ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(39)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/30)

「貴方に永遠をあげるわ!!そうすればきっと、彼だって喜ぶもの!!」
加奈江は唐巣の腕を掴み、高らかな声でそう告げると、口の中で牙を噛み合わせ、自分の舌の先を軽く傷つけた。口内に広がる、何とも言えない鉄の味と、生臭いにおい。
この状態で唐巣を噛めば、牙についたこちらの血によって、唐巣にも自分の体質が伝染する筈―――だったが。
「霊体・・・撃滅波―――ッッ!!」
「!!」
勇ましい気合がかかった声と同時に、正門の方から白い霊気の奔流が自分に向けて流れてくるのを見て、加奈江はすぐさま唐巣から離れると、上空へと飛んだ。
蝙蝠達を盾にして霊気の流れを防ぎながら、ドーム状に辺りを覆う結界の天井ギリギリの高さにまで退避する。
そして、上空から正門の方を見やった加奈江の目に、こちらに向けて第二波を放とうとしているエミと、彼女をガードしているタイガーの姿とが映った。
「来たわね・・・クソ女・・・!!」
低い声でそう呟くと、霊体撃滅波の準備体勢をとっていたエミに向けて、一気に急降下する。
しかし、エミの方も、飛び上がった加奈江がこちらを見た時点で、ある程度予想はしていた。無駄な怪我人を増やさないように、タイガーを脇にどかせると、エミはブーメランを構えて、こちらに突っ込んで来る加奈江に備えた。
「また邪魔をしに来たのね、色ボケ女!!」
「うるさいわね!!誘拐犯のアンタにだけは言われたくないワケ!!」
自分の肩を掴もうとしてきた加奈江の前に、すかさずブーメランを出してそちらを掴ませる。そして、前回、ブーメランごと投げられそうになった教訓からエミは、間髪入れずに加奈江の胴に蹴りを入れ、それで相手が怯んだ隙に、全身から霊波を放射した。
「く・・・!!」
霊体撃滅波ほど強烈ではないが、それでも一瞬、感電したような衝撃が全身に走り、後ずさりする。それをチャンスと見て一気に畳み掛けるつもりなのか、こちらに向かってくるエミの背後から、塀の外にいた他のGS達がやって来るのを見て、加奈江は小さく舌打ちした。
背後には唐巣や美智恵、正面には、エミや令子達・・・挟み撃ちになるのは不利だし、大人数でかかってこられては、さすがに勝ち目は無い。
この場をどう切り抜けるかと頭上を仰いだ時、加奈江は、唐巣が張った結界の天井が、わずかに綻びているのを見つけた。
強力だが、咄嗟に張った結界であるため、エミが内部で霊体撃滅波を放った影響により、弱い箇所が緩んだのだろう。
「あ!しまっ・・・」
加奈江が結界の一部を凝視しているのを見て、同じようにそちらを向き、自分の結界が弱っているのに気付いた唐巣は、急いでそこを補強しようとしたが、一瞬遅かった。
「あはははは!!」
「お待ちっ!!」
笑い声と共に蝙蝠達と一緒に結界をこじ開けて、外に飛び出していく加奈江にエミが叫ぶが、頭上を飛んで去る者を引っ張って止めるわけにはいかない。
奥多摩の、森の方へと飛び去る加奈江を見てエミは、正門から走り出ると、そこに停めてあった白バイを一台、そばに待機していた白バイ警官からひったくるように奪うと、すぐさま加奈江の後を追って行った。
「待って、エミちゃん〜!一人じゃ危険よ〜!!」
「マリア、めぐみさん、すぐに追って!!私達もすぐに向かうから、マリアは座標を報告して!!」
『了解!』
『イエス・美神隊長!!』
マリアのジェットロケットの炎だろう。
通信で指示を出したのとほぼ同時に、上空で赤い小さな光がボッと灯ったかと思うと、それは、すぐに加速噴射の大きな炎となって、加奈江が飛んで行った方角へと向かった。
「私達も行くよ。ある程度追跡したら、市街地に入られないように、結界を張って閉じ込めよう。屋敷の捜索の方は、君達に頼むよ」
「わかりました。・・・あの、神父・・・」
エミを追って、加奈江を追跡するために、パトカーに乗り込もうとした唐巣に、美智恵は少し、控えめな感じで話し掛けた。
「追跡に、って・・・それで、よろしいんですか?」
「・・・・・・」
美智恵が問いかけてきた意味を察し、乗り込もうとしていた唐巣の動きが止まる。
先ほど屋敷から出て来た加奈江は、一人だった。誰かを隠して連れているような様子もなく、一人で屋敷から出て来た。
―――と言う事は、ピートはまだ屋敷の中に隠されているという可能性が高い。
この二週間、ピートが失踪してから、一番奔走したのは唐巣だ。
だから、本当は加奈江を追跡するよりも、この場に残って彼の捜索に加わりたい気持ちの方が強いのでは―――と言う配慮から問い掛けた美智恵ではあったが、唐巣は、そんな彼女に優しく笑い返すと、小さく首を横に振った。
「・・・私は追跡の方に加わるよ。エミくんが容疑者を追って行ったんだ。手伝わなきゃならん。自分に関連した事で女の人が怪我をしたりしたら、ピート君が気にするだろう」
「神父・・・」
「・・・それにまあ・・・恐いのかも知れないね」
「え?」
唐巣が口早に、小さな声で呟いた言葉の意味がすぐにはわからず、ふと目を丸くして聞き返す。しかし、言った唐巣の苦笑のような表情から、すぐにその真意に気付いて、美智恵は、小さく息を呑んだ。
加奈江は、誘拐犯だ。
そして、現時点で加奈江は、非常に追い詰められている。
―――・・・大抵の場合、追い詰められた誘拐犯は、逃げる際に人質を―――
「・・・・・・」
唐巣が何を想像し、何を恐れているのかを察して、美智恵は笑顔を作ると静かに言った。
「・・・わかりました。ピート君の捜索は任せて下さい。きっと無事に発見しますから」
「・・・ああ、頼むよ。じやあ、私は容疑者の追跡に向かおう。・・・ピート君が無事だったら、すぐに教えてくれ」
「はい。・・・それじゃあ、ドクター・カオスと厄珍さん、それに、冥子ちゃんは、私と一緒に屋敷の捜索を手伝って。あとの皆は、全員、容疑者の追跡に向かうように」
「はい!」
西条が代表して返事をすると、全員一斉にパトカーに乗り込んで、森の奥に向かう。森が本来の活動場所であるシロとタマモも、それぞれ動物形態に戻って出発していった。
「・・・それじゃあ、私達も屋敷の中を捜しましょう」
「うむ。まあ、あんたも妥当なメンバーを残したのう」
「・・・・・・」
やはり、トボケているように見えても、『ヨーロッパの魔王』とあだ名されたのは伊達ではない、と言ったところか。
厄珍と冥子、それにカオスと言う、一見適当に見える捜索メンバーの配当理由を示唆するような口ぶりで言われて、美智恵は、カオスに軽い微笑で答えた。
冥子の式神クビラは、強い霊視能力を持っている。ピートがもし、特別な封印術などの内側に閉じ込められて、生半可な霊視では存在すら感知出来ない場所にいた場合、クビラのその能力は、彼の発見に非常に役に立つ。
厄珍は、GSではないが、霊的物品の専門家だ。ピートがややこしい結界に閉じ込めろられていて、どう解けば良いのかわからない場合、彼の知識が役に立つ。
そして、カオスは―――この場合、出来れば発揮されてほしくない知識なのだが―――長く生きている分、パピリオ達の自爆機能を除去したように、魔物の生態や魔法科学をベースにした特殊な医術に関しての知識があるため、もし、ピートが怪我や病気などしていた場合にその知識を役立てる事が出来る。―――・・・出来れば、怪我などしていない事が一番良いのだが。

・・・ピート君が無事「だったら」、すぐに教えてくれ―――

「・・・・・・」
追跡に向かった唐巣のその言葉と、パトカーに乗り込んでいった後ろ姿を思い出して―――美智恵は、その太い眉を緊張からキュッと寄せると、加奈江の屋敷に向き直った。
三階建ての、洋館造りの古い屋敷―――
(・・・大丈夫・・・きっと、大丈夫よ・・・)
心の中でそう呟いて一度深呼吸をすると、美智恵は静かに、玄関のノブを握った。

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