ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ的成長


投稿者名:ヤドリギ
投稿日時:(06/ 2/ 1)

この話は No621『ルシオラ的視点』の続きとなります。
前作を読んだほうが状況、登場人物の心情などがわかりやすいと思うので
先に読むことをオススメします。











最愛という言葉がある。

人、ないし物に寄せられる愛情の最上級表現

他の愛の追随を許さず、最も優先されるべき恋愛感情

世界広しといえども至上の愛を向ける相手を持つ人は限られている。

例えば一般的な夫婦を例に挙げてみよう。

仮に夫に対し「伴侶のために命を賭けられるか」と問いてみれば、

即答は稀、躊躇ったり返答に窮す人が大半を占める。

即答した人物は胸を張れる愛を手にした例外と言えるのだ。

ではここで例外中の例外と呼べる人物を紹介しよう。

その男性の名は横島忠雄

最愛の人『達』のためならその命を喜んで?危険にさらすであろう。

その逆もまた然り

彼女達も彼の為に(大抵の場合、彼の意思の有無に関わらず)良い方向にも悪い方向にも

如何なくその力を発揮するだろう。

左手には妻である美神令子

右手には叶わぬはずだった初恋の人ルシオラ

加えて彼女は外見からは考えられないが、戸籍上は四歳児で実子でもあるという業の深い生い立ちであった。

絶世の美女に挟まれて、彼は何を思うのか。

(こんな血涙垂れ流しそうな展開が来ようとは…し、しかし……)

両サイドから送られる、思わず心臓発作を起こしそうなプレッシャーに耐えながら

心の中で絶叫する。

(どないせいっちゅうじゃ、この状況…!)

ああ、しかし餌は美味そうだ。

横島忠雄・主に人外に好かれる傾向有り

そう、彼には最愛の人が二人いた──










「ルシオラ的成長」









さて視点を過去に向けてみよう。

横島忠雄と美神令子は結婚後まもなく子供を産んだ。

結婚前や出産時の騒動については多くを語るまい。

あえて追加として情報を提示するなら

赤ん坊が生まれて、横島が初めて我が子であるルシオラを抱きかかえた時の第一声が

「ヨコシマッ!」であったことぐらいか…

まだ発達していない発声器官を駆使したとんでもない荒技であった。

美知恵によるとコレは、横島と接触したことで前世の記憶が刺激されて起きた

一時的なことだということだ。

転生が上手くいったという証拠を出会ってからものの数秒で、それも本人から突きつけられたこととなる。

その後は美知恵の言う通り、いたって普通の子供として過ごしていた。

そう、特に変わったことも無かった。不自然なくらいに──

この場合の不自然とは美神のことを指す。

あんなことがあった後も横島に対して折檻もヤツ当たりも無く、

母として申し分ない態度でルシオラに接している。

普段の美神を知っているだけに、横島にはソレが余計に不気味に感じられた。

期間限定マタニティ・ドライバー+パイプ椅子ぐらいの反応は覚悟していたので

拍子抜けしたとも言い換えられる。

そして最大の転機が訪れた。

ルシオラの四歳になる誕生日を思いっきり祝ってから

横島は仕事仲間の雪之丞とピートとタイガーに誘われて

海外のほうに出張除霊に向かったのだ。

そして意気揚々と我が家に帰ってきてみると…

「ヨコシマ!会いたかったよぉ!」

胸に飛び込んでくる、忘れようの無い、面影の君

身体は大人(18歳)

頭脳も大人(前世の活動時間と合わせても十年にも満たないが)

でも戸籍上は四歳児!な愛娘だった。



「って、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」











交流が盛んな美神除霊事務所には人が絶えることが少ない。

主要メンバーである美神と横島が結婚した後もその状況に変わりはない。

結婚した後でも

シロは横島にじゃれつくし、

タマモだって横島に絡んでくるし、

おキヌちゃんだって横島の傍に居る。

全て「横島」と関連付けている事情は察して欲しい…

ともかく極一部(西条)を除いていつもどおりなのだ。

横島が海外に出張して数日たった、ある日のこと

いつも遊んで貰っているシロやタマモ、おキヌの面々は仕事に出かけ、

自室で横になっていたその時に

何故今まで忘れていたのかと不思議に思うほど自然に、ルシオラは『前世』を自覚した。



──まるで  突然  霧が晴れたかのよう 



蘇るヨコシマとの甘酸っぱい思い出…

夕陽を前に交わした別れの言葉…

そして相手が母であろうと戦うと誓ったあの決意!(握り拳)

背景に映るのは、千年前の小悪魔を幽波紋として背負った美神

その激情に浸っている間に来たのだろう。

ふと後ろを振り返ると

威圧のオーラをまとった美神が部屋の入り口に立っていた。

「!!」

とっさに身構えるルシオラ

美神はその動作から全てを悟ったようだ。

「虫の知らせ、第六感…何にせよ、考えていたことが現実となったようね」

ルシオラは改めて美神を観察した。

結婚してまもなく出産した美神はまだ若い。

年齢は二十半ばぐらいだったか。

その外見、スタイルに陰りの色は全く無い。

そもそも令子の母である美知恵も

二十超えた娘を持つとは信じられないほど若く見える。

……その美貌は遺伝なのだろうか

ちょっと歯噛みするルシオラであった。

「久しぶりね…美神、それとも母さんと呼んだ方が良いかしら。
 どちらにせよ、決着をつけに来たわよ…!」

「……?!」

美神が怪訝な表情をした。

ルシオラが言った『決着』の意味を考えあぐねているのだろう。

黙り込むこと数秒、ある可能性に至ったらしく探るように言葉を投げかける。

「…どういう意味かしら?」

心の中では既に確信しているだろうが、

あえて今一度、確認を促した。

「決まってるわよ…ヨコシマは私を選んだ。
 その私は亡くなり、貴方がヨコシマに選ばれた。
 試合に負けて勝負に勝つって言うらしいわね、こういうのは…
 ヨコシマは自分を代わりに選んだというわけではないとわかっていても、
 結婚の前提である恋愛では私に負けたことなる。
 貴方はそれが許せない。
 初めて現れた、どんなものよりもかえがたいと思える人を独占したいと思っている。
 籍に入ってるとかは関係なく、
 叶うなら今度は初めから全力で競い合い、勝ち取ってやる…
 勝ち逃げのような結果ではなく、きちんとした『決着』をつけてヨコシマの隣に立つ。
 そう、思ってるんでしょ…?」

きょとん、としばらくの間呆けていた美神は

どう反応しようかと思案にくれて

結局一つため息をつき、ニッと不適に笑った。

「見抜かれていたとわね…
 正直こんなに熱くなるのは今まで作ってきたキャラじゃないんだけれけどね。
 どうしたって譲れないものっていうのがあるわけよ」

それはルシオラ以外は知らない、もう一つの美神の素顔

恋する乙女そのものだ。

(似合わないわねぇ)「何か言ったかしら?!」

心の呟きにも即応射撃

古来には恋を成就させるために人外なる能力を身に着けた人もいたという。

「それにしても…」

ルシオラは苦笑した。

「美神は面倒な性格をしてるわね。
 もし前世の記憶が戻らずじまいだったら
 一生もやもやした気持ちで過ごす羽目になったわよ」

「うるさいわね!これは性分よ。…それに、変な話なんだけど
 こういう状況になるんじゃないかって半ば確信めいたものがあったわ」

二人はしばし睨み合い、どちらともなく笑いだした。
 
「ま、あまり待ってやれないけれど足掻くだけ足掻いてみなさいな」

ルシオラは親からの外出許可を手に入れた。







「──それでここに来たわけですか」

こめかみに青筋をたてながら小竜姫は怒りを抑えようと低く低く呟いた。

怒りの理由はさもありなん、

木っ端微塵に破壊された入り口の門だ。

既に雑用係と化しているジークが後処理を考えて頭を抱えている。

「いや、あの…アレは私のせいじゃないんだけど」

ルシオラの言うとおり、この惨事は彼女自身が発端の原因とはいえ

実際に破壊したのは別人だ。

入れる入れないと門番の鬼と押し問答していたところに

感極まったパピリオが突撃

唸る爆音

飛び散る木材

憐れ、門は守るべき内側から完膚なきまでに破壊された。

「ふーんだ、ルシオラちゃんを苛めるからいけないんでちゅよ」

壊した張本人は何処吹く風

ああ…素晴らしきかな姉妹愛

「少しは反省しなさい!パピリオ」

小竜姫の怒声にも動じず、ニコニコと四歳のルシオラを後ろから抱きかかえていた。

「〜!!…コホン、事情はわかりました。
 確かに妙神山には時間軸を早めることのできる修行場があります」

「そんなのがあるんでちゅか!だったらパピリオもやりたいでちゅ。
 とっとと成長して、グラマーなボインになるでちゅよ!!」

「パピリオ、話の腰を折らないで下さい!…それに神族や魔族は人間と比べて
 魂と身体の霊的な結合状況が違うので、このようなマナ的蓄積の無い単純な時間経過での成長は望めません」

一気にしょぼくれたパピリオを、妹より身体が小さい姉が慰める。

「その点ルシオラさんは魔族因子を含むとはいえ、身体はほぼ人間に近いですから成長は可能です。
 アシュタロス派だったとはいえ、あの事件の解決に大きく貢献してくれた貴方の願いならば
 普通は無理ですが、許可は下りることでしょう。ただし…」

小竜姫は表情を引き締めた。

「横島さんがそれを望むとは思えませんね」

この発言に一番驚いたのはパピリオだ。

「どーしてでちゅか?!ヨコシマもきっと喜ぶはずでちゅ!」

妹の疑問に姉は至極冷静に答える。

「確かに私はヨコシマと恋人だったけど、現在は実の娘
 良き親として娘の寿命を削るような行為を手放しに喜ぶとは思えない。
 おまけに今は美神の夫でもある。優しい彼はきっとさいなまれるに違いない」

「そこまで理解しているならどうして!」

小竜姫の叫びが、場の緊張感を更に高める。

周りが注目するなか、ルシオラはおもむろに口を開いた。

「でもこれ美神が『許可』したことなのよ…」

『……へっ?!』

許可した?

アノ美神が?

美神を知る者は耳を疑った。

聞き耳を立てていたジークも驚きのあまりに木材を脛に落とし悶絶する。

「それにねぇ!!!!ホントは、本当は私が初めてになるはずだったの!
 買い物したり、映画見たり、旅行に行ったりして思い出を深め
 夢を語ったり、愛を囁いたりして気持ちを確かめ合い
 その後はホテル街に消えてゆく予定だったにぃぃぃぃ…」

ぐしぐしと眦に涙を溜めての御高説

ショッキングな発言をする四歳児に、事情の知らないものが居たら女性の真理を垣間見ることとなっただろう。

「確かにヨコシマは望まないでしょうね…『親として』なら!
 でもヨコシマには悪いけど今回の戦いだけはどうしても譲れないのよ
 それに大丈夫!すぐに娘から
 初恋の思い出を孕む妻より若い女に認識をすげ替えてみせる。
 やれれっぱなしでいてやるもんですか!
 あちらが望むとならば喜んで勝負に望むのですよ?!」

不安定

極めて不安定だ。何か言葉遣いも変だし

(それに最愛であることの確認の為の再戦を許可したと言うことは──挑戦者は何人でもいいわけで…)

「────!!」

ボソリと呟いたルシオラの一言に小竜姫大反応
 
しばし考え込んでからニッコリと微笑んだ。

「確かにこのままではフェアではありませんね。修行場の許可が下りるよう、全面的に支持します」

ジークは神の有様に対して、問いかけるように天を仰いだ。










時間の流れが違う空間で勉強、修行に取り組む。

(そういえば同じ幼稚園サクラ組のユウ君と何かフラグめいたものが立っていたような…)

「まぁ…いいか」と、ばっさりと切り捨てる。

現実は非常である。

そしてさようなら──幼稚園サクラ組のアイドルよ

結局ルシオラは人間で言うところ18歳になったところで、ルシオラは修行場を退場した。

孤独にさいなまれたからではない。

これ以上成長しそうにない胸への絶望に耐え切れなくなって、だ。

「ふふふ…胸が全てじゃないわ。若さよ若さ!」

ちょっと涙目だったような気がしたが…

こうして修行は完了した。

この後、家に帰って美神と一悶着

事情を知ったおキヌも加わり大騒動

駆けつけた狼、狐、竜、蝶も加わり大乱闘

Y・Tさんの後日談

「いや、まさか美女に取り合いにされるなんていう世の中舐めくさった漫画のような展開に
 自分がなる羽目になろうとは………」

そうしてひとしきり歓喜の笑いをした後に、何故か溜息も漏れた。

彼の周りに居る女性は基本的に我が強い。

特にこのような場合は横島の都合を考えずに全力で動く。

しかし、それは愛情の裏返しであることを彼はよく知っている。

だから喜びこそするものの、迷惑がるなんてことは一切無い。

そしてこれは最早苦痛に近いかも知れないが

最終的決定は彼自身が下さねばいけないのだ。






「ああ、胸がときめいてしまう!節操なさすぎじゃ、オレー!!」

果たして勝者は誰になるのだろうか













余談

ルシオラの急な引越しと言う知らせを聞いたサクラ組のユウ君は

「きっと…いつか、また会えると、信じてる……」

と、髪をなびかせながら呟いたという。

大変ませた子供であった。

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