ザ・グレート・展開予測ショー

小笠原エミを攻略せよ! ブラドー島編3 「奇襲」(前編)


投稿者名:輝剣
投稿日時:(06/ 1/30)

これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩の物語である。


PM5:44(現地時間) ブラドー島

バキャッ

GSアシスタント・横島忠夫の目覚めは起き抜けの右ストレートで始まる。
ただし、今回は普段より余計に霊力を込めた増量版だ。

不意をつかれた相手は回避することもできず、大地に倒れ伏す。

「フハハハハ、さっきはよくも俺を見捨てやがったな、エンゲージ! いつまでも朝一番の鎌攻撃にやられっぱなしの俺だと……」

今朝こそは先制攻撃が成功したと浮かれる横島。

「ワシはここだぞ。 相手を確かめんと攻撃するとはつくづくアホめが」
だが、それも背後からエンゲージの冷やかな声が聞こえてくるまでだった。

「エ、エンゲージ!? いつの間に後ろに?」
「ワシは最初からここにいたぞ」
「じゃ、じゃあ俺がブッ飛ばしたのは……?」

こみ上がってくる不安と共におそるおそる殴り倒した相手の方を見ると……

「よ、ヨゴジバァァァ」

鬼がいました。 

赤い髪を逆立てて。
ボディは悩ましげなままですが、怒りのオーラがみなぎっています。

「み、美神さん!? な、なんで?」

「貴様がなかなか目を覚まさんものだから、半殺しにした責任を感じて面倒をみてくれておったのじゃ」

横島の疑問にエンゲージが答える。

とばっちりを受けないよう、さりげなく横島から距離を取りながら。

「あ、あのっ、美神さん! いや、気がつかなかったんすよ。 てっきりエンゲージの野郎だと思って……」
「……へぇ? 裏切り者だけど一応は一緒に仕事をするんだからと思って看病してやっていた心優しい私に向かって……
 そこのちんくしゃのボケ神と間違えたっていうんだ」

蒼白になって逃げ出そうとするが、美神の眼光に射られて身動き一つできない。

「え、あの、その」
「ん、何、横島君?」

平板な声がとっても怖い。

「えーと、そのー、仕方なかったんやー。」
「あんた……リンチ♪」

美神は爽やかに微笑みむと、神痛棍を手にした。



結局仕置きが終わり、横島が再起動したのは陽もすっかりと落ちた頃であった。


PM7:56(現地時間) ブラドー島内の民家

「あっ、こら小僧! ソーセージは一人3本じゃと言っとろーが!」
「いちいち細かいぞクソジジイ!」
「ワインは自家製ね! なかなかいけるじゃない!」
「キャンプみたい〜」
「ピート ちっとも食べてないじゃない〜 はい あーん」
「いや、僕は今、食欲が……」

和気藹々というか、はっきり言ってマナー無視な騒がしさで一行は夕食を取っていた。
敵地ブラドー島にいるにもかかわらず余裕である。

まぁ先程までは、ピートが横島に離陸してからの出来事を説明し、他の面々が茶々を入れつつ、これからの方針を話し合っていたのだが。
やることやっているからこその無礼講であるし。

ちなみに前回横島が美神にしばかれて気を失っている間に

・昼間にもかかわらず、ブラドーの使い魔のコウモリの群れに襲われてチャーター機が墜落
・通りかかった船を徴発して、ブラドー島に上陸
・島中が強力で邪悪な波動に包まれていて、教会がない。
・唐巣や村人が行方不明

というような事件があった。

なお、気を失っていた横島をチャーター機から助け出し、船まで運んだのはピートである。
横島もさすがに「……ありがとな」と感謝はしたが、それはそれとして「また、こいつに点数稼がせちまった」と心中穏やかではない。

そろそろエミに自分をアピールして、失点を回復して起きたい所だ。
その為には、煩悩を理性でコントロールし、エミが普段から言っているGSとして生きていく覚悟と見識を持った態度や発言を心がけていこう……

横島らしくもない殊勝な心がけだが、それが長続きしないのがGS美神の世界。


「神父を心配する気持ちはわかるけど食べなきゃダメ!
 食べておかないと戦えないわ!」
「いえ、あの……」

エミがピートに食事を勧めることにかこつけ、豊満な肉体を押し付けるかの様ににじり寄っていた。
その姿はさながら獲物を目前にした猫科肉食獣の如し。

「だから、はい、く・ち・う・つ・し♡」

(ん、な事させてたまるかー エミさんの唇もチチもケツも俺のもんやー)

ピートに言い寄るエミの姿に先ほどの決意など遥か彼方に捨て去り、ついでに命を救われた恩すらもあえて踏みにじった横島は、ピートを突き飛ばして場所を入れ替わる。

煩悩でブーストされた横島の動きは、その瞬間韋駄天をも凌駕した。

「いただきます」

そして、エミとはいえ、神々の領域にまで達していた横島の超加速モドキに対応しきれるはずもなく……

ぺちょん

触れ合う唇と唇、そして絡み合う舌と舌とジャガイモ。

「あれ、横島? 何で、ピートは!?」
信じきれずにしばし呆然となるエミ、一方突き飛ばされたピートはそれにも関わらずホッとしている。

横島は一瞬の幸せを反芻し恍惚とした表情を浮かべていた。

(一週間、歯を磨かねーぞ)

だが、その一瞬の恍惚と引き換えに、横島は今日二人目の鬼と見える。

「……横島、おたくは上司にセクハラすんなっつーのがまぁだわからないワケ?」
「……えーと、その何と言うか、その……」
「ん?なぁに、横島? 何か言い残すことでも?」

 猫なで声がとても怖い。

「やわらかくておいしかったです♡」
「……サイッテー。 今日という今日は二度とセクハラができないように体で覚えあげるワケ」

バキャッ ドガグシャッ
美神の仕置きすら生温く感じられるような、そんな阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれようとしていた。。


「……横島さんには学習能力というものがないんでしょうか?」

さすがにピートも慣れたのか、呆れ顔ながらも止めようとしない。

「ま、馬鹿横島のやることだからね。 一々気にしてたらこっちの身が持たないわよ。
 で、これからどうするつもり?」

美神も関わる気はないようだ。 横島への怒りはあるが、エミの味方をする気にもならないというところだろうか。

「奴らは今夜必ず攻めて来るはずです。 
下手に動くよりもここで応戦した方がいいと思いますが……」
「夜明けを待って反撃するわけね。 ……いーんじゃない?」

真剣な表情で意見を述べるピートとあっさりと同意した美神。
この落ち着きの差はくぐった修羅場の密度によるものか?

(長く生きているからといってもそれだけでは駄目なんだな……)

そんな事を思いつつ、ピートは身支度を始める。
唐巣が心配だった。 
それに、美神達の様に襲撃を前にしてくつろげるほど彼の肝は据わってはいない

「それじゃ、みなさんここにいてください」
「どこへ行くの? 夜は吸血鬼の天下よ。 一人では危ないんじゃない」
「ちょっと村の周りを見てくるだけです。 心配しなくても大丈夫ですよ」

美神の懸念をよそにピートは一人民家の外へ出た。
エミもピートが出て行くの気付いたが、今日という今日こそは馬鹿弟子を更生させるべく、横島への折檻を続け、他の面々はそれを気にも留めずにくつろいでいた。

だが、思えばこの思慮に欠けた単独行がその後の全ての混乱の元凶となったのだ。
ピエトロ・ド・ブラドー、美形だがどこか抜けたところのある男であった。


PM8:42(現地時間) ブラドー島


「――――? どこに行ったのかしら、ピートは」

美神は一人、ピートを追っていた。

どうにも気にかかるのだ。
あのピートという男、何かを隠している。
そして、しゃくに障ることにそれをエミは察しているようなのだ。

「教会がない村……そして相手が先生達ですら身を隠さねばならない吸血鬼で、必ず今夜襲ってくる事がわかっているにも拘らず、一人で出かける依頼人……怪しすぎるわね」

気に入らない。
あの裏切り者の馬鹿横島がエミのところに行った途端、横島のくせに霊能力に目覚めたこと。
ピートが唐巣先生の弟子、つまり私の兄弟弟子でありながらエミにだけ事情を明かしているらしい事。
この仕事では、彼女のプライドを傷つけるような事ばかりが起こる。
ああ、本当に気に入らない。

だから、皆にも黙ってピートの後を追ったのだ。
依頼人がエミと示し合わせて何か隠し事をするというのなら、自分で調べるだけのことだ。
エミなんかに遅れをとっていられない。
そう、私は美神令子なのだから。


彼女らしくもない迂闊な行動であった。
なにより取られた横島が生き生きとしている事への怒りと不満で冷静さを欠いていた。

「やぁ……」
「ピート!?……ハァ、尾行して気付かれるなんて私も間が抜けて……」
だから、目の前にピートに似た人物が現れた時に別人と気付けなかった。

「……違う! あんた、ピートじゃないわねっ」

気付いた時には牙が届くほどに近づかれていた。

「痛ッ」

ピートに似た吸血鬼を振り払おうと神痛棍に手を伸ばすが、誤って左脇腹――横島の霊力の篭った右ストレートを受けた場所――に触れてしまい、傷の痛みで反応が一瞬遅れ……。

「あっ……!?」
首筋に吸血鬼の牙が突きたてられる。

「ひょふはははほはへほほほはひはは(今日からはお前も余の配下だ)」
「あ……あ……」

美神は吸血鬼ブラドーの宣言を、ちうーっと血を吸われながら聞いていた。
痛みと甘さの入り混じった恍惚の表情を浮かべながら。

GS美神令子、霊能者にあるまじき一生の不覚であった。


ブラドー島の戦いはブラドーの奇襲により、本来の主役がいきなり敗れると言う形で始まった。
だが、その事を横島もエミも知らず、いまだ折檻の真っ最中。
果たしてこの戦いの行く末は?
そして失点続きの横島は次回こそエミの心にアピールできるのか?

次回に続く


後書き
お久しぶりです。 3ヶ月ぶりの輝剣です。
話の流れ自体は細かい所まで前作投稿時点で決まってはいたのですが、
ま、今回はこういう流れですので、ちょっと投稿をためらっておりました。
大丈夫だと思うんですが。
次回はそうお待たせする事はないはずです。

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