ザ・グレート・展開予測ショー

DOLCE VITA!


投稿者名:ライス
投稿日時:(06/ 2/18)



 まずは後悔しよう。図らずもここまでやってきてしまった自分が悪いのだと。そして、今日が一体どういう日であるかを全く失念していた事に。ああ。ため息は深く深く、肺から吐き出されてしまう。吐き出すたびに幸せが逃げていくと、古人は言ったものだがまさにその通りなのかもしれない。
 なぜなら。
「ピィィィトォォォン♪」
 エミさん。彼女はこの今の状況を作り出した、原因で元凶で根源だ。ここは彼女の事務所兼自宅。なぜか自分と二人きりで、住み込みであるはずのタイガーの姿が一向に見当たらない。
「安心して、邪魔者は追っ払ったから♪」
 ……なんでこちらの考えている事がばれてしまうのか不思議で仕方ない。しかし、彼女の言葉が真実ならば、状況は暗い。むしろ悪化したとも言える。助けを呼べない時点で、万策が尽きてしまった。どうする事も出来ない。
「ところで、エミさん」
「なあに?」
「ひとつ聞きたい事があるんですけど」
「んもう、遠慮しないで言ってみて?」
「なんで僕は縛られてるんでしょうか……しかも簡易結界の縄なんかで」
 手首と足、そして腕がぎちぎちに塞がれてしまっている。しかも結界を作る縄なので、ヴァンパイアミストになって逃げ出すことも不可能だ。
「決まってじゃない、ピートが逃・げ・出・さ・な・い・た・め♪」
「……いちいち抱きつかないでくれますか」
「いいじゃないの、減るもんじゃないんだし。恋人同士、仲良くしましょう?」
「いつ僕たちが恋人になったんです」
「たった今から」
「冗談はよしてください!」
 今日はバレンタインデー。聖バレンタインの処刑された日ではなく、製菓会社の陰謀でチョコが一年の内、最も乱れ飛ぶ日だ。しかし。
 手渡されたのは、チョコでなく褐色の肌の女性……そして、自分は捕らわれの身。ああ、平穏な幸せが逃げていく。


 ☆


 それは今日の朝、届いた一通の招待状から始まった。

 親愛なるピートへ。
 日頃の感謝の意を込めて、ささやかなおもてなしをしたく、ここに招待いたします。私の家までお越しください。来てください。ていうか、来て♪ 

 という旨のカードが便箋に封入されて、郵便受けに投函されていた。送り主は言わずもがな小笠原エミ。
「エミさん」
 これを朝、起きぬけで玄関の新聞を取りに行った矢先、ついでに見たのが運のつきだ。文面を見て頭を抱えそうになった。会うと彼女は目の色を変えて、こちらに猛攻撃を仕掛けてしてくる。いつもいつもいつも、そうだ。こちらとしてはいい加減、辟易しているのだが、彼女に悪意はないため無理に突き放す事も出来ない。どうしたものか。
「行けばいいじゃないか」
「せ、先生!」
 いつの間にか唐巣先生が歯ブラシをくわえて、脇に立っていた。
「しかし……」
「招待状がこうやって来ているんだ。むげに断るわけにも行くまい、ピート君?」
「そうですけれど」
「なら、問題はないようだね」
 と、先生はにっこり。人の気も知らないで、いい気なものだ。
「行って、ゆっくりと楽しんできたまえ」
 どんと肩を叩かれ、先生は中に戻っていった。確かに行かないのは失礼だ。かと言って、行くのも少し気が引けるのも事実。そう思い、便箋の表を見てみると、そこには「For Pietro」という文字と共に紅いキスマークが。深いため息をつくには十分な材料だった。


 ☆


 ああ。この寒空の下、自分はどこへ向かっているのだろう。エミさんの家へ行くべきなのだろうか。それとも今から引き返して、教会で本でも読んでいようか。閑静な住宅の並びをうろうろしながら、あれこれと思索する。一旦は行こうと思い、こうして外へ出たのはいいのだが、また揺らいでいた。先ほどの便箋を見ながら、目的地へと歩く自分。今ならまだ引き返せる。しかし、それは相手に失礼だ。礼儀に反することはあまりしたくない。が、相手はエミさんだ。行けば、エミさんは過剰なまでの愛情を示してくるのだろう。
それが困りものだ。おのずとため息が出てしまう。
 横島さんや雪之丞を呼んで、同行してもらうということも考えた。けれど、横島さんは今日は仕事だとか言っていたし、雪之丞はもとより連絡が取れない。残るはタイガーなのだが。
「そうだ、エミさんの所にはタイガーがいるじゃないか」
 そういえば、住み込みで居候しているのだった。すっかり忘れていた。彼に付き添ってもらえれば、少しは彼女も接し方を変えるのではなかろうか。それに雇い主である手前、
のろけた態度もあまりしてこないだろう。そうだ、そうしよう。途端に身が軽くなった気がした。タイガーがいるなら怖くない。エミさんも普通に接してくはず。安心して、過ごせる。すると足取りは急に軽くなり、気付けばもう家の前。
 さっそくインターフォンを押してみた。返事が無い。もう一度押してみる。やはり返事はない。不思議に思い、敷地に入って玄関のドアをノックした。
「エミさーん」
 それでも返事はない。
「おかしいなあ」
 招待したエミさんがいないなんて。これ以上におかしな話はない。不可解に思いながら。おもむろにノブを捻ってみた。
「あれ」
 いとも簡単にドアが開く。当たり前だ、鍵が掛かっていない。出かけてはないようだ。しかし、無用心にもほどがある。寝ているのだろうか。
「エミさーん、いるんですかー? いるんなら返事を……」
 外にずっといても仕方ないので中に入り、ドアを閉めた。瞬間、視界に入ってきたのは人が入りそうなでっかな木箱。しかもプレゼント包装のように塗り立てられ、リボンまで付いている。おまけに「私を開けて」とご丁寧にメッセージカードが貼り付けられていた。あんまりな光景に絶句するしかなかった。
 あきれてものも言えない。来たのが間違いだった。木箱に背を向けて、またドアノブに手を掛けた。
「あ、あれ?」
 いくら捻ってみても、ドアが開かない。なぜだ。いくら捻っても叩いても蹴っても、ドアは破れない。まるで呪いにかかったように。呪い? まさか。
「待っていたわ、ピートぉん♪」
「わ、エミさん!?」
 木箱のフタが豪快に宙に浮かび、中から出来たのは当然ながらエミさん。背中越しに当たる胸の感触が生々しく伝わってくる。
「ちょっ、しがみつかないでください!」
「イ・ヤ。今日はもうずーっと離さないんだから」
「そうじゃなくて、胸が……」
「当ててるのよ♪ ピートはイヤなワケ?」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「あら、つれないわね。まぁ、いいわ♪」
 次の瞬間、あっという間に縄で縛られてしまった。
「エミさん! 一体、どういうつもりですか!」
「そんな怒った顔しないで、ピート」
「怒ります! こんなことするために僕を呼びつけたんですか」
「それは誤解よ、ピート。だって今日は2月14日じゃない」
「今日がなんだっていう……あっ」
 しまった。彼女に今日の日付を言われるまで、ぜんぜん気付かなかった。この日のことも、なぜ彼女がわざわざ招待状を送ったのも。理由は全ては今日という日にあったのだ。
「そう、今日はバレンタイデーなワケ。ゆっくりしていってね。ピートへの本命チョコはワ・タ・シ、なんだから♪ ねえ、ピート。私の愛をたっぷり受け取ってえ!」
 だから、来るのがいやだったのだ。のっけからの熱い抱擁。このままではエミさんのテンションは止まることはなく、ただ天井へ突き抜けていくだけ。それを考えるだけでも憂鬱になってきた。そして何度目かのため息を吐き、僕は途方に暮れるのだった。


 ☆


「これ、解いてください」
「だ〜め」
「なんでですか」
「なんでもよ」
「帰ります」
「帰らせないわ」
 子供みたいな問答が続く。エミさんとソファに座る事、十数分。隣で抱きつく彼女は不敵に微笑んでいる。
「少し離れてください、暑苦しいです」
「いいわ」
 ようやく首から彼女の腕が離れる。だが縄はまだ縛り付けられていて、全身の自由は利かない。エミさんはまだこちらを見ている。足を交差させ、猫のような目で狙いすましている。視線を感じるたびに、それは不気味な魅力を発していた。
「なんですか」
「顔」
 彼女は一言、呟いた。
「見てて飽きないのよね。うっとりするわ」
 彼女はまた微笑んでいった。
「止めてください、恥ずかしいです」
 自分の顔がじっくり見られていると思うと、面映ゆく感じてしまう。彼女の目からなるべく、顔を逸らしたい。その一心で視線を脇に振ろうとした。
「だめよ、ピート。こっちを見て♪」
 エミさんは強引に僕の顔を彼女の方へ差し向ける。手で顔を押さえつけられ、首を回す事すら許されず、目の前にある顔をただひたすら見るしかなかった。
「私だけを見て」
 彼女の波打つ黒髪と、褐色の肌。そして黒い瞳が目に入る。
「私はあなただけのものよ。だからなんでも言って。出来る限りの範囲でなんでもするわ
。さあ、ピート。あなたの願いはなに?」
「決まってるじゃないですか。縄を解いてください。そして僕を帰らせてください」
「それは無理な注文だわ」
「じゃあ、せめて縄だけでも」
「逃げ出さないって約束してくれる?」
「それは……」
 今すぐにでも帰りたい。しかし、帰らないのなら縄は解いてくれるらしい。一度約束して破る事は出来るが、人を裏切ることはしたくない。今日一日だけの問題とあれば、ここは我慢するより他はないだろう。
「分かりました。逃げないから解いてください」
 僕はまたため息をついた。


 ☆


 自由の身になっても、彼女のスキンシップはまだ続く。
「自分の家だと思って、ゆっくりくつろいでいいのよ?」
「だったら、僕にひっつかないでもう少し離れてください。くつろげるものもくつろげません」
 そう言って、先ほど出された紅茶に口をつけた。エミさんはまだ隣に座り、腕を僕の肩に乗せて、身体を寄せてくる。
「いいじゃないの」
「よくありませんよ」
「あ、砂糖はいるかしら?」
「さっき自分で入れました」
「そう……じゃ、ミルクは」
「レモンが入ってるのでいいです」
 エミさんは僕になにかと構ってくる。横島さん辺りなら、ものすごく羨ましがりそうな状況だが、あまり気乗りはしなかった。
 彼女が自分に好意を持っていることは知っている。それにこうまでして過剰に迫ってくるのも理解できないわけではない。だけど、僕は彼女を愛する事は出来ない。
 人間と人外の恋愛関係を真っ向から否定するつもりはないが、どう考えても寿命が先に来てしまうのは彼女の方なのだ。こればかりは、変更できない問題だ。仮に彼女を愛する事になり、結ばれたとしても彼女だけ老いていくのを見るのは忍びない。かといって、愛ゆえがために彼女の首筋を噛んでしまうのは、愚かな行為だ。
 それに母がそうだった。人間だった彼女はたちまちに老いていき、僕らの感覚では恐ろしく早く死んでいったのだ。たった五十年。それにしても、当時の人間にしては長寿だったのだろう。まだ子供だった自分にとって、不思議で仕方なかった。年老いてしわくちゃになった母は、床に臥せながらも僕を見て、笑顔で頭を撫でてくれた。しかし、その目からは畏怖の念が満ち溢れていて、今にも狂いだしそうだったのを憶えている。怖かった。彼女は生まれてきた僕を愛してくれたのだと思う。それと同時に恐ろしさを感じていたのかもしれない。時を経るにつれて、老いさばらえる自分に対し、五十年という年月を費やしても子供のままの僕を母はどんな思いで見つめてきたのか。想像すら出来ない。
 長寿である事の孤独は慣れている。だがきっとエミさんと一緒になれば、彼女にも辛い思いをさせてしまう。だから僕は人に恋をしてはいけないのだ。これからもずっと。
「どうしたの、浮かない顔してるわよ」
「あ、ああ。すみません」
 つい考え事をしてしまっていた。エミさんは僕の顔を心配そうに覗きこんでいる。
「私とじゃ、つまらない?」
「いえ、そういうわけでは」
「いいのよ。無理に付き合せちゃったワケ」
 彼女は急に塞ぎこみ、紅茶の入ったカップをゆっくり回し始めた。
「ちょっと舞い上がってたかもしれないわ。ピートを縛り付けたり、呪詛で家から出られなくしたり、他にも色々と準備はしてたんだけどねえ」
「やりすぎですよ……」
 と、僕は軽く笑ったがエミさんの表情は曇ったままだった。
「ねえ、こんな昔話、知ってるかしら」
 彼女は僕のほうを見上げて、語り始めた。
「むかしむかし。とある所に召使の少女がいました。身寄りのない少女はいじわるなご主人様に文句一つ言わず、一生懸命働いていました。そんなある日、山に木の実を摘みに行くと、怪我をした魔法使いに会いました。かわいそうな魔法使い。やさしい少女は魔法使いを手当てしてあげました。ありがとう、と魔法使いが言いました。
「すると、魔法使いはお礼になんでも願いをかなえてあげると言います。少女は困りました。願い事が無かったのです。しかし、魔法使いは首を振りながら言います。かわいそうな女の子、君みたいな小さな子がそんなに一生懸命働かなくてもいいんだよ。魔法使いは魔法を唱えると、いじわるなご主人様を改心させて、少女を自由にさせてあげました。すると少女は泣き出し始めました。実は辛い仕事を押し付けるご主人様が好きではなかったのです。けれど、ひどいお仕置きが怖くて、言えなかったのでした。でも、それも魔法使いのおかげでなくなったのです。少女は魔法使いにお礼を言いに行くことにしました。
「あちこち探し回ったはてに会った魔法使いの様子はなにかおかしなものでした。少女は話を聞くことにしました。魔法使いが話すには悪魔に取り憑かれてしまい、自分はもうすぐ死んでしまうということでした。それを聞いた少女はなにか出来る事はないかと、聞きました。すると魔法使いが言います。この先に、聖なる泉がある。そこの水をすくって、私に飲ませておくれ。そうすれば悪魔を追い払えるんだ。少女はいそいで泉に走って、水をすくってくると魔法使いに飲ませました。
「するとどうでしょう、魔法使いの顔はみるみるうちに輝いてきました。悪魔は追い払われたのです。けれど、魔法使いは二度と起きる事はありませんでした。少女はまた泣きます。と、どこからか声が聞こえてきました。泣かないで、小さな女の子。僕は大丈夫、君のおかげで天国で行けるんだ。だから君も強く元気に生きていくんだよ。声は魔法使いでした。少女は涙を拭いて、空を見ました。青い空にはなにもありません。でも、少女には天国に上る魔法使いが見えた気がしました。そして、少女はまた元気を出して、幸せに暮らしました、ってね」
「少し、悲しいお話ですね」
「この話にはまだ続きがあるのよ」
 エミさんは紅茶を飲み干すと、話を続けた。
「少女は自由に暮らし、そして大人になったわ。自分の好きな仕事をして、友人も出来た。でも、彼女の心は埋まらなかったワケ。魔法使いは彼女を自由にしてくれたけど、一緒にいてはくれなかった。
「友達はいるけど、ずっと一緒にいるわけじゃない。だってそうよね、一緒に住んでいるわけじゃないし。それに彼女には親がいるわけでもない。常に独りぼっちなのよ……」
「エミさん」
 気付くと、彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。
「彼女には支えが必要なの。だから、必死になった。心の支えを得ようとして。でも、彼女も馬鹿ね。がっついて取ろうとしても、そっぽむかれるだけなのに……!」
 エミさんは僕の胸に寄りかかって、泣き出した。どんなことがあったか知らないが、彼女も辛い道を歩んできたようだ。おそらくさっきの昔話も彼女の事なのだろう。その寂しさの裏返しに、僕に対しての過剰な愛情があるとするなら。僕は彼女に酷いことをしてしまったかもしれない。
「エミさん」
「お願い。もう少し……」
「ひとつ、聞いてもいいですか」
 彼女は無言のまま、頷いた。
「もし、その彼女が心の支えになる人を見つけたとします。けど、その人は彼女を愛する事が出来ないとしたら、どうします? 彼女に辛い思いをさせたくないから、彼女に悲しい思いをさせたくないから、人間を愛してはいけないと考えているしたら、どうしますか?」
「……それでもいいの。その人が彼女を思いやっているからこそ、自分から退いているのだから。そういう人って、きっと彼女にどんな事があってもずっと思い続けてくれるわ」
「そうでしょうか。彼女はそれで幸せなんでしょうか」
「きっと幸せだわ。好きな人の思い出として、ずっと記憶に残されるって事以上に幸せな事はないと思うわ」
 まるで胸に杭を打たれたような衝撃を感じた。同時にエミさんに見透かされたように思える。急に自分が恥ずかしく思えてきた。死んでいった母も同じ事を考えたのだろうか。そうだとすれば、幸せに死んでいったのかもしれない。エミさんの答えに僕は救われた気分になった。
「そうですね、きっと」
 今日、この家に来て初めて、穏やかな気持ちで言えた気がする。エミさんは涙を拭い、打って変わって、僕に顔を向けた。
「そういえば、ピート」
「なんですか」
「バレンタインのチョコ、まだ渡してないわね」
「チョコ? そんなもの、どこにあるんですか」
「ここにあるわ」
 彼女は僕の顔を手で押さえつけて、自分の唇を僕のに重ねた。
「私がチョコレートなワケ」
 エミさんはそう言って、再び僕の唇を奪った。


 ☆


 外は夜。結局、エミさんの家で夕飯のお世話になった。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」
「そう。ありがと、ピート」
 と、エミさんはにっこりと微笑む。とても柔らかな笑顔でとても自然だ。
 食器を片付けるエミさんをあとにして、ソファに座り込んだ。ここでさっき、彼女と口づけを交わしたのだ。思い出すとすこしどきどきした。唇にまだ感触がわずかに残っている。指を唇につけて、触れた感触を確かめた。
 すぐに変なことをしていると思い、手をソファの上に乗せた。まったく落ち着かない気分だ。と、ソファを撫でていると固い物が触れた。
「ん?」
 ソファの隙間になにか押し込まれているようだ。その間を手で探ってみると、意外なものを発見した。
「目薬……?」
 携帯用の目薬だった。なんでこんなものが。
「あれ、そういえば」
 今、座っている所はちょうど先ほどエミさんが座っていた場所だった。そこに目薬。
「ということはつまり……」
 まさか。でも、ここに証拠品が。いやいや、たまたまどこかに行っていたものかもしれないし、そんなことは。
「どーしたの、ピート?」
「え。な、なんでもありませんよ?」
「そおなの? ならいいんだけど今、なにか隠したでしょう?」
「いえ! そんなことは!」
 と言うと、エミさんはまたにっこり笑って、僕に背を向けた。
 まぁ、いい。あの涙が嘘であれ本当であれ、少しはお互いの事を理解しあえたはずだから。しかし、女の人はしたたかだ。涙は女の武器というも、たぶん本当なのだろう。
「ねぇ、ピート」
「はい」
「愛してるわ♪」
「そうですか」
 そう言うと、僕は苦笑ってまたため息を吐いた。



 La Fine



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