幅、過負荷で望みの大きさにした後、必要量だけ分離して一定特性を付与し使えばいいのだ、これは式神の技術の応用じゃ。
錬金術というのは決して万能ではない、数学や科学の様に実験や証明を繰り返し、その上で新たな発見や成果が出るものなのだ。

ボディは市販されているものを流用すればよかろうな。
某国の先○者でもなんでも使えばよい。
必要なのは器であるボディが取り憑きやすく動かしやすいものであるいうことじゃ。
渋鯖人工幽霊壱号を思い浮かべてもらえば分かると思うが、
大体そんな様なもんと思っててくれればよい。
ソフトさえあればハードなぞどうでも良いしもっともわしの最高傑作であるマリアに勝るものなど作れるもんでも無かろうしな。
ふむ、確かテレサの設計図が残っておったな・・そいつを使うのも悪くない。
先○者よりは見栄えがよかろう。

完成した後はGメンで実験的に運用してもらえばよい。
有用と判断されれば本格的に配置され、パテント料が大量に入って来る事になる。
用途も心霊、軍事、家事手伝いと多岐に渡らせる事も可能である。
まさに揺り籠から墓場まで、という訳じゃな。

そして今回最も重要なのはここからである
暴走の対策―――
やはりわしは天才じゃ、
全てのコピーのデータ、――意識と言ってもいいか――をリンクさせ、マリアに統括させればよいのだ。
同系機ならば意思の疎通が可能なのはテレサの時に実証済みであるし、ましてや同じ霊基構造を持つものである、オリジナル―このわしのマリア―を上位に設定し統括させておけば暴走の危険なぞ無に等しくなる。
そしてそうなればこの場にいながらにして世界中のありとあらゆる知識を得ることが可能になるじゃろう。
それはまた一歩、錬金術師として世界の真理に近付くことになる。

無論そんなことは誰にも言わんし言う必要も無い。
連中には霊基構造の中に暴走防止用の“停止”ブレーカーをセットしといた、とでも言っとけば良いだろう、“消滅”とまで言うと非難されかねんからのう。
アシュタロスの使い魔の3人娘のような前例もあるし奴らは勝手に納得してくれるじゃろ。


「ドクター・カオス、準備が整いました」

思考を中断する。
若い研究員が呼びに来たのだ。
いよいよ実験が始まる、
新たな時代への船出じゃ
成功すれば大量の富と名誉、情報を一挙に手にすることが出来る
さあマリアよ、いざゆかん
このヨーロッパの魔王、ドクター・カオスの時代へと

                                           ―下に続け

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