ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦9 『LAST MISSION 聖夜の黄昏 8』


投稿者名:丸々
投稿日時:(06/ 1/ 6)

戦場を駆け抜けながらジークは消えない違和感を抱き続けていた。


――何かを見落としている


ジークの本能が囁き続けていた。
だがその正体がわからず、さっきから自分に問い掛けていた。



――何故今このタイミングで襲撃されたのか?

最高指導者が今なら確実に無防備なため。



――こんな事をして何の意味がある?

デタントは間違いなく崩壊し、最終戦争が始まる。



――最終戦争が始まったとして、誰が喜ぶ?

武闘派神魔族やデタント反対派の連中。



――だが彼らは今この時、別の任務に忙殺されているのではないのか?

それは確実だ。最高指導者直々の命令を何の理由も無く拒否する馬鹿はいない。
現に、全員特別任務を引き受け、確かに任務に出発したという報告も受けていた。



――ならば、誰がこの襲撃を行える?

わからない。何かを見落としている。



さっきからこの疑問が堂々巡りしていたのだ。
考えても考えても思考が同じ事ばかり繰り返してしまう。
だがジークの本能は囁き続ける。


――既に自分は答えを知っている、と
















何か手がかりは無いかと考えた時、さっき渡された物を思い出した。
万能の霊具『文珠』、これを上手く使えば何か掴めるかもしれない。

敵の手がかりと言えば目の前に群がるホムンクルス達だろう。
ここから逆探知の要領で敵の正体に辿り着けないか。

近くにいた敵の両腕を精霊石弾で撃ち抜き抵抗できない状態にする。
そのまま捕らえ、一つ目の文珠を発動させる。

――浮かび上がる文字は『隠』

まるで結界のように光がジークの周囲を包み込む。
ジークの周囲数メートルはジークの存在を認識できない空間へと変化した。

組み伏せたホムンクルスに二つ目の文珠をかざす。

――浮かび上がる文字は『析』


解析、分析などの意味を持つ文字が、敵の正体を解き明かしジークの脳に転送する。
触媒の成分、プログラミングされた行動内容、弱点や運動能力。


そして――これを造り出した者の正体。



「――――馬鹿なッ……!」


敵の姿が脳裏に浮かんだ瞬間、ジークが呻くように声を上げた。























男は未だに居住区をうろうろしていた。
その姿からは何が目的か察する事はできない。
ただ物珍しそうに建物内を歩いているだけなのだ。

廊下を歩いていると、突如小さく銃声が鳴り、男の背中に銃弾が撃ち込まれた。
銃弾がめり込む衝撃で男が前のめりに倒れこんだ。

消音機が装着されたベレッタを両手に構え、ワルキューレが瞬時に間合いを詰める。
己の間合いを確保し、倒れている男の背中に精霊石弾を全弾撃ち込んだ。

十発以上もの弾丸を僅か一秒もかけずに撃ち出す。
ワルキューレの壮絶な早撃ちは相手に抵抗する事すら許さなかった。
二丁あわせて合計二十発以上もの弾丸を撃ち込んだため、廊下には硝煙が立ち込めていた。

空になったマガジンがゴトリと床に落ちる。
銃を手に持ったまま換えのマガジンを宙に放り、それを瞬時に装填する。
まるで曲芸のような一連の動作だが、ワルキューレは難無くこなしていた。

敵は動かないが、それでも彼女は油断無く自分の間合いを確保し続けている。


(なんなんだこいつは……)


ワルキューレの額に緊張から汗が浮かぶ。
小竜姫から事前に聞いていたが、本当に霊圧を全く感じ取れないのだ。
明らかに異質な存在にワルキューレが警戒心を研ぎ澄ませていた。


「いきなり背後から銃撃とは……小竜姫はいきなり問答無用で斬り掛かったりはしなかったぞ。」


やれやれと呟きながら男が何事も無かったかのように立ち上がる。
良く見ると男の白銀のローブには傷一つ付いていなかった。
男が立ち上がると着弾の衝撃で潰れた精霊石弾がポロポロと床に落ちていく。

くるりと男が振り返ると空洞のフードがワルキューレの視界に入った。
内心驚愕していたが、動揺を表に出さず、顔があると思われる場所にまたも銃弾を撃ち込んだ。
着弾の音が鳴り響き男が顔をのけぞらせる。

その隙を逃さず一気に間合いを零距離まで詰める。
銃は効果が無いと判断し、精霊石の原石から磨き上げた特製のナイフを抜き斬りかかった。
精霊石の力を帯びたナイフは鉄や鋼程度なら豆腐のように切り刻む事ができる。

首筋をナイフが切り裂く瞬間、男の姿がまるで時間を止めたかのように掻き消えていた。


「無駄の無い良い動きだ。
良く訓練しているな、ワルキューレ。」


背後から両肩にぽんと手が置かれ、耳元で囁かれた。
背筋にぞくりと戦慄が走り、反射的に背後を切り払う。
読んでいたのか、男はひょいとかわし距離を置いた。


「君は昔から優秀だったからなぁ……いやいや、私も嬉しいよ。」


ははは、と声を上げる相手にワルキューレが睨みつける。


「馴れ馴れしいぞ貴様!一体何者だ!!」

「うん、そうだな。そろそろ正体を明かすのも良いかもしれないな。」


そう言うと男はおもむろにフードに手を掛けた。
フードが外されると何も無かった筈の頭部に実体が浮かび上がる。




地面にナイフが落下し、軽い音とともに床に突き刺さった。
あらわになった男の素顔にワルキューレの手からナイフが落ちていた。





ワルキューレの前には、少しウェーブのかかった金髪の青年が微笑んでいた。
男が目を覆う金髪をかきあげるとアクアマリンのような右目がワルキューレの瞳を覗き込んだ。




「か、閣下…………」




ワルキューレは呆然と呟きながら廊下に立ち尽くしていた。
まるで彼女の心を表現するかのように廊下に冷たい風が吹き抜けていった。























妙神山の建物内を風のように一人の青年が走り抜けていく。
青年の鼓動は破裂しそうなほどに高まっていたが、それは疲労のためではない。

彼は知ってしまった――否、気付いてしまったのだ。
今回の襲撃の影に潜んでいる者の正体に。

その正体はジークが最も信頼していた上司。
魔界第二軍の総司令官であり、ジークが知る限り最もデタント寄りの最高神だった筈なのだ。

だからこそジークは今日の計画の全てを彼に打ち明け、最高指導者がいない間の神魔界の監視を頼んだ。
だが逆に考えれば、彼以外に今日の計画をここまで正確に知っていた者はいないのだ。
仮に内通者が存在したとしても、ジーク以外の隊員が今日の作戦を知ったのは昨日の事なのだ。
その僅かの時間の間にこれだけ大掛かりな準備をするのは、神話クラスの存在とていくらなんでも不可能だ。

だが彼は一週間前に知っていた。
他ならぬジークが打ち明けたのだ。
それだけ時間があれば、これだけの準備をする時間は充分ある。

最初から、頭のどこかではわかっていたのだろう。
だが心がそれを認めるのを拒否していた。
彼がそんな事をする筈が無い――そう信じたかったのだ。

建物の内部は何時の間にか特殊な結界が敷かれていた。
結界の力により敵だけでなく仲間の霊圧も感じ取る事が出来ない。
そのため、運任せで走り回るしか手が無かった。
文珠を使う事も考えたが、残り三個しかない以上まだ温存する事にした。

せめて物音に注意を払っていたのだが彼の周囲には何の気配も無かった。

彼が今居る場所は妙神山の貴重品が置かれている宝物庫の近くだった。
略奪が目的で攻めて来ているとは思えなかったが、他に当ても無かった。

ここにはいないと判断し、ここから近い居住区に向かった。






「――姉上!」


彼が居住区で見たものは、膝をつき動こうとしないワルキューレの姿だった。

















「……あんたが今回の黒幕だったのか。」


魔界第二軍総司令官――つまりは自分の今の上司――の前に立ちはだかる女性が呟いた。

男が着込んでいる法衣の特殊効果なのだろう。
本来は相対するだけで息苦しくなるような霊圧を一切感じなかった。


「まあ、そういう事だ。さ、そこを通してくれ。
私はこの奥に用があるんだ。最も、別にそこまで行く必要も無いんだけどな。」


悪びれるでもなく男が頷く。
キッとべスパが男を睨みつけた。
その両拳には霊力を纏わせ、今にも殴りかかりそうな剣幕だった。


「やれやれ、そんな怖い顔をしてくれるな。綺麗な顔が台無しだ。」


苦笑しつつ、男がべスパの頬に手を伸ばす。
だがべスパはその手を殴りつけるように払いのけた。

廊下に乾いた音が響き渡った。

拒絶された男はやれやれと天を仰いでいる。


「ワルキューレといい、君といい、どうしてこうウチの綺麗所は気が強いのか……」


愚痴をこぼしている男の胸倉を掴み、荒々しく壁に押し付けた。
自分より頭一つ大きな相手を睨みつけ、激しく詰め寄る。


「何でだ……!あんたが何でここを襲撃するんだ!あんたには関係無いだろ!?
どうしてわざわざこの大事な日に――――!」


そこまで言った時、男の蒼い透き通るような瞳に射抜かれ、僅かに勢いが弱まる。
その一瞬の隙を逃さず、優しく男は囁いた。


「君こそどうしてそんなに必死になる?
君が何をしようとアシュタロスはもう戻らないんだぞ。
それなのに、彼を倒した男の恋人を生き返らせるのか?」


ビクリとべスパの身体が震えた。
怯えたように距離を取ろうとしたが、何時の間にか男の腕が背中に回されていた。
優しく抱きしめながら男は耳元で囁き続ける。


「君にとってアシュタロスは創造主以上の存在だった筈だ。
その彼を滅ぼした相手が憎くないのか?本当は許せないんだろう?」

「やめろッ……!」


男の囁きから逃れようと身をよじるが男の腕はビクともしない。
彼の腕力はそれほど強くないが、抗うべスパの力はそれ以上に弱々しかった。

男は何か術をかけるでもなく、ただ優しく言葉を紡ぐ。


「生き返らせようとしているルシオラも同罪じゃないのか。彼を裏切ったんだぞ。
彼とて最初から消滅を望んでいた訳では無いはずだ。この世界を造り変えようとしたんだろう?
だがそれも君の姉とあの少年のせいで駄目にされた。それなのに君は戦うのか?」

「わ、私はッ……!」


遮るように声を上げるが、それは弱々しい悲鳴のようだった。
腕の中のべスパの様子を窺いつつ、男は最後の言葉を口にした。


「――本当は、君も自分でわかっているんだろう?」


「やめろぉぉぉーーーーーーー!!」


べスパの全身から霊力が迸り、爆音をあげながら周囲を吹き飛ばした。
























「無事ですか、姉上!」


ワルキューレの真紅のベレー帽が無くなっているのが気になったがそれは後で良い。

呆然と膝をつくワルキューレの肩を掴み、顔を覗きこむ。
顔色は蒼白になっていたが、ジークの声に反応したのか瞳に光が宿った。


「お前は……知っていたのか……?」


弱々しく呟くそのワルキューレの表情からジークは全てを察した。
彼女は敵と遭遇したのだ。そしてその正体を知ってしまったのだ。


「僕も……確証はありませんでした……ですが、違って欲しかった……!」

「駄目だ、ジーク……あの方は……もう……」


気力を失ってしまったかのようにワルキューレがジークの胸元に崩れ落ちた。
その姿は普段の毅然としたワルキューレからは想像も出来ない程に憔悴しきっていた。

ジークは自分の胸の中で弱々しく呟いている姉を力づけようと抱きしめた。
だがその彼自身、今にもその場に崩れ落ちそうなほどに動揺していた。
それでも何故か彼は倒れなかった。

まるで――彼にはまだ何か役割があるとでもいうかのように。




その時最奥部の方から何かが爆発する音が響き、建物が振れ動いた。

ジークがその方向を睨みつける。


「……行くのか、ジーク。」


自分を見上げる姉に力強く頷く。


「あの方を……止められると思うのか……?」

「……無理でもやるしかないでしょう。
それに、僕はまだ閣下の考えを聞いていないんです。
閣下の考えさえわかれば、説得出来ると思うんです……いや、説得してみせます。」


強い覚悟を秘めた言葉にワルキューレがジークの手を取る。
何かを手の平に置き、ジークの指をたたみ握らせた。


「……姉上?」

「持って行け……お守り代わりだ……」


ジークは頷くと最奥部へ向けて走り出した。




「……撃てなかった……私は……軍人失格だ……」


床に落ちている銃を見つめながらワルキューレがぽつりと呟いていた。



















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