ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の五 8


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(05/12/29)



「来いやぁあああ!!」
昂ぶる気持ちを抑える事は出来ない。気合の声が木霊となって谷に響き渡る。
体中の筋肉が引き絞られ、放たれる直前の矢の様に狙いを定めている。
夕日を背に大見得きって、汰壱は構えた。

「死ぬんじゃないわよ」
十二分の気合を感じ取り、タマモは印を組んだ。
僅かに気遣うその言葉は、誰の耳にも届くことはない。
タマモの目から優しい光が消えた。

『砂に住まうは小さき魍魎、木々に潜むは悲しき魑魅、土に宿りし我が僕、深き処に傅く僕
盟主が呼ぼうぞ、顕在せよ。我が尾の一総は拠り所、顕在せよ。』

九つに分かれたナインテールを花様に咲き広げ,タマモの身体から金色の妖気が発せられる
谷間に響く詠唱が、なぜか歌のように聞えた。

(っっっっ何つー妖気だ・・・化け物め)
全身のが総毛立つ、比べるのも馬鹿らしいレベル差から来る圧倒的プレッシャーで汗が噴出す。


「我が尾の一尾よ変化せよ、現れ出でよ【一つ角】」

詠唱の終了と共にナインテールの一房が消える。

ズゥウゥゥウウゥ

気味の悪い音が辺りに響く、それと同時に汰壱の目の前の地面が僅かに隆起しはじめる。
それは徐々に質量を増して行き、やがて小山のように膨れ上がった。


その存在は、まさに土から産まれる。そんな表現が一番汰壱の脳にしっくりきた。

川原の石、砂、流木、土を飲み込むようにソレは大きくなる。

ズルッ


膨張しきった土石の塊から腕のような物が突き出され、何かを掴もうと手を動かしている。
続いて足が飛び出し、大地を踏みしめる。

手と足だけを出した奇妙な丸い土塊が出来上がる。

まだ変化が続く

今度はその丸い塊が見る間に萎んでゆく

(小さくなってる・・・・いや違う)

ギチギチ

押しつぶし、固めるような音が響く

内へ内へと余剰の土石を絞り込み、固めているのだ。

数秒後には動体が完成していた。

身体は絞り込まれ、初めよりは小さくなっているが
大きさと反比例して霊力が増大している。

(嘘だろオイッ!)
まだ何のアクションしていないのに背中を冷たい汗が伝った。


人間で言えば、肩の部分と腹の部分から何かが蠢いている。

(手と足、腹・・・・とくりゃ残りは・・・・・・頭)
汰壱の予想道理に蠢いていた何かが、首と思しき場所へ集まり始める。
グニュリュ
やけに生物的な音と共に徐々に頭らしき物が形成され、程なくして完成した。

「ルゥオオォオオォオオ!!」
ソレはまさしく産声を上げる。
唯の土塊と土石の塊でしかないソレが、タマモの術によって仮初の命を与えられたのだ。

自分の尾の一本を媒介にして。


「さあ汰壱、この子があんたの相手よ・・・・ってアレ?」

と汰壱の方を見遣ると・・・・イナイ。


「汰壱なら、とうに何処かに消えたでござるよ」


シロが若干顔を引き攣らせながら、そう言った。
あくまで正々堂々、真正面勝負が心情の彼女からすれば、相手の姿をろくに確認しない内に姿を消したのは、ほんの少し腹が立つらしい。


幾らなんでも、最初から逃げの一手は無いだろうに。

あの気合の雄叫びは一体なんだったのか?

仮にも男なんだから、もうちょっと正面からいけとか・・・・・

ぶつぶつと文句を言っていた。

彼女はほんの一寸、不機嫌だった。



「一つ角・・・本気で行きなさい」

「心得て候、主」


彼女も不機嫌になったらしい。




主の機嫌を察したのか、彼女の忠実な下僕は素早く森の中に姿を消した。





「なんだあの霊力は!ふざけんなよおおお、正面からやれるかボケェ!!」

悲鳴と罵りの声を上げ夜の森を疾走する。

木の撓りと反発力を利用して
木々から木々へと飛び跳ね、素早く移動を繰り返す。身体能力を強化すれば、この様に忍者紛いの事もできる様になった。

だがそれすらも何の気休めにもならない。


獅子猿クラス

真っ先に汰壱の脳裏にその言葉が過った。


ダン!


勢い良く地面に着地する。勢いを殺さずそのまま更に加速し木々を突っ切り、茂みを飛び越える。

正面からの戦いで勝てる相手ではない。
殆ど確信に近いものがあった。

戦いにならないと言うレベル差ではない。
だが明確に勝つというビジョンが浮かび上がらない。

獅子猿の時には文珠。

白蛇の時にはシロとタマモ。

圧倒的にレベル差がある相手から、勝利を手に入れる事ができたのは、いずれも決定力という【切り札】の存在である。

だが今回は・・・・

「畜生・・・勝てんのかよ?」

思わず弱気が口に出る。
自問自答してみたところで答えはわかりきっている
勝たなくてはならないのだ。

タマモは見極めるといった。
もし課題のクリアが出来なければ、あの二人は金輪際自分に霊能を教える事はないだろう。
だが真に問題なのは二人に見捨てられる等と言う事ではない。

シロは言った
「万が一にも死ぬ覚悟はあるか?」と



要するに・・・・

「良くて霊能封印・・・悪けりゃ二度と戦えなくなる身体にされるな」

口に出した言葉が、心拍の速さを上げた。

このまま何の成果も出ずに、ただ無為に訓練を続けても無駄なのだ。
中途半端な力・・・否それすらもない自分がこれ以上この世界に居続ければどうなるか?

答えは【死】である。

死ぬのだ。

何の意味も無く、何も得られず。

ただ犬死するだけである。

先の二度の死線も生きていられたのは、運が良かっただけである。

確かに汰壱自身が必死で考え、耐え抜いた事も要因に挙げられるが

もし・・・・・


文珠がなければ?
二人が助けが遅れていれば?

死んでいたのだ。

手がジットリと汗ばんできた。



あの時あの状況、どれか一つの幸運でも欠ければここに自分はいない。
そしてこれから先、自分がここに居続ければ、いつか幸運は欠けそこで死ぬ。





だからあの二人は見極めるのだろう。

例え恨まれる様な事になっても




「期待されてんだか、されてねぇんだか」

足を止めた。
「はあぁぁぁ」

大きく息を吐いた。
弱気と恐怖を吐き出すように



                 これがあんたの最初の試練



「ハハッ十五歳で人生の選択とはね、なかなかへビィな状況だ」
引き攣った笑みを浮かべる。

やるしかない。

相手がどれほど強くても、退路は無い。





                   証明してみせなさい


「とりあえず勝負だデカブツ」
振り向けば何時の間に表れたのか?一つ角が悠然とこちら見据えている。

「逃げるのは、やめたか?」
腹に響く低音である。

「ケッ・・・逃げてたと言うより、覚悟を決めてたって感じよ」
鼻を鳴らし睨み付ける。

「主が御立腹でな・・・悪いが本気で行かせて貰う」

「そのほうが有り難いね、ところでどうやって追い付いたんだよ?」

「言うと思うか?」

「おもわんね」



「参る」
手をかざし、まわりの土石を集め丸太の様に固める。

「来いやっ、お前が俺の道に立ち塞がるなら、ぶっ壊して更地にしてやんよ。」


汰壱は構えた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「汰壱は勝てるでござるかな?」

汰壱と一つ角が消えた森を見つめながら、シロが尋ねた。

「それは一番あんたが判ってんじゃないの・・・シロ」

コーヒーを片手にタマモは返した。

「・・・・・勝てぬな」
考えてみても答えは同じである。
シロの瞳に悲しみの色が宿る。

「私達は出来るだけのことは教えたわ、汰壱も努力した。」
「やはりもう少し待たぬか?」

「もう少し鍛えて・・・それでどうかなる?・・・その時には汰壱は死んでる」
手にしたコーヒーに自分の顔が映る。

「あのタイプは自分の意地や夢の為なら、簡単に命を賭けるわ
私の一番嫌いな人間よ。自分の行動が周りにどれだけ迷惑するか、まるで気にしない。判っていても絶対に止めない」

「それでいてあの子には力が、打ち破る力が無い。誰が考えても致命的よ」

空を見上げれば満点の星空と月が輝いている。

「・・・・・神様は不公平でござるな」
「努力している人間全部が報われるわけじゃないわ。」


「でも願わくば、あの子に一握の希望と幸運を」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


眼前で繰り出される攻撃はどれも速い、

風を裂く音が耳に響く。

舞い上げれる土塊が、身体を激しく叩くが気にしてはいられない。


意識を撓めるな。

張り詰めろ。


自らに言い聞かすが何時まで持つかわからない。

向こうとこちらでは、体力が違いすぎる。

長期戦は不利だ。

かと言ってゴリ押しで勝てる相手ではない。

どうすればいい?

いくつも選択肢が浮んでは消えてゆく。


ゴゥウゥゥ!!

しゃがみ込んで棍棒をかわす。頭の上で身の毛もよだつ音が通過した。
空振りであってもそのプレッシャーにゾッとする。

一瞬動きが止まったの見逃さず、巨大なクイを思わせる前蹴りが汰壱を狙う。

(当たれば死ぬっ!)
生命の生存本能が、恐怖を吹き飛ばす。
瞬間的に首を捻り回避するが、額を真横に切り裂かれた。

鮮血が顔を汚す。
反撃!

単語だけが脳裏に浮かぶ、手段を考える数瞬が惜しかった。
「あああああっ!!」

全身のバネを利用し跳躍。相手の顎にアッパーいれ、勢いそのままに人間の延髄に当たる場所に廻し蹴りを叩き込む。

硬い

打ち込んだ手足が悲鳴を上げた。



「逃げるのだけは一人前か」
必死の反撃を嘲笑うかのように、棍棒を振り回す。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・うるせぇボケがっ!考え中だ」

悪態を付きながらも、冷静に相手を観察する。

(この巨体でこの速度!そして装甲・・・さすがタマモさんの使い魔!巨体ゆえ大雑把そうな印象を受けるが
冷静な判断力、精妙な攻撃を併せ持っていやがる・・・がそれより厄介なのはあの破壊力!まともに食らえばひとたまりもない・・・
だがよ突破口は見出した。)

「ふぅー、速さが重用だ。巨体を圧倒する速さがっ!!速さが小兵の生きる道!ソレこそが突破口」
呼吸法で調息し攻撃開始の下準備を整える。

真呼吸全身体能力全開
コオオオォオっ!!
集中、集中、集中しろっ!

戦闘の緊張感が汰壱の神経を鋭敏に研ぎ澄ます。
その集中力が不断の修練を下地として、かつて無いほどの氣力を充実させた。


「最大限だっ、いくぜぇええっ!!」
ミキイィッィ
内氣が筋肉を限界まで活性化させる。
バッ

素人には最早残像しか映らない高速を汰壱は体現した。
「ハッその程度!!」
周りの木々をなぎ倒しながら巨石の棍棒を一つ角が振り抜く
が振りぬいた先に汰壱はいない。
「なんと!」
(主の想定速度より速い!!)

「どぅうぅっおらぁっ!!」
爆突的踏み込みが、瞬きの間に距離をゼロにし、一つ角のわき腹にショーフックとボディの連打を叩き付ける。
ガコッ

手に伝わる衝撃が、一つ角の途轍もないほどの堅牢さ理解させた。
が手を止められない、止めてはいけない。

(打ち込め、打ち込め、打ち込め!!)
「があああああっ!!」
獣如く咆哮を上げ、拳を肘を膝を正中線上に叩き込む、気が遠くなる程打ち込んだコンビネーションには一瞬の淀みも迷いも無い。
「ぬぅっ!!」
(一トン近い我をのけぞらせたっ!何と言う重さを伴った攻撃よっ)
速さ、そして一つ角より遥かに小さい汰壱の体と、一つ角の自身の巨体が仇となり、懐からの密着状態から繰り出される連打は
一つ角の反撃を許さなかった。

速さ、この速さこそが汰壱の真骨頂である。

膨大な練習量こそが可能にする正確さを伴った重い疾風に、
(ちっ距離を取らねば)
僅か半歩程であるが一つ角に後退を選択させた。

(硬い重いっ・・・コレだけ打ち込んでようやく半歩・・・だがよっ!)

「その半歩で距離ができた!!距離こそが俺の勝機!!」
霊気極点集中  【霊攻拳】
右の拳が鈍色に包まれる。
今現在出せる最大の一撃がこれだ。
自分の最大の一撃を繰り出すには、僅か半歩程であるが距離が必要なのだ。
前と踏み出す半歩の距離が・・・・

もしコレが効果が無ければ・・・・・負ける
最悪の未来予想を振り払うかのように、億に届くほど繰り返した必殺の中段突きを穿った。

「爆ぜろっ!!」
ドン!!


ピシッ
霊気の煙の向こうの右手に僅かに先程とは違う手応えがあった。
僅かに、僅かにであるが罅が入った。


皹が入った

ならば

砕ける。

汰壱の脳に歓喜の情報が伝わる。

「!・・重さ疾さ機転、実に良いが、身体が止まっているぞ」
僅かのダメージも感じさせぬ声が頭の上から降ってくる。

「しまっ!!」
ダメージを確認するために、半瞬止まったのが拙かった。
慌てて避けようとするが全てが遅すぎる。
ゴッ!!
「ぎっ!!」
咄嗟に両の腕を交差させてブロックをするが、質量が違いすぎる。
大型トラックに撥ねられた衝撃と同等の打ち込みをその身に受け、バッターに打たれたボールのように吹き飛ばされた。

「うああああああああ!!」

小さな枝や木の葉を吹き飛ばし、森の木々より高く吹き飛ばされる。

空中に投げ出されたその身体が、星空の海を泳ぐ。
汰壱の視界一杯に星空が飛び込んできた。
(ふ、風情のねぇ空の旅だな)



「・・・・良い判断だ。あの数瞬でとっさにガードし質量差を考慮し、遭えて大きく吹き飛ばされたな」
棍棒に残るその手応えがソレを如実物語った。


「戦い慣れているな」
用心深く汰壱の飛ばされた方向に歩を進めた。




「ぐぅっぅげはっ!、な、何つー威力だ。」

短い夜空の散歩を終えて、再び地上の人となった汰壱。
ガードした両手の痺れと痛みが一向に引かない。
恐らくは皹が入っていると汰壱は判断したが傷の傷みより、寧ろ自らにほんの少し感心もしていた。

一つ角の攻撃が直撃する僅かの間に、両手全てに内氣を集中させ、両腕の耐久力と防御力を上げたのだ。
そのおかげで皹程度済んでいる。きっと以前のままならば両腕ごと、もぎ取られていた。

(ふー ちったぁ、訓練の成果でるじゃねぇか)

前とは・・・50日前とは比べ物にならない程、内氣コントロールがアップしている。
流石に無意識とまでいかなかったが、自らが防御するとの同じ感覚で操作できるようになっている。

成長しているのだ。


間違いなく。

「タマモさんとシロさんに散々叩き込まれたからか・・・」

だからこそ二人に認めて欲しい。


大きく息を吐く。

手の痛みは確かにあるが、この程度ではへこたれていられない。
額の傷は思ったより深く裂かれている。真呼吸だけでは止血しきれそうにない。
このままでは戦闘の邪魔になるので、シャツを脱ぎ二つに切り裂いて包帯代わりに頭に巻いた。
これでなんとかなるだろう。
「とりあえず、戦術的後退」
正面からやり合って勝てる相手ではない。
全力のコンビネーションと霊撃を叩き込んで皹一つでは、割に合わないし、
なによりもう一度攻撃を逸らせる程、甘い相手ではないのは十分に理解した。

相手の隙を付いて全力の一撃を急所目掛けて叩き込む。



汰壱の戦術的思考は基本的に【勝てば良い】である。
だから此処で相手に背中を見せる事になんの躊躇もなかった。


「ああちくしょう」

・・・・・・・。

若干文句をいいながら再度夜の森に身を隠した。




「まずい、実にまずい、この状況」

既に日がくれ、闇が支配する森の中、泥の中に身を潜め、自らの気配を押し殺しながら、汰壱はつぶやいた。

自分が隠れている場所から30メートルほど前方に、何かが動く気配がした。
月の光も射さない闇に中へ眼を凝らす。
汰壱は夜目が利くほうであるが、流石に霊視能力は持っていないため、その姿を視認するには至らない。
だが肉眼では確認することは出来ない一つ角が歩く振動や、草を踏み木を揺らす音は
研ぎ澄まされた触覚と聴覚がおおよその所在地を掴んだ。

なにより忌々しい事に、一つ角が自分の隠れている所へと徐々に接近しているのも判った。


一つ角はゆっくりと歩を進めていた。
悠然と歩き、気配を撒き散らし、隠れ潜む気等まるで見せずに汰壱へとの距離を詰めている。
だがその歩みには慢心や油断が感じられない。

(正確に追跡して来てやがる。テメエのほうが強いのに、油断も隙みせねぇ歩みだ)
口の中に溜まった唾を、忌々しさと共にを飲み込む、研ぎ澄まされた聴覚には、やけに大きい音のように聞えた。
匂いと気配を消しながら、泥の中から静寂の闇の中へと眼を凝らす。


注意深く距離を離し、気配を消しているにも関わらず。その距離は着実に詰められている。

(匂いや、体温で追跡してる訳じゃなさそうだな、泥の中に隠れてるのに、場所を知られてる)

焦らずに、即座に原因を検証する。

(一番怪しいのは、霊気か・・・がおかしいな?さっきから霊気は消してんのに?)

素朴な疑問が頭をもたげる。
霊能力者に追跡を受ける場合、最も気を付けなければ行けないのは、その者が発する霊気である。
どんな人間でも僅かな霊気を体外へと放出している。それは霊気の残り香となり、それこそが追跡者達には格好の道標となる。

それゆえ汰壱は、一番最初に霊気の追跡を考えていた。
当然その予防策も・・・

(霊気のカットは最初にやってんだけどな・・・いったいなんで?)

思案を巡らせている間にも、ソレは接近している。
緊張とプレッシャーで若干呼吸が早くなる。


自分が身を伏せてる場所から、鼻先三メートルの所でソレはピタリと歩みを止めた。
と同時に月が雲の切れ目から顔を覗かせ、辺りを照らした。








「・・・・・正面では敵わぬと知り、鼠のように隠れたか、臆病者め」
下っ腹に響く声が辺りに響いた。

嘲笑っている。


「さあ貴様の攻撃は通じぬぞ、体力もいずれはなくなり、霞のような霊力ももうあるまい。」

「さあどうする?さあどうする?さあどうする?」


辺りを見廻す。


・・・・・・・・・奴は・・・一つ角は、俺がどこにいるのか解っていない。

奴は俺の大まかな場所は解っている。

だがそれだけだ。

もし俺の居場所が解るのなら、奴はすでに俺に対して攻撃を仕掛けてきているはずなんだ。
一つ角みてぇな術者の一部を媒介にしてるタイプは、少なからず術者の性格が反映される。
タマモさんは無意味な時間を掛けたりしない。常に合理的な判断をする人だ。

やつの言う事は事実・・・確かに俺の霊力や体力はもう大して持たない。
だが奴の言動を事実とするなら、奴は俺の正確な位置までは解っていない。

自分の目と鼻の先にいる脅威は依然としてそこにいる。
嘲り挑発こそするが、その身のこなしに隙を見つける事は出来そうも無い。


今は待ちに徹するのが得策だ。
今は動く時ではない。


そう自分に言い聞かせた。

機を逃すな。

相手の一瞬の隙を突いてもう一度全力の一撃を叩き込む。

騙まし討ちだろうが、不意打ちだろうができる事はなんでもする。
泥の中から静かに機会を伺う。



「ふむ、流石にこの様な安い挑発には乗らぬか・・・」
「ではな・・・炙り出すか」

巨石の棍棒が唸った。

バキバカァバカア!!


深夜の森に圧倒的な破壊音が響き渡る。
自分の隠れている場所にも枝や木の破片が降り注ぐ
(くううっ動くな)
この行動は自分の予定道理の行動だ。
場所が解らなければ、その圧倒的な破壊力をもって辺りを虱潰し攻撃を始める。
(よく観ろ)
元より人間一人が隠れられる場所くらい幾らでもあるが
こうも凄まじく破壊されては、見つかるのも時間の問題である。

だが動いてはいけない。

今は機ではない。

仕掛けが発動するまで待たなくてはならい。
石のように土のように木のように
静かに、息を潜めて
何時自分に気付くか?
偶然にも自分のところに攻撃がこないか?
本当に成功するのか?

恐怖が、焦りがせりあがってくるのをなけなし冷静さで押さえつける。
手にした銀のワイヤーが蜘蛛の糸のような僅かな希望に思えた。



プチッ

手にしたワイヤーの感触が消えた。

(来た!)

賽は投げられた。



一つ角は感じた。

三時の方向に移動物有り!

「耐え切れなくなったな・・・そこかっ!!」


バガン!!


爆発物を思わせる一撃が気配を打ち砕いた。

(違う!コレは岩、唯の岩 やられた)
状況を確認したが為に僅か一手反応が遅れた。


「おおおおおおおおおおお!!!」
そして汰壱にはその一手で十分だった。

「探してるんだったらよ。反応しちまうよな、ソレが何であっても動きだした物は俺かも知れねぇからな!!」
汰壱は一つ角が自分の居場所をどのような手段で探しているか解らなかった。
だがそんな事はどうでも良かった。
逃げるために隠れたのではない。
勝つために隠れたのだ。
探していた物かも知れない物が動き出したのだ。
反応は避けれらない。

地面から汰壱が飛び出してくる。

狙うは一点、最後のチャンス。
極点集中は、今の汰壱の総霊力では後二回が限度となる。
コレで決めるしかなかった。

「イケぇえええ霊攻拳連付き!!」

両の拳が鈍色の霊気を纏う。

ドン!!

一撃目の突きが先程出来た皹をさらに広げる。
ビキッ!!
(左手がイカレた)
だが痛みを感じる暇すらなかった。

「どのような、どのような方法であっても・・・貴様は勝てぬよ」

「!?ほざけぇええ!」


ドゴシャ!!

二撃目は寸分違わず皹の部分を貫く。

「一箇所を重点的にピンポイントで狙い、堅牢な我が装甲に皹を入れ、そして最大の一撃を持って貫く・・・実に理にかなった攻撃だ」

「だがこの状態からどうする気だ?我は貫かれた程度では滅せぬぞ」
いささかも慌てずに一つ角は言った。

「そうさ!!だが」





















「「極点集中させた霊力を暴発させればどうなる」」

声が重なった。


「なっ!!」

「どうしたせぬのか?」

「なっ!!舐めるなぁああ嗚呼!!」

爆ぜろ!!
そう意思を送り込んだ                        あんたには根本的に霊力が足りない



何度も


何度も                               出力が無さ過ぎるござるなソレがいつか仇となる。



何度も                             


コレが決まれば勝てるのだ。                    いつかあんたの限界が来るわ
自分の未来が開かれるのだ。


砕けろ

俺の行くてを遮る悪峰よ。



砕けろ


砕けろ                               その時お主はどうするでござるか?


砕けろ



砕けてくれ                             力が全てと言わないわ、でもあんたには切り開く力が無い






一つ角の腹部に突き刺さった汰壱の拳の霊力は爆ぜる事は無かった。
圧倒的な霊力差からいや・・・・もし汰壱に並みの霊的出力が備わっていれば、それは成功しただろう。
だが現実は非常である。




ifは存在し得ないのだ。





「あんたは良く頑張ったわ」

一つ角の口からタマモの声が聞こえた。



ああそうか
そう言う事か・・・
読まれていたはずだ
俺が戦っていたのは一つ角だけじゃなかった。
少し考えればわかる事だ。
術者の一部を媒介にしているタイプの使い魔は、術者自身が使い魔に意識を投影して指示を出す事が可能なんだ。
だから俺はタマモさんとも戦っていたんだ。
ちくしょう、化かし合いは狐の独壇場じゃねぇか・・・・・




上から下へと圧倒的な一撃が振り下ろされた。
手がめり込んだままではかわす事はできず。

バカンッ!!

その直撃を汰壱は食らい地面に叩き伏せられた。
呻き声も悲鳴も上げる暇すらなかった。






『・・・・一つ角ご苦労様、汰壱をつれて帰ってきて』
念波で指示を出した。
冷静な声だった。
感情の起伏を感じさせない冷静な声だった。

しかしシロには聞こえていた。
タマモの声がほんの僅かであるが震えていたのを・・・・・

終わったのだ。
汰壱も自覚しただろう。
自分の根本的な弱点で負けたのだ。
他でどれほど工夫を凝らそうと

羽の無い者に空は飛べないのだ。




「主 指令の再度確認をします。目標、古牙 汰壱を戦闘不能状態にせよ コレが命令と確認します。」

『そうよ、早く汰壱を連れ帰って・・・今のは下手をすれば致命傷よ一刻も早くヒーリングしないと』

全ての力を使い果たした無防備な状態から攻撃を受けたのだ。
下手をすれば命にかかわる。

「主 その命令は聞入れかねます」

『えっ!!』

「第一指令は依然続行と判断します。」

『どいうこと?あんたは確かに攻撃は確かに直撃したはずよ。無防備に受けて耐えられる人間はいないわ』

「その通りです。主 しかし第一指令は依然続行中です。目標は」























                            「立ち上がっています。」
















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