ザ・グレート・展開予測ショー

小竜姫の投降


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 6/30)

二人は追っ手を振り切りながら何とかアーギャマにたどり着く事ができた。
シミュレーションで航法に習熟している小竜姫だから、アーギャマにたどり着けたのではない。
この艦艇が、アーギャマの追尾を続けていたのが手掛かりとなった。
その間小竜姫は、横島の脇をしきりに飛び回って、操縦上の問題がないか、酸素は大丈夫か、空腹ではないか、と聞いたものだった。
横島は、その心遣いが嬉しかった。
しかし、『お肌の触れ合い会話』では、それ以上になにも起こりはしない。
横島は、自分になじめる宇宙空間に身を置きながら、今後どうしていくかを考えていた。
もちろん、おふくろの仇を討つつもりはある。
だが、もう自分ひとりの意志で自由に好きなことをやってみたいという欲望もある。
おふくろへの未練はあるが、17歳を過ぎようとしていて、いつまでも母の肌を欲しいという年齢でもない。
しかし、あのように殺されるのが人間なのであろうか、という疑問のような感覚が横島に二号機の操縦をさせていた。


星々が、モニターに貼りついているように見えた。地球も月も遠い向こうの世界なのだ。
そして、小竜姫の一号機が、アーギャマに捕捉され白旗を出した時から、横島はとりあえず考えることをやめた。
現実は、どのように推移するのかわからないのだから、現実を観察して、どのような人々と出会い、どのような事態が起こるのかを見て、それから考えることにしたのだ。
アーギャマに着艦するについては、二機のディアスの手を借りてMSデッキに辿りついた。
横島がハッチを開けてタラップを降りると、シロタマの二人が心配そうな顔つきをしながら駆け寄ってきた。
「先生〜〜無事で良かったでござる〜〜!!」
「横島、心配したよ・・・・・」
二人が横島の両腕に縋ってくる。
「心配かけて悪かったな、二人とも」
横島は優しく二人のさらさらの髪を掻き揚げてやった。
「でも・・・先生の母上は死んでしまったんでござろう?先生可愛そうでござる。拙者が慰めるでござるよ。」
「そうだよ、元気だしなよ横島。」
「ああ、それならもうだいぶ落ち着いたよ。ありがとな。」
横島は二人の頭をポンポン叩くと、正面の士官に向き直った。
「よく帰ってくれたな。」
その士官―――西条大尉が横島の肩をたたいてくれた。
「小竜姫様のおかげっスよ。」
横島は、ヘルメットをとりながら言った。
「・・・・・そうだな。ところで横島君、何故中尉のことを様付けで呼んでいるんだ?」
「えっ!?・・・・・そう言えばなんでっスかね。よく分からないけど、なんだかそう呼ばないと失礼な気がして・・・・・」
「ははは、まあいいさ。確かに彼女はどこか神秘的なイメージがあるからな。」
西条は、横島の肩をもう一度たたいて、横島の少年らしい照れをなぐさめてくれた。
そして、士官達と話している小竜姫をうながして、ガン・ルームに向かった。
そこには、あたたかいコーヒーと軽食が用意されてあった。
「ごくろうだった。」
准将が待っていてくれたのだ。
「ありがとうございます。また来てしまいました。」
「いい縁になるとよいと思っている。」
准将は機嫌がよかった。
「中尉もお茶をどうぞ。」
「いただきます・・・・」
小竜姫は、臆せずにコーヒーポットを手にして一口飲んだ。
横島も隅の席でそれにならった。
「小竜姫中尉・・・・」
一息おいて、西条が口を切った。
「あなたの行動からは信じがたいが、・・・・あなたは、カオス教に選ばれたライトスタッフだ。」
用心深い口のききかただった。
西条は、小竜姫に感じたなにか、つまり人間の持つ波動の同調といったものに対しての納得感はあるのだが、現実にその人を見てすべてを信じるということとは別の問題であると理解するのだ。
まだ、小竜姫の行動が真実何を意味するのかは、わかってはいない。
そらをわかりたいという用心深さが西条の言葉をつっかえさせた。
「おっしゃろうとすることはわかります。でも、自分でもわからないのです。なぜ、アーギャマに投降する気になったのか・・・・」
小竜姫もまた同じであった。
が、まさにそのあいまいさが二人の間で同調するのである。
それは、わきにいる横島にもわかった。
しかし、軍人同士の話に若僧が割り込むのはよくないという認識が、横島にあった。だから黙っていた。
「それに、君の親族が地球連邦政府に人質にとられているようなものだ。それでも我々の軍に投降する。・・・・帰還は希望しないのだな?」
准将の言葉に小竜姫は、
「敵前逃亡です。カオス教には戻れませんし、連邦軍にも無理でしょう。ですが、皆私を理解してくれる良い人達ばかりです。私が正しいことをやっていると承知さえすれば、了解をしてくれます。なによりも、私は地球で知らされていたカオス教とコロニーのそれがあまりにも違うという事に愕然としているのです。」
「そうなのか・・・・」
准将は嬉しそうに言った。
カオス教の内部に亀裂を生じさせる土壌があることは、ICPOにとってはきわめて有利なことである。
「しかし、私が教えられているICPOの運動は、きわめて独善的にスペースノイドの総意を歪曲化した組織であるとも聞いております。反動だと・・・・」
「それがカオス教の洗脳の仕方か?」
小竜姫はクスッと笑い、
「洗脳ではありません。そういった報道が行われているのですから・・・・」
「連邦政府は、報道管制までひいて・・・・」
「違いますね。地球に住む人々は、コロニーに住む人々ほど豊かではないのです。大気汚染と放射能汚染に悩まされながらも、地球を再興しようと必死なんです。なのに、スペースノイドは自分達の主権を言うだけでなんの援助もしてくれない」
「冗談ではない!」
「老師、ここは討論の場ではありません。」
西条はやんわりと制した。
「俺は、・・・・・小竜姫様はいい人だと思ってます。」
横島のその突然の言葉にガン・ルームにいた人々は苦笑した。
「なぜだ?」
西条は、横島の無礼なまでの素直な言い方に応じた。
「なぜって・・・・・・」
横島が言いよどむすきに、
「ともかく投降したことについては礼を言う。」
と、准将は小竜姫に言うと立ち上がった。
横島は、その准将を目で追いながらもかまわずに西条に言った。
「理由は・・・・偏見がない人だと思うからです。」
横島は、小竜姫の理性の働きようが、素直に感じられたのだ。
「カオス教の連中はコロニーにいるだけで嫌でした。でも、中尉は率直に大人をやろうとしているように感じられます。それはいいことです。」
「大人をやる?・・・・妙な言い方ね。」
「すんません。・・・そんなふうにしか言えなくて・・・」
「言いたいことは分かるつもりよ。横島君・・・」
小竜姫は笑いもしないで横島の顔を正面に見た。
彼女は、衆人環視の中でこのようにあけすけに評論されたことがなかった。それは不愉快であるが、気持ちが悪い事でもない。
(生意気な子だけど・・・・)
そうは思った。が、小竜姫は横島を嫌いになりはしなかった。
「よくわかった。」
西条は微笑した。
そして、ふと思ったのは、横島という存在が小竜姫とアーギャマをつなげたのではないかという想像だった。
「小竜姫中尉。どの道しばらくは観察期間ということにさせていただくが、異存はないだろうか?」
准将づきの士官がおずおずと言った。
「もちろんです。容認します。」
「助かります。貴官にそういって頂いて・・・」
「・・・・アーギャマ・・・・安全な場所に逃げこめるのでしょうか?」
「そういった発言が、スパイでないかと思われる点だ。」
西条が解説をしてやった。
「ああ・・・・」
小竜姫はようやく微笑して、「気をつけます」と言った。
「よし、ではこれより我が艦は月に向かう!!」
唐巣の溌剌としたアナウンスが艦全体に響き渡った。

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