ザ・グレート・展開予測ショー

狐の逃亡劇


投稿者名:BJL
投稿日時:(05/12/27)

私は逃げる逃げる逃げる逃げる。必死になって逃げている。何から逃げているのかさえ、忘れてしまいそうになるほど逃げる。速く、もっと速く。アイツらから逃げるため。もっと速く。
私は走った。目的地などは無い。だが、走る逃げる走る逃げる。


犬が吼える。ガガガッっと、何十発もの銃声の音が森を木霊する。こんな事が三日も続いている。いいかげん疲れたし、眠たい。
一発の銃弾が目標をかすめた。


油断


私は舌打ちをした。後ろ足から血が出ているのが分かるが、止まるわけにはいかない。止まったら、私は殺される。


怖い 怖い 怖い


私を明確に捕らえる恐怖。
そして――


憎い 憎い 憎い


内から出てくる憎悪。
何で私がこんな目に会わなくちゃいけないの!?
私が何か悪い事はしたの!?

それは、急な出来事だった。目が覚めると、軍隊が私を殺そうと銃を持って迫って来ていた。私は逃げた。もう、三日は走りっぱなしだ。時には狐火で脅かし、時には幻視の術で何とか乗り切る事は出来た。だが、もうそれにも限界に近い。いや、もう限界だ。もう走れない。

足が痛い。もう駄目。もう嫌。

私は泣くのを堪えながら走りつづける。止まれない、止まったら死ぬ。死ぬのは嫌。まだ、まだ、私は生きたい。何としてでも生きたい。だから、私は走る。

ガガガガッまた、銃声がする。

なんとか、それを躱す。
弾が耳を横切った。
私は考えた。この場から逃げて、生きられる方法を。手を羽にして空から逃げようにも空にはヘリコプターがいる。地面は穴を掘っている時間が無い。
息を切らせながら私は走った。
目から水がこぼれた。最初は分からなかったが、止めどなく出てくる水は涙だった。


悔しい


私の平穏を盗んだアイツ等が憎い。私を傷つけるアイツ等が憎い。だが、逃げつづける事しか出来なかった。心身ともに傷だらけ。こんな私に何が出来る?何も出来ない。それが、現実だった。
不意に私の頭に弱気が混ざってしまう。

このまま走り続けて意味が有るのだろうか?

私の歩調が弱まってくるのが分かる。

諦めてしまったら、どんなに楽だろう。



・・・





・・・・







・ ・・・・・





駄目だ!!諦めちゃあいけない。
私は足に喝を入れて、再び走った。
だって、だって私は分かってしまった。
あの――


私は光を見つけた。あの草葉を飛び越えたら人間達から逃げれるかもしれない。私は希望を胸にさらに加速した。


そして、ジャンプした。



パーン













喉から鉄の味が吹き出てくる。
ゴフ・・・私は・・・吐血した。
銃が、私のお腹を貫通したのだ。
そして、飛んだ先には魔法陣が書かれていた。


ギャインッ!!


私は悲鳴を上げた。背中の激痛と、電撃を受けた感触と、鎖で縛られたような感覚に。


何てことはない。ただ、私は誘導されただけだ。この結界のある方に誘導されただけだった。何て、お笑い種だ。何て、愉快な話しなんだ。もう、私が助かる確率なんてもう無いだろう。
だが、私は立った。
理由?そんなのは当たり前、生きたいからよ。生きて戻りたい。


あの世界に


「悪いがキサマには死んでもらわなくてはならない」
私は声がする方に振り返った。そこに居たのはメガネをかけて銃を持っている中年の男だった。
「キサマはこの日本に害をなす生物だ。害のある生物はただちに排除する!!」
ガチャっと、男は銃を構えた。

私は無視した。そんな事にかまっている暇なんて無い。
一歩、一歩、背中の痛み、鎖のような電撃が私を捕らえているが、私は確実に一歩、一歩、確実に前に出た。ポタポタとお腹から血が出るが、それでも・・・。
ドンっと、右足より少し右の土がはじけた。
私は砂が目に入らない様に右目だけを瞑った。そして、何事も無かったかのように歩く。


あと、一歩。

あと一歩で結界から出れる。
そしたら、私はまた会えるのかな?みんなに・・・

ドサッと私の身体が倒れる。
ヒューヒュー。っと、息が漏れる音がする。
あと、一歩なのに・・・あと、一歩で出れるのに・・・悔しいな〜。

「タマモ!!!!!」


誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。最初は幻聴かとも思ったが、こんなバカみたいにでかい声を出すのはシロくらいよね・・・。
死ぬ前に幻聴か・・・・・・


「タマモ!!タマモォォ!!!オオオオオォォオ!!」
草むらから一人の女性が飛び出した。そして、結界から、無理矢理に私を引きずり出そうとする。
どうやら幻聴じゃあなかったようね。でも、でもね、バカ犬・・・アンタも妖怪なんだから効いてるはずよ。
「オオオオオォォォォ!!!!!」
シロの頭からは汗が出て、血管が浮き上がっていた。
バリバリバリっと、結界がシロの手を拒み、攻撃する。だが、そんな事はおかまいなしと、無理矢理に突き進む。そして、シロの手が私を掴み、引きずり出した。
「タマモ、起きるでござるよ!!」
私はその言葉に起こされるように、うっすらとまぶたを開けた。
「今、美智恵どのと美神どのが政府と話しをつけている所でござる。だから、大丈夫でござるよ!!また、みんなで暮らせるでござる!!」
『キュー(また、みんなで・・・)』
私は自分自身でさえ信じられないほど弱々しい声だった。
「そうでござる!!また、いつもの生活が戻るでござるよ!!美神どのや、おキヌどの、横島先生と一緒にまた、楽しい暮らしをするでござる!!」
『キューン(・・・シロ、アナタも一緒よ)』
「ハハ、そうでござるね。そして、タマモお主もでござるよ!!」
私は今までの事を思い出す。
ハハっと、自然に笑いが口からこぼれる。そして、自然に涙が出てきた。哀しみや、悔しさとは違う涙が出てきた。


「私を忘れないでもらいたい」
銃を向けて、今まで忘れられていた男は言った。
「キサマかぁぁぁぁ!!タマモをここまでしたのは!?」
怒気をあらわにして、シロは男を睨み付ける。
「そうだな。私がしたと言っても間違いではない。
悪いがその子を渡してもらいたいのだが」
シロの怒気に平然と受け流しながら、たんたんと男は言う。
「タマモに指一本でも触れてみろ。拙者がキサマを八つ裂きにするでござる!!」
そんな言葉に、やれやれと男は呆れた顔だった。
「・・・仕方ない」
男は銃の引き金を引いた。何度も、何度も・・・






場所は陸上の自衛隊のテントの中。
「だからぁ、あの子は無害なのよ!!今までだって、何事もなかったでしょ!?」
美神令子が一人の男の胸倉を掴みながら怒鳴り散らしていた。
「それをあなた達はいったい何!?朝っぱらから、いきなり人の家に銃を持って駆け込んできて!?」
「それは、謝らせていただ――」
「謝って済む問題じゃあないでしょ!!」
怒りを抑えようともせず、令子は怒鳴る。
後ろに居る横島とおキヌはどうしたものかと迷っていた。止めるべきなのだろうが、令子の気持ちは痛いほどわかっているからだ。もし、令子がやらなければ自分たちがしていただろう事も・・・。
美神美智恵のほうはもっと、上の存在と話をしている。ココにいる三人はどうにかして、タマモの攻撃を止めさせる為に来ていた。
こんな事を三日も続けているのだ。ただし、軍の方は一向に止める気配が無い。
「だが、アナタがアノ生物を隠匿したのは明らかに契約違反だ。書類にも書いてあったはずだが?」
テントの入り口から声がした。みんなが一斉に振り向く。そこにいた人物はこの陸上自衛隊の長官だった。
「契約違反の件は追って後日通達する。お引取り願おう」
「待って、契約違反の罰は黙って受けるから。だから、だからお願い、攻撃を止めさせて!!」
長官は黙って、美神の目を見て言った。
「私自らが行動した。任務は終わった。速やかに撤退する」
任務が終わった。その意味は・・・・
美神の行動は速かった。怒りにまかせて平手が飛ぶ。
誰も止める事は出来なかった。
避けようとはしなかった長官の頬は赤く染まる。
「最低・・・」
美神は震える声で言い、きびすを返した。
「横島君、おキヌちゃん帰るわよ!!」
おキヌは顔を手で覆い横島は下を向いていた。
「「・・・はい・・・」」
沈んだ声で二人は言った。そして、美神の後を付いていく。
「あ、そうだった」
長官の言葉に、三人は止まる。
「一人、女の子が来たが、先に帰らせておいたよ」
「・・・それはどうも」
振り返りもせず、三人はテントから出ていった。

「ちょ、長官!!大丈夫でありますか!?」
今まで事のなりゆきを見守っていた兵が長官に駆け寄る。
「痛いよ・・・」
「は?」
ボソリと言った声は兵には聞こえなかったようだ。
「私は、本当に最低の男だな」
「え、え?い、いや、決してそんな事は・・・」
長官の意外な言葉に一般の兵は戸惑ってしまった。
「さあ、任務は終わった。ただちに帰還の用意をしろ!!」
「は、はい」
兵は慌てて皆に通達するため、外に出た。
「私は、間違った事はしてないはずだ・・・」
長官は自分にそれを言い聞かせ、少し疲れた顔で彼は呟いた。








三人は車の中で一言も話すことはなかった。っとゆうか、喋ったら舌を噛みそうだ。それぐらいの速さで美神は飛ばした。ウップンをはらさんとばかりに車を飛ばした。
三十分ぐらいだろうか。本当なら三時間ぐらいはかかる時間を三十分で着いた。
美神は家のドアを開けようとしたが、開ける事が出来なかった。開けてしまったら・・・なくなったモノを見てしまいそうで怖かったのだ。三人はドアの前で止まった。
っと、突然勝手にドアが開いてしまった。
「令子ちゃ〜ん。遅いよ〜」
開けたのは馬に乗った冥子だった。
「め、冥子!?な、何であんたが家に!?」
「え〜だって〜、シロちゃんが呼ぶんだも〜ん」
「はぁ!?シロが!?」
「じゃ、私は帰るね〜。シンダラちゃん」
パッカラパッカラっと冥子は帰って行った。
わけが分からず、三人は棒立ちになった。が、いつまでも外に居るわけにはいかない。美神達は家の中に入った。

ズズズズズズ

うどんやラーメンをススル時に出る音が台所から聞こえる。


三人はハッと顔を見合わせて台所まで走った。



もしかして、もしかして・・・



三人の思いは一つになった。



台所にはキツネうどんを食べる・・・


<END>

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