ザ・グレート・展開予測ショー

馬鹿は風邪をひかない (絶対可憐チルドレン)


投稿者名:刀工者(仮)
投稿日時:(06/ 3/15)


「アホやなー、自業自得やで」


フチ無しの眼鏡を、右手の中指でくいっと上げたストレートヘアーの少女。
野上葵は、呆れたようにつぶやく。


「う、うるぜー…ッゴホゴホ」


重々しい布団を足先からしっかりと被り、氷枕を装備。
さらに額に冷えピ○クールをのせ、全身これ風邪です、と。訴えんばかりの様子の少女。
明石薫は、普段からは想像もつかないほど、弱弱しい返事を半眼で眼鏡の少女に返す。
その横で一連のやり取りを見ていた、一見しておとなしそうなやっぱり少女の三宮紫穂が、
読みかけのティーン誌を脇にどけ、不思議そうに言う。


「…それにしても、おかしな話ね」

「? どないしたん」

「いえ、だって…」

「! ああ」


どこか納得いかない、と。
表情を曇らせる紫穂に、少し考えるような表情を浮かべた葵だが、すぐに合点のいったようだ。
二人は、顔を見合わせ声を揃えて言う。


「「馬鹿は風邪をひかない」」


「…て、でめーらあぁ…ッゴホッゴホ!!」


病床にふせっている友人に対し、容赦のない痛烈な皮肉を言う二人。
当然のことながら、自覚など持ち合わせているはずも無かった。









  ―――馬鹿は風邪をひかない――― (絶対可憐チルドレン)









「まったく、なにをやっているんだ君たちは!?」


痛くなる頭を抱えながら、【ザ・チルドレン】現場運用主任である皆本光一は、
少女たちに向かって、今日5度目の声を張り上げる。


「ウチか? そんなん見て分からへんのん?」

「チョコ食べてるわ…、欲しい?」

「ねでるに゛ぎまっでるだろ…ゴホゴホ」

「誰が今現在の行動を問うとるかあぁぁッ!!!!」


これ以上と、言えるほど口を大きく開けて怒鳴る皆本。
いつものことながら、実に舐められっぱなしである。
それはともかくとして、皆本がこう怒鳴るのにも勿論理由があった。
なぜ彼女、明石薫が風邪を引いているのかと言えば、

―――突然、氷風呂に入りたくなる気分ってよくあるだろ? 

これである。
そんな気分が、よくあってはたまらないのだが。
そこには、何故だとか、どうしてだとかの疑問の入る余地はなく、その行動の予知もできなかった。
行動事態ガキと言えばガキ、入るやつも入るやつで、それを止めないも止めない奴なのだが。
しかしそこはチルドレン。
もう少し自分たちの立場を考えて欲しいと、現場運用主任である皆本は思うのだ。


「はぁ…、葵、紫穂。君らは早く学校に行くんだ。もうこんな時間じゃないか。
 薫。君もこんなときくらいはちゃんと寝ていないと、いつまで経っても治らないぞ」

「う゛ー、わがっでるよ…ゴホゴホ」


窓から覗く日差しは、その日の快晴を知らせている。
時間は8時13分。
学校に行くにしては少々遅い時間だが、ここから大した距離はないのでまだ十分に間に合うだろう。
それに、いざとなれば葵の能力である瞬間移動(テレポート)でどうとでもなる。
皆本の立場からすると能力の使用は大人の事情もあって、割と切実に控えて欲しいのだが。
有事に際しては、彼女たちの判断に任せることにしている。
差し迫って、学校に遅刻することが有事に含まれるのか判断の難しいデリケートな問題だったりするが。


「じゃ、紫穂。ウチらはそろそろ行こか」

「そうね。あ、そうだ、皆本さん」

「ん? どうした紫穂」


ランドセルを背負い、部屋を出ようとドアに手を掛けたところで止まり、皆本に声をかける。
皆本が声に振り向くと、口元に手をやりチャシ猫のような笑みを浮かべている紫穂がいた。
その様子を見て、背筋がゾッ凍りついたような気がした皆本。
(!! この感じは―――!!)

「薫ちゃんが弱ってるからって、押し倒しちゃったりしたら駄目よ?」

「いやぁー! 皆本はんのケダモノーーーッ!!」

「だっはぁぁぁぁっーーーーーッ!!!!」


思わずずっこける皆本。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。


「誰がんなことするかあぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!」

「あら、男の人は普段見せない女の仕草に弱いって…」

「いやぁー! ウチに近寄らんといてーーーー!!!」

「嘘の中にひとつまみの真実味をくわえるなああーーッ!!! 
 余計なこと言っとらんで、とっとと学校に行かんかっっ!!!」

「はーい」

「ほな」

「「いってきまーす」」


肩で息を切らし、騒がしい少女たちが去っていったドアを見つめ、いつものように一人ごちる。


「どーして、いつもこうなんだ。あンのクソガキども―――」


そこまで言って、はたと気付く。
いつも騒ぎの元凶と言える、念動能力者(サイコキノ)の少女がここに居たことに。
(し、しまった―――)
観念し衝撃に備え身を固めた瞬間―――シャツの袖口に違和感を感じた。


「―――え?」

「み、皆本…」

「か、薫?」


いつもなら、脊髄反射の如く問答無用な圧力が彼を襲うはずなのだが、そんな余裕がないのだろうか。
薫は、辛そうに布団から伸ばした腕で皆本の袖口を掴み、何かを言いたそうに口をぱくぱくさせる。
その様子は、普段の快活な薫からはとても想像できないほど、痛々しいものであった。


「はっ!? 僕はなにを…!!」


頭を殴られたような気がした。
この少女はいま、病気で苦しんでいるんじゃないか。
こんなときでも自宅に居ることもできず、警護上の問題でBABELの医療看護室で休むことになる。
直接の上司である自分が付き添う形になってはいるが、本当なら家族に傍にいて欲しいはず。
(僕は馬鹿か。いつも強がっているけど、こいつらはまだ10歳なんだ。
 病気にエスパーもノーマルもない、苦しんでいるこいつを前に僕は一体なにを考えていたんだ!!
 そうだ、せめてこんなときくらい――― )
実に真面目な皆本らしい思考を終え、普段は絶対に見せないような笑顔を向けながら
薫に優しく語りかける。


「薫……どうした? 喉でも渇いたのか?」

「み、皆本……」

「ん?」


「…は、初めてだから優しくしてね?」


「ぶぅっっ!!!!!!!」

「…もしかして、さっきの続きなんやろか」

「薫ちゃん、熱のせいで反応がワンテンポ遅れてるみたいね…」

「は!? 葵っ! 紫穂っ! お前らは学校に行ったんじゃなかったのかッ!!!」


突然現れた二人は妙に落ち着き払った様子で、冷静に現状を分析する。
さきほどまで存在した筈のシリアスな雰囲気は、もうそこにはない。


「忘れもん取りに来ただけや」

「そういうことなの。邪魔しちゃってごめんなさい皆本さん。―――続き、楽しんでよね?」

「楽しめるかーーーーーッ!!!」

「…せ、青年は、自分より一回りも小さな少女のその幼い肢体に、溢れ出んばかりの欲望の……ッゴホゴホ」

「お前も無理すんなッ!! いいから寝てろッ!!!!」

「…あら、満更でもないみたいよ」

「フケツ! 皆本はん、やっぱりそんな目ェでウチらをッ!!」

「どないせぇちゅーんじゃああぁぁーーーーーーーッッ!!!」


血涙を流しながら、喉を壊さんばかりに叫ぶ青年。皆本光一。
幼い頃に神童と謡われ、18歳にして学位を二つも修めた正真正銘の天才。
その卓越した才能を、今最も注目されているESPの研究に向けるため政府機関BABELに所属する。
そんな彼に、あるとき転機が訪れた。
それが特務エスパー【ザ・チルドレン】の担当指揮官としての任である。
クソガキ、我が侭、やりたい放題の三重苦であるチルドレンの担当指揮官は、並みの神経では務まらなかった。
が、そんな心休まらず生傷絶えない日々を過ごしつつも、
どこか今までに感じたことの無い充実感を得ることもまた、否定できないのであった。

 気が付けば、チルドレンと出会ってからどのくらいの日々が過ぎたのだろうか。
 日々成長していく彼女たちは、それに比例するかのように悪戯や挑発といったものを過激にしていく。
 そしてある時、そんな彼女たちの淫らで情熱的な挑発に抗うことができず。
 皆本は、とうとう己の激しい欲望の猛りを彼女たちに―――ッゴホゴホ」

「語りべ調に自然な流れで人を陥れるなッ!!!
 お前らは一体どこまで渇いてるんだあぁーーーーーッ!!!!」

「…か、薫。あんた、今日飛ばしすぎと違うか… 普通に引くて」

「薫ちゃん、熱のせいで創作超度がワンステージ進んでるみたいね…… 
 …規制に引っかからないといいけど」


明日はどこにあるのか。


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