ザ・グレート・展開予測ショー

Clock Work


投稿者名:すがたけ
投稿日時:(06/ 2/ 6)

 【Clock Work】


 ―― 『錬金術とは、神の御業に対する挑戦だ』とは、誰が言ったことだったか。

 思い出そうとするが、記憶をケルトの妖怪に喰われたばかりのわしにはそれを思い出すことは出来なかった。

 だが、思い出そうにも詮無いことだ。

 わしはその『神の御業』に対する挑戦者の中でも、特に別格といってもいい至高の錬金術師、『ヨーロッパの魔王』ドクター・カオス!凡人のやっかみなぞ、天才の心に涼風ほどにももたらすことはないのだ!!


 だが、ホームズ君は凡百の常人たちの中にあってもなお異彩を放っていた。

 世界初の私立探偵として揺るぎない尊敬は受けてはいるが、その知性から来る洞察力の図抜けた高さが、彼を凡人達に染まらぬ孤高に立たせている。

 かつては、彼こそがわしの次の脳と肉体を担うに相応しいと思い、人格の交換を図ったこともあった。



 だが、今は彼との人格交換に失敗したことを、むしろ喜ばしく思っている。


「…………ドクター・カオス!命令修正・要請!
 マリアには、「笑顔」プログラムが・不要と思われます。至急・削除の必要あり…!!」


 ホームズ君との再会……そして、恐らくは永遠の別れが、喜怒哀楽の主たる四つの感情のうち、あえてマリアの人工魂にプログラミングしなかった二つの擬似的感情……その一つである『哀しみ』を喚起させ、マリアにプログラム修正を『要求』させたのだから―― 。

 その要求に応じ、わしは喜んでマリアの笑顔を……『喜び』のプログラムを凍結する。

 愚か者達は、この行為を軽蔑するだろう。神をも恐れぬ所業だと呪うだろう。

 ―― 笑わば笑え。呪わば呪え!

 わしがかつて心より愛した女性の面影を持つ『わが娘』が初めて、プログラムではない己の『意志』を顕したのだ。

 喜ばずして如何にせよ、というのだ?



 神よ、祝福するがいい!似非ではない感情を……贋作にはありえない“魂”を持った『わが娘』の真の意味での“誕生”を!

 そして、呪うがいい。人の階(きざはし)を乗り越え、汝の域へとまた一歩近づいた、この狂気の天才たるわしを!!

「―― 行くぞ、マリア。そうと決まれば、すぐにでも術式を開始する」

 やや名残惜しそうに、遠ざかるホームズ君……そして、その助手たるワトソン君の背を見つめていた機械仕掛けの『わが娘』は、わしの言葉に従い、踵を返した。

「イエス、ドクター・カオス!」

 ソールズベリーの冬の風に巻き上げられた土煙が―― マリアのロケット噴射によって、吹き散らされていった。

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