ザ・グレート・展開予測ショー

居眠り〜夕暮れと夜の狭間に〜(GS)


投稿者名:すがたけ
投稿日時:(06/ 3/30)

「どーも、おつかれさまでーす」
 そう言って美神所霊事務所のオフィスに入った俺だけど、そう言って仕事に入った俺が明らかに一番疲れてる。

 そりゃまぁ当然だ。

 連日の補習……三年に進級してからは多少マシになったとはいえ、仕事と怪我とで散々学校をサボって来たんだ。仕方ないって言えば仕方ない。

 しかし、そのしわ寄せがこんな形で大挙して押し寄せてくる、と判っていれば……無理か。結局のところ、学校がどうのといっても、美神さんには逆らえないしなぁ。

 溜息を一つつき、俺はソファに座る。

 立てこんだ仕事がないのが有難い。

 ――きゅーん。

 と、座り込んだ俺の足下に……獣の姿で鼻を鳴らしてシロが擦り寄ってきた。

 何も言わずに、ただ見上げる視線が俺の視線と絡み合う。

 なんだよ……『元気出せ』ってか?

 判ってるよ。

 俺はシロの頭を一撫でする。

 俺がへたり込んでるのが不安で仕方ない―― そんな表情を浮かべるシロの頭をゆっくりと撫でるたびに、気疲れしていた気持ちに力が湧いてくる。

 ありがとうよ、シロ。

 お前のお陰で大分元気が出てきたよ。




















「それにしても……やっぱりお前、どっからどこまでも犬だなぁ」

 ―― がうっ!!

 『狼でござるっ!!』そういいたげに、シロが抗議の吠え声を上げた。



















「あー、もう!この忙しい時に横島クンは一体何やってるのよっ!!」
 とはいえ、現場に出るような仕事はここ数日入っておらず……その忙しさの源になっているのは山のように積み上げられている報告書の類である。

 ただでさえ除霊という仕事には書面での説明が難しい事項が多い上、一般常識であれば法に抵触することもしばしばである美神除霊事務所にとっては、何でもありの除霊よりもある意味辻褄合わせを必要とする書類の作成が何よりも大変なのだ。

 故に、美神自身の手に委ねなければならない部分も多く、正直、横島がいたところで役に立つはずもない。

 しかし、出てきただけで顔すら見せていないと言うのも癪に触るし、なにより、心憎からず思っている横島の顔を見るだけでも、美神にも気持ちに張りが出てくると言うものだ。

 日は既に落ち、辺りは闇に染められているにも関わらず、灯りもついていないリビングのソファに座る横島を呼びつけようと、ドアを開け――声を掛ける。

「よこ……」
 が、そこで声を飲み込んだ。

 学生服のまま、疲れきってぐったりと眠っている横島の膝のすぐ横には、撫でられたまま眠りについたのだろう、横島の手を頭に乗せたまま、微笑んで寝息を立てているシロがいたのだから。

「……ま、いいか」
 美神は呟き、苦笑しながらドアを閉める。

 その耳に、シロの声が滑り込んできた。

「せんせー、元気出してくだされー……拙者は、元気な先生が大好きでござるよ――――」

 瞬間……音を立てるかのような見事さでこめかみに怒筋が走る。

 だが、涎を垂らしながらも平和そうに笑みを浮かべるシロの寝顔が、美神の気持ちに宿った熱を即座に冷ます。

 半ば釈然としない気持ちを押さえ込み……「今日だけは、特別よ」シロの笑顔に毒気を抜かれた美神は、その幸福な瞬間を乱さぬよう―― 静かにドアを閉めた。

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