ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment〜 第12話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(06/ 2/13)

モニター室の奥の部屋で、男が電話をとる。

「はっ、はっ、了解。」

一切の否定はせずに、歯切れのいい返事だけを伝える。
男は、左腕の時計に目を落とした。

「全力を尽くします。」

男はそういって電話を切った。
短い頭髪に少し白いものが混じった男は、眉間の皺をいっそう深く寄せると息をついた。

「これより予定通り作戦に入る。非戦闘員の退去は終了しているな。」

男よりも幾分か年若い男にそう告げた。

「ヨーダ自動車社員は、昨日はすべて定時で返しています。今ここにいるのは我々だけです、三尉。」

「三尉はやめろ。自分達はすでに自衛隊員ではない。」

「失礼しました。」

若い男が、男に敬礼をする。

「長年のクセは抜けないか・・・」

男は少しだけ笑ってみせた。

「ちゃんと守ってくれるんだろうねぇ〜、君たちは僕と僕の作戦を守るためにここにいるんだって事を忘れちゃいけないんだよ〜。」

長髪にメガネをかけ白衣を着た細身の男が、二人にそういった。
若い男がその言葉にムっとしたが、男がそれを止めた。

「無論だ。我々は全力を尽くす。」

「頼むよ〜。あ、そうだ。君らのデータは自動的に記録されるけど、どうせなら彼らのデータもできるだけ欲しいなぁ〜」

細身の男はニヤつきながら、男の顔を眺めた。
男の目が一瞬鋭さを増した。

「勘違いするな。我々は上官の命令を果たすだけだ。貴様のくだらないおもちゃのためにここにいるのではない。」

視線だけで細身の男を下がらせると、二人は部屋を出て行った。
残された細身の男は、二人が出て行くと緊張がとれたかのように動き出し震えだした。

「な、なんだよ〜。戸籍も捨てた犬のクセに!天才の僕に逆らうのか〜!!僕がいなければお前らみんな死んでたんだぞ〜。」

癇癪を起こしイスを蹴り倒しながら、細身の男は叫び散らす。
その声は、二人の男の耳にも入っているようだが男たちは何事もなかったかのように廊下を歩いた。

「三尉、なにかいってますよ?」

「気にするな・・・遠くで吠える事しか知らん哀れな奴だ。パソコンの中と研究室にしか世界の真実ないと思っているんだ。
世界は広いのにな・・・・」

三尉という言葉を気付かないフリをして男はそう応えた。

「ヤツら来ますかね?」

「来るさ・・・我々戸籍の無い“幽霊”が再び表にでられるのか、それとも彼らGSが“幽霊”を除霊するのか。
お互いの生き残りをかけての戦いだからな・・・・」

男は好戦的な笑みを口元に浮かべた。









その姿は、近所でも散歩するかのようであった。
右手に持ったショットガンを肩にかけ、警戒する様子もみせずに、横島は歩いていた。

「やっぱ守衛はいねぇのな。」

昼間あれだけ警備の厳しいゲートも、何の警戒もしていない。
横島たちGSがここに現われるという事は、すでに分かっているのだろう。
彼はそう判断し、無造作に歩く。

「まがりなりにもプロだからなぁ・・・尻尾出すワケねぇか・・・」

横島は溜息と同時に言葉を吐き出すと、ポケットから手榴弾を取り出した。

「おいユッキ〜♪」

安全ピンを抜いた手榴弾を雪之丞に渡す。
雪之丞は、目を大きく見開いたまま手榴弾を遠くに投げた。
ガラスの割れる音が響くと、爆発音と共に朝靄も赤く染めた。

「てめー!なんてことしやがる!!!!」

「いや、俺の腕力じゃあそこまで届かねぇもん♪」

雪之丞は横島の胸倉を掴むと、ガクガクと揺すった。
雪之丞の顔に風切り音と共に、赤い筋が浮かぶ。

「ほれ、隠れてた。」

二人に向かって弾丸が雨のように降り注ぐ。

「言ってる場合かーーーーーーっ!!!」

遮蔽物に一端隠れる横島と雪之丞。
少し遠間に、令子とエミも隠れている。
横島は降り注ぐ弾丸の位置を確認すると、雪之丞に指差し突っ込むように指示をだした。

「人使い荒ぇなぁ・・・これも旦那の教育の賜物か?」

令子の方を振り返り苦笑して魔装術に身を包むと、弾丸の雨が降り注ぐ中へと体を翻していく。
5.56mm・・・89式自動小銃の音ではない、横島はそう判断して雪之丞を突入させた。

“亡霊たちとは別部隊か・・・”

雪之丞が突入した後に続く形で、横島も建物に入る。
通路の奥へ手榴弾を投げ込む。
壁沿いに隠れ、爆風から身を隠す。
爆音と爆風が同時に廊下を伝ってくる。
窓ガラスが散乱し、ガラスの破片が飛び散る。

窓の外から令子の叫び声が聞こえた。
おそらく、『ムチャクチャやんなーー!』と叫んでいるのだろう。
横島は苦笑しつつ、ショトガンを構えた。
足音が響いてくる。
埃の舞い上がる中、横島は通路に目掛け2発ほど射ち込んだ。
真正面のドアにも一発入れ、ドアを蹴破る。
背広姿の男が精霊石を喰らい、もがいている。
ポンプスライドさせ薬室に次弾を装填すると、男の胸部に9個の精霊石を撃ち込んだ。
男は床に赤い筋をつけてながら、弾け飛んでいく。
ポケットの中に手を入れ、予備弾を取り出すとポンプスライドさせ4発装填した。
廊下の壁に向かい、引き金を引いた。
何かが叩きつけられる音が聞こえる。
腹に差し込んでいたSIGを手にし、ショットガンをベルトに挟むとドアの側にへばりつく。
一人飛び込んでくる。
腹部に1発入れ、怯んだところに胸と頭に2発ほど撃ち込んだ。
左手に手榴弾を持つと、廊下の壁に転がせ反射させる。
爆風が廊下を駆け抜けた。
SIGを腹に戻し、床に転がっている男の銃を拾い上げる。

「節約、節約♪」

特殊スーツを着ていない連中には、精霊石弾などは無用の長物である。
苦戦が予想される戦いに備え、横島は相手の銃器を利用する事にした。
グロック19を左手に構え、右手にベレッタM92Fを手にした。
廊下にでると、公安と思しき背広姿の男が手榴弾のベアリングを喰らい血だらけの姿で床に這い蹲りながら震える手で横島に銃を向けた。
横島は左手に持ったグロックを自分の顔の近くで左右に軽く振り、眉を顰めつつ口元を緩めた。

「残念だったねぇ〜」

右手のベレッタを男に向けると、引き金を2度引いた。








「あんのバカ!ムチャクチャやるんじゃないってーの!!」

外に待機していた令子とエミは、爆風とガラス片から身を隠しながら歯軋りしていた。
銃声が次第に遠ざかっていく。
横島はだいぶ先へと進んだようだ。
令子はAUGのスライドを下げ、初弾を装填すると遮蔽物から姿をみせた。

「わかってるでしょうね・・・精霊石弾って高いんだからね。貸しよ!貸しっ!!!!」

魔界正規軍のライフルをエミに渡すと、令子は胸をつきだした。

「これ、アンタのじゃないでしょ。横島のでしょ?アンタに借りじゃなくて、横島に借りなワケ!」

エミも負けじと胸を突き出す。
お互いに睨み合いをしたかと思うと、そっぽを向いた。










「予定通りだな・・・正面からやりあえば公安なんぞ何の役にもたちはせん・・・」

「こちらの言う事を聞かずに飛び出したんですから、自業自得ですよ。いい教訓になるんじゃないですか?
次はありませんけどね。」

館内モニターを見ながら、元三尉の男とその部下が呟く。

「彼らも雑魚ばっかりで飽き飽きしているだろう。お出迎えしてやろう。」

「レンジャー。作戦開始だ、所定の位置につけ。」







ほとんど警戒らしい警戒もせずに、横島はズカズカと歩きだす。
おそらく部屋の中や廊下の角に隠れているのであろうが、まったく気にする様子は見受けられない。
タイミングを見計らい、FBI方式のアタックを見せる公安の連中の行動をすべてお見通しのように、弾丸を浴びせていく。
廊下の角でタイミングを見計らい飛び込む準備をしている相手に、牽制の引き金を引く。
途中の部屋のドアが開き、銃が向けられる。
右手は廊下の相手に、残った左手が飛び出してきた男の目の前に映った。
胸部に一発入れ、仰け反ったところに蹴りを入れ銃を跳ね飛ばす。
スライドの上がった右手のベレッタを放り、左手のグロックを廊下の角に撃ち込む。
宙を舞っていた銃を掴むと、倒れている男に2発撃ち込んだ。
一瞬、銃声がやんだタイミングで後のドアに気配を感じ、ドアの側の壁に張り付く。
右手の銃をドアと水平に向ける。
ドアが開き、飛び出してきた瞬間に引き金を引く。
撃たれた男は、そのまま床に転がり、廊下の角の男が飛び出してくる。
両手の銃を飛び出した男に向け、乱射する。
左右の銃の弾を5、6発喰らい、踊るように転げまわった。
左手のグロックを捨て、右手の銃を足元にいる男に向けた。
銃声が単発で3回響いた。








「通常の弾でどうにかなるとでも、思ってんのか?」

霊気の鎧ともいえる魔装術を纏った雪之丞は、頭を抱え大きな溜息を漏らした。
溜息をつく雪之丞の魔装術には、雨のような弾が注がれている。
まさに“雨”のようなにしか感じていない雪之丞は、無力ともいえる連中の攻撃に呆れはしているが、哀れとは思わない。
遮蔽物に隠れ銃を向けている相手に、霊波砲を放つ。
荒々しい霊波砲は、遮蔽物ごと男を弾き飛ばす。
瓦礫と共に男が落下する。
そのスピードに合わせ、雪之丞は懐に飛び込んできている。
右足から蹴りが繰り出される。
手抜き、情け容赦、手加減無しのその蹴りは、男の頭をまさに“弾け”飛ばせた。
霊波による遮断がなければ、触れるだけでダメージが伝わる魔装術。
実践と荒行を繰り返してきた雪之丞の魔装術は、想定の範囲を超えている。
人狼にも勝るとも劣らないスピードに乗せて繰り出される霊気込めた技は、コンクリートや金属の壁と床を削り、
大気を切り裂き、生命の存在を許さない。
高濃度高圧縮の霊気のため、返り血すら蒸発する。
たんぱく質の焦げる異臭だけが、そこには存在した。














防衛庁の一室では、時計のふりこの音が響いている。
美智恵は目を瞑り微動にしない。
小杉も美智恵と同様にしている。
ふりこの音以外の、異音が響く。
カタカタという不規則な音は、次第に早く大きく響いてくる。
小杉は目を開け、音の方向・・・丸山の足元を見つめた。
美智恵と小杉は合わせたかのように、同時に失笑した。
ばつが悪いのか、丸山は震える足を自分の両手で押さえつけた。
ここにきて、ようやく高級官僚の男が口を開いた。

「美神特別補佐官・・・あなたは、こういう時でもなぜ冷静でいられるのですか?」

年齢は40を超えたくらいであろうか、美智恵とそう年齢の変わらぬ男であるがエリートという匂いがしていた。

「どういう意味ですか?岩田書記官。」

にっこりと笑い美智恵が返す。

「軍人の小杉陸幕長はともかく、現在非常顧問の立場、しかも御自分のお身内をあのような場に・・・」

岩田がそういいかけると、美智恵と小杉は再び合わせたかのように失笑した。

「なにが可笑しいのですか?」

「公安の差し金は、あなたですね。岩田書記官。」

岩田の顔が微妙に引き攣る。
美智恵は同情ともいえるような目を小杉に向ける。

「お察しいたしますわ。小杉陸幕長。」

皮肉ともとれるこの言葉を小杉は、素直に受け取った。

「構わんでくれ・・・美神特別補佐官。」

小杉に向け、少しだけ笑って見せると美智恵は時計に目を向ける。

「そろそろですわね・・・」

その言葉に小杉も時計に目を向けた。

「そのようですな。」

美智恵が横島に電話を入れてから、30分が過ぎようとしていた。

「な、なにがそろそろなんだ、小杉君。」

丸山が自分の足から右手を離し、小杉の袖を掴んだ。
その手は小刻みに震えている。
小杉は苦虫を噛み潰すと、丸山を一瞥する。

「公安が全滅する・・・すなわち、本隊との交戦が始まるという事です。」

小杉の言葉を聞き、岩田は小杉の顔に目をやりすぐに美智恵を睨みつけた。
岩田の睨みなど微風ほどにも感じないような顔をして美智恵は微笑んだ。

「な、なぜ分かるんだ?・・・まさか!小杉さん、あんた!!!!」

失笑から始まった笑いが、いつしかかなりの声になっている。
美智恵は口を手に当て、小杉は天井を仰ぎながら大笑いをしている。

「こ、小杉君!!き、貴様まさか!!!!」

丸山の震えはいつしか止まり、小杉の襟首を掴んでいる。
かまわず小杉は笑い続ける。
美智恵はポケットからハンカチを取り出し、目尻に当てている。
笑いすぎて涙がでてきたしまったようである。

「し、失礼・・・・ダメもう可笑しすぎ・・・・」

全身を震わせ笑う美智恵。
小杉は丸山を片手で振り払い、笑うのをやめた。

「ハハハハハハ・・・・分かるだろ、美神特別補佐官。私がこの道を選んだ訳を。」

小杉がそういうと、美智恵はハンカチで涙を拭い一息ついた。

「ハァ〜〜〜・・・久しぶりですわ、こんなに笑ったのは。理解はできますわ、小杉陸幕長。賛同はできかねますけど・・・」

「十分だよ、それだけで。」

小杉はイスに深く座り直すと、納得したかのように僅かに口元を緩めた。













空になった銃を放り、廊下の角を曲がる。
腹に差し込んでいたベレッタを右手で抜き、男の胸に突き付け引き金を3回引く。
後ろの部屋から飛び出してくると同時に、左手にジェリコ941を持ち2度トリガーを引き、右手も向けるとスライドがロック
されるまでトリガーを絞った。
全身を穴だらけにされると、男はようやく床にその身を横たわらせた。
銃を捨てると、胸ポケットからタバコを取り出し口に咥えた。
火はつけずに口に咥えたまま、苛立つようにタバコを揺すった。

「胸クソ悪ぃな・・・」

ヒップホルスタのシグを抜きながら振り返り、壁に向かって乱射した。
落ちていた銃を拾い、ドアを蹴破る。
壁を貫通した精霊石弾を足と手に喰らいながらも、南雲が辛うじて立っていた。
特殊スーツ用の霊波砲が、足元に転がっている。
横島は銃を南雲に向け、太股に2発打ち込み膝をつかせた。

「・・・この人殺し・・・」

「お互い様だ。」

南雲の声を遮るようにトリガーを絞る。
9mmの弾丸が南雲の体を10回程貫くと、横島はトリガーを絞るのを止めた。
火のついてないタバコを煩わしそうに吐き捨て、銃を南雲の血溜まりに放ると、焼けた銃身が音を立てる。
部屋を出る前に、一度だけ南雲の屍に目を向けた。

「俺とお前は、立つ場所が違ってた・・・そんだけだよ。」

横島は2度と振り返ろうとはしなかった。





                         SEE YOU GHOST SWEEPER...


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なんか挽歌チックになってます(汗)
書き直そうと思ったのですが、もう思いつきません・・・スランプじゃあああああああ!!!

やっぱり予告やらなくてよかった・・・
ほんとは12話で終わる予定だったのですが、なんかまだ続きそうです・・・
まとまりそうでまとまらない・・・年度末ですでに忙しいのにどうなるんだろう(汗)


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