ザ・グレート・展開予測ショー

you know I've come too far(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:乗り換え
投稿日時:(06/ 3/23)



ふと思う。
いつも明るくて、元気な彼女達を見ていると。
私は――




「皆本ぉー今日任務多くね?」

「ウチももう疲れたわ」

「働きすぎじゃない?わたし達」



にぎやかな声がバベルの廊下に響いた。
『ザ・チルドレン』はいつものように皆本さんにべったりだ。


「あ、ナオミちゃん!」


薫ちゃんが私に気付いて声をかけた。

「こんにちは。相変わらず仲がいいのね」

そういうと、三人は笑って皆本さんに寄り添った。

「まーアタシらはいいんだけどな」

「皆本はん寂しがりやで」

「心を読むといつもわたし達のこと考えてるのよ」

「……勝手に心を読むなよ」

うんざりした表情で皆本さんが言った。
それでも彼だって、三人が大好きなんだろう。
その優しい目ですぐ分かる。

「ほらお前達、もたもたしてる暇は無いぞ」

「うるせえな。分かってるよ」

「ほなナオミはん、また」

「さよらなナオミさん」

「ええ。皆気をつけてね」

ほほえましい四人を送り出す。
皆、素敵な仲間なんだなぁ、と思った。
レベル7という並大抵でない超能力を持つ彼女達が、普通に笑っているのは。
皆本さんがみんなを愛してるおかげだ。

私はどうだろう。

ふと思う。
いつも明るくて、元気な彼女達を見ていると。
私は愛されているのだろうか?
素敵な仲間なんて、いるだろうか?



「ナオミ! ここにいたのか。もう任務の時間だぞ」


後ろから聞きなれた声がした。
谷崎主任が腕時計を見ながら早足で歩いてくる。

「あ、はい」

「ところで今チルドレンとすれ違ったが……またあいつら『私の』ナオミにちょっかいだしてきたんじゃ――」

「誰が『私の』ナオミだ!!」

根本的に勘違いしている私の主任を蹴り飛ばし、小さくため息をつく。

「はー……皆本さんとは大違い」

「な、なんだと!? ナオミ、皆本となにが――」

「うるせぇ! さっさと任務に行くぞ!」

変態をどなりつけ、今度は盛大なため息をついた。






つつがなく任務を終え、バベルの自動販売機コーナーで一休みしていた。
谷崎主任が上に報告へ行っている間、ぼんやりと今日の事を思い返す。

任務中も節々でうるさかったあの男をなんどサイコキネシスでつぶした事か……もはやそれしか記憶にない気がする。
あ、そうえば任務に行く前にチルドレンにも会ったな。
チルドレンの任務はもう終わっただろうか。

そう思った瞬間、私の目の前でぱっと何かが光った。

「あー疲れたー!!」

「ほんまや。もーなんやねん今日は」

「皆本さんの報告待ちか……面倒ね」

テレポートでそこに現れたのは、チルドレンの3人だった。
口で文句を言っておきながら、まだまだ元気そうな3人を見て私はふっと笑った。

「3人ともお疲れさま」

「あれ!? ナオミはんも今終わったん?」

「ええ、偶然ね」

葵ちゃんが自動販売機で何を買うか迷っていると、残りの二人はさっさと歩いていってしまった。

「葵、あたしコーラ!」

「私はミルクティーね。先皆本さんの所行ってるからー」

「はぁ!? ふざけんといて!」

「テレポートがあるじゃない」

「そーそー。らくちんだろー」

二人はすでに廊下のはじまで歩いていて、すぐに曲がって姿が見えなくなった。

「ったく……ウチかてはよ行きたいのに」

「……フフフ。手伝うわよ。ミルクティーとコーラだっけ?」

ふてくされた葵ちゃんの顔が面白くて、ついつい笑ってしまった。

「もう! ナオミはんまで笑わんといて!……おおきに」

結局素直にお礼をいう葵ちゃんを見て、今度は小さく微笑んだ。



小さい頃からバベルで育った彼女達は、やっぱり色々性格に問題があったようで。
皆本さんが来るまでは、担当指揮官が何度も交代していたそうだ。
無理もない。
普通なら家族といつも一緒にいて、小学校に行っている年頃。
そんな子供がこんな所でひたすら与えられる任務をこなしている、なんて気の毒すぎる。

でも私は、今の彼女達からはそんなの想像できないのだ。
まあ、性格は少し……変わっているようだけど。
今日みたいに任務が多い日でも、家に帰る機会が少なくても。

彼女達は、いつも楽しそうだ。


「ねえ葵ちゃん」

なんとか三つ缶を持った葵ちゃんに声をかけた。

「葵ちゃんは……寂しくならない? 辛くならない?」

「え? なに急に」

「あっと……ううん、なんでもない」

「……」

葵ちゃんは私の隣に腰を下ろした。

「ナオミはんは、そう思うの?」

「んー……たまに、ね」

「そっか。まーうちかてたまにはそう思うわ」

家にも帰れんし、家族にも会えないんやもん。
それでも葵ちゃんは笑顔のままで続けた。

「でもここには仲間がたくさんおるから」

「仲間?」

葵ちゃんはいっそう笑ってうなずいた。

「ウチは普通やない。けど、それでもウチの事大切にしてくれてる人や、信頼できる仲間がいる」

「……皆本さん、とか?」

「うん。でもそれだけやない。紫穂も薫も、ナオミはんかてそうや」

「私?」

きょとんとしてる私を、葵ちゃんは笑ってみつめる。

「そうや。みんな大切な仲間や。仲間がいるから、辛くても、まーやるかあって思えるんよ」

ちょっとくさいかな、と葵ちゃんは頭をかいた。

「仲間――か」

「あーなんか照れてまうわ」

「ううん。そんな事ないわ。ありがとう葵ちゃん」

嬉しいわ。
そういうと、また顔を赤くして、葵ちゃんは席を立った。

「どういたしまして。うちはそろそろ行くわ」

「うん。またね」

「じゃ……あ、ナオミはんを大切に思ってる人、というか溺愛してる人身近におるやん」

にやりと笑って、彼女はテレポートしてしまった。


仲間。


普通じゃない力を持って、もう普通には生活できないって言われて。
もう独りでいるしかないのかなぁ、って思って。
とても切なかった。寂しかった。
でも、それは私がただ気付かなかっただけなんだ。
周りには、『仲間』がたくさんいた。
皆はそう思ってくれてたのに、私は何も気付かなかった。



「なんて馬鹿だったんだろ」

「なにがだ?」

「!」

突然後ろから声がして、びくっと立ち上がった。

「た、谷崎主任! 驚かせないで下さい!」

「え、あ、すまん。そんなに驚くとは」

主任は自動販売機に小銭を入れて、ボタンを押した。

「もう報告終わったんですか?」

「ああ。私のナオミがヘマをするわけがないからな。報告なんぞあっとういうまだ」

「いい加減にしろ」

うんざりして私は言い放った。
葵ちゃんが言ってたのはこの人の事か。
……これは違う気がする。
大切、って言うより、欲望? まあある意味、溺愛か。
はあ、と心のそこからため息をついた。
いいなぁ葵ちゃん。皆本さんが変態じゃなくて。


その時、視界に突然缶コーヒーが現れた。


「ほら、おごりだ」

谷崎主任が私に缶コーヒーを差し出していた。

「え……」

「大分前に君が飲んでいたものだから、好きだと思ったんだが……それとももう飲んだか?」

「あ、いえ……いただきます」

少しためらいながら缶コーヒーを受け取る。
私が好きな、微糖のホットコーヒー。
そんな昔のことを覚えていたのかと少し驚く。

「今日はお疲れだったな。全く、私のナオミをこき使いやがって……」

「だから……」


『ナオミはんを大切に思ってる人、ちゃんといるやん』


「……」

「ん? どうしたナオミ」

――まあ、欲望だけってわけでもない、のかな。

「……ありがとうございます谷崎主任」

「なんだ? 缶コーヒーくらいでそんな改まって」

私は首をふった。そうじゃなくて――


「普通じゃない私を……育ててくれて」


驚いたように谷崎主任はこっちを見つめたが、すぐに何度もうなずいた。

「そうかそうか……とうとうお前も分かってくれたか。じゃあ三年後には結婚式を――」

「なにを分かったと思ったんだお前は!」

ゴシャッという大げさな音と共に、谷崎主任が壁にめり込む。

「こっ、これがお前の愛かー!!」

「愛じゃねぇ!! 一生つぶれてろ!!」



仲間がいるから、つらくてもなんとかなる。
可愛いくて強い女の子が言った。
そして、その女の子と、左手の温かい缶コーヒーのおかげで、仲間がいるって気付けた。




私は思う。
いつも明るくて、元気な彼女達のおかげで。


ここに来てよかったと。







「ナ、ナオミ……なんかいつもより……やば……」

「あ、あら?」

心が軽くなったせいか、いつもより超能力の調子がいい。
うちの変態ロリコン主任も、いつもより深く壁にめりこんでいる。



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