ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(37)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/28)

「えーと。今のところ、上空にも屋敷の周囲にもおかしな気配は感じません」
蔦と木々に覆われた、加奈江が住む古い洋風造りの屋敷―――その、上空。
美智恵から持たされたヘッドホン型のトランシーバーを頭につけ、魔法の箒に乗っためぐみは、上空から見た現場の様子を美智恵達に報告していた。
そのいでたちは、大きな三角錐を乗っけたような黒い帽子に黒い服と、いわゆる「魔女」のイメージにハマり過ぎてさえいる。
たっぷりとした明るい茶色の長い髪を、首の後ろで一つに結った大きな三つ編みの房を揺らし、時々帽子のツバを押さえながら、めぐみは屋敷の上を大きく一周すると、もう一度、美智恵に向けて通信を発した。
「・・・やはり、特に異常は見受けられません。指示を願います。どうぞ」

「・・・了解。今のところ、こちらにも異常はありません。五分後に、捜査礼状を持って容疑者宅に向かいます。容疑者が上空に逃亡した場合を考えて、貴方とマリアには、そのまま上に待機していてもらいます」
凛とした声で告げられた美智恵の指示に、めぐみと、めぐみとは反対側の上空で待機しているマリアの返事が返ってくる。
その声を確かめてから美智恵は無線機のスイッチを切ると、制服の襟をサッと整えて、パトカーから降りた。
すでに、ほとんどの警官や捜査員達は配置についており、美智恵がいたパトカーの周囲には、令子やエミ達ゴーストスイーパーの面々と、捜査令状を手にした刑事が数人、そして、いざと言う時のための、救護班だけが残っていた。
「・・・それでは最後に、貴方がたへの指示を出します」
皆、一様に張り詰めた雰囲気でいる一同を、自分も緊張した表情で見回すと、口を開き、最後の指示を出す。
「令子とエミさん、ドクター・カオスに横島君達は、容疑者・織茂加奈江が逃亡した場合、すぐに結界を展開出来るように、結界札を持って、事前に伝えた配置で待機。西条君と神父と厄珍さんは、私達と一緒に屋敷に向かってもらいます。シロちゃんとタマモちゃんは、容疑者の追跡が必要になった場合を考えて、この付近で待機。冥子さんも、クビラを出して一緒に待機していてもらいます」
「あの、先生・・・それなら、最初から結界を張った方が良いのでは・・・」
「それは駄目よ。今回の一番の目的は、ピート君の保護なんだから」
ある意味、一番手っ取り早い方法を口にした西条の方を見ると、静かに話す。
「雪之丞君の報告書や、その他の調査を見ると、容疑者は、半年ほど前からこの屋敷に男物の礼服や、アンティークの家具なんかを取り寄せてるわ。ピート君が失踪した前後の時期からは、特に食料品の買い物の量が増えているらしいし・・・つまり、ピート君はこの屋敷で容疑者と一緒にいる可能性が高いの。彼に限って滅多な事はないと思うけど、あまり容疑者を刺激しないに越した事はないわ。警官は配置してあるんだし、なるべくなら穏便に済ませるのが一番良いもの」
「・・・そうですね。わかりました」
「よろしい。・・・では、配置について!」
「ハイッ」
一斉に頷くと、それぞれ、本部を出る時に教えられた配置に向かう。
「ああ〜。いよいよでござるなあ。拙者、キンチョーするでござるよ・・・!」
「うるさいわね。遊びじゃないんだから、黙って行動しなさいよ」
「おキヌちゃん、こんな夜中に出勤させちゃって悪いわね。今夜の分の時給は、いつもの倍あげるからね」
「そんなの必要ないですよ。ピートさんは、私達の大事なお友達なんですから。協力するなんて当たり前です」
「み、美神さーん!時給倍って、俺は、俺はーっ!?」
「アンタはテストやら何やらでいっつもピートに世話になってるでしょーが!!その恩返しと思って、今夜の分はタダ働きなさいっ!!」
「し、しどい・・・」
「すまん。わしの配置はどこじゃったかのう?」
「正門の左手だって、何べん言わせるんだよアンタはーっ!!」
「まあまあ、雪之丞さん・・・落ち着かんといかんですケエ」
「え〜と〜。クビラちゃん〜、出ておいで〜」
「・・・・・・」
お約束のような喧騒に、一抹の不安を感じたりもするが、気合そのものは抜けていない。
ひとしきり騒いだら元の緊張した面持ちに戻って、それぞれの配置へと向かって行く。
その令子達の後ろ姿をしばらく追った後、美智恵は、背後で待っていた西条達の方を振り向いた。
皆、一様にピリピリと張り詰めているが、その中でも、唐巣が発している緊張感にはすさまじいものがある。
すさまじい焦りを押し殺した上での、異常なほどの緊張感。
今日、唐巣は加奈江の住所と居宅を確認しに、一度、この場所を訪ねている。
本当なら、その時にでも踏み込んで容疑者に詰め寄り、ピートの安否を確認したい気持ちだった筈だろうに、唐巣は、より周到な作戦をと言う美智恵の意見に従って焦燥を押し殺し、そして今もまた、いよいよ踏み込むという状況を控えて自分を暴走させないように、気合を入れる事で、焦りや不安といった不安定な感情を制している。
先ほどから一言も喋っていないのは、自身の感情の制御と、ピートの身を案じる気持ちに全神経を回しているからだ。
表にこそ出していないものの、彼の全身から感じられるその雰囲気に、美智恵は自身の緊張をもさらに高めると、静かな―――しかし、何らかの、圧倒的な「強さ」を含んだ声で言った。
「・・・じゃあ、行きましょう」
彼らも、唐巣の雰囲気に影響されたのだろう。西条だけでなく、他の刑事や、厄珍までもが極限まで張り詰めた表情で頷くと、礼状を懐に持った西条を先頭に、正門から庭に入る。
その一行の姿を、自分の配置場所―――塀の角から見つめてエミは、自分の胸に手を当てると、空を見上げた。
―――さあ・・・いよいよなワケ・・・!!
まだどこか迷っている部分はあるが、マリアの言葉でそれなりにふっ切れたのか、不思議と心は落ち着いている。
もちろんピートの身を案じる気持ちはあるが、それも焦りには結びついていないらしく、自分でも不思議なぐらい心が穏やかである。
エミは、持っていた口紅で顔に仕上げのメークを施すと、静かに「その時」を待った。

―――静寂

いつかの夜に感じたような、耳鳴りがしてきそうなほどの無音。
しかし、この無音の後にある「何か」を、エミは既に予想していた。

「うわっ・・・!!」
ガラスの割れる、けたたましい派手な音が一般の刑事の悲鳴と共に響いた直後、バサバサと羽音を立て、塀の内側からカラスや蝙蝠の大群が飛び出してくる。
そして、その羽音に被さるようにして、女の、異様な執念のような気迫のこもった笑い声が、耳に突き刺さるような勢いで辺り一帯に響き渡った。
「ふふふ・・・ははは・・・あはははは!!何もかも、みんな変えてやるわ


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