ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦9 『LAST MISSION 聖夜の黄昏 4』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/12/28)

もしも、己が愛する者を穢されたならどうする?


それも何の理由もなく突然に。


赦せはしない。


そのような事、決して赦せる訳がない。


赦せなければどうする。


決まっている。




――――その元凶をこの手で





































「こ、これは……!」


突然ヒャクメが立ち上がり頭を押さえた。
信じられない物を見るかのように、その両の眼は限界まで見開かれている。


「800……900……1000……まだいるのねー!!」

「何を言っているんだ!はっきり説明しないか!!」


恐慌状態に陥りかけたヒャクメの腕をワルキューレが掴む。
真っ青な顔で震えているヒャクメの姿に、只事ではないと皆も感じ始めていた。


「何か、良くわからないものが、凄い数で押し寄せて来てるのね……!
今も増え続けてる……後30分もしない内に建物まで到達されるのね!!」

「敵か!?
だが何故だ!何故このタイミングで!!」

「チッ!情報が漏れていたようだな……!」


思わず声を上げるジークの隣でワルキューレが歯を軋ませた。
敵という言葉を聞いたワルキューレの部隊が即座に立ち上がり出撃の準備を始める。
相手の数を聞いてなお、その表情は微塵も揺らいでいなかった。
各自の武器を手に取り、ワルキューレの指示を待つ。


(まさか内通者が……?
いや、このメンバーでそれは有り得ん……)


情報が漏洩していた理由が脳裏をよぎったが、すぐに却下した。
武闘派魔族ならともかく、自分達が最高指導者を売る理由は存在しないのだから。
だが今はそんな事を考えている暇はない。迎え撃つためにも指示を下さなければ。

だが指示を下す前に状況を理解しなければならない。
ワルキューレは床にへたり込んでいるヒャクメを強引に引き上げた。


「しっかりせんか!遠視の能力を持つお前だけが頼りなんだぞ!!
相手は何者なんだ!神族か魔族か!時間が無いのだろう、早くしないか!!」


激しいワルキューレの喝を浴び、ようやくヒャクメの瞳に光が戻った。
だがその身体を蝕む恐怖からは開放されていないのだろう。
両腕で身体をかばうように包み込み、必死に震えだしそうになるのを抑えている。


「あ、相手は、神族でも魔族でもないのね……それどころか生き物ですら……
意思も思考も、何も感じられないのね……まるで霊力そのものが形を成しているような……」

「相手の数は現在どれくらいだ。大まかで良い。
さっき増えていると言っていたが、分裂しているのか、転送されているのか。」

「大体、1200位なのねー。押し包むように山を駆け上ってきてる……!
うう……何時の間にか妙神山の麓に、四方を囲むように魔法陣が造られているのね……そこから転送されてる……
東、西、南、北……完全に包囲されて……こんなの、さっきまでは絶対に無かったのに!」


彼女とて監視の目を緩めていた訳ではないのだ。
とは言え、全方位を常に視界に収められる訳でも無かった。

そして気付いた時には既に完全に包囲されていた。
相手はかなり念入りに前もって準備していたのだろう

移動のタイムラグが発生する事を計算に入れると、最低でも4人以上が魔法陣を一斉に造り出したのだろう
裏にいるのが神族か魔族かはまだわからなかったが、複数の相手が関わっているのは明らかだった。


「魔法陣を破壊する事は可能か?」

「無理なのね……そのためには何百もの敵を抜かなきゃいけないし……建物も守らなきゃ……」

「……わかった。状況が変わればすぐに知らせてくれ。頼んだぞ。」


指示を待つ部下達に振り返ると、厳しい表情で口を開いた。


「皆も聞いたな。我らが置かれた状況は最悪のものだ。
だが我々に敗北は許されない。理由はわかるな。」


横島の前であの二人の素性を明かすのは躊躇われた為、ぼかした表現をとっていた。
とは言え、ここに居る者達は横島以外、あの二人の素性を知っているので無言で頷いている

相手の目的が何かはわからないが、最高指導者である彼らが狙いだと考えて間違い無いだろう。
そして、彼らは既にルシオラの移植手術のための空間を展開している。
極限まで精神を集中させているため、あと3時間は動く事も外の様子を知ることも出来ない。


「な、なぁ、どうかしたのか。何かまずい事でも起きてるのか?」

「……隠しても無意味か。正体不明の敵がここに迫ってきている。
我々が前線で迎え撃つ。貴様はここで大人しくヒャクメと一緒に待っていろ。」

「な!?俺だって戦力になるだろう!?」


納得できず横島が声を上げる。
自惚れる訳ではないが、それなりの戦力にはなれると自負していた。
何より、自分の文珠は使い方によっては多大な戦果を生み出せるのだから。


「ふ……せっかく生き返ったのに最初に見たものが死にかけの恋人では、ルシオラに申し訳ないのでな。
それに、何もするなと言っている訳ではない。貴様にはヒャクメの得た情報を我らに伝える通信係を担当してもらう。
重大な役目だ。しくじるなよ?」

「ワルキューレ……」


横島は何も言えなかった。
ワルキューレが浮かべた微笑みに心を奪われたからではなく。
その表情に浮かぶ覚悟に気付いてしまったから。


「集団戦は貴女の専門分野ですね。
妙神山管理人として、指揮権を貴女に一任します。」

「助かる、小竜姫。」

「こうしていると、あの時を思いだしますね。」

「……今度は負けんさ。」


二年前の惨敗の記憶がワルキューレの脳裏に蘇る。
だが今回は負けられない。否、負ける事など許されない。

大きく息を吸い込み、よく通る声で指示を下す。


「ヒャクメと横島はこの場で待機!状況に変化があればすぐに知らせろ!
小竜姫は建物内で待機!相手の狙いがわからぬ以上、状況の変化に応じ自己の判断で行動してくれ!
ジークと私の隊は散開し、建物の外で敵を迎え撃つ!相手は神族でも魔族でもない、遠慮はするな!
使用兵装の制限は無い!最大火力で吹き飛ばせ!!状況に変化が有れば指示を下す、誤るなよ!!
パピリオ、べスパ曹長は遊軍として各自敵を迎え撃て!
以上!!何か質問はあるか!」

「少佐!パピリオはともかく、何で私が遊軍なんだ!
私も隊の一員じゃないのか!私は――――」


一人隊から外され遊軍扱いされたべスパが声を荒げる。
だがワルキューレの射抜くような眼差しに貫かれ、言葉を詰まらせた。


「……迷いがある兵士は駒にはならん。これ以上言わせるな。」

「ッ…………!」


ぐっと唇を噛み締める。
言い返そうとはしないのは自分でも自覚していた故。
だが、隊のメンバー達は気にするなと言うかのように、肩をすくめている。


『べスパ、新兵には良くある事よ。気にしないで。
それに貴女の場合は事情が有るもの。仕方ないのよ。』

『ああ、お前は俺達の仲間だ。それは変わらない。
お前の経歴は皆知っている。誰も責めはしないさ。』

『なぁに、サポートをしっかりしてくれりゃ、その分俺達が楽になるんだ。
期待してるんだから、しっかり頼んだぜ?』


声をかけながら、しっかりやれよ、と肩を叩いていく。

兵装の準備のため、隊のメンバー達は部屋を後にする。
仲間を見送るべスパの拳は、血の気が引く程に固く握り締められていた。





















「――通信を繋ぐ時はこのダイヤルで周波数を設定して、ここのスイッチを押しながら話すんだ。
各員の周波数をまとめた一覧がここに書いてあるから、迷う事は無いだろう。
と、まあ、通信機器の取り扱いはこんな感じだ。そんなに難しくないだろう?」


ジークに通信機器の使い方を簡単に説明してもらい、横島が頷いている。
複雑な使い方でもないため、機械にそれほど詳しくない横島でもすぐに理解できた。


「なあ、ジーク。大丈夫なのか。敵の数は半端じゃないんだろ。
それにお前、なんか疲れてるみたいだし。そんなんで戦えるのか。」

「ああ、大丈夫だ。只の肉体的な疲労だからな。霊力は全く消耗していない。
戦闘に突入すれば疲労などすぐに忘れるさ。それに、援軍の当てもあるんだ。」

「そうか……あ、待ってくれ!」


横島は掌に霊力を集中させると文珠を精製しジークに差し出した。
受け取ったジークの身体が淡い光に包まれる。
『癒』の文字が刻まれたその霊具は、嘘のようにジークの疲労を拭い去ってくれた。
目元に出来ていた濃いクマは消え去り、肌や表情に瑞々しさが蘇る。


「良かった。肉体疲労なら回復できるんじゃないかと思ってさ。
俺の霊力、ありったけ文珠に注ぎ込むから、俺の代わりに戦力として使ってくれ。」

「――ああ。助かる。」


頷くと横島が全霊力を注ぎ込んだ5個の文珠を受け取った。
互いに背を向け、ジークが戦場に向かおうとした時、背後から横島の声が届いた。


「なあ、頼む……誰も、死なないでくれ。
任務がどうとかじゃなくて、頼むから、誰も死なないでくれ。
勝手な事言ってると自分でも思うけど……!
それでも……それでも、もう誰も犠牲にならないでくれ……!!」


背を向けていてもわかる。
涙を堪え、歯を食いしばっている事ぐらい。
握り締めた拳から流れる血の雫すら、背中で感じていた。


「――ああ、約束だ。横島君。」


目を閉じ、静かに頷いた。


戦友に誓ったこの言葉。
決して破りはしない。


(閣下、これだけ大掛かりな動きならすぐに察知して下さるでしょう……
ならば、僕はあなたが来てくれるまでの間、この地を死守します……!)


戦友から託された文珠を握り締め、戦場へ赴いた。





















「いったい相手は何者でしょうか。」

「わからん。だが首謀者が魔族にしろ神族にしろ、これだけ大掛かりな準備をしていたのだ。
上級クラスでは無く、神話クラスの者が背後にいると考えるべきだろう。」

「そう、ですね……」


ワルキューレや小竜姫といった上級神魔族でも、神話級の神魔族とはまともに戦う事すらできない。
今戦場に向かおうとしている者達は全て上級クラスだったが、彼らが束になっても相手にすらならないだろう。
それは上級魔族クラスの力を持つルシオラでさえアシュタロスの前では赤子同然であり、小竜姫がいくら研鑽を積み重ねても、師である斉天大聖には届かないのと同様だった。
蓄積された膨大な知識、永い年月の中で練り上げた強大な霊力、そしてそれを行使する研ぎ澄まされた技術。
上級クラスと神話クラスの間には、絶対に超えられない、絶望的なまでの壁が存在するのだ。


「相手の撃破が任務の目的なら、正直言って100%不可能だ。
だが敵には時間制限がある。その間ここを守りきれば我々の勝利だ。」

「そうですね。そこに唯一の勝機があります。」


3時間後、手術が終わればこちらにも神話クラスの三人が合流するのだ。
例え相手がどれだけ強い力を持っていたとしても、そうなれば退かざるを得ないだろう。
最高指導者の二人に、表立って弓を引くような事は不可能なのだから。


「それと、このわかり易い襲撃はもしかしたら陽動かもしれん。
もしそうなら……本命は別にあるという事になる。」

「確かに、一切身を隠そうとしない襲撃はいくらなんでも不自然ですね。
かと言って、迎え撃たない訳にもいきません。陽動の可能性は高いですね。」

「陽動の裏に潜むのは、強大な突破力による本陣強襲がセオリーだ。
もしそうなら……お前だけが頼りだ。任せたぞ。」

「ええ、一対一の闘いこそが私の本領ですし。」


超加速を使いこなし高い剣技を誇るこの竜神は、この戦力の中で最も高い戦闘力を持っている。
時の流れに干渉する超加速の前では多少の霊力差など問題にならない。

竜神と戦乙女は頷き合い、各々の戦場へ向かった。






















「む、無理なのね……何か凄く嫌な感じが……
まるで……深い海の底で、巨大な何かに睨みつけられているような……」

「しっかりしてくれよ、ヒャクメ。
お前しか正確に戦況を把握できないんだからさぁ。」


膝を抱えうわ言を繰り返すヒャクメに横島が溜め息をつく。
いったい遠視能力者の彼女は何を感じているのか。

漠然とした不安を横島も感じたが、無理矢理振り払う。
不安が蘇る事を防ぐため、無線機に向かい合いマニュアルを確認する。


「行ってくるでちゅ、ヨコシマ。」

「パピリオ……」


出撃前のパピリオが何時の間にか隣に立っていた。
膝をついて作業していた横島の顔と同じ高さにパピリオのあどけない顔があった。
にこりと微笑むと、まるで母親が子供をあやすように横島の頭を優しく撫でる。


「大丈夫でちゅよ。ヨコシマとルシオラちゃんは絶対にパピリオが守ってみせるでちゅ。
だから、安心してここで待ってるでちゅ。」

「……お前、少し背が伸びた?」

「当然でちゅ。パピリオにはまだまだ未来があるのでちゅから。
胸だってルシオラちゃんよりおっきくなるに決まってるでちゅ。」


小さいどころか、ほとんど無いに等しい胸を張る少女に横島が苦笑いを浮かべる。
まさかこの少女に力づけられるとは。苦笑いは気付けば微笑みに変わっていた。


「ああ、お前はイイ女になるさ!
だから絶対無事に戻って来いよ!」

「それじゃ、行ってくるでちゅ!」


騒がしいやり取りだったが、横島の不安は何時の間にか影を潜めていた。
ふと、少女の姉の様子を見ようと周囲を見渡したが、その姿はすでに消えていた。


(お前も、無事に帰ってきてくれよ……べスパ……)


人がいなくなった室内は急に静かになっていた。
室内を包む静寂に肌寒さを覚え、横島が大きく身体を震わせた。





















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