ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(15)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(06/ 2/ 4)



「って事で、神父たちと山篭りする事になったんで。
 日程とかそう言うのは、後で神父から連絡有ると思うけど」

 夕飯の席で、横島は両親にいきなりそう切り出した。
 妙神山行は自身的に必須なのだが、如何せん今の身は小学生。 保護者の同意もまた必須である。

 そんな彼に、百合子はじろりと一瞥くれて溜め息を吐いた。

「……そうかい。
 神父さんやエミちゃんたちに迷惑掛けんじゃないわよ」

「へぇ〜い」

「はい、だろ?」

 母親の笑顔と裏腹の響きに、背筋がぴんと伸びる。

「は、はいっ」

 本来、躾には厳罰を以って当たる百合子である。
 最近は割とそうでもなかった為、気が緩んでいた横島は、刻みこまれたそれを思い出して身震いを抑えられなかった。

「ま、くれぐれも女の子を泣かす事だけはするんじゃないぞ」

「わ、判ってるわいっ」

 わははは、と笑いながらの大樹の言葉に、続けて冷や汗を流す。
 まさかこのクソ親父、知ってんじゃねぇだろうな、と胸の奥だけで呟きながら。





 こどもチャレンジ 15





 翌日。 最寄りから数駅離れた繁華街の喫茶店に、百合子の姿があった。

「お待たせしました」

 独り物憂げに紅茶を飲んでいた彼女に、そう声が掛かる。
 百合子は、相手を認めると笑顔で会釈した。

「いえ、わざわざご足労頂いてすみません」

 待ち合わせの相手は、言うまでもないが神父、その人。

「こちらこそ、連絡が遅れまして…」

 向かい合う席に腰を下ろすと、通りすがりのウェイトレスを呼び止めてコーヒーをオーダーする。
 程無く運ばれてきたカップで一口だけ喉を湿らせると、神父は話を切り出した。

「面目ない事ですが、実際の所 目的は私の力の底上げなんです」

「はい?」

 その内容に、さすがの百合子も軽く首を傾げた。
 息子を預ける上で、当然の様に評判や実績などを含めた調査を行っている。 人格だけでなく、その能力が現在のGSの中でもトップクラスであると、だから彼女と大樹は認識していた訳だ。
 それ故の疑念である。

「先だっての泊り掛けの作業で、いざと言う時、息子さんを抑え切れないって事が、図らずも露呈してしまいまして。 私自身の一層の修行が、必要不可欠になってしまったんです」

「……あの… 忠夫はそんなに?」

「はい」

 それが神父の脚色の無い評価だと顔色から判断して、百合子も僅かに顔を顰めた。

 日本どころか世界でも有数のGSである彼が、抑え切れないほどの霊能持ち。 その事実が、息子の異常性をより強く示している。 抱え込んでいる、今は言えないナニカの大きさをも、だ。
 それは、けして喜ばしい事では無い。

 だが、一瞬 頭(かぶり)を振った後、

「それでも、あの子をお願い出来そうなのは神父さんくらいですから、信じてお任せしますわ」

「はは… 責任重大ですな。
 微力を尽す事をお約束します」

 笑顔での言葉に、気負い過ぎている自身を恥じて神父も苦笑した。

「それで、どんな所へどのくらいの期間と言う事になるんでしょうか?」

「あぁ、それですが…」

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 ヒューっと崖を這い上がる風が髪を揺らす。

「どんなとこなのよ、ここは〜〜っ!?」

 叫びが風に紛れて木霊返す。
 美神令子は、ちょっぴりキレていた。

 有数の霊山、と言う呼ばれ方をしていても、富士や恐山、高野山など、舗装された道路が通っているのが普通な訳で。
 オカルト方面に幼い頃から触れている美神にしても、何処が日本なんだと言わんばかりのこの秘境に、足を踏み入れる事なんて想像もした事が無かった。

 それは、エミにしても同感出来ない事ではない。

「噂に聞くよりトンでもないわね」

「そっすか? この辺はまだ、マシな方だと思いますけど…」

「へ? それ、マジなワケ?!」

 横島の気軽な言葉に、思わず問い詰めてしまう。

 谷底から急流が立てる音が響いて来るこの道は、安全柵など有ろう筈もなく、勾配そのものも けして緩やかではない。 着替えをメインにした重さに気を使った荷物も、滞在予定が週単位である以上、けして軽い筈も無く、それ一つ取っただけでも少女たちにとっては荒行に近いのだ。

「コイツの言ってる事、本当なんですか?」

 悲鳴にも近い響きの声で、美神が神父に尋ねる。

「残念ながら、ね」

 苦笑混じりの頷きに、美神の肩がガクっと落ちた。

「もう少し進むと一番大変な所に入るが、そこさえ抜ければそんなでもないから。
 なに、ほんの暫くの辛抱だよ」

「ほんの暫くって…
 こんな道なんて言えないトコに入ってから、そろそろ4時間になるんですよ?!」

 夜が明けたかどうかと言う頃合いに教会を出てからだと、一行の移動時間は更に半日が追加されるのだ。
 神父はまだしも、15の少女の体力には相当堪えるものが有る。

「なら、少しこの辺で休んでいくかね?」

「えっ? けど…」

 提案それ自体は嬉しいが、しかし現在居る場所は坂道の途中。 しかも、僅かに幅2mそこらしかない崖っぷちの一本道だ。
 そんな躊躇う二人に、横島がだめ押しをした。

「もうちょっとしたら道幅がぐんと狭くなるから、この辺で休まないなら最後まで休み無しっすよ?」

 その言葉に、揃って神父へ視線を向ける。

「ああ、彼の言ってるのは事実だよ。
 で、どうするね?」

 死刑宣告にも聞こえた返事に、やはり二人揃ってしゃがみ込んだ。

「うん、それでいい。 自分の体力を把握して、常に余裕を持つ様に心懸けないと思わぬ所で足元を掬われる事があるからね。
 無論、それは君もだよ、横島くん」

「ういっす」

 促されるままに、横島も荷物を下ろして座り込む。
 荷物の規模はほとんど同じなのに、他の二人とは体力的余裕に差がある。 まるで、慣れた事と言わんばかりに。 小学生である事を考えれば、異様な体力だと言えよう。

 そんな彼を見遣る神父の視線は、複雑な色を宿していた。

 疲れに思考が逸れているエミと美神は気付かなかったようだが、彼だけはしっかりと認識していたのだ。 …横島がこの道を見知っているのだと言う事を。

 その事で、神父は一つの確信を抱いていた。
 横島の異能。 それは前世絡みなのではないか、と。

 現在 小学生で、両親の言葉に拠れば つい最近まで霊能のれの字も無かった少年。 その道の大家の血筋でも無い彼が、年不相応な出力を持ち多彩な技を操る。 しかも、自分の下に来るまで師に付いた事が無いなんて、普通、有り得ない事なのだ。

 だが… だがもしも、霊能が目覚めたその時に、前世の記憶をも手に入れていたとしたならば。
 しかもそれが『妙神山に修行に来れるほどの霊能者』だったのだとすれば、自ずと話は変わってくるのだ。

 それがいつ頃の人間か、今は推測すら難しい。 ただ近代に近付くに従って、こと霊能の技量は衰退の途を辿っているのだ。 一片の知識だろうと有しているならば、それはかなりの力になり得る。
 目の前の少年の事を考えれば、それは的外れとは言い難い推論だった。

 現状の横島の状況自体、確かに合致する部分は有るのだから。 前世と、未来の今世、その違いは有るにせよ。

 ・

 ・

 ・

「ほら、見えてきたよ」

 神父の言葉に、エミも美神もそろって頬を緩めた。
 ほんの少し手前まで、漸く人が一人歩けますと言った幅の崖の壁面に張り付く様な道を辿っていたのだ。 それは、精神的にも多くの疲労を与えていた。 ただの、ではないにせよ、女子高生がハイキング気分で通れる様なソレではない。
 その道自体、振るい落としの試練を兼ねているのだから、当然と言えば当然なのだが。

 やがて立派な作りの門が見えて来る。

 こんな場所に一体誰が建てたのかと、不思議になるくらいだ。
 だが、神族が絡んでいるならばこれもまたアリだろう。 門に貼り付いた鬼の顔や、その両脇に佇む頭の無い像と言ったオブジェも、そう思えばそれらしく見えない事も無い。
 …門に掲げられている『妙神山修行場』の看板とか、センスを疑う部分もあるが。

「なんて言うか、虚仮威しもいいトコね」

「君ね… 言われた人が気分を悪くするような事は、言うべきじゃないよ」

 美神の悪態を軽く窘めると、神父はその門に向かって頭を下げた。

「お久しぶりですね、鬼門さまたち」

「む、おぬしは…」
「…以前にも来た事のある修行者だな」

 門の左右の顔が返した返事に、エミと美神の顔が驚きに彩られた。

「な… 生きてる門だなんて」
「さすが、なのかしら。 入り口からコレなんて、音にも聞こえて来るワケ」

 怯えには至らない辺り、充分に胆の座った二人だったが。

「それで何用だ?」
「用無き者を通す我等でないぞ」

「もう一度、一手授けて頂こうと思いまして。
 後ろの三人は、私の弟子で後学の為に伴った同行者です」

 問い掛けに返された言葉に、鬼門たちの雰囲気に戸惑いが混じる。

「どうしたものかの、右の?」

「そうじゃの、規定に添えば試さねばならぬが…」

「既に我等の試しは越えておるしな」

 一度至れば、再び訪れる者は滅多にいないのだ。 修行の果てに至った限界を、それでも越える為に訪れる場所なのだから、この妙神山は。
 だがそんな詮議は、すぐに終えさせられた。

「なにごとです?」

 中から門が開けられたからだ。

「お久しぶりです、小竜姫さま」

 出てきた少女へ、即座に神父が頭を下げる。

「あら、あなたは… 久しぶりですね。
 で、この子は?」

 何時の間にか、くんくんはんはんと匂いを嗅ぎつつ抱き着いていた横島に、視線を向けて小竜姫はそう曰った。 見掛けの年齢故に、性的な意図とまでは見抜けなかったらしい。

「よ、横島くんっ?! き、君ねぇ…」

 あまりの早業でのソレに、思わず呆れと怒りを混ぜた声を上げた神父だったが、その時には横島は既に排除されていた。

「何考えてんのよ、アンタはっ!」
「い、痛たたた… 耳がもげ… 痛いっす、美神さん、エミさ…」
「いいから、きりきりと歩くワケっ!」

 美神とエミ、二人にそれぞれ左右の耳を引っ張られて。
 ただ一人、状況が掴めずきょとんとしている小竜姫をよそに。

「あー、着いてそうそうに弟子がとんでもない事を」

 そう言って ぺこぺこと謝る神父に、「お弟子さん、ですか?」と彼女は問い返した。

「えぇ。 あの3人は、今 私が見ている弟子たちです」

 ちょっと見には……と言うか折檻そのものを繰り広げている3人の少年少女を、小竜姫もどうしたらいいか判らない苦笑を浮かべて見詰めた。

「ほら、アンタもとっとと謝んなさい」

「すんませんすんません、出来心やったんや〜」

 両脇から挟まれ、後頭部を押されるようにして頭を下げさせられる少年に、再び苦笑を浮かべる。

「ま、まぁ、その辺で…」

「いいんですか? このエロガキ、びしっと躾ないと懲りませんよ?」
「こいつ、そう言う前科持ちですし」

 師である神父が、へりくだるほどの相手だ。 二人とも相手が見掛け通りだなどとは、思っても居ない。

 続けて、神父も頭を下げ直す。

「本当に申し訳ありません」

「まだ小さな子供のやる事ですし…」
「さすがは小竜姫さまや〜 優しいな〜、柔らかいな〜、あったかいな〜」

 だぁ、と、抱き着かれている小竜姫以外が、鬼門も含め一斉にコケた。

 すぐに美神とエミに引き剥がされ、折檻大会が繰り返されたのは言うまでもない。

 そんな微笑ましい(?)ドタバタを横目に、小竜姫と神父は向き直って話を始めた。
 少女たちの勢いをイマサラ止めようが無くて、場を移動出来ないから立ち話を始めるしかなかった、とも言える。

「で、今日は なんの御用ですか?
 下界でもあなたほどの力の持ち手は、最早そう多くは居ない筈ですが」

 かつてここで修行していった彼だ。
 だから、今回の訪問は何かの相談ではないかと、そう彼女は踏んだらしい。

 その言葉に、ちらりと悲鳴を上げている横島を見る。
 少しだけ苦い物を浮かべて、神父は首を振った。

「実は、もう一度修行を着けて頂きたくて」

「あなたに、ですか?」

「はい。
 彼らの師として、力不足を痛感しまして。 それでお願いに上がった訳です」

 それを聞いて小竜姫は3人に視線を向け、霊体を窺い視る様に目を顰(ひそ)めた。

 確かに彼らの霊力は、その外見から判断出来る年齢としては、揃いも揃って高い水準にある。
 しかし、単にソレだけなら目の前の男の方が、言うまでもなく子供たちよりも上だ。 持っている技量や知識も勘案すれば、かなり、と修飾出来るほどに。

「あなたほどの人間が、手を焼くほどとは思えませんが…」

「正確には、横島くん……先程 失礼な事を仕出かした彼ですが……の師としては、です。
 どうにも普通ではなくて」

 彼女の目でもう一度見比べてみるが、3人の中で抜きんでていると言う程ではない。 少女たちも もう2〜3年も真面目に研鑽すれば、ここでの修行を受けられるだけのレベルには居る。 美神の霊力はまだ開花したばかりだから、彼らの中では頭半分ほど劣っては居るが、それでも窺える資質は低くない。
 つまり霊力量の面では、彼らの間に大きな差は無いと言えた。

 なのに、ここ2〜300年で修行を就けた人間の中では上位に入る神父が、そこまで言うのだ。
 ここ暫く無聊を囲っていた彼女の、興を惹くには余り有った。

「…そうですね、でしたら試してみましょう」

「は?」

 視線は3人に……いや、横島に向けたままなのだ。 小竜姫の指す言葉が、自分に向けられた物ではない、と気付いて神父は困惑した。

「鬼門」

「「はっ」」

「あの少年を試します。 準備を」

「「御意」」

「あ、あの… 小竜姫さま…?」

 いきなりの展開に、更に困惑の度が深まる。

「あなたの願い出た此度の修行。 彼のチカラをもって、授けるかの判断を行います。
 宜しいですね?」

 笑顔での、しかし反論を許さない雰囲気を含んでの言葉に、神父はただ頷くしかなかった。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 漸く到着(笑)
 ちゃんと小竜姫さまを書くの、初めてなんですよね(^^; 原作での美神に慣れちゃった彼女じゃなく少し固いくらいで、とか思ってるんだけど、なかなか巧くはいかないのだわ。

 せめて月刊にしたかったのだけど、隔月刊… すまんっっ(__)

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