ザ・グレート・展開予測ショー

鬼面の独白


投稿者名:すがたけ
投稿日時:(06/ 2/26)

「この…バカヤローが…!!」
 その声が誰のものかは、あたしは振り向くまでもなく判っていた。

 そう。雪之丞に言われるまでもなく、あたしは馬鹿だった。メドーサ様にそそのかされて魔装術を会得し、強くなる代償として、人間を捨てたのだから。



 【鬼面の独白】



 それまで、GSとは名ばかりの暴力集団・白龍会の中でも実力No1だったあたしに陰念のような取り巻きはいても、仲間はいなかった。

 No1といえば聞こえはいいけど、言ってしまえばお山の大将。狭い世界で満足するのには飽き飽きだった。

 でも、退屈していたあたしに、はじめて会った時から雪之丞は何度も突っかかってきた。

 ふらっと白龍会にやってきた頃は、基礎もなにも出来ていないただの喧嘩殺法。実力も伴わないのに馬鹿な奴だ、と思ったわ。

 だけど、最初のうちは陰念と互角だったのに、『強くなりたい』『天国のママに見てもらえるように、誰よりも強く、美しくならなければいけない』そう言い続けて、たった2年であたしに迫るくらいの成長を見せ、それに飽き足らずにさらに上を目指そうとしている雪之丞のストイックな生き方を、あたしは好ましく思うようになっていた。

 多分、あたしはこの時に雪之丞に惚れたのかもしれないわね。



 そして、雪之丞もそんなあたしを仲間だと言ってくれた。

 照れてるのか、ちょっとからかったらすぐ逃げてたけど、そんな打てば響く反応を返してくれる雪之丞がいる毎日は、あたしにとって幸福だった。

 ―― あの日、メドーサ様がやって来るまでは。



 殴りこみ同然にやってきたメドーサ様は圧倒的だった。初めに圧倒的な力で叩きのめすという鞭を見せ、報酬と術と言う飴を提示したメドーサ様に従って、魔装術を会得する道を選んだのは三人―― 下っ端生活に飽きていた陰念と、『今の自分よりも強くなる道』を常に探し求めていた雪之丞……そして、人生最初の敗北感を刻み込んだメドーサ様への復讐を胸に秘めていたあたし。






 でも、あたしの中に潜む、力への渇望は復讐心をじわじわと殺ぎ落としていった。


 魔装術によって自分を美しく変えることが心地よかった。


 何より、衝動に任せて、人を……魔物を『壊す』ことが楽しかった。



 そして、復讐心が―― 人の心が力と力を振るう快楽に呑み込まれたその時、あたしの魔装術は完全に自分のものになった。

 もしかしたら、魔装術があたしを自分のものに変えたのかもしれないけど、そんなことはどうでもよかった。

 誰にも負けない力―― あれだけ圧倒的だったメドーサ様もてこずったという日本最高のGS・美神令子をも圧倒する力、というものを得ることが出来たのだから。






 でも、かすかに残った心は、虚しさも感じていた。


 その虚しさの正体はずっと掴めなかったけど、横島とかいう雪之丞のお気に入りのボウヤに霊波刀で貫かれた瞬間に気付き、雪之丞の霊波砲で止めを刺された今、掴んだような気がする。



「てめーだって本当はわかってたんだろーによ…!」
 判ってるわよ。あたしも人間だった頃、本当はあんたみたいな仲間、というものを求めていたことを。

 ホント……そんなことを今頃になって思い出すなんて、あたしも馬鹿よね。

 でも、後悔はしていないわよ。

 だって、あたしは仲間を―― あんたを捨ててでも、誰よりも強くなることを望んだんだから―― 。



















 でも、あんたはどう頑張ってもあたしのようにはなれないわよ―― あんたって、あたしみたいにクールに決めようとしても、根っ子は熱血バカの甘ちゃんだってことに代わりはないんだからね。


 だから、あんたは――――――――。









































「……一件落着ってワケね…!


 ―― って、どうかしたの?」
 危機を乗り切った安堵に呟いたのち、その変化に気付いて尋ねる呪術使いに、魔装術使いは応えなかった。

 ただ、その場にただ一つ残された、鈍く輝く義手を拾い上げ……小さく呟く。
「馬鹿野郎―― あンの、馬鹿野郎がッ!!」

 雪之丞の双眸から、涙は流れ落ちることはなかった。

 だが、その心の奥底からの慟哭を……誰一人として止めることは出来なかった。

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