ザ・グレート・展開予測ショー

しきたり!


投稿者名:ヤドリギ
投稿日時:(06/ 1/13)

人が訪れぬ魔境

立ち入れば二度と出れぬと噂されている旧き山々に

男とおぼしき悲鳴が響き渡る。

山のふもとの住民は祟りだと恐れ、新しい怪談話になったとか…












「しきたり!」













横島忠雄の朝は早い。

今日も今日とてシロに引きずられて散歩に行くのだが今回は少し勝手が違った。

盆も近づこうとしている夏真っ盛りの炎天下の中、胴を縄で縛られて物凄い速さで引きずられていく。

(お・・おかしい。自転車を引っ張ってもらってたはずなのに)

何処をどう間違ったのか、今はさながら悪のカウボーイに引きずられる一市民の構図になっている。

記録的な猛暑で美神のモチベーションが下がってるのを見計らい休暇を貰ったのだが

シロに墓参り兼里帰りに付き合ってくれないかと頼まれたのだ。

深く考えずに了承してしまったのが運の尽き、

哀れ朝の三時に目をギラギラさせたシロに叩き起こされて怒鳴る暇もなく旅立つことになった。

徒歩で。(横島は何とか自転車に乗させて貰った)

自身最長記録になるだろう長距離散歩と久しぶりの里帰り(しかも横島と一緒)で興奮しきったシロは

後ろで人間ボロ雑巾と化していく師匠に気がつかない。

痛みで意識が遠のき、痛みで意識が覚醒する。この繰り返し

横島はふと前方を見ると、まるでこの日のためだけに成長しました的な大木の出っ張りが目に入った。

「イヤァじゃああああああああああ!!」

また秘境に男の悲鳴が響き渡る。








「申し訳ないでござる、せんせぇ〜」

ここは犬神の里の入り口、里長の後ろに引きずっているモノに対する疑問で興奮が冷めたシロは

キャンキャンと横島に泣きつきヒーリングを施していた。

「もういい…疲れたよパトラッシュ…いや、この場合シロか?」

「拙者は犬ではないでござる!」

ズダボロになりつつもまだまだ余裕はありそうだ。

「ルシオラ……いまソッチへ…逝く…」

「!!」

ガブリ

「あんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「元気になったでござる」

にっこりとオーラを纏い微笑み浮かべたシロに横島は恐怖を持って反論を抑えられた。

(最近おキヌちゃんに似てきたような…)

おキヌちゃんの名誉のために言っておくが彼女の反応は恋する乙女の複雑な心境が生み出すものであり

彼女本人は本来、暴力性など持ち合わせていない。

あえて原因を挙げるなら横島の鈍感さであろう。

「…相変わらず体をはってますな横島殿」

「好きでやってるんじゃないっス!」

里長は苦笑しつつ、シロの帰りと成長を喜んだ。

もちろん先ほどのやり取りでシロの気持ちに気がついている。流石は年の功…









シロの父さんの墓参りも終わり、さてどうするかと悩んでいたら

「拙者が里を案内するでござる!」

と、シロに腕をとられ里をまわるはめとなった。

いい加減休みたかったが、嬉しそうなシロを見てるとそんな考えも吹き飛んでいく。

じゃれついてくるシロにされるがまま歩き回り、

美人の人狼に飛び掛ろうとすると組まれた腕は万力のように締め上げられた。

そんないつも通りに過ごしていると

(───んっ?)

横島は何となく視線を感じ振り返るが、誰もいない。

何か釈然としないものを感じながらも時間は過ぎていく。

そして夜

久しぶりの客人とシロの帰郷を祝って屋敷で宴が行われた。

宴の席でもシロは「コレが美味しい」だの「頬にご飯粒がついてるでござる(ペロッ)」と周りの目も気にせずじゃれついていた。

「まぁ、奥さま。あれをごらんになりまして」などと二人を酒の肴に何故か奥様口調でしゃべる侍たち(男女比7;3)を

横目で眺めつつ、横島はシロの顔を眺めた。

(やたら積極的だよな、シロ…というか舐めるのって擬似的なキスにあてはまるんだろうかイヤちょっと待て
 ロリコン違うロリコン違うロリコン違う×100、復活の呪文チチ!シリ!!フトモモォォ!!!…でもやーらかいなぁ)

横島が悶々と無限ループにはまった時に、それは起こった。

ダン!!

突然の物音に皆の視線が一点に集まる。

そこには一人…いや一匹の若い侍が耐えかねたように床を拳で叩いていた。

若侍は立ち上がり客座まで歩いていくと、横島たち──主にシロを指差した。

「シロ!なんだその様は。みっともなく尾を振りおって…飼いならされたか!」

「…なんだ、風太郎か。宴の席での無粋な振る舞い…相変わらずつまらん奴でござる」

フンっと鼻を鳴らし興味を失ったシロは早速横島との食事を再開する。

当然若侍は面白くない。

「そんな人間なんぞに媚を売るか!人狼の恥さらしめ」

「先生を馬鹿にするか!!」

シロも立ち上がり、互いににらみ合う。

一人展開について行けない横島は隣にいる里長に耳打ちした。

「シロの奴どうしたんすか?あんなに他人に刺々しいの珍しいんですけど」

「ふむ……」

里長は口喧嘩を始めた二人を一瞥し、ため息をついた。

「横島殿なら話してもかまわんじゃろう。あの小童は伏山風太郎といってな、一言で言うならシロに惚れてるんじゃよ」

「マジっすか!へぇ…シロのヤツもてるんだな」

「シロの方にはその気はなくてのう。風太郎をこっぴどく振ったんじゃが、
 里一番の色男の名が廃るとかで今でも機会をうかがっているんじゃ」

「里一番の色男ねぇ」

ちらりと後ろを振り向けば風太郎を応援する少女が数人…

「あれはどういうことすか?」

「人狼のオスは14歳で元服、現在は妻は一人が主流とは言え基本的には一夫多妻制。
 シロをまず正妻にすると言っておるからあの子達は蓄えなのではないか?」

一夫多妻制───色男───美少女ら

「未来のねーちゃん独り占めってことか!羨ま憎らしいぞゴラぁぁぁぁぁぁ!!!」

一人の漢が立ち上がった───その隣で里長は密かにほくそえんでいたりする。

「やい!てめぇ」

罵り合っていた二人はいきなりの怒声に目を丸くしていた。

「黄色い声上げられていい気になってるんじゃねぇぞ。その陰で唸りをあげる漢の奔流に足を取られて飲み込まれるぞ!
 つーか引きずり込む!全世界のもてない漢に代わり貴様に天誅を下しちゃる───後なんかむかつく野郎だと思ったら
 ロンゲじゃねーか!本当にこの手の輩はロクなのがいねぇなぁオイ!貴様なんぞにシロはやれるかぁぁぁぁ!!!」

心の奥底からの魂の叫び

その叫びに同調した数匹の人狼(おそらくもてないものと思われる)も雄たけびを上げる。

しばし呆気に取られていた風太郎だが、我が意を得たりとニヤリと笑う。

「いいだろう、ならば決闘の儀『牙砥ぎ』(きばとぎ)を行おう!」

不適に宣言した風太郎の隣───シロは横島の台詞にきゅーーんときていた。







夜闇の中にたいまつの明かりがともる。

決闘場といってもいたってシンプルで、たいまつで囲まれた円の中に向かい合うだけだ。

周りは野次馬で囲まれており、喧嘩は花やと言わんばかりに賑わっていた。

里長が向かい合う対戦者の間に立ち儀を取り進める。

「では今から誓いの言葉を交わす。両名ともワシの後に続けて唱えるように」

闘争心溢れる二人はもどかしそうに復唱する。誓いが終わると結界が浮かび上がった。

「これで命を奪うとまではいかなくとも白黒決着が着くまでは出ることことはできん。
 互いにオスの誇りをかけて闘うように」

「せんせーーい、そんなヤツはコテンパンにやっつけてしまうでござる!」

シロの声援に風太郎は顔をしかめるが、命のやり取りをするのに心配もされていない横島を

所詮はその程度の存在と馬鹿にしていたりする。

「それでは始め!」

横島が身構えると既に風太郎は行動を開始していた。

縦、横、斜め───人狼の身体能力を駆使して駆け回る。

歩幅を変えつつ不規則に距離を縮めていく…

(コイツは───!)

横島が目を見開く。勝機とばかりに風太郎は霊波刀を振り上げ

「シロより弱いわぁぁぁ!!!」

逆に思いっきり『栄光の手』で殴り飛ばされた。




開始わずか数秒───里の歴史でも最速で決着の着いた決闘だったという。




伸びてしまった風太郎は無視してシロは横島に飛びついた。

「流石は先生でござるよ!」

きゃんきゃんとじゃれつく。シロの頭を撫でながらも、横島は納得いかない様子だった。

「それにしてもコイツ口だけじゃねーか」

「いやいや、風太郎は決して弱くない。横島殿が強くなったのじゃよ」

部下に風太郎を運ばせると里長は横島に向き直った。

「今日再会したときから感じておったが、フェンリルの件のときに比べ見違えるほど強くなりましたな」

まだまだっす、と言いつつ褒められ慣れてない横島は上機嫌だったが次の一言で凍りついた。

「これで安心して嫁がせることが出来ます。シロをよろしく頼みましたぞ」

ヨコシマハ、カタマッタ

シロはじゃれついている

周りの野次馬は二人を祝福した!

「ど、どどどどどどーいうことっすかぁぁぁぁぁぁ!」

「横島殿、『牙砥ぎ』の儀とはその名の通り互いに競い合い、切磋琢磨して生き残った牙──つまり遺伝子を
 後世に残すという結婚の儀の一種なのじゃよ」

「聞いてないっすよ!なぁシロ!」

するとシロはにっこり笑って

「言ったでござるよ」

「断じて聞いてない!」

「言ったでござるよ」

「いや、そんなはずは」

「言ったでござるよ」

「だからそんな生命の危機に直結するもの聞き逃すわけが」

「言ったでござるよ」

「あの…」

「言ったでござる♪」

徐々に増していくプレッシャー

それに耐えかねた横島は

「そうだったけな………」

つい肯定気味の返事をしてしまった。その瞬間、何処からともなくファンファーレ(幻聴)が鳴り響き

結界の光が増して、人生の墓場に引きずりこむと言わんかの様に

首輪になって横島とシロの首に巻きつき、消えていった。

「契約終了!これで二人が離れるには互いの合意なしでは不可能となりましたぞ。
 三行半をつくるなどは出来ませぬのであしからず」

「一生はなれないでござるよ!」

「あは・は・・はははは」

横島はこれから訪れるであろう人為的な災害(主に二人と一匹、任意で+神族や魔族)に心を震わせた。

一方シロはそんな横島の様子も気にせずに抱きつき、幸せをいっぱい噛みしめていた。

寄り添う二人を見て里長は呟いた。

「横島殿とシロならば、強い跡継ぎをたくさん産んでくれるじゃろう…」

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