ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment〜 第13話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(06/ 2/22)

「静かだな・・・」

横島はぽつりと呟いた。
人海戦術で挑んできた公安の連中を全滅させると、廊下の奥に目をやった。
腰に挿していたショットガンを手に持つと、元来た道へと引き返す。
血の海と化した廊下を、何の感慨もなく歩く。
雪之丞が割れた窓ガラスから侵入して、横島の側へきた。

「首尾は?」

「まぁまぁだ。」

左手の時計に目をやる。
時計の長針は、7と8の間にあった。

「40分か・・・遊び過ぎたかな。」

横島は片目を瞑り、そういった。

「本命はまだでてこねぇな。」

雪之丞がそういうと、横島は首を振った。

「この奥だ。」

雪之丞の足が奥へと向かう。

「あいかわらずバカだな、お前は。・・・この奥に何があったか忘れたのかよ。」

横島の言葉に雪之丞は、足を止めた。

「・・・バカは余計だ・・・」

横島の方をチラリと見ると、再び顔を奥へと向けた。

「呪術兵器か・・・」






タバコを1本吸うと、令子とエミが現われた。

「アンタ、派手にやったわね・・・」

廊下の惨状を見回し、令子は舌打ちした。

「嫌いになりましたか?」

横島は吸ったいたタバコを壁に押し当てると、火を消した。
上目遣いの横島、それを見下ろす令子。

「私らにも残しとけってーの。何のために来たのか分かんないじゃないの。」

腰に手を当て、座っている横島の眼前で仁王立ちのまま令子は答えた。
































                       黒の総レース・・・終わったら俺のもの・・・



                       中身も、ぜ〜〜〜んぶ俺のもの・・・・・・・・」





「真面目な顔したまんま、口に出すなーーーーーーーーーーーっ!!!」

フルスィングされたAUGの銃尻が顔面に叩きつけられ、縦4回転すると横島は壁のオブジェと化した。

「あの角度で立たれると、普通見えちまうぜ・・・」

雪之丞の一般論は、この二人に通用するワケはなかった。





「さて、では行きますか・・・」

何事もなかったかのように、横島は立ち上がった。
誰もツッコむ気力が起きなかったのは、いつもの事と割り切る事にしておいたのであろう。

「いよいよ本命かよ。」

雪之丞は好戦的な笑いを見せる。

「アンタらえらく余裕だけど、なんで“いる”って分かるの?」

少し首を傾げて令子がいった。
横島は周りの死体を見渡すと、令子の方を向いた。

「仲間割れっスね。公安の奴いましたから、コイツら公安ばっかでしょう。
人海戦術で押さえ込もうとしましたからね、特殊部隊はこんなマネはしませんよ。」

ショトッガンの薬室の弾丸を確かめると、目線を窓の外に向けた。

「食い止めます。この奥まっすぐいくと、呪術兵器のラボがあります。」

雪之丞は横島の目線を手繰り、ニヤリと笑うと魔装術に身を包んだ。

「雪之丞、ケツ持ち頼む。」

右手にショットガンを持ち、左手で令子の手を引くと横島は奥に向かって走りだした。
一斉射撃などは起きなかった。
やや遠間から、霊波砲が足元へと打ち込まれる。

「エミ!」

「分かってるわよ!人使いが荒いワケ。」

左の窓の先へエミはライフルを向けた。

「足止めんな!」

横島は叫びながら、エミの手を引いてその場から退かし、エミの居た場所に自分が入るとショットガンを天井へ向けた。
爆音が響きスライドをポンプさせるが、横島は舌打ちをする。

「美神さん!正面!」

「誰に言ってんのよ!」

右の壁際から左に向かって横一文字に、AUGを掃射する。
気配はあるが、とびだしてくる様子は見受けられない。
令子は胸に手を入れ、手榴弾を取り出した。
ピンを抜き、壁に反射させブラインドとなっている廊下の奥へと届かせる。
爆風が正面の廊下を右から左へ抜けていく。

「さすが旦那・・・横島とやる事が同じだぜ・・・」

後方を警戒していた雪之丞は、チラリと令子の方を見て呟いた。

「偽乳かーーーーーーーーーーーーー!!!その乳は偽乳だったのかーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「悪質なデマ流すなーー!!あんた何度も見てるでしょーがっ!!!」

血涙を流し令子の胸にしがみ付く横島を殴りつけながら、令子が叫んだ。
令子の正面に人影が飛び出してくる。
そして横島たちと雪之丞を分断するかのように、天井を突き破り一人飛び出してくる。

「バカやってる間に分断されちゃったじゃないっすかーーーーーーー!!!」

「バカやったのは、あんたでしょーが!!!!!!」

怒鳴りあっている横島と令子の間に、ライフルが割って入る。
銃身を掴み特殊スーツの方へ横島が向ける。
エミは躊躇なく引き金を引いた。
正面の特殊スーツの男が吹き飛ぶと同時に、後方でも轟音が響いた。









「見事なコンビネーションだな・・・」

「こちらも犠牲を出さないと、押さえる事はできないでしょうね。」

元三尉の男は、モニターを見ながら低い声を絞り出した。

「原一曹。」

「レンジャー。」

「魔装術の男・・・頼むぞ。」

「レンジャー。」

元三尉に敬礼をすると、原と呼ばれた男はモニター室を出て行った。
男はモニターに目を向けながら、眉を顰めている。



なぜだ・・・なぜ確認できるんだ・・・



白いものが混じった短髪に手をやりながら、男は眉間に深い皺を寄せた。
深い皺より深く溝を刻むと、男は苦笑してモニターを切った。

「本部よりの情報は、カットする。敵に先手を取られた。各自臨機応変に対応しろ。通信終わり。」

通信機のスィッチを切ると、男は口元を緩めながらモニター室を後にした。










2体の特殊スーツを倒したところで、敵の反応がなくなった。

「くそ・・・気付かれたか・・・」

横島は隠しカメラの位置を睨みつけた。
あえてカメラは壊さなかった。
自分達の姿をさらけ出し、敵に寄って来てもらっていたのだ。
特殊部隊がその実力をフルに発揮できる隠密行動を、自分達の姿を曝け出す事によりさせていなかったのだ。
空手や剣術の兵法の『後の先』という戦法であった。
しかし、それに気付かれた。
雪之丞も気付いたようである。
後方から横島の元へと、歩み寄った。

「気付かれたな。」

「らしい。」

「どうする?」

「なるようにしかならねぇな・・・とにかく、美神さんとエミさんをラボに連れて行こう。」

「勘で個別に来られるとなると厄介だな。」

「海兵隊と同じく『臨機応変』でくるんだろうな・・・“勘”が勝負になってくると、お前にかなりの負担がかかるな。」

横島が僅かに眉を歪めると、雪之丞は横島の胸を軽く叩いた。

「誰に言ってんだよ。」

「悪ぃ・・・頼むわ。」

横島の言葉に、雪之丞は魔装術の下で軽く笑ってみせた。

「道、悪くなりますけど、我慢してください。」

令子とエミの方を向いて、横島がそういった。
両手には手榴弾が握られている。
片手に2個ずつ、計4個の手榴弾のピンを口に咥えると一気に抜いた。
ラボへ続く一直線への道へと転がす。
それと同時に、廊下の角へと二人を押し込む。
今までと比較にならない爆風が、廊下を伝っていく。
ラボへと続く道は、照明が途絶え闇と化している。
横島はショットガンを構えると、闇へと身を翻した。
横島を目指し、2方向から霊波砲が降り注ぐ。
霊波砲の方向から微妙にズレた所へ、OOバックの精霊石を叩き込む。
一瞬、霊波砲が止む。
闇の奥へ銃口を向け2発撃ち込むとショットガンを放り、ベルトに差し込んでいたシグを両手に構えた。

「先行って!!」

エミが横島の背中を通り過ぎる。
続いて令子。
ふと足が止まる。

「早く!!」

勘だけを頼りに、横島は暗闇に向けて9mmパラの精霊石を撃ち込んだ。

「あんた・・・こっち来るんじゃないわよ・・・」

「何があってもですか?」

横島はトリガーを絞るのを止めない。

「そうよ・・・何があってもよ。」

「風水盤はどうするんスか?」

「あんた先に行きなさい、後で追いつくから。」

令子はそういうと、暗闇に向けAUGを向けた。
その間に、横島は2丁の銃のマガジンを交換する。

「そういって待ちぼうけ喰うのは、もう嫌っすよ。」

少しだけ眉を歪ませて、呟くようにいった。
AUGの銃尻が横島の頭にコツンと当てられる。
銃を構えたまま、横島は令子の方を向いた。

「あんた、私を誰だと思ってんのよ。」

「そうでしたね。」

令子を見上げるようにして、横島は微笑んでみせた。

「クソ女ーーーー!!なにやってんの!!!早く来るワケっ!!!!!!」

エミの罵声が割れた窓を震えさせると、令子は奥へと走り出した。

「誰がクソ女よ!!!この時代遅れのガン黒がーーーーー!!!!」
















「時代遅れって・・・人の事は言えんだろうに、今どきボディコンじゃなぁ・・・
まぁいいか、ドアップでパンツ拝ませてもらったし♪」

令子とエミが駆け抜けた廊下に目をやりながら、横島はそう呟いた。



































爆音と光の筋が、横島の髪を掠めて通過していく。

「チッ・・・外したか!!!!」

闇の奥から、令子の声が聞こえた。

「ふざけとらんで早ぉいかんかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「ふざけてんのはどっちよ!!!真面目にやらんかーーーーーーー!!!!」










「一曹・・・今、攻めていいんですかね・・・・」

「・・・分からん・・・あの微妙な間合い、突っ込もうにも突っ込めん・・・」

原“元”一曹は、向かい側の屋上から双眼鏡で二人の遣り取りを覗きながらも、ボケに対するツッコミと
突撃のタイミングを躊躇していた。

「女たちをラボに行かせても良かったので?」

「かまわんさ、俺たちは俺たちの仕事をやる。それだけだ。」

原はそういって、特殊スーツのヘルメットを被った。

「それにあそこには、管理人がいるからな。」

そう呟きながら、ラボの方に一瞬だけ目をやった。












霊波砲が、コメカミを掠めていく。
生温かいものを感じながら、足元のモノを蹴り出す、
聞こえなかったはずの音が、僅かに響く。

“瓦礫?パイナップルじゃないのか?”

一瞬の躊躇。
見えないはずのものが、“音”という姿を見せる。
9mmの精霊石が“音”を捉えた。

「目くら撃ちでも、どーにかなったな。」

あるはずのない手応えを指先に感じながら、横島は呟く。




先日忍び込んだ時に、確認の取れたスーツは10体。
先の戦闘で2体、現時点で倒したスーツは3体。
雪之丞が相手をしている2体・・・おっとこれで残りは3体。


勘定しながら横島は雪之丞の戦闘を眺め、数が減ったのを確認した。

「どうした、息があがってるぜ。」

「ぬかせ、お前こそ一人相手にえらく手間取ってやがってたな。」

魔装術の下で雪之丞がニヤリと笑うと、横島は持ってた銃をひらひらと振った。

「俺はお前みたいなバトルジャンキーじゃないんだ、一緒にしてくれるな。」

冗談めかしてそういうと、廊下の端を睨んだ。

「残り3体・・・俺とお前でかかれば、余裕で間に合うな。」

そう呟くが、雪之丞からは何の返事もこない。
雪之丞は窓の方を眺めたまま、動こうとはしない。

「悪ぃな・・・残り3体、お前一人で頼む。」

「おい、冗談だろ?」

横島が雪之丞の方に視線を動かすと、雪之丞は窓の外へと身を翻した。
ほんの僅かな動揺を見せる横島を、特殊部隊は見逃さなかった。
3体が分散し、肉弾戦を挑んでくる。
弾丸の威力を考えての戦い、各々が霊波刀、しかもご丁寧に匕首サイズに調整している。

「こりゃ、まぢヤべぇや・・・」

横島の背中に、冷たいものが走りぬけた。























窓から飛び降りた雪之丞の正面に、特殊スーツの男が立っている。
先ほど相手をしたスーツとは、明らかに仕様が違っている。

「こいつが例外ってヤツか。」

雪之丞の視線に“例外”を身に纏った原が立っている。
動く素振りは見せない。
首を僅かに横に振ると、雪之丞に視線を向けたまま歩き出す。
障害物の無い広い場所にくると、背を向け体を解しだした。
雪之丞は大きく息をつくと、同じように背を向け体を動かした。
今までの戦闘でどこも体は痛んでいないか?
右腕、左腕、右足、左足、胸部、腹部、頭部、頚部、背中、各関節・・・チェックを終えると突きや蹴りを繰り出す。
背中越しに、相手も同じ事をしている。
風切り音が耳に入る。
情報を入れるべきか?
一瞬迷いが入るが、頭を2,3度振ると迷いを消した。

俺は横島みてぇに器用じゃねぇ・・・俺は俺のベストを尽くすだけだ。

雪之丞は口の端を緩めると、そう思った。




お互いにウォーミングアップが終わったらしい。
合わせたワケではないが、ほぼ同時に振り返った。
すでにお互いが視線を逸らす事をしない。






“コイツは俺と同じだ。”








雪之丞がサウスポースタイルに構える。
“例外”はアップライトに構える。








“戦いでしか自分を表現できねぇ、大バカ野郎だ。”







相手のジャブの射程に入る前に、雪之丞が仕掛けた。
右サイドキック。
左ジャブを封じられた相手は、上体を反らしスェーバックで交す。
もう一度右サイドキック。
今度は雪之丞の左に周り、右のハイキックが飛んでくる。
右足を下げ、左でガードしながら交す。

お互いの顔は見えない。
だが、お互いに理解していた。





「「楽しもうぜ。」」






お互いの拳が交差する。
特殊ヘルメットを、魔装術を掠めていく。
ロー、いや膝の裏に蹴りを入れ身長差を無くし、左の肘を顔面に目掛けた。
右手で左の肘が受け止められる。
返しの右肘を放つ。
受けられないと悟った男は、ヘルメットの前部で右肘を迎え撃った。
金属音が響き、雪之丞の右肘は弾かれる。
体勢が崩れた雪之丞に、男の左拳が飛ぶ。
男に持たれた左肘を支点に、右足を下げ脇腹を掠らせる程度に抑える。
繰り出された左腕を掴むと、顔面へ右膝を繰り出す。
男は右腕を雪之丞の左手ごと下げると、膝蹴りをガードした。
再び響く、金属音。

雪之丞は数歩後に下がると構えようとしたが、再び下がり直し、男に立つように手招きした。
片膝をついていた男は、立ち上がり大きく体を揺らすとアップライトに構える。

やはり、うっすらと笑みが浮かぶ。




すまねぇな・・・横島、どうやら仕事忘れちまいそうだ・・・




魔装術の下で雪之丞は、凶悪な笑いを浮かべた。






今度は、原が先に仕掛ける。
体を揺らしながら、小刻みにフェイントを入れる。
手を出すというより、揺らすだけである。
相手の左に合わせ、時計周りに足を運ぶ。

“カウンターの右ストレートか・・・”

雪之丞の視線が相手の右手にやや固まる。
右半身に鳥肌がたつ。

“ヤバいっ!”

咄嗟に左に飛んだ。
魔装術をしていても、風圧を感じた。
左のハイキックが飛んできたのだ。

“アレを交わすか!?”

“ガードしてたら、そのままもってイカれてたな・・・おもしれぇ・・・”

凶悪な笑みを称え、雪之丞は原へと向かっていった。









一方、呪術兵器のラボに侵入した令子とエミは呆気にとられていた。
表の喧騒とは対照的に、ラボは人の気配さえしない。
侵入者用の警報装置さえ碌に作動していないのだ。

「ねぇエミ・・・どう思う?」

気配を探りながら令子が呟いた。

「そうね・・・何かあると思った方がいいわね。あまりにも不自然過ぎるワケ。」

そう言葉を返しながらも、エミは呪術兵器の方へと歩いた。

「これが・・・・」

魔法陣を模ったラボ内に、呪術用のアイテムが配置されている。
増幅装置と思える機械、そしてそれにリンクしたモニター。

「胸クソ悪いワケ!!」

コメカミに血管を浮き立たせ、エミはライフルを呪術兵器本体に向けた。

「向ける相手が違うようだよ、お嬢さん方・・・」

低い声が聞こえた。
エミと令子は声の方に、銃口を向ける。
まったく気がつかなかった。
油断はしていない、それでも二人は声の相手の接近にまったく気がつかなかった。

「う、うそ・・・しゃべった??!!」

「な、なんでこんなのがいるワケ!!??」

驚愕する二人とは対照的に、モニタールームからそいつはゆっくりと歩いてきた。
明らかに靴音とは異なる音がラボに響く。
“そいつ”が歩を進めるたびに、二人の緊張は高まっていく。
銃を構える手に汗が滲む。
隠されていた霊圧が解放されていくと同時に、二人の緊張は頂点を迎えていく。
























二人に近づいてくる“そいつ”は、ガルーダと呼ばれていた。









                           SEE YOU GHOST SWEEPER...



--------------------------------------------------------------------------------------


思いっきり、ひいてます・・・
いかにも次回へ続く。

今回って、話進んだうちに入るのでしょうか?(汗)

物語もラストに向けてスパート(たぶん)!!
そして年度末もスパート!!!!来週棚卸だよ、ちきしょーーーーーー!!!!

というワケで、次回は気長にお待ちくださいませ・・・・


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa