二年目のプレゼント (GS美神)
投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/12/25)
12月24日 午前
一年前、魔鈴にこの日に誘われた横島はその誘いに応じていた。
何かあると感づいて『事務所でクリスマスパーティーやるわよ!!』との命令にも必死で…それこそ命を掛ける勢いで、断わってここに着たのだ。
タキシードこそ綺麗な状態だが、顔と体がボロボロのグチャグチャである。魔鈴に渡すべく用意したプレゼントも包装がヨレヨレになってしまっている。
それでも足は確実にしっかりと 魔法料理 魔鈴 へ向けて動いている。
(ここで歩けないで何が男か!? クリスマスだぞ! イヴだぞ! そして二人っきりだぞ!?
とゆーことはアレだ! アレしかないっ!!)
煩悩で己を鼓舞すると、なぜだか顔に生気(+精気)が戻ってくるのが横島という男。
目的のレストランにつく頃には普段どおりの彼の姿があった。
「こんにちは〜魔鈴さーん!」
爽やかな笑顔でドアを開けると、店舗のクリスマス用装飾の手直しをしていた魔女が明るい笑顔で出迎えた。
「お待ちしてましたよ、横島さん♪」
女性にこんな事を言われて感激しない男は居ないだろう。
「ぼかぁ〜も〜! ぼかぁ〜もうっ!」
ただし、この男の場合はいろいろと過程をすっ飛ばして一気に最後まで行くので散々女性に拒絶されてきたのだ。
だが目の前の女性はにっこり微笑んで、
「まぁ、やる気まんまんなんですね♪」
などというものだから、彼の48の必殺技(?)の一つ『早脱ぎ』が炸裂する。
すばやくパンツ一丁になると魔鈴に詰め寄り、肩に腕を回そうと手を伸ばす。
ところが魔女は、パチンと指を鳴らし、つば広の三角帽子と真っ黒の丈の長いローブを取り出しすと
「さぁ、着替えてくださいね」
と笑顔で言うのだった。
(コスプレか!? 魔女と年若い魔法使いがアンナコトやコンナコト! そんなシチュエーションか!?
魔鈴さんって実はソッチ系?)
考え事をしながら服を着るものだから、ボタンを掛け違えていたり、袖を通すところを間違っていたりと、メチャクチャである。
「もう…仕方がありませんね」
そういうと魔鈴はまた一つ指を鳴らす。
すると、横島をメチャクチャに包んでいたローブは光の粉となって消え、魔鈴の手元に綺麗に畳まれた状態であらわれる。
「ちゃんと着方を覚えてくださいね」
横島はただ呆然と自分に着付けをする魔鈴を眼で追っていた。
体を這う女性の手の感触に酔い、意識がどこかに飛んでいたので、魔鈴の言うようにローブの着方を覚えたかどうかは怪しいものだ。
「それじゃぁ、はじめましょうか。猫さん、お店の飾りをお願いね」
その体で器用に電飾を直していた黒猫は「わかったニャー」とだけ返事を返すと、また作業に戻った。
(いける! あの猫が居なきゃ二人っきりは確定! もう俺と魔鈴さんの愛の営みを邪魔するものはいなーい!!」
煩悩全開の妄想に浸っている横島はいつもどおりだった。だから、今自分の立っている場所が何処だか理解していなかった。
「それでは、コレが横島さんの分の道具です。頑張ってくださいね♪」
「初めてでイキナリ道具プレイっすか!? いやでも俺はなんでもいい…? です……??」
目の前にあるのはペティナイフと水の入った大きなポリバケツ。
少し目線をずらせば『コレでもか!』という量のジャガイモがでんと構えていて。
辺り一面を見渡せば、魔法の力で動く様々な調理器具が忙しく働いていた。
「あの……厨房の中でヤるんですか?」
「お料理は厨房の中でするものですよ♪」
にっこりと、最高の笑顔で横島の質問に答える魔鈴はすでに何匹目かの丸鶏の下ごしらえに取り掛かっている最中だった。
「どーせこんなこったろーと思ったよ! チクショーッ!!」
血の涙を流しつつも、しっかりとジャガイモの皮むきを始める横島だった。
12月24日 夕方
クリスマスをダシに甘いひと時を味わうカップルを尻目に延々とイモの皮むきを続ける横島。
レストランから聞こえてくる楽しそうな声に嫉妬と殺意を募らせていた。
(予定では魔鈴さんの服をむいて美味しく頂いてるはずだったのに、何で俺はこんな所でイモの皮むきをしてるんじゃー!?」
あれからずっと大量のイモを相手にしていたが、いつまでたっても減らないイモの山と、むいた傍から調理に使われいつまでたっても休めない状態にも不満が沸いてくる。
「厨房ではもうちょっと静かにしてください。お客様に聞かれたら……」
「あ、すんません」
寸胴から取り出したイモの煮え具合を確かめていた魔鈴から、やんわりと注意される。
無言でイモの皮むきに戻る横島だが、ふとしたことで手が止まる。
(本当に楽しそうに料理するよなぁ魔鈴さん……)
軽快な鼻歌と明るい笑顔で茹で上がったジャガイモを次々と裏ごしにかける魔鈴。
(まてよ!? おれってばさっきまた考えてる事声に出してた? いや出してたよな。そうじゃなきゃ注意されんし……)
鍋に牛乳とバターを入れ火にかけ、白胡椒・ナツメグの粉末を振り味見をする。改心の味付けだったのか、魔鈴はうなずいてより良い笑顔になる。
(どの辺りから声に出てたんだ? 嫌われてないっぽいって事は…『何で〜』辺りからか…?」
「もうっ…。また声に出てますよ横島さん。それにジャガイモが足りなくなってきましたから頑張ってむいてくださいね」
「あぁっ、はい!」
裏ごしたジャガイモを牛乳を暖めていた鍋にいれ、木ベラで混ぜ合わせながら魔鈴が再度注意してきた。
鍋の中のジャガイモの様子を注意深く確かめているはず表情は、どこかイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべていた。
12月24日 夜
レストランから聞こえてくる声が大分少なくなってきた。
料理の出る回数も少なく。横島にも少し余裕が出てくる位だ。
「そろそろラストオーダーですから、横島さんは少し休んでいてください」
切り株を模したチョコレートケーキ『ブッシュ・ド・ノエル』を切り分けていた魔鈴が、憔悴しきった横島に声をかける。
常にイモをむき続け、手の疲労がピークに達していた横島にはありがたい言葉だった。
慣れない水仕事で手も荒れている。
己の手を見つめ、改めて一人でレストランを切り盛りしている魔鈴の凄さに気づく横島だった。
しばらくボーっとしていた横島は厨房の調理器具たちが棚や引き出しに戻るのを見て、もう店じまいが近いことを悟る。
レストランの方を見れば箒のウェイターが床掃除をはじめ、黒猫は入り口に「CLOSED」の看板をかけようとしている。
(これで、終りか…なんだか一日が物凄く長かったような気がするな〜)
魔鈴は厨房を丁寧に磨き上げ、道具の点検と手入れを行っていた。
すっかり疲れきって邪な考えや行動を起こせなかったはただただ、その姿を眺めているだけだった。
静かな時間がながれる。
「夢…だったんです…」
ペティナイフを手にした魔鈴が不意に喋り始める。
それは今日一日横島の手の中に握られていたペティナイフだった。
「レストランを開いたら…夫婦で切り盛りしたいなぁ…って、思ってたんですよ……」
彼女の意外な独白に横島の頭の周囲は「?」で一杯という状態だ。
ペティナイフを鞘に収めると、魔鈴は横島の方を向き、
「今夜はもう遅いです。…それに、明日の朝も早いので、今日は私の家に泊まっていってください、横島さん」
潤んだ瞳で告げるのだった。
12月25日 早朝
眼を覚ました横島はサイドテーブルに用意された下着、黒のローブを何の迷いも無く手に取る。
多少の苦戦はあったものの、しっかりと着こなし、寝室を後にする。
台所では一人先に食事を始めている黒猫と、二人分の朝食を用意している魔女の姿が。
「おはようございます、ま…めぐみさん」
「おはようございます、忠夫さん♪ 今日も頑張りましょうね!」
今までの
コメント:
- このSSだけ読んでも唐突過ぎると思われます。
このSSは、ちょうど去年の12月25日に書いた「見えないプレゼント」というクリスマスSSの続きです。
というわけで、二つあわせてお楽しみください。
未完成とか、抜けてるわけぢゃぁありません。決して。 (純米酒(魔鈴信者)
- 過去ログで読んできました!あそこからつながってこうなったのかーーー!!
約束のために一年間生き抜いて忘れずに来るとは。しかも三人の夜叉の制止を振り切ってまで。
これはもう、勝負ありですね。でなきゃ一晩たつ前に止めに来るでしょう。
・・・まさか!はじめ普通に仕事していたのは何もないと思わせるための高度な作戦!? (九尾)
- これがチャットで言っていた朝チュンでふかな!?(鼻血
「見えないプレゼント」は凄く好きな作品でしたけど、
それを上回る程の兵器が出てきましたよ…;
ええ、現実世界で女の子と過ごせなかった分、
魔鈴さんで堪能させていただきましたよ!GJです! (Kureidoru)
- 客商売にはイブも正月も関係ないんじゃーーーー!!!!!!←心の叫び
ただそれだけで賛成票ものです(笑)
落として上げて・・・なんか横島君、掌の上で転がされてますね(笑)
二人にとって理想的な展開になった事を祝いつつ、賛成票を。 (おやぢ)
- うっわぁ・・・・・・・・・
純米酒さま、あなたは漢だ!!!
1年越しの連載(?)すばらしいです♪
私も魔鈴さん好きなので、このお話はすっごく楽しく読ませていただきました。
しかも予想の斜め上を行ってくれちゃってます。
>「レストランを開いたら…夫婦で切り盛りしたいなぁ…って、思ってたんですよ……」
魔鈴さんのこの台詞、けなげで可愛い♪ (tomo)
- 流石は横島。煩悩の為なら、1年越しの約束を覚えているなんて。
そしてそれを記した純米酒さんもまた、素晴らしい。
この魔鈴さんは、料理なんてまるっきり素人だろう横島を、厨房に入れる辺り、余程横島のことを好いているのでしょうか。
忙しいのでしょうが、2人にとってはきっと素敵なクリスマスですね。
‥‥後に、食中毒で倒れた客、なんて出てきませんよね? (東一華。)
- この日以降に魔鈴さんのお店に訪れた客は、砂糖中毒患者続出、保健所から営業停止を食らうかもしれません。 つ〜かむしろ食らえコンニャロウ(笑 (眞)
- みなさまコメントありがとうございます
九尾さん
高度な作戦かもしれません。なんてったって魔女ですから。
Kureidoruさん
堪能していただけて何よりです。
なにぶん自己満足のためだけに書いた一本ですので、読者の方にそう言って頂けるとほっとします。
おやぢさん
ザ・かきいれ時、ですからねw
実際客商売してるとしっとマスクしてる暇もありませんなw
落として上げて・・・まぁ、横島君にはこういうのがにあうんではないかと。
tomoさん
魔鈴好きのお方に楽しんでいただけたのなら本望です。
東一華。さん
イモの皮むきくらいなら、横島でもできると思ったのでしょう。
皿洗いさせても良かったのですが、それは流石に横島が「食い逃げ」でもしたかのような印象受けますんでw
食中毒・・・怖いですねぇ。いっぱつで営業停止、信用もなくなるんで再起はほぼ不能。
眞さん
お菓子やに店を改装すれば解決します。(しません)
まぁ「Vの惨劇」のときは食品添加物の所為でエライ事になっていたのに、その後も普通に営業してる事を考えると、「良くあること」なのかもしれませんw (純米酒(魔鈴信者)
- 魔鈴さん素敵。
これが魔女の手口かー。
堪能いたしました。 (ししぃ)
- 遅いレスすいません。
横島クンをオとすための、魔鈴さんのやり方が実にイイですね。
『夫婦で…』の件なんて最高の台詞…文句無の賛成で。 (偽バルタン)
- コメントありがとうございます
ししぃさん
魔女の手口、堪能していただけて何よりです。
偽バルタンさん
はじめは「夫婦で〜」と言っても横島は気づかないんじゃないかと思いまして、
ストレートに「クリスマスプレゼントは私です」とか言ってもらおうかな?とか思ったんですが…最高と言って下さるのならば、悩んだ甲斐もあります。 (純米酒(魔鈴信者)
- 良くも悪くも純真無垢って感じなんですよね、魔鈴さんって。
そして、ちょっと間違えてしまうと潔癖気味になってしまう魔鈴さんをここまで甘くするとは……
ううむ、やはり信者さんの力量は半端ではありませんね(笑)
>「レストランを開いたら…夫婦で切り盛りしたいなぁ…って、思ってたんですよ……」
なんて素直な。
ツンデレも良いですが、これはこれで! (*゚∀゚)=3
メリークリスマス。 (丸々)
- 横島の想像(妄想?)と変わった呼称に乾杯ヽ(´ー`)ノ (美尾)
- コメントありがとうございます
丸々さん
信者の力はこれでとどまりませんw
またいつか、そう思わせるSS書きますよw
美尾さん
横島の妄想にまで乾杯していただけて嬉しいです。 (純米酒(魔鈴信者)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa