ザ・グレート・展開予測ショー

おこたでみかん〜そのちょっと後〜


投稿者名:とおり
投稿日時:(06/ 3/ 5)


「今日はこれで失礼しますね」

「ああ、じゃ一緒に行くよ」

「すみません」


コートを着こんで身支度を整えると、おキヌがノブに手をかけて、きっと音を立てて扉を開ける。
鼻の上にぽつんと乗ったのは、粉雪。
いつのまにか、夜空には雪が舞っていた。


「うわぁ…」

「こりゃ、寒いはずだ」


おキヌと横島は、階段の踊り場で思わず立ち尽くす。
街灯の光で薄ぼんやりと照らされた闇に白が映える。


「まーったく、こう雪なんて降ると明日もまた寒いだろうし。
 あんまり寒いってのも、考えもんだよなあ」


横島が一人愚痴の様にこぼすと、おキヌが雪に手をかざして、言った。


「そうですね、でも…」


息を吸い込んで、はぁっとはいて。
雪とは少し違った白が広がって溶ける。


「冬らしい、じゃないですか」


その瞬間、世界がぐっと近くなった様に思えて。
空を見上げるおキヌに、横島は指で頬をかきながら、つぶやく。


「…かなわないなぁ」

「? 何がです、横島さん」


きょとんとしたおキヌに、横島は笑顔で返す。
よく分かってはいないようだったが、おキヌも笑顔で返して。


「さ、駅まで送っていくよ」

「はい」


しんしんと降り積もる雪の下、二人はゆっくりと歩き始めた。





少し歩くと、明るく光る看板が目に入る。
すると、雪の寒さに体を前かがみにした横島が言う。


「おキヌちゃん、そこのコンビニで暖かいもの買って来ていいかな?」

「えっ?」

「いやさ、やっぱちょっと寒くて。待っててね」

「あ、はい」


横島はさっとコンビニに入ると、なにやらレジの所で店員に注文をしている。
おキヌは入り口から離れた歩道の脇で飽きもせず雪を眺めていると、すぐに横島が戻ってきた。


「早かったですね」

「うん、買うものは最初から決まってたから」


そう言って、レジ袋から取り出したのは湯気が立ち上る中華まん。


「さっき美味しい物いただいたけどね。
 これも寒い時には良いものだから」


はい、とおキヌに横島が中華まんを渡す。
目をぱちぱちさせて、おキヌは横島と中華まんの間で視線を動かして。


「やだ、もう」


でも、そういったおキヌの顔は笑っていて。
横島さん、ちょっとしたお返しのつもりなんだろうか。
おキヌはこそばゆい気持ちで、横島に礼を言った。


「ありがとうございます、横島さん」

「さ、冷めないうちに食べよう」


横島は言い終わると、すぐに口に中華まんをほおばって。
おキヌには、それが余計におかしい。


「ふふ、横島さん。
 お行儀悪いですよ」

「ふふぁふぇ? 」


もごもごと答える横島に、おキヌは笑いながら言った。


「いただきます、横島さん」


雪の降る夜、バレンタインの翌日に。
世の恋人達とは、違うけど。
横島さんと、二人して。
中華まんをほおばって歩くのも、いいかな、なんて。
おキヌはそう思いながら、中華まんをほおばった。


「太っちゃいますね」

「気にしない、気にしない」


横島が気軽に答える。
おキヌはいたずら心を出して、意地悪な言葉を投げかけてみた。


「じゃ、私が太ってしまったら」


右後をゆっくり歩く横島の、足を止めるようにくるんと振り向くと、黒髪がさっと揺れる。


「責任、取ってくださいね」


ちょっとだけ、右手に持った中華まんを高く掲げて、でもはっきりと。
今度は横島が目をぱちくりとさせて、手元の中華まんとおキヌの間で視線を動かした。
横島は残りの中華まんをえいと一気に口に入れて飲み込むと、それとは逆に言葉を口から出して。
こう答えた。


「ああ。
 責任、取ってあげるよ」

「きっと、ですよ」

「うん。きっと」


いくばくかの間が空いて。


「「あはははははは…」」


横島とおキヌは、二人で大きく、心から笑う。
雪がしんしんと降り積もる寒い夜、でも二人はそんな事をすっかり忘れたみたいに笑いあっていた。

そんな、ちょっと後の出来事。


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