ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(16)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(06/ 3/18)



「なんで忠夫なワケ?」
「ここってかなりヤバイとこな筈でしょ? なんでこいつがしなきゃなんないのよ?」

 小竜姫の宣言に、真っ先に食って掛かったのは、二人の少女だ。
 困惑と嫉妬。 口調から感じる方向性には違いが有るものの、それでも根底には年下の少年への心配が有った。

 それを受けて彼女は、神父に首を傾げて見せる。
 あなたの口にした評価は、あなただけのものなのか、と。
 頷く彼に、小竜姫は再び少女たちへと顔を戻した。

「あなたたちの師の要望を、判断する上でそれが最も適切だからです」

 真っ正面からの切り返しに、事情を理解出来ているエミは仕方なく、知らない美神は憤懣を隠そうともせずに、それでも引き下がった。





 こどもチャレンジ 16





「あなたも よろしいですね?」

 当事者である横島に、彼女は最後に尋ねた。

「はぁ。 けど…」

「なんですか?」

「今更こいつら相手にして、なんか意味あるんすか?」

 素での答に、場の面々に沈黙が降りる。

「ぐぬぬぬぬ… 小僧」
「われらを馬鹿にする気か?」

 最初に口を開いたのは、もう一方の当事者である鬼門たち。
 明らかな不愉快を視線に載せての言葉に、横島の近くに立っていた美神とエミが、思わず迫力に負けて後退った。

「いや、けど鬼門だしさぁ…」

 とにかく彼らを凄いと思える様な記憶が、彼には全くと言っていいほど無い。

 何せ、最初に見(まみ)えた時には、御札で目隠しされて石につまずいて倒れたり、プッツンした小竜姫に怯え逃げ惑ったりしていた。 次に会った時には、能力差から言って当然だったとは言え、ただの一撃でイームたちにボロクソにされ。 その後に会った時にも、戦力として役に立っている所なぞ見た事が無いのだ。
 無意識で格下扱いしてしまうのも、あながち無理ない事だった。

 とは言え、鬼門たちがそんな事を知っている筈が無い。 そもそも、それは起ってすらいない事なのだから。

 故に横島の言動は、見る物も見れない思い上がったガキに馬鹿にされている、としか思えないものだった。 少なくとも彼らにとっては。

「我らを侮ろうとは、なんと度し難い小僧だ」
「自らの敗北で、よぉく現実を思い知れ」

 かつて無いほどのやる気満々な様子に、神父が思わず蒼ざめた。

「よ、横島くん、君ねぇ…」

「でも、鬼門っすよ?」

 横島にしてみれば、そんな鬼門たちの怒気ですら、かつての美神のソレに比べて微風の様な物でしかない。
 それがまた、彼らに対する扱いの軽さに繋がっていて、素で応じてしまっている事に、自身 気が付けていないのだ。 今はまだ、自身の事情は隠しておいた方がいいと思っているのだから、言うまでもなくそんな事ではマズイのだが。

「…まぁ、良いでしょう。
 では、始めて下さい」

 横島の様子を過信と見てか、ちょっと呆れ混じりの号令が掛かる。

「行くぞ、右の」
「応よ、左の」

 それでも、相手が子供と見てか、鬼門たちの動きは甘い。 加えて、彼我のサイズ差が大きい事もあって、その攻撃は自ずと大振りなものになってしまう。
 だがこの少年は、そんな攻撃の当たる相手ではなかった。

「蝶の様に舞い〜」

 挟み込む様にして揮われる攻撃を、横島はひらりひらりと簡単に避ける。

「ごきぶりのよーに逃げるっっ!」

 突然の転身にコケかける2体を残して、その小さい体が門へとひた走る。

「サイキック猫だ…」
「「甘いわっっっ!」」

 顔に向かって両の手を合わせようとした横島を、叫びと共に吐き出された息が吹き飛ばす。
 ごろんごろんと転がりながらも、鬼門たちの体を避けて距離を取ると、あっけにとられた顔で立ち上がる。

「な… 嘘や…?!
 鬼門のくせに、使えそうな行動するなんてっ?!!」

「小僧… おまえ、わしらを何だと思ってるんだ?」

「鬼門!」

「「……あのなぁ…」」

 清々しいまでの見下しに、さすがに呆れが上回ったか。 鬼門たちも、ただただ溜め息をつくばかり。
 それでも腹に据え兼ねる事に変わりは無い。

「ならば、こちらも本気で相手をしてやろう」
「その身をもって反省せいっ」

 今度こそ、本気での動きで鬼門たちの体が迫り来る。

 だが、それすらも横島は避ける、逸らす、逃げる、躱す。
 スピードも手数も増していると言うのに尚、いっかな彼の体には触れられさえしない。

 焦りに力の増す二体に対し、横島もけして余裕とは言えない心境で体を動かしていた。
 きちんと対峙して初めて理解した、本来の自分ですら食らえばヤバい、と。 ましてや、今の体は小学生の時のソレ。 この時分の自分より今は霊力が高いとは言え、一撃でも当たれば洒落にならない事に変わりは無いのだ。

 さてどうしたものかと刹那の隙に考え始めた横島の視界に、心配そうに蒼ざめた神父の顔が翳める。

「よし!」

 右の掌の内に文珠を取り出すと、近付く地響きを気にせず、膝を突いて地面に押し当て発動する。

 彼を中心にして、細波の様に地面を光が蔽った。
 だが、それが攻撃性のあるナニカではなく、防御陣の様なものだろうと見破った鬼門たちは、構わずに横島へと駆け寄り…

「「ぉわぁぁぁ?!」」

 …すってんころりと転けた。

「「なんだこれはぁぁぁ〜?!!」」

 そしてそのまま、彼の両脇を滑りながら通り過ぎる。

 文珠に篭められた文字、それは『滑』の一文字。
 効果は見ての通りである。 勝利条件は、文字通り『倒す』なのだ。 それは、どんなヤリ方だろうと構わない。
 だから、いつまでもしんどい思いを続ける必要性など無いのである。

「ふっ… 他愛の無、ななな、のぁぁ?!」

 すてんと転んで、鬼門たちと反対の方向へと滑り出す。
 立ち上がってポーズを取った際に、そのまま自分も効果範囲に踏み出してしまったのだ。

「か、解除〜っ」

 効果を消すなり、尻から滑っていた横島の体が止まる。 勢いついた分だけ、ずずずっと砂煙を上げてから。

「…まぁ、いいでしょう。
 かなり変則的で何をしたのか いまいち判りませんでしたが、あなたの勝ちです」

 小竜姫の宣言。
 だが、この時、場の誰もが別の場所を見ていた。

「た、助けてくれぃ、左の〜」
「頑張れい、右のっ!」

 運悪く崖へと飛び出してしまった左の鬼門を、右が辛うじて掴み止めていたのだ。
 ほとんど傾斜の無い切り立った崖の向こうへと、落ち掛けているもう片方を引き上げようとする腕が力を振り絞って膨れあがる。

「ふぁいとぉっ!」
「いっぱぁ… のわぁぁっ?!」

 バカな事をやっていたからか… 鬼門たちの足元がいきなり崩れ、そのまま2体揃って崖の向こうへと消えた。

 慌てて駆寄り、下を覗き込んだ一同の視界の中で、彼らの姿がどんどん小さくなる。
 そして、間を置かず聞こえた墜落の衝撃音。

「「ぐはぁっ!!」」

 間髪入れずに左右の門の顔が、揃って血を吐きながら沈黙した。

 少々悪夢じみた光景に顔を蒼ざめさせた美神とエミを見て、記憶の二人との差異にちょっとだけ苦いものを噛み締める。 時の流れって残酷やなぁ、と。
 5年……いや、もっと短い期間で、彼女たちは ああなってしまったのだ。

「…ところで、小竜姫さま?」

「なんでしょう?」

 再び下を覗き込んだ横島が、同じ様に下を覗き込んでいる彼女に問い掛ける。

「あいつらって、飛べなかったんすか?」

 かなり下にある地面に穿たれた二つの穴を見ながら、飛んでた気がするんだけどと内心で首を傾げる。

「……あら?
 言われてみればそうですね」

 問われて、小竜姫は小竜姫で小さく首を傾げた。
 かなり低位の神・魔族でも、重力の頸木からは解き放たれている。 況や鬼門たちは、公的に開かれている神域である妙神山の、門番を任せるに足るだけの位置には居るのだ。

「なんで飛ばなかったのかしら?」

「って言うか、それ以前にアレ、大丈夫なワケ?」

 ガクンと傾いで貼り付いている顔といい、周りに飛び散っている血反吐といい、到底 大丈夫とは言えそうに無い門の惨状を指してエミが問い掛けた。

「そ、そうです。 いくら鬼門さまたちでも、アレはマズイんじゃないですか?」

 続けて、この場で唯一鬼門たちの事を心配している神父が畳み掛ける。
 尤も、そんな彼もエミや美神と同じく、その惨状から後退って横島たちの傍に寄ってる訳で、鬼門たちが少々憐れだ。

「大丈夫、ですよ………………たぶん。
 それにこの妙神山は、数多の霊脈が集まる地。 そう遠からず自然と復活してくる筈ですから」

 ちょっと引き攣った笑顔で、でも小竜姫はそう言った。

「小竜姫さまがそう仰るんでしたら…」

 強く出られない神父の言葉に、横島やエミ、それに美神すらもが内心『いいのかそれで?!』とツッコミを入れる。
 そんな子供たちに気付かぬげに、小竜姫は門へと歩き出す。 彼女的に、目の前の惨状は大した事ではない様だ。

「それはそれとして…
 横島さん、と言いましたね。 あなたもここで、それなりのクラスの修行を受けて見ませんか?」

「あ〜 イマサラですし遠慮しときます」

 さくっと返された答に、皆の足が止まった。

 美神などは少々剣呑な光を宿らせて、彼を睨んでいたりもする。
 実際に、横島がどれだけ出来るのかを、彼女は今日 初めて見たのだ。 使う事こそ最近まで出来なかったものの、視るだけなら幼少の頃から出来ていた。 そして、母親に従って除霊の場にも度々足を運んでいた為、見る目そのものも少なからず肥えている。 だから、ふざけたように逃げ回っていた横島が、その見た目以上にデキる事も理解してしまった。
 反りの合わないエミが、今に限って言えば上に居ると自覚させられているだけでも剛腹なのだ。 その上で理解させられてしまった、自分が一番下だと。
 性格的にも許容し難いそんな状況に、口数まで減っている。

 逆にエミは、諦観と呆れを貼り付かせている。
 彼女は横島が色々な意味で常識の範疇に居ない事を実感させられていたからだ。 何せ出逢いの時からしてアレである。 いくら呪式に括られていたとは言え、歴とした魔族を反撃の暇(いとま)も与えずに滅ぼして見せたのだ、彼は。 自身と黒魔術の師匠とが、ベリアルを抑え込むのにどれだけ必死になって居たかを思えば、その尋常で無さが嫌でも実感出来てしまうのだから。

「そう、ですか…
 その歳でアレだけ霊力を集中出来るんですから、今はまだ必要ないかも知れませんね」

 未練を口の端に乗せた彼女に、返された返事は有る意味 爆弾だった。

「つうか修行はともかく、俺としては猿の師匠にちょっと相談に乗って貰いたいなぁ、とか思ってるんスけど」

「えっ?!」

 これには、小竜姫も横島を刺す様に見詰めた。
 開山よりこちら、彼女の師匠が人間の前に姿を見せた事は無いのだ。 幾ら何でも不審に思わない筈が無い。

 いきなりの雰囲気の変化に、事情を知らない神父たちは戸惑いを浮かべた。
 そこへ投げ掛けられた声。

「それはわしの事かの?」

 大きな山門のその上に、何時の間にか座っていた眼鏡を掛けた猿。 人民服が似合っていなくもないソレが、煙管から火を落しつつ横島を見据えていた。

「へっ?!
 あ、そっす」

 ははは、と愛想笑いする横島の顔も、微妙に引き攣っていた。 山門を潜る前から出て来るとは思っていなかったから、さすがの彼も完全に虚を突かれたのだ。

「小竜姫さま、あの方は?」

 押え込んでいても、その霊格の高さは神父になら読み取れる。 
 顰めた声での質問に、答えたのは しかし横島だった。

「ここの一番のお偉いさんで、斉天大聖老師っすよ」

「…ふむ。 本当にわしの事を知っとるようじゃな」

 弟子の発言に返された首肯に驚かされて、神父は言葉を失くした。
 クリスチャンの彼とて知っているビッグネームである。 小竜姫のレベルでも、人界駐留の神族としては かなり高位の存在なのだ。 その上にこれほどの存在が人界に居たとは、思いも寄らなかったのだから当然だろう。

 抑えこまれてるからどれ程高位なのかは見抜けないが、しかし場の流から言って交わされている言葉が事実なのだと理解して、美神たちも押し黙っていた。

「老師さまこそ、どうしてここまで?」

 重い沈黙の中、すくっと降り立った猿神へ小竜姫が尋ね掛ける。
 余程の事が無い限り、表へは出て来ないのだ。 彼が見るほどの修行者なぞ、それこそ数世紀に一度来るかどうか、それも相手は決まって人外である。 ただの人間が来た時に顔を出すなぞ、前述した様に初めての事なのだ。

「たまたま外の空気を吸いに出てみれば、久しぶりに来た修行者がおる。
 それも、かなり面白い霊能持ちときとってはな。 わしとて興が惹かれもするわ」

「では先程のは、やはり…」

「うむ。 久しく見なんだが、アレは もん…」
「あのぉ?」

 周りを置いてきぼりにし掛けた師弟の会話に、横島がクチをはさんだ。

「なんじゃ?」

「とりあえずコレ、貢ぎ物ッス」 

 そう言って、背負ってきた大きなリュックから、小さくない箱を取り出す。

「そ、それは…」

 その箱を目にした猿神の声が震えた。

「来月発売予定の、ねおぢおCDと同時発売予定のソフトっす」

 この年、暮れには次世代機と呼ばれる機種が立て続けに発売されるのだが、夏のこの時期にはまだ手に入らない。 …いや、ハードはどうにか出来なくも無いのだが、ソフトの方は難しい。 発売まで半年もあれば、製作進行の早いモノでもデバッグ中だろう。 機械だけ有っても意味は無いのだ。
 それ故の、次善の品物だった。
 何せこのハード自体、シークの遅さなどで不評を買う事になる機体な上、価格の高いカセットから廉価でプレス出来るCDへ媒体を変えただけの、新機種とは言い難い代物である。

 だがそれでも、まだ発売されて居ないソレを、猿神が手に入れている事は無いだろう。
 そう読んで、父親を拝み倒して伝を当って貰い、どうにか手に入れたプレゼン仕様のハードとソフトである。

「おぬし、なかなか判っとるのぉ」

「いやいや、基本っしょ?」

「うむうむ。 コレに免じて、わしに出来る便宜なら出来るだけ図ってやろう」

 あからさまに心動かされ、息を通じさせてしまっている高位の神族に、彼のその趣味を知らない面々の顔が微妙な色を纏う。

「本っ当に老師さまの事、良く知ってるんですね…」

 小竜姫も、無駄に盛り上がっている師匠を見て、溜め息混じりにそう呟いた。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……
 とりあえず3月中(^^;

 たとい鬼門相手とは言え、素の出力では敵いません。 人間との種族的な霊力差はそれくらい大きい筈ですし、だからこそ反撃不能にするのではなく単に倒れさせるだけ、が試験になってる訳ですし。
 つう事で、安易に文珠を使わせちゃいました(苦笑) …所詮、通過イベントの一つに過ぎないんで(^^;

 ちなみに、横島が安易に色々曝け出しちゃってるのは、彼の思惑の所為でもあります。 次で触れる事なんですが、月一ペースなんでちょっとだけ補足しまし…


 そりと、ここでは原作での年代を99年として、その5年前の夏と言う設定で書いてます(^^;

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