ザ・グレート・展開予測ショー

屍桜


投稿者名:天馬
投稿日時:(06/ 3/31)



 満開に咲き誇る桜の下を潜り抜け、日本の特色である四季によって変わる風景に対して微笑するカオスは、ふと、この国の小説の中にある、一つの言葉を思い出した。


 「桜の木の下には死体が埋まっておる、か」

 「ドクター・カオス?」


 桜の木の下には死体が埋まっており、それが故に桜の木は、見事なまでの妖艶さを秘めて綺麗に咲き誇るのだ、と。
 始めてその言葉を耳にした時、そんなことは所詮、小説の中でのみ存在する奇天烈な発想だと一笑に付したものだった。
 しかし一方で、なんとも粋な事を思いつくものだと、嘆息したのも事実。

 そのことを思い出し、思わず口にしたその言葉に反応するは、彼の隣を歩く黒衣の見た目麗しい女性。
 彼の永遠の従者。そして愛しき娘。


「いや、なぁに。少しばかりある言葉を思い出してな。のう、マリア?」

「イエス・ドクター」


 彼女を労るように優しく微笑み、問いかける。
 が、言葉を思索するために彼は、視線を再び桜へと向ける。
 言葉を吟味し、大切に咀嚼する。


「屍桜を知っておるか?」

「屍・桜・ですか? ノー。私の・メモリには・そのような・単語は・登録されていません」

「じゃろうな」


 若干の微苦笑とともに、カオスはソレの意味を教える。
 マリアはその言葉を一語一句、逃さずに聞き耳を立てて記憶する。
 その姿はさながら、親の教えを大切に聞いている子供のようにも見える。


「………と、言うわけじゃ。なかなかどうして粋なことを考えるものだのう」

「登録・完了。屍・桜」


 そんな彼女の様子に今度こそ我が意を得たかのように、カオスは微笑む。
 桜が風に揺られて、若干花びらを散らす。
 この小さな東洋の島国には、四季という名の生命の営みが存在する。
 春・夏・秋・冬。全てが全く同じでありながら、同一足りえない、不可思議なものだ。
 それはさながら、生きとし生けるものそのもの。
 いや、生きる者たちの集まったものが世界である以上、それは必然なのかもしれない。
 そしてその理から――自ら望んで――外れている自分たち。


「まぁ、だからと言って感傷的になるほど、若くも無いがな」


 自らの存在を自嘲気味に呟くと、彼はマリアの方へとその視線を動かす。
 彼女は先ほどの風で散った、自らの足元に落ちた花びらを一枚つかみ、立ち上がる。
 自らの永遠の下僕は果たして何を思うのだろう?
 そして彼女は口を開いた。


「ならば・屍・桜・は・私達・の・世界・そのもの・ですね」


 自らの力で、その営みとこの世界そのものとの関連を掴んだ愛しき娘に、カオスは満面の笑みを浮かべる。
 奇しくも自らと同じ回答を出したからではない。
 娘自らがそのような思考へと到達したことに対して。娘の成長に対して。
 彼女は詠う。


「命・を・吸い・命・を・育む。それ・が・この・世界。
 だから・世界・は・循環・する・の・でしょう。
 そして・屍・桜・も・同じ・様に」



――それ・が・命・の・定め・なのですから





 桜よ、桜よ。満開の花びらを咲かせよ。
 この世界を祝福するように。われらが愛しきこの世界の循環と共に。

 桜よ、桜よ。今年も妖艶に咲かせよ。
 我が娘の、成長を見守るがごとく。

 世界の理に従いながら。
 世界の輪から外れた存在である我らですら包み込み。


    ―――――了

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