ザ・グレート・展開予測ショー

いえで。 中編


投稿者名:アンクル・トリス
投稿日時:(06/ 3/12)

 ハガシタ一枚のお札
 
 タダ認めてほしかっただけ!

 ワタシにだってできるって!!

 それがそんなにいけないコトなの?
 




 GS美神極楽大作戦 アフターリポートシリーズ

 「いえで。 中編」











 4-ここだよ!



 「「「「えええええええええええええええええええぇっ!!!!!??」」」」


  −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−

 「あの・・・・・・ほんとはね。」

 ―――――どこか遠くで、声が聞こえた気がした。

 「マm「スンマセンッッ!!」!?」

 どがしゃんっ!!!


 突然、横島はひのめの言葉をさえぎり目の前の机(ガラス製)にヘッドバッドをし始めた。
 狂ったように頭を打ち付けるたびに、強化ガラスにひびが入っていく様はちょっと他では見れないだろう。
 
 「―――ちゃん。おにいちゃん・・・もう。」

 がしゃんっ!!どがっ!!!

 ひのめは呼びかけるが反応しないのであきらめる。
 どんどん血みどろになっていく目の前の男をみつめるその目は、とてもおだやか。
 普通の幼稚園児ではありえない反応だが、
 今よりもっと幼い頃、それこそ歩く前から日常的に自分の姉の、彼に対する苛烈な暴力を見続けているのだ。
 いつものように奇行を始める横島、その姿にむしろ、自分の愛する日常を感じて、
 それが嬉しくて、ひのめは泣きそうになった。

 「悪気はなかったんス!本当です!!」

 ガシャッ!!がちゃっ!!!!  

 ピヨピヨと、格闘ゲームよろしく頭の周りをひよこが回る。

 「なんだかわからんけどスンマセン、スンマ『――横島さん、落ち着いてください。』・・・・・・え?」

 違和感を感じ、横島は動きを止めた。ここにいるはずの無いものの声がしたからだ。
 血が流れすぎて自分の耳がオカしくなったのか。
 実際さっき聞こえた気がした声のほうはもう聞こえない。それとも?
 周りを見回すが、自分の目にはいるのは(血で半分視界は塞がれているものの)ぼろぼろになった机以外は、
 いたっていつもどうりの自分の部屋と、自分と同じくきょろきょろと視線を動かすひのめだけ。
 おかしなところはない。

 ならどこから声が?


 「・・・・・・・・・えーと、人工幽霊1号?」
 
 「いちごうくん?」
 
 『はい、私ですよ、ひのめさん。おはようございます、横島さん。』
 
 いつものように挨拶をしてくる事務所の‘影の’良心、
 つい、こちらもいつものように「おはよう」とかえしてしまいそうになるが、
 それよりも先に、口から飛び出たのは純粋な疑問だった。



 「・・・というか、何処にいるんだ?」

 『ここですよ、ここ。ひのめさんのかばんの中です。』

 「はぁ?」

 首をかしげながらひのめからかばんを受け取り、あけてみる。
 中には、

 「わぁ!」 
 
 「そういうことかよ・・・おはよう。」

 『はい、そういうことです。 おはようございます。』

 かわいいモガちゃん人形(トーキングタイプ)がこちらに向かって手を振っている。

 横島の後ろでは、ひのめがきらきらとした瞳で動くようになった自分のお気に入りの人形をみつめていた。



  ◇


 
 「さて、」
 

 ぼろぼろになった机の天板を「元」の文珠で直し、横島は、しきりなおすかのように口を開いた。

 「とりあえず、座っててくれ。お茶入れてくるから。」
 
 首をごきごき鳴らし、疲れきった足取りでキッチンへ用意をしに行く横島をちらりと見た後、
 ひのめはぽんっと手を打って、目の前の机の上に鎮座したモガちゃん人形にそろそろと視線を向ける。

 「いちごうくん、あの・・・」

 『問題ありません。オーナーへの伝言なら、
  オーナーが起きてきたら自動で読み上げるようにタイマーを設定しておきました。』

 
 ひのめが自分に訊ねたい事を予測して、優れた執事でもあると自負する人工幽霊は質問に先回りして答えた。
 しかし、彼女は複雑な表情をしている。
 どうやらこの返答は彼女の満足するものではなかったらしい。

 『違いましたか?』

 「あってるんだけど・・・・・・それだけじゃなくて、その・・・」

 視線をあちこちにさまよわせた後、ほんのりと顔を赤くして、

 「・・・ありがと、ここまでついて来てくれて。わたしのことしんぱいしてくれて。」

 ・・・もし自分に表情があったなら、きっとおかしな顔をしているだろう。
 


 『!・・・・・・いえ、こちらこそ、あなたに感謝を。』
 
 
 「なーに照れてんだよ、人工幽霊。」


 そんな2人のやり取りを見ていた横島は、にやにやしながらこちらに戻ってくる。
 

 「はい、ひのめちゃん。 熱いからきをつけてね。」

 お茶をひのめに渡し、どっこいしょ、と親父くさく呟きながら反対側に座る。
 

 ずずず しばらくお茶をすする音だけが部屋に響く。

 そんなことさえ横島には嬉しく感じられるようだ 普段は、休日といえども誰かが自分を誘いに来るため
 ゆっくりする時間もなかなかとれなかったのだ。
 それが迷惑というわけではないが、静かにすごしたいと思うときがあるのも事実。
 ひのめの爆弾発言を聞いたときにはどうしたもんかと思ったが、どうせ美神が原因だろう
 1日たてば喧嘩なんてあほらしくなるものだし、
 大体からして、自分が怯えることは何も無い。美智恵がいるのだから。
 それよりもお昼は何を食べようか?おキヌちゃんが作りにきてくれんかなぁ
 などと極めて楽天的に物事を考えながらぼけーとしていると


 「・・・・・・・・・・・・うん、あついね。」



 ちょっと熱すぎたかな?思考を中断して顔をあげる。すると、




 ひのめがぽろぽろと涙を流していた。
 


 5-だめだよ!

 

 人工幽霊一号が残したひのめのメッセージを聞いた後、4人はすぐさま車で横島の住むマンションに向かっていた。
 法定速度を完全に無視したコブラの中で左右に揺られながら
 おキヌの膝の上にケモノ状態で座っているタマモとシロの表情は不満げだ。
 2匹はあの後、自分も横島(せんせい)と同棲したい!と騒ぎ始めたのを
 美神の「鬼の」ひと睨みで黙らされたので、いまもう〜う〜とうなっている。
 おキヌはおキヌで、不安そうな表情をしているが、それは純粋にひのめの心配だろう。
 この少女は本当に優しいのだ。

 『やっぱりひのめ殿だけずるいでござるっ!!』
 
 「幼児に嫉妬するなっ!!!」  ぼかっ

 きゃんきゃん鳴きわめくシロを無視しながら、軽くため息が漏れた。
 昨日突然事務所に泊めてほしいと来た時から、ひのめが落ち込んでいるのはわかっていたのだ。
 自分に理由を聞かせてくれなかったことは少し不満だったが、それもしょうがないのかもしれない。
 なにせ、ひのめは姉である自分より、その部下である横島に懐いているし、
 それに



 (・・・・・・アイツも最近いいオトコになってきたし。)
 
 
 いや、それは関係ないんだケド・・・!!

 「美神さんっ」

 「へ!?  なに、おキヌちゃん?」

 「降りないんですか?」

 周りを見るといつの間にかマンションの地下駐車場に着いている。
 横島の事を考えながら無意識に運転していた事実に照れを感じ、美神は横島の部屋のドアの前に立つが


 〔あああぁっっ!!! なかんといてっ!! 悪いのは美神さんにきまっとるんやから!〕



 「・・・・・・・・・・・・コロス」
 
 ドア越しに聞こえた横島の科白を聞き、いつものようにぼこぼこにしようと、ドアに手をかけようとするが、おキヌに止められる。
 

 「(お、おちついてください美神さん!! なにか様子が変です。)」

 「(ぐっ・・・・・・・・・わかったわよ。)」

 それでもおさまりがつかないので、想像の中で横島を300発ほど殴り、精神の安定を図る美神。
 その姿は傍から見ているとかなり恐ろしいものなのか、しっぽを内側に巻きこんでぶるぶる震えているシロとタマモ。

 〔ちがうの・・・ママが ママがわたしのことキラいになっちゃったの!〕
 
 〔へ?! 美知恵さん? なんでまた?〕
 
 そんな状況をキヌがなだめて、4人はドアに耳を押し付けた。

 横島の疑問は当然なことだろう。遅くして生まれたひのめを美智恵が溺愛しているのは周知の事実。
 嫌いになるなんて事は、それこそ天地がひっくり返ろうとも起きはしないと思っていたのだ。
 全員が疑問に思う中、ひのめはぽつぽつと話し始めた。



 −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−

 
 その日、ひのめは上機嫌だった。

 てくてく歩くその姿もどこか興奮した様子が見受けられる。
 理由は、幼稚園で描いた絵が褒められたことであったり、帰り道で綺麗な花を見つけたことであったり、
 加えて、今日の朝見た星座占いで、
 自分の星座が1位(ラッキーカラーは赤 年上のカレと動物園に出かけよう!)だった事もあるが、
 なんと言っても1番の理由は、秘密の「とっくん」に成果が出たことだろう。
 
 (ふふふ・・・・・・)

 思い出すだけでにやけてくる。
 なにせ、数ヶ月かけてもまったく進歩の無かった炎の制御がついさっき、偶然によるものか、神の御手によるものか、
 出来てしまったのだ・・・・・・少なくとも、自分の知る神サマ達はかかわっていないだろうが。
 手のひらに浮ぶ炎のカタマリを見たときの喜びは言葉にできないものだった。
 
 (はやく、ママにみせたいな)

 周りの人たちは自分にはすばらしい才能があると言ってくれる。
 確かにそうかもしれない。
 しかし、制御しきれない才能にいったいどんな意味があるのか?
 母や姉、そしてあのヒトを見るたびにそう思ってしまうのも事実。
 
 (なんていってくれるかな・・・・・・)

 褒められる自分を想像して、また口元が緩んだ。


  ◆


 「こんにちわ!西条さん。 ママいますか?」

 「今日は、 ひのめちゃん。 今日は一段と元気だね。
   先生なら今外に出てるんだよ。 なにか「ありがとうございます!!」・・・どうしたんだ?」

 用事があるならいつもみたいに部屋で待つと良いよ!
 そんな西条の言葉を背に、階段を駆け上る。
 
 
 

 「・・・・・・これなんだろ?」

 母の執務室に入り、10分ほどソファに座っている中に退屈し始めたひのめがふと机のほうに目をやると、
 大きな壺が置いてあった。
 
 除霊のために持ち込まれたのか 口の部分にはお札が貼られ、
 取っ手が両側についており、描かれた模様と相俟って、邪悪な顔のように見えなくも無い。
 中から漏れる波動は、霊的なものが封印されていることを如実にあらわしていた。
 
 

 除霊する→ママに褒められる=嬉しい

 (・・・・・・・・・・・・よし!)
 
 横島の影響だろうか?非常に単純な思考回路でひのめは壺のお札を剥がしてしまった。



 ぼわっ!!

 壺が空中に浮かび、激しく回転するのと同時にもくもくと口から煙が上がる。
 こんな大層なものなんて・・・・・・!
 自分が予想したよりも遥かにすごい動きを見せる壺に驚くひのめ。
 
 煙がはれると、そこには

 



 『はぁはぁはぁハァはぁはぁ カンちゃんはぁはぁはぁはぁ』


 アラビア風の衣服を身にまとったタラコ唇のヘンタイがいた。
 ぶつぶついいながらこちらに目を向けてくる。
 視線が 合う

 『幼女ハァハァハァはぁ は』

 「い い いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 これは悪霊だ いや悪霊で無いとしてもヘンタイである事に間違いは無い
 瞬時にいろいろな意味で自らの危機を感じて、ひのめは全力で炎を放った。
 
 その炎は、今までで一番の威力でヘンタイに炸裂した。







 「・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」

 ヘンタイを完膚なきまでに燃やし尽くした後、大きな仕事をやり終えたものだけが見せる爽やかな笑顔で、
 ひのめは黒焦げになった床に座りこんだ。
 あんなおかしな奴が出てくるとは思わなかったが自分はやり遂げたのだ。
 母や姉のような立派な‘ごーすとすいーぱー’に、自分もなれるのだ。




 まぁ!ひのめったらもう一人で除霊できたの!?さすが私の娘!
 そうね 流石私の妹よ!!
 ひのめちゃん 明日動物園いこうか。
 
 この後自分にかけられるであろう賛辞とお誘い?に対する返事を考えていると
 
 「ひのめ!」

 「あ! ママ! 見て 私一人で除霊したの  すごいでしょ!」

 「・・・・・・あなた お札をはがしたの?」

 「うん もう私もごーすとすいーぱーだよ!」

 「・・・そう」

 「?」
 
 ぱんっ


 「・・・・・・え? なんで?」

 
 どうして?ひのめには訳がわからなかった。ただ認めてほしかっただけなのに!
 炎が使いこなせれば 悪霊を除霊すれば 
 きっとママだってすごいねっていってくれると思ったのに!

 冷えていく心とは裏腹に、熱を持ち始めた頬がじんじんと痛んだ。
  −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−


 話し終えたひのめは悲しみが蘇ってきたのか、しゃくりあげ始める。
 ドアを挟んで部屋の外にいる美神たちには見えないが、その瞳からは涙が零れ落ちているのだろう。
 そんな理由で家出したのか等と思ってはいけない。
 これくらいの年頃の子供にとって世界はとてつもなく狭いものだ。
 その中で、家族 特に両親はそのほとんどで有るといってもいい。
 ましてや、父親である美神公彦とは生まれてこの方2、3回会った事しかない。
 だからこそ美智恵に否定されたのはひのめにとってすべてを否定されたような気がしたのだろう。
 そのあと横島の家にやってきたのは 横島に父性を感じたからこそかもしれない。
 

 〔ママはわたしのことがキラいなんだ・・・〕

 
 美神はよっぽどこのままドアをぶち壊して部屋に入ってやろうかと考えたがおしとどまった。
 きっと何とかしてくれるだろう。
 アイツは普段はただの助平だが こんな時に期待を裏切った事は1度もないのだから。

  
 〔ひのめちゃん、それは違うよ。〕


 ほら、ね。


 




 つづくよ!

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